イノベーションのジレンマ:第7章 新しい成長市場を見いだす (6)
持続的技術では慎重に計画を立て、積極的に実行することが成功につながる。破壊的技術では、慎重な計画を立てる前に行動を起こす必要がある。市場のニーズや市場の将来の規模がほとんどわからないため、計画は「実行のための計画」ではなく「学習のための計画」でなければならない。
どこに市場があるかわからないという心構えで破壊的事業にアプローチすれば、新しい市場に関するどのような情報が最も必要なのか、その情報がどのような順序で必要になるのかを見極められるだろう。そうした優先順位が事業計画に反映させれば、事業のキーポイントがつかめたり、重要な不明点を解決してから資本・時間・資金を投入することができる。
破壊的技術に対処するには、マネージャーが仮説を立て、その仮説にもとづいて事業計画や目標を作成するという「発見志向の計画」が有効である。発見志向の計画を立てていれば、コストが高すぎて後戻りできない開発を始める前に、市場の仮説が正しいかどうかを確かめることになる。仮説の有効性が明らかになった時点で、構成を変更したり機能を削除して、別の市場や別の価格水準に対応することもできる。
破壊的技術の市場は、予想外の成功から現れることがある。そのような発見は、顧客の声に耳を傾けるのではなく、顧客がどのように製品を使うかを見ることによって得られることがある。
クリステンセン教授は、破壊的技術の新しい市場を発見するためのアプローチのことを「不可知論的マーケティング」と呼んでいる。「破壊的製品がどのように、どれだけの量が使われるか、そもそも使われるかどうかは、使ってみるまで誰にも、企業にも顧客にもわからない」という前提に基づき、破壊的技術に直面したら市場へ発見志向の探索に出かけ、新しい顧客と新しい用途に関する知識を直接身につけるというアプローチである。不可知論的マーケティングが有効である根拠は、破壊的技術では先駆者が圧倒的な優位に立つからである。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第7章 新しい成長市場を見いだす (5)
破壊的製品がどのように使われ、その市場がどのような規模になるのかを正確に予測することは不可能である。したがって、破壊的技術の市場に参入するときの戦略は間違っていることが多い。
第6章では「新しいバリュー・ネットワークに参入した企業の成功率が37%、既存のバリュー・ネットワークに参入した企業の成功率が6%であった」と紹介した。破壊的技術では市場の事前予測ができないにもかかわらず、なぜそのような市場をターゲットにした企業の方が成功するのだろうか。その理由は、「新しい市場の開拓は本質的にリスクの高い事業である」という直観が間違っているからである。
一般的にビジネスパーソンは(内在するリスクに関係なく)自分に理解できない案はリスクが大きく、理解できる案はリスクが小さいと判断しがちである。そのため、破壊的技術による新しい市場の開拓はリスクが大きいと捉え、持続的技術への投資は(内在するリスクが大きくとも)市場のニーズを理解できることから安全だと判断してしまう。
破壊的技術で成功した新規事業の大多数は、初期の事業計画を実行し、市場で何がうまくいって、何がうまくいかないかがわかってきたときに、初期計画を放棄している。初期段階から正しい戦略を立てることはさほど重要ではなく、事業計画を立てて二度、三度と試行錯誤できるように十分な資源を残しておくことが重要である。試行錯誤を繰り返して適切な戦略を見つける前に資源や信頼を失うのは、事業として失敗である。
破壊的技術の新しい市場を探すプロセスには失敗がつきものである。マネージャーがその失敗を恐れると、破壊的技術によって開拓されるバリュー・ネットワークに参入する時期が著しく遅れてしまう。持続的技術のようにイノベーションに対する需要が確認できれば、莫大な費用と時間をかけてリスクの大きい賭けに出ることができるが、破壊的技術のように需要が確認できなければ、技術的に簡単であっても、そのイノベーションを商品化する賭けに出ることができない。意思決定者のほとんどは、市場が存在せず失敗するかもしれないプロジェクトを支持するというリスクを避けようとする。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
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イノベーションのジレンマ:第7章 新しい成長市場を見いだす (1)
破壊的技術の用途となる市場は、開発の時点では知り得ない。そのため、破壊的イノベーションに直面したときにマネージャーが打ち出す戦略や計画は「実行するための計画」というより「学習し、発見するための計画」であるべきだ。未知の市場を発見する方法は、理論的にも実践的にも教育を受ける者はほとんどいないからである。
第7章では、ディスク・ドライブ業界の専門家が、持続的技術の市場を正確に予測していながら、破壊的技術の新しい市場を予測することができなかった理由を見ていく。さらに、オートバイ業界とマイクロプロセッサー業界の事例を通して、破壊的技術の新しい市場が、当時はいかに不透明であったかを確認する。
ディスク・ドライブ業界に関しては、『ディスク/トレンド・レポート』が1975年から現在までの各年に発売したあらゆるモデルのディスク・ドライブの情報を提供している。その各号では、前年の各市場分野の販売台数と売上高を公表し、その後4年間の分野別予測を提供している。その予測を分析すると、確立された市場についての予測はすばらしいが、破壊的ディスク・ドライブ技術によって生み出された新しい市場の規模を正確には予想できていないことがわかる。
『ディスク/トレンド・レポート』のスタッフは、持続的アーキテクチャーに関する予測も、破壊的アーキテクチャーに関する予測も同じ方法で作成している。例えば、主要顧客や業界の専門家への取材、トレンド分析、経済モデルの作成などである。これらは持続的技術には適用する方法であっても、破壊的技術の予測には適用せず、予測が失敗してしまう。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
資本主義、社会主義、民主主義 1
日経BPクラシックス 資本主義、社会主義、民主主義 1 (日経BPクラシックス)
ヨーゼフ・シュンペーター (著), 大野一 (翻訳)
日経BP社 2016.07.13 512ページ
イノベーションのジレンマ:第6章の要点
イノベーションのジレンマ:第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる (7)
第6章をまとめると次の通りである。
- 持続的技術では、従来の技術の性能を高めることに重点を置く。また新しい技術を遅れて採用する企業の方が、力強い競争力を維持できることがある。
- 破壊的技術が最初に使われる新しい市場に早い時期に参入すると、莫大な収益と、先駆者ならではの優位が得られる。
- 破壊的技術の商品化ではリーダーシップをとることが重要だが、優良企業はそのようなリーダーシップを追求する際に大きなジレンマに出合う。
- 大規模な成長を目指す企業は「顧客の圧力に対処しながら、小規模な市場で短期的な成長市場を見込めない」という問題に直面する。
- 破壊的技術によって初めて誕生する市場は、すべて小規模な市場として始まる。
- 市場を開拓する企業は、小規模でも利益を得られるコスト構造を構築する必要がある。
- イノベーションにおいては、規模を小さく抑え、独立性を保つことが優位につながる。
- 破壊的イノベーションを商品化するプロジェクトは、企業の主流事業から外れたものではなく、成長と成功への重要な過程として捉えることができる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社