破壊的技術には5つの原則がある。
原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している
- 優良企業は、持続的技術(顧客が求める技術)の新しい波が押し寄せてもトップの座を守ってきたが、それより単純な破壊的技術に襲われたときには、必ずつまずいている。
- 経営者は、会社の経営資源を自分が管理していると考えているかもしれない。しかし、その資源配分を決めるのは、実質的に「顧客」と「投資家」である。
- 上位市場で競争優位のコスト構造を持つ優良企業でも、下位市場で同様の収益性を達成することは難しい。
- 企業が破壊的技術で成功するには、原則1に基づく資源配分と組織を調和させる必要がある。
- 破壊的技術に直面したとき、優良企業の組織とプロセスでは、小規模な新しい市場で強力な地位を開拓するために必要な財源と人材を自由に配分できない。
- 優良企業が原則1に調和する唯一の手段は、低い利益率で収益性を達成するためのコスト構造を持った独立組織を設立することである。
- 破壊的技術で迅速に地位を築いた企業のほとんどは、自律的な組織を設立し、破壊的技術の周辺に新しい独立事業を立ち上げている。
原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
- 破壊的技術は、新しい市場を生み出す。
- 新しい市場にいち早く参入した企業には、遅れた企業に対して、先駆者として大幅な優位を保てる。
- 企業が成長すると、将来は大規模になるはずの新しい小規模な市場に参入することが次第に難しくなってくる。
- 目標とする市場の大きさに見合った規模の組織に、破壊的技術を商品化する任務を与えることが重要である。
原則3:存在しない市場は分析できない
- 持続的技術では、角度が高い市場調査と綿密な計画・実行が極めて重要である。
- 持続的技術では、市場の規模と成長率、技術の進歩、主な顧客の需要が明らかになっている。
- 新しい市場につながる破壊的技術では、市場調査と事業計画がほとんど役に立たない。ゆえに先駆者が圧倒的に有利に立てる。
- 市場規模や収益率を数量化してからでなければ市場に参入できない企業は、破壊的技術に直面したときに、身動きがとれなくなるか、取り返しのつかない間違いをおかす。
- 破壊的技術を追求するための適切な市場と正しい戦略は事前にはわからない。
原則4:組織能力は「無能力」の決定的要因になる
- 組織能力は、その中で働く人材の能力とは無関係である。
- 組織能力は次の2つの要素によって決まる。
- プロセス
組織の人員が習得した労働力、エネルギー、原材料、情報、資金、技術といった「インプット」を価値の高めて「アウトプット」に変える方法 - 組織の価値基準
組織の経営者や従業員が優先事項を決定するときに拠り所とする基準
- プロセス
- プロセスや価値基準に柔軟性はない。
- 組織能力を生みだすはずのプロセスや価値基準も、状況が変わると組織の「無能力」となりうる。
原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
- 破壊的技術は、当初は主流から離れた小規模な市場でしか使われないが、いずれ主流市場で確立された製品に対抗しうる性能を身につける。それは製品の技術進歩が、主流顧客が求める性能向上のペースを上回ることで起こる。
- 競合する複数の製品の性能が市場の需要を超えると、顧客は、性能の差によって製品を選択しなくなる。そして多くの場合、製品選択の基準は「性能」から「信頼性」へ、さらに「利便性」から「価格」へと進化する。
- 製品の性能が市場の需要を追い抜く現象が起きると、製品のライフサイクルを「性能から信頼性」「信頼性から利便性」「利便性から価格」へと移行させる。
- 企業は、競争力の高い製品を開発し優位に立とうとするために、急速に上位市場へと移行する。
- 高性能、高利益率の市場を目指して競争するうちに、当初の顧客の需要を満たしすぎてしまう。その結果、低価格の分野に空白が生じ、破壊的技術を採用した競争相手が入り込む余地ができる。
- 主流顧客がどのように製品を使うのかといった動向を注意深く見極める企業だけが、市場で競争の基盤が変化するポイントを捉えることができる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社