イノベーションのジレンマ:第3章 掘削機業界における破壊的イノベーション (2)
第3章の要点は次の通りである。
- 優良企業は新しい技術を確立された市場(既存市場)に押し込もうとするが、成功する新規参入企業は、新しい技術が評価される新しい市場を見つけようとする。
- 確立された技術を持つ優良企業は、破壊的技術が主流市場の真ん中に切り込んでくるまでは、堅実な業績を維持しようとする。
- 顧客の意見に慎重に耳を傾け、確立された市場に向けて持続的イノベーションを実現するという安定経営のパラダイムは、新たに登場する持続的技術によって生じる問題を解決するには有効だが、破壊的技術を扱うには役に立たない。
- 優良企業が破壊的技術に対して優れたマネジメント判断を行えば行うほど、イノベーションのジレンマに陥る。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第3章 掘削機業界における破壊的イノベーション (1)
第3章は、ディスク・ドライブ業界と共通点が見られる「掘削機業界」を取り上げ、掘削機業界の成り立ちと破壊的技術における優良企業の失敗について説明している。
クリステンセン教授は、1920年代から70年代までの掘削機業界の歴史を調べ、「機械式」の掘削機を販売していたメーカーが、破壊的技術の「油圧式」によって追い落とされたことを発見した。
油圧式掘削機によって成功した新規参入企業は、1940年代から50年代にかけて油圧技術の能力を受け入れ、価値を生み出せる新しい用途市場を開拓していた。一方、優良企業は、油圧式技術を持続的改良として既存の顧客に販売できるような形で採用または改良していた。
結局、油圧技術は、新規参入企業の手により主流の掘削工事業者のニーズに応えられるまでに進歩した。新規参入企業は、まず当時の新技術の能力に見合った市場を見つけ、その市場で設計と製造の経験を積み、その商業的基盤を利用して上位のバリュー・ネットワークを攻撃して、優良企業を追い落としていった。破壊的技術である油圧式掘削機が機械式掘削機に勝利するまでに20年もかかった。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第2章の要点
イノベーションのジレンマ:第2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激 (5)
破壊的技術に直面した企業は「新技術」と「組織の改革のために必要となる能力」に加え、次のような「自社の属するバリュー・ネットワークにイノベーションがもたらす影響」を検証しなければならない。
- イノベーションに関わる性能指標が、すでに企業が属しているバリュー・ネットワークの中で評価されるか
- イノベーションの価値を実現するために、他のバリュー・ネットワークに参入したり、新しいネットワークを創設する必要があるか
- 将来的に市場の軌跡と技術の軌跡が交わり、現在は顧客のニーズに応えられない技術が、いずれ応えられるようになるか
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激 (4)
破壊的技術による製品を開発することが技術的に可能であったとしても、その技術によって市場で強力な地位を築くために資源や経営努力をつぎ込むかどうかは、その企業が属するバリュー・ネットワークの中で、初期にその製品が評価され、採用されるかどうかにかかっている。
バリュー・ネットワークは、そこに属する企業にとって何が可能で何が不可能かを定める。「バリュー・ネットワークの視点から見た技術革新の性質と優良企業が直面する問題」は次の5つに集約される。
- 企業が競争する環境(バリュー・ネットワーク)は、イノベーションを妨げる技術的、組織的障害を克服するための資源や能力の獲得に影響を与える。バリュー・ネットワークの境界を定めるのは、製品の性能に対する独自の評価や、顧客ニーズ対応のためのコスト構造である。
- イノベーションに対する努力が商業的に成功するかどうかを決定する要因は、バリュー・ネットワーク内の関係者のニーズにどこまで対応するかである。優良企業は、バリュー・ネットワーク内のニーズに応えるあらゆる種類のイノベーションを、技術的な性質や難度にかかわりなく率先して進める傾向にある。新しいバリュー・ネットワークの顧客ニーズにしか応えない技術革新では、技術的に単純なものであろうと、優良企業の方が遅れをとる傾向にある。
- 優良企業が、顧客ニーズに応えない技術を無視しようと決めるのは、
(1)あるバリュー・ネットワークの中で長期的に求められる性能の軌跡
(2)ある技術のパラダイムの中で技術者が提供できる性能の軌跡
という2つの軌跡が交わるときである。2つの軌跡の傾きが異なる場合は、新技術が他のネットワークに浸食してくる可能性がある。技術が進歩すると、2つのバリュー・ネットワーク間の性能に違いがなくなる。
- 破壊的イノベーションは、優良企業よりも新規参入企業に適している。優良企業が破壊的イノベーションで優位に立つためには、そのバリュー・ネットワークに参入する必要がある。
- 優良企業より新規参入企業の方が、新しいバリュー・ネットワーク(新しい用途の市場)を攻撃しやすく、開発戦略を立案しやすい。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激 (3)
ほとんどの場合、市場規模が小さく顧客の需要もはっきりしない「破壊的技術」よりも、企業にとって最も有力な顧客の需要に応える「持続的技術」の方が優先される。その理由を確認するために、ディスク・ドライブ業界において「開発・商品化の意思決定プロセスに影響を与えた要因」を調べたところ、6つの要因が明らかとなった。
- 破壊的技術は、まず既存企業で開発される
- 優良企業のマーケティング担当者は既存製品の主要顧客に意見を求める
- 優良企業は競争に勝つために、持続的技術の開発速度を上げる
- 優良企業を辞めた人たちが新会社を設立し、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される
- 製品の性能が向上すると、新規参入企業は上位市場ヘ移行する
- 優良企業は、顧客基盤を守るために遅れて市場へ参入するが、新規参入企業のコスト構造には勝てず価格競争に負ける
優良企業は主要な利益を生み出す顧客の声に耳を傾ける。その結果、優良企業は持続的イノベーションに向かい、破壊的イノベーションのリーダーシップを失うことがある。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激 (2)
バリュー・ネットワークとは、入れ子構造になった商業システムのことである。企業は、あるバリュー・ネットワークの中で経験を積むと、そのネットワークの主要な需要に合わせて能力、組織構造、企業文化を形成することが多い。
企業はバリュー・ネットワークにおいて顧客のニーズを認識し、対応し、問題を解決し、資源を調達し、競争相手に対抗し、利潤を追求する。バリュー・ネットワークの中では、各企業の競争戦略、とりわけ過去の市場の選択によって、新技術の経済的価値をどう認識するかが決まる。各企業が「持続的イノベーション」や「破壊的イノベーション」を追求することによってどのような利益を期待するかは、この認識によって異なる。
優良企業は期待する利益のために、資源を持続的イノベーションに投下し、破壊的イノベーションには与えない。このような資源配分が、持続的イノベーションでは常にリーダーシップをとり続けた優良企業が、破壊的イノベーションでは敗者となった要因である。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激 (1)
優良企業が技術革新に直面するとなぜ失敗するのか? それは、技術革新に対するマネジメントや組織的・企業文化的な対応、優良企業の新技術を扱う能力に問題があるからだろう。クリステンセン教授は「新技術に対応するには、優良企業が培ってきたノウハウとは全く別のノウハウが必要になる」と指摘する。
優良企業が失敗する理由は大きく2つ考えられる。
- 組織とマネジメント
- 優良企業の組織構造は、主要製品を設計しやすいように作られている
- アーキテクチャーの技術革新が必要な場合、新たなコミュニケーション方法で連携して働く必要があるが、優良企業の組織構造はその妨げになる
- 能力と根本的な技術
- 優良企業は既存の技術を改良する能力には長けている。一方、新規参入企業は他の業界で開発し、実践してきた技術を持ち込むため、抜本的な新技術の探究に向いている
- 製品やプロセスの問題を解決する上で、過去に蓄積してきた知識と全く異なる知識が必要になると、優良企業はつまずきやすい
一般的に企業は「これまで築いてきた能力」が技術革新によって破壊されるときに失敗し、高められるときに成功する。製品を進化させるような技術改良においては、その業界で実績を築いてきた優良企業は有利である。他方、全く異なる知識体系を必要とする技術改良においては、すでに他の業界などで別の知識体系を蓄積してきた企業に比べると、優良企業は不利である。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社