イノベーションの最終解:第4章 イノベーションに影響を与える市場外の要因 (1)

[ 第4章のテーマ ]

  • イノベーションの新規参入企業の原動力とは何だろう?
  • こうした原動力に影響を与える、市場外の要因とは何だろう?
  • 市場外のプレーヤーは、イノベーションのペースを加速させるためにどのような措置をとれるだろう?
  • イノベーションを阻害する措置、あるいは何の影響も及ぼさない措置とはどのようなものだろうか?
  • 介入が必要でない状況、適切な介入が奏功する状況、介入がほとんど効果を上げない状況を見分けるには、どうすればいいだろう?

イノベーションが繁栄できる市場環境には、以下の2つの要因が見られる。

  • 動機づけ(勝者を待ち受ける黄金入りの壺)
  • 能力(資源を獲得し、それをビジネスモデルに組み入れ、できあがった製品・サービスを願容に提供する能力)

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

明日は誰のもの:用語集

<ア行>

新たなマーケットの破壊のイノベーション
非消費者が自分である特定の仕事を簡単にこなせるようにしてくれる、あるいはもっと便利に、特定の場所に出向かなくても仕事がこなせるようにしてくれるイノベーション。
一般的に、既存の顧客が重視する尺度から見れば限界はあるものの、便利さやカスタマイズ、あるいは低価格といった今までにない特性からすればさまざまな恩恵を与えてくれる。
[ 破壊のイノベーション理論、変化のシグナル ]

生き残りのイノベーション
製品やサービスの内容を既存のものに比較して向上させることによって、企業を既存の性能向上の軌跡に沿って成長させるイノベーション。
生き残りのイノベーションは急激な場合もあれば、漸進的な場合もある。
改良型のイノベーションもまた、ときには生き残るための影響力を発揮することもある。
[ 破壊のイノベーション理論 ]

イノベーション
新たな経営資源、業務プロセスあるいは価値観を創出するもの、あるいは企業に備わっている経営資源、業務プロセスそして価値観を向上させるもの。
新しいあるいは進歩した製品や業務プロセス、そしてサービスももちろんイノベーションといえる。
今までにない流通の仕組み、顧客サービスの戦略、そしてビジネスモデルもすべて、また別の形をしたイノベーションだ。

意欲
非マーケットの力、たとえば規制当局の力が影響を及ぼせるイノベーションの原動力には二種あり、これはそのうちのひとつ。
利益の源泉あるいはマーケットのインセンティブと定義される。
一般的には、マーケット規模、競争の激しさ、ビジネスチヤンスの経済、そして競争するための力によって決まる。
非マーケットのテコには、料金の規制、規制の不均等、納税処理、独占禁止政策そして競争のための政策があげられる。
非マーケットに携わっている企業が意欲に影響を及ぼすような行動をとるとき、それは変化のシグナルとなる。
[ 意欲/能力の考察、変化のシグナル ]

インターフェース
あるふたつの構成部品が接するところ。
インターフェースは、価値を付加するプロセスの各段階においてはもちろん、製品の内部にも存在する。
[ VCE理論 ]

<カ行>

価値観
従業員が会社の経営資源の配分プロセスにおいてビジネスチャンスに優先順位をつける決断のために使う規範。
価値観の中心的な要素には、会社が利益を得る方法、コスト構造、規模、成長の期待度、倫理、そしてミッションなどがある。
[ RPV理論 ]

環境
仕事をしている人たちが現実に置かれている状況。
環境をもとにしたカテゴリー分類を考え出す研究者は、因果関係を臨機応変に説明する理論をつくり出せる。
[ 理論構築のプロセス ]

既存企業
あるマーケットの分野における強固な立場を確立した企業。
こうした企業が新たなマーケットに参入する場合は、そのマーケットにおける参入企業と解釈される。

急激な生き残りのイノベーション
既存性能の向上の軌跡に沿って劇的に性能を向上させるイノベーション。
一般的には、複雑怪奇な相互依存性の管理をすることが必要になる。
[ 変化のシグナル ]

競争の基盤
製品やサービスが進歩したときに、プレミアム価格を顧客から得られるようなイノベーションの特徴。
一般的には機能から始まって、信頼性、利便性そして価格に移っていく。
[ VCE理論 ]

業務プロセス
互いのやりとり、調整コミュニケーション、そして意思決定のパターンのこと。
これを活かして従業員は経営資源を製品、サービス、さらには価値を高めた経営資源に生まれ変わらせる。
業務プロセスが進歩する組織では、集団が一致協力して働き、日常的に繰り返される仕事をこなし、あるいは困難な問題を解決に導く。
そのためには、繰り返し、満足できる同一の結果をものにする必要があるため、業務プロセスは本来的に硬直化したものになる。
したがって、あるタイプの仕事における強みを生み出すプロセスそのものが、違ったタイプの仕事に応用されたとすれば、弱みを生み出すことになるというのが一般的な現象だ。
不均等の技量は不均等のプロセスによく似ている。
主要なプロセスには、人材の採用と教育訓練、製品の開発、製造、計画立案と予算作成、マーケットリサーチ、そして経営資源の配分作業がある。
[ RPV理論 ]

経営資源
企業が手に入れられる有形あるいは無形のもの。
有形の資源には、従業員テクノロジー、製品、パランスシートに記載された項目、機器類、顧客との関係、そして流通ネットワークがあげられる。
無形の資源には、人的資本、ブランド、そして蓄積された知識がある。
[ RPV理論 ]

経営資源の配分プロセス
企業が、さまざまな異なるビジネスチャンスに経営資源を割り当てるためのプロセス。
経営資源の配分プロセスは、掌握の難しいばらばらなプロセスだ。
というのも、それは組織内部の多くの人たちがそれぞれの立場で下す意思決定に対する優先順位付けになるからだ。
経営者が掌握しているのは一部の資金に関する決定にすぎない。
それ以外の経営資源は、エンジニアリングのマネジャー、販売担当者、人事担当者などによって決定が下される際に、優先度の高い特定のものに対して配分される。
この経営資源の配分プロセスは破壊における重要な役割を演じている。
なぜなら、これが既存企業による破壊的なビジネスチャンスへの投資が必要以上に少なくなる原因になるからだ。
[ RPV理論 ]

経験の学校
マネジャーがその駆け出し時代に格闘した一連の課題や難問。
これらの問題のひとつひとつが、そのマネジャーが経験の学校で学んだ”教育課程”だと考えられる。
これらの教育課程に取り組むことによって、マネジャーは将来、また同じ難題にぶつかってもうまく処理できる技量を身につけられる。
[ 戦略的な決断 ]

計算すみの戦略
あるプロジェクトの中で形成され、経営陣によって取り入れられたトップダウンの戦略。
[ 戦略的な決断 ]

構造
製品を構成するコンポーネントやサブシステムを決定し、目標にした性能を達成するために、それらをどのように互いに適合し動作させるようにするかを規定する。
[ VCE理論 ]

<サ行>

参入企業
あるマーケットの分野で新たに設立された企業。相対的な意味のことば。
つまり、50年の歴史のある企業でも、新たなマーケットの分野に進出するときには、参入企業ということになる。

実態の把握
企業の経営資源(持っているもの)、業務プロセス(できること)、そして価値観(達成したいこと)を評価するための仕組み。
[ 競争のための戦い ]

準備の計画
参入企業が、初期の段階でその一連の経営資源、業務プロセスそして価値観を配置するにあたって下す決断。
極めて重要な決断の対象は、資金の調達、戦略構築のプロセスの選択、そして人材の採用だ。
当初の条件を適切に設定することがきわめて重要になる。
なぜなら、それらの条件次第で、その先に必要になる決断から生まれる魅力が左右されるからだ。
誤った準備の計画を選択すると、他でもなぃ、取り込まれる可能性のあるビジネスモデルが生まれてしまうかもしれない。
[ 戦略的な決断 ]

漸進的な生き残りのイノベーション
既存性能の向上の軌跡に沿って性能を限界まで向上させられるイノベーション。
[ 変化のシグナル ]

相互依存的なインターフェース
構成部品開のインターフェス。
インターフェスのもとでは、ある部品は他の部品から独立してつくれない。
なぜなら、ある部品の設計・製造方法は、他の部品の設計・製造方法によってからだ。
予期しない相互依存性が現れるようなインタフェースが存在する場合には、部品を開発したいと考えている組織は、その両方の部品を並行して開発しなければならない。
[ VEC理論 ]

<タ行>

達成しなければならないこと
個人が問題を解決しようとする、あるいは何らか の仕事を完成させようとしている環境。
企業が成功をおさめられるのは、顧客が以前から達成しようと努力していることを、簡単にあるいは便利にこなせるようにできるときだ。
製品が失敗するのは、たいてい、その顧客がそれまで取り組もうともしてこなかったことの優先順位を上げてくれると、経営者自身が期待するときだ。

詰め込み
企業が本流のマーケットにいる要求の厳しい顧客の要求を満たす目的から、十分な実力のない破壊のイノベーションを何とかして応用しようとするときに起こる。
詰め込みには金がかかり、結局は顧客の期待を裏切り、新たな成長に結びつくこともほとんどない。
[ 競争のための戦い ]

統合化
企業が製品あるいはサービスに、価値を加えるさまざまな段階をコントロールするときに行なう。
全面的な統合をするためには製品の生産と流通を最初から最後まで対象にしなければならない。
企業には部分的な統合もできる。
統合が有効に働くのは、企業が価値付加の各段階における資産だけでなく、それらの段階を包括した相互依存的なプロセスを保有しているときだ。
[ VCE理論 ]

統合化の継続
バリューチェーンの進化理論から導かれる命題。
それによれば、付加価値をつける段階で、できのよくない性能をできるだけよくするために相互依存的な構造が必要なとき、その製品やサービスは、付加価値をつける右の段階でモジュール化されしかも扱いやすくなっていなければならない。
できのよくないものの性能を最大限引き出すためだ。
つまり、付加価値をつけるある段階での構造が相互依存からモジュール化に移行するとき、次の段階における構造は、モジュール化から相互依存へと移行する可能性が高い、ということだ。
[ VCE理論 ]

特質
ある現象の特徴のこと。
これを手がかりにして研究者はカテゴリーを生み出す。
特質をもとにしたカテゴリ!の分け方には、因果関係ではなく相関関係を説明するさまざまな理論を生み出す傾向がある。
[ 理論構築のプロセス ]

取り込み
既存企業が破壊の可能性のあるイノベーションを現実の事業に取り込もうとしている現象。
取り込みは不均等が存在していないときの方がはるかに起こる可能性が高い。
[ 競争のための戦い ]

<ナ行>

能力
非マーケットのカが影響を与えられるイノベ シヨンの原動力には二種類あり、能力はそのうちのひとつ。
経営資源を確保し、それらをビジネスモデルに取り入れ、そして顧客に販売する能力のこと。
一般的には、経営資源の状態、規格標準、業界の成長、そしてマーケットの状況によって決まる。
主要な非マーケットのテコには、経営資源に関連した規制、製品個別の価格づけ、規格標準、そして承認の仕組みがある。
非マーケットに携わる企業が能力に影響を及ぼす行動をとると、それが変化のシグナルになる。
[ 意欲/能力の考察、変化のシグナル ]

<ハ行>

破壊的なブラックベルト
破壊の力を強化する手法を身につけようとしている既存企業のこと。
その強化の手法は、分離独立した組織を首尾よく設立するか、あるいは永続される破壊のイノベーションを生み出す組織内部の技量を育て上げるか、のどちらかになる。
[ 戦略的な決断 ]

破壊のイノベーション
本流のマーケットにいる顧客には使いこなせないイノベーション。
既存のイノベーションに対して性能面で新しい特徴を導入することによって、今までにない性能向上の軌跡を設定する。
破壊のイノベーションは、非消費者に対して新しい機能特徴をぶつけることによって新たなマーケットを創造するか あるいは既存のマーケットのローエンドにいる顧客に対してそれまで以上の利便性か低い価格を用意するかのどちらかだ。
[ 破壊のイノベーション理論 ]

バリュー・ネットワーク
上流のサプライヤ、潜在的なマーケットである下流のチャネル、そして周辺の供給者の集合体。
これらが業界内部の共通のビジネスモデルを支えている。
破壊を目指す企業が既存のバリュー・ネットワークに入り込むときは、そのビジネスモデルを既存のバリュー・ネットワークに適合させる必要があり、そうなるとかれら自身が取り込まれてしまうために、その破壊に失敗してしまう可能性がある。
参入企業が成功するための大きなチャンスを手にできるのは、独立系のバリュー・ネットワークを探し出したときだ。
破壊の図式を見れば、イノベーションを進めている企業がもたらす進歩に対して、顧客が使いこなせる進歩の軌跡が交差していることがわかる。
この図の中に、新たなバリュー・ネットワークが三次元的に描かれる。
それもその独特なバリュー・ネットワークが融合した新たな平面として描かれる。
[ 戦略的な決断 ]

ビジネスモデル
企業がそのイノベーションから価値を生み出す方法。
これにはコスト構造、その製品やサービスの価格設定、それらを売り込む相手、販売方法(一回限りかライセンス契約かなどて提供しようとする価値、製品やサービスの流通、アフターサービスの仕方なども含まれる。

非消費
消費の不在。
一般的には、人は環境(非消費の環境)を指す。
非消費が起こるのは、既存の製品やサービスの特質が原因で、裕福な人、あるいは特別なトレーニングを受けた人に消費が限られてしまう場合だ。
新たなマーケットの破壊は、非消費に立ち向かうことによって開始される比較的単純なイノベーションによって非消費をひっくり返せる。
企業が非消費者あるいは非消費の環境に売り込むとき、それが変化のシグナルとなる。
[ 破壊のイノベーション理論、変化のシグナル ]

不均等の意欲
ある企業が、別の企業にはその気のないことをするときの状態。
不均等の意欲は、参入企業による初期段階の反撃を阻止する。
破壊のイノベーションを駆使する参入企業は、低い粗利率を武器にして小さなマーケットに入り込む。
既存企業にはそうしたマ-ケットを無視する傾向が強い。
また、不均等の意欲は、既存企業の金持ちマーケットへの逃避を後押しする。
業界の最下層にいる企業の目に好ましい存在に映るマーケットは、業界の最上層にいる企業の自にはひどい姿に映る。
[ 競争のための戦い ]

不均衡のスキル
ある企業が、別の企業にとって実行が不可能なことをするときに認められる。
不均等の技量によって、破壊者がなぜ最後には既存企業を打ち負かすのか、説明がつく。
永続的な不均等の技量が経営資源の中に認められることはほとんどない。
なぜなら大部分の経営資源は借りたり買ったりできるものだからだ。
この技量の不均等はまねをするのが極めて困難で、その原点は、破壊的な企業がその本拠地とするマーケットにおける特異な要求を満たす過程で磨き上げたプロセスやビジネスモデルだ。
[ 競争のための戦い ]

矛と盾
企業が不均等の意欲(盾)の陰に隠れながら、不均等の技量(矛)を武器に攻めているのか否かを判定する方法を視覚化するために使われることば。
[ 競争のための戦い ]

<マ行>

満足度過剰の顧客
既存の製品やサービスが、よくできているというレベルをはるかに超えている特定の顧客層。
企業はローエンドの破壊を武器にこうした顧客に売り込めばよい。
モジュール化のインターフェイスは、ひとたび満足度過剰の顧客が現れると生まれてくる傾向がある。
決められたルールにしたがえば十分な出来の製品を開発できるからだ。
企業が満足度過剰の顧客に売り込むための新しい方法を開発している姿を見せれば、それが変化のシグナルになる。
[ VCE理論、破壊のイノベーション理論、変化のシグナル ]

満足度不足の顧客
既存の製品やサービスの出来が不十分だと考えている特定の顧客層。
[ VCE理論、破壊のイノベーション理論、変化のシグナル ]

モジュール化されたインターフェース
バリューチェーンの構成要素あるいはその各段階で予期しない相互依存が全く起こらない、すっきりとしたインターフェース。
モジュール化された構成部品は、独立した個々の作業グループや企業によって開発でき、よく理解され、そして細かく規定された手法によってうまく適合し動作するようにできる。
[ VCE理論 ]

<ラ行>

理論
因果関係についての状況に特化した説明。
最高の理論がよりどころにしているのは、マネージャーがぶっかる状況に対処するための指針となる現実の環境をもとにしたカテゴリーの分類方法だ。
この論拠はマーネジャーの理解にひと役買っている。
すなわち、求められる結果を達成するためには、多種多様な環境のもとでどのように多種多様な行動が求められるのか、という理解だ。

臨機応変の戦略
マーケットの現場から出てくるシグナルをもとにして適応、進化するボトムアップの戦略。
[ 戦略的決断 ]

ローエンドの破壊のイノベーション
満足度過剰の顧客に対して、従来の基準に沿った出来のよい性能を低価格で売り込めるイノベーション。
そのための武器になるのは、値下げした価格であっても魅力的な利益を生むビジネスモデルだ。
[ 破壊のイノベーシヨン理論、変化のシグナル ]

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (8)

新規参入企業は、誤った準備計画を実行すれば、誤った顧客をターゲットにすることになる。新規参入企業が重複したバリュー・ネットワークの中に身を置けば、既存企業にとって補完的なビジネスモデルと能力を開発する羽目になる。その結果、形勢を既存企業に有利に傾けてしまう。

破壊のブラックベルトを取得した既存企業は、破壊の脅威をかわすスピンアウト組織を作るか、破壊の力を繰り返し活用する能力を社内で開発する能力を持っている。

戦略的選択を分析する際には、以下の質問を考えるとよい。

  • 企業
    • 企業は正しい戦略が創発的に生まれる必要があるような状況に置かれているだろうか?
    • 企業には創発的な力を促す自由度があるだろうか?
  • マネージャー
    • 企業のマネジャーは、今後も再び起こり得る問題に取り組んだ経験があるだろうか?
    • また経験から学習する能力を証明してきただろうか?
  • 投資家
    • 投資家の価値基準は、企業のニーズとマッチしているだろうか?
    • 投資家が企業の場合、その成長は鈍化していないだろうか?
  • バリュー・ネットワーク
    • バリュー・ネットワークは既存企業のものと重複しているだろうか?
    • 答えがイエスの場合、重複の度合いはどれほどだろう?
    • バリュー・ネットワークのせいで、非対称なビジネスモデルを生み出すのが不可能な状況だろうか?
  • 組織
    • これはスピンアウト組織をつくるのに適した状況だろうか?
    • スピンアウト組織には、必要なことを行う自由度があるだろうか?

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (7)

企業は、破壊の力をコントロールするための戦略、つまり「破壊のブラックベルト」をとる方法を学ぶことができる。具体的には、新たに設立した独立組織を通じて破壊に反撃するか、破壊的成長をくり返し生み出す能力を社内で開発するのである。

既存企業が適切な準備計画を実行し、適切な戦略構築プロセスを用い、適切な経営者を採用し、適切な資金源から資金を調達することができなければ、スピンアウト組織をつくったり、社内で破壊のエンジンを開発しようとしても、必ず失敗する。

 

1. 破壊を推進するスピンアウト組織をつくる

既存企業は新規参入企業に必ずしも破壊されるとは限らない。新しいベンチャー事業を設立して他社を破壊することもできる。スピンアウトを実行するには、完全に独立した事業体を設置し、その事業体に独自のスキルを開発し、独自の成功基準を確立する自由度を与える必要がある。

「取り込み」が、社内の能力を動員して破壊的新規参入企業を撃退しようとする試みであるのに対し、「新しいベンチャーをスピンアウトさせる」のは、干渉を受けない外部組織をつくって戦いに参入しようとする試みである。

スピンアウト戦略の成否を判断するには、既存企業がスピンアウト組織の適切な要素を分離させ、その組織が独自の価値基準により、独自の準備計画を実行できるよう取り計らう必要がある。既存企業がスピンアウト組織に十分な自由度を与えれば、攻撃してくる新規参入企業に対して極めて有利な立場に立てる。また破壊の道筋を歩みやすくするような「資源」や「プロセス」をスピンアウト組織に授けることで、形勢を有利に傾けることもできる。

イノベーションを推進する組織をスピンアウトすることは、イノベーションマネジメントにおける万能の解決策ではない。スピンアウト組織が理に適うのは、既存企業が事業機会を追求するためのスキルや、それを社内で開発する動機づけを持っていないときに限られる。

 

2. 破壊の成長エンジンを構築する能力を開発する

既存企業が破壊的イノベーションをうまく推進できないのは、自社のプロセスと価値基準では、破壊的、持続的イノベーションの両方に同時に対処することが許されないからである。そこで、破壊的イノベーションをくり返し推進するプロセスを、社内に構築するとよい。

以下の手法を実行すれば、破壊的イノベーションを推進する確率は高まる。

  1. 必要になる前に始める
  2. アイデアを適切な形に変え、適切に資源が配分されるよう導く上級役員を任命する
  3. アイデアを適切な形にするためのチームとプロセスを立ち上げる
  4. 破壊的なアイデアを見きわめられるよう、社員を訓練する

上記のうち2.と3.は特に重要である。これらの手法を実行するにあたって、次の点に注意すべきだ。

  • 破壊的イノベーションをくり返し推進しようとする企業は、破壊的成長を育むための独立したプロセスを持たなければならない。
  • 破壊的成長を育むための独立したプロセスには、イノベーションが主流事業にとって本当に破壊的かどうかを判断するための線引きが含まれている必要ある。
  • 持続的イノベーションのプロセスとは独立して運営されなければならない。
  • 強力な上級役員が資源配分プロセスを取り仕切り、破壊的イノベーションと持続的イノベーションを別のプロセスに振り分けなければならない。

破壊的な事業機会を優先しない主流の価値基準から独立した、厳密で反復可能なプロセスがあれば、破壊的成長を立て続けに生み出すことは可能である。反撃のためのスピンアウト組織を設置するという戦略と、破壊をマスターするための社内能力を構築するという長期的戦略を並行して実行することで、既存企業は形勢を再び有利に傾けられるだろう。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (6)

バリュー・ネットワークとは、上流のサプライヤーや下流の顧客、小売業者、流通業者、その他の提携企業や業界内の補助的な企業がつくる集まりをいう。企業が非対称性を生み出すためには、競合企業から完全に独立した自立的なバリュー・ネットワークの中に身を置くか、そうしたバリュー・ネットワークを新しく構築する必要がある。

サプライヤーや流通網、販売チャネル、サポート企業が、既存の競合企業のそれと重複していると、「既存企業にとって理に適った製品・サービスを生み出せ」という厳しい圧力にさらされることがある。同調圧力をかけられやすい、重複したバリュー・ネットワークの中で活動する企業は、十分な非対称性を持ちづらい。

非対称性がなければ、破壊的企業に対抗する既存企業の戦略は「撤退」から「取り込み」に変わる。新規参入企業が既存のバリュー・ネットワークを補完するようなネットワークを持てば、既存企業は新規参入企業に対抗しやすくなる。重複するバリュー・ネットワークは、既存企業による「取り込み」を助長する。

企業のバリュー・ネットワークが業界の「破壊」をもたらすのか、それとも既存企業による「取り込み」を促すのかを判別する方法は、次の通りである。

  1. 企業のバリュー・ネットワーク内で活動する全プレーヤーをリストアップする。
  2. 競合企業のバリュー・ネットワーク内で活動する全プレーヤーをリストアップする。
  3. リストアップしたプレーヤーのどの部分が重複しているのかを調べ、重複の度合いを評価する。
  4. 新規参入企業のコスト構造とビジネスモデルが、重複によってどのような影響を受けるかを考える。

 
重複度がゼロか低い場合は、企業は非対称な動機づけを活用して非対称なスキルを生み出す可能性が非常に高い。バリュー・ネットワークが補完的で重複度が高い場合は、既存企業にとって自然な選択は「上位市場への撤退」ではなく「取り込み」になる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (5)

イノベーターは、成長過程の節目ふしめでイノベーションに必要なものを与えるような価値基準を持っていなければならない。破壊的イノベーションを推進する企業は「成長は気長に、利益は性急に」求めるべきである。

綿密な定量分析や市場予測を要求する投資家は「一見すると性能の限られた製品を測定できない市場に投入している企業」を退けてしまうかもしれない。そのような投資家は、意図的戦略を実行することを企業に強要し、創発的要因を認めようとしない。さらにファンドが成長して規模が拡大すれば、企業に対して一気に成長せよという圧力をますますかけるようになる。

破壊的イノベーションは、時間をかけてじっくり成長、熟成させるものである。破壊的イノベーションを推進する企業は、投資家がどのような価値基準を持っているかを見極める必要がある。

投資家の価値基準を見極めるには、企業に資金を提供している事業体のニーズを分析するとよい。例えば次のような点である。

  • その事業体は、利益を性急に、成長を気長に求めるような状況にあるのか
  • その事業体は、破壊的なベンチャー企業に一気に成長するよう圧力をかけなければならない状況にあるのか
  • 投資家の価値基準と、資金を求める企業のニーズはマッチしているだろうか

資金調達では、次のような要因が重要となる。

  1. 投資家と企業の関係
    • 投資対象企業と距離を置いた関係にある投資家は、企業がなんらかの波乱に見舞われると、出資をやめることが多い。
    • あらかじめ企業の方向性が変化することがわかっている場合は、そうした変化を許容できる投資家であるかどうかを確かめておくべきである。
  2. 調達する資金の額
    • 巨額資金の提供者すべてに見返りを与えるために、急速に成長しなければならなくなり、結果として企業を破壊の軌道に乗せてくれる、小規模で収益性の高い事業機会を退けてしまう可能性がある。
    • また、あまりにも潤沢な資金があると、成功の見込みのない戦略にいつまでもこだわることになりかねない。

破壊的イノベーションのための資金調達では、次の点を注意しよう。

  • 企業は、製品を開発して初期市場に投入するための資本を、大きく超える額まで調達すべきでない。
  • 「速く大きく成長する」ことを求める資金が望ましいのは、企業が適切な顧客を見つけ、収益性の高いビジネスモデルを開発した後である。
  • (節度のある範囲内で)ビジネスの実験を奨励し、大規模な市場への進出を無理強いしない投資家を見つけるとよい。
  • 企業が少額投資と学習をくり返すことを通じて、有効な戦略とビジネスモデルを開発するように仕向ける投資家を探すとよい。

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (4)

モーガン・マッコー教授の提唱する「経験の学校」の理論によれば、経営者は生まれながらにしてなるのではなく、経験によってつくられる。将来取り組まなければならない課題を過去に取り組んだことがある「経験の学校」に通った人材は、成功する見込みが高い。

着目点さえ正しければ、経営幹部の経歴は課題に取り組む重要な手がかりとなる。企業が将来直面するであろう難問をリストアップして、経営者が過去に似たような課題に取り組んだことがあるかどうかを確かめるとよい。

破壊的企業の経営者は、次に挙げる経験の学校の「講座」を、少なくともいくつか受講していることが望ましい。

  • 不確実性の極めて高い環境で事業を行ったことがある。
  • 一見得られそうにない情報を掘り起こすための計画を立案したことがある。
  • 試行錯誤の末に、製品・サービスを利用できる、思いもよらない顧客を発掘したことがある。
  • 詳細なデータだけに頼らず、理論と直感をもとに決定を下したことがある。
  • 臨機応変な対応により、それほど資金を使わずに問題を解決したことがある。
  • 企業の課題にふさわしいスキルを備えた経営チームを、ゼロから立ち上げたことがある。
  • やるべきことを速くやるために、社内の特定のプロセスを阻止、活用、あるいは操作したことがある。

上記のいくつかに取り組んだことのある経営幹部は、破壊的イノベーションの推進を先導するのにふさわしい。ただし、意図的戦略が必要な状況では、経営幹部は創発的戦略とは別の経験の学校に通っていなければならない。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (3)

経営者はトップダウンで意図的に戦略を指示することもできれば、ボトムアップで創発的に湧き上がってくる戦略を採用することもできる。企業は創発的な戦略を生み出す力を促すことで、適切なターゲット市場を発見しやすくなる。市場がどのように進化していくかはわからないが、創発的な戦略プロセスを用いれば、市場のシグナルを読み取り、それに合わせて戦略的行動を調整していける。

経営幹部に聞き取りを行ったり、企業の行動を観察したりすれば、企業が創発的戦略のプロセスを採用しているかどうかがわかる。次のような点に注視しよう。

  • 企業は思い込みから行動するのではなく、学習し適応できるような事業体制を構築しているか?
    • 大規模な先行投資を行う企業は、固定費を賄うために大口顧客や量販市場の顧客を獲得せざるを得ないことが多い。
    • 先行投資を少額に留めておけば、柔軟な対応が可能になる。
    • 製品アーキテクチャが柔軟に構成可能なら、創発的要因に適応しやすい。

  • 企業は「わかっていないこと」を認識し、未知を既知に変える手順を持っているか?
    • 経営者は「もしXとYが起これば、5年以内に10億ドル規模の市場が生まれるでしょう。XとYが起こる確率は、次の方法で検証します」というように発言すべきである。
    • 企業はある程度まとまった金額を投資した後、前進がはっきり目に見えるまでは、追加投資を控えるべきである。
    • 調査の行き届いた、入念に準備された事業計画を持ち、不透明な状況での予測を信じ込んでいる企業は怪しむべきである。
    • 市場から明確なシグナルが得られ、勝つために必要な戦略が明らかになれば、創発的戦略から意図的戦略に転換すべきである。
    • 意図的戦略は持続的イノベーションを推進する大企業には、非常に有効である。

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (2)

誤った準備計画のせいで、誤った「足がかりとなる市場」から参入する新興企業は、瞬く間に非対称性の不利な方へと追いやられる。それを防ぐには、企業が適切な戦略策定プロセスを用い、適切な人材を採用し、適切な資金源から資金を調達することによって、正しい足がかり市場を探しやすい条件を整えているかどうかを評価する方法を知る必要がある。

企業の準備計画において、重要な要素、選択すべき手段、そして企業が実際にその手段を実行していることを示すシグナルをまとめると、表3-1となる。

表3-1. 準備計画の分析方法
要素 手段 シグナル
戦略策定 不確実な状況では、創発的な力を活用して、適切な市場/ ビジネスモデルを探す
  • 固定費の低いコスト構造は、柔軟な対応を可能にする
  • 市場のシグナルに適応しようとした実績
  • 思い込みよりも実験を重視する事業計画
人材採用 企業が今後直面しそうな状況の「経験の学校」に適した人材
  • 新しいベンチャ一企業が直面するであろう問題と似たような諜題に、以前の職務で取り組んだことのある人材
資金源 不確実な状況では成長を気長に、利益を性急に求めるような投資家が必要になる
  • 投資家の価値基準(急成長を必要としているか)
  • 企業と投資家の関係

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第3章 戦略的選択 ー 重要な選択を見極める (1)

[ 第3章のテーマ ]

  • 破壊は避けられるだろうか?
  • 新規参入企業が下さなければならない、重要な決定とはどのようなものだろうか?
  • どのような市場を最初にターゲットにすべきなのか?
  • どのような組織を設計すべきか?
  • こうした決定は、どのような力に左右されるのだろう?
  • 外部者がそうした力を観察する方法はあるだろうか?
  • 既存企業はどのような対処戦略をとれば、新規参入企業の破壊的攻撃をかわせるだろうか?
  • こうした対処戦略が成功する見込みを、どのようにすれば評価できるのか?

イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法の第三段階は、企業が下すべき重要な選択を洗い出し、そうした選択がもたらす影響を理解することである。新規参入企業がどのような「準備計画」を立て、どのようなバリュー・ネットワークを選択したかを検証し、既存企業が「破壊のブラックベルト」を得たかどうかを検証すれば、「企業が下す決定は、その企業が最終的に成功する見込みを高めるのか、それとも低めるのか?」という質問に答えることができる。

企業の戦略的選択に関して把握すべきことをまとめると図3-1となる。


図3-1. 戦略的選択

 

ある1つのイノベーションを、破壊的イノベーションとして活用するか持続的イノベーションとして活用するかは、経営判断による。企業による選択が成否を分け、それ次第では優位性を生み出すことも、相手の優位性に対抗することもできる。

業界の自然な進化の過程に変化を起こし得る要因は大きく3つ考えられる。

  1. 新規参入企業が誤った準備計画を実行する
    • 準備計画とは、企業の人材採用、戦略策定プロセス、資金源に関するさまざまな意思決定のことである。
    • 誤った決定による初期条件のせいで、新規参入企業は誤った市場に足がかりを築こうとする場合がある。
  2. 新規参入企業が既存企業と重複するバリュー・ネットワークを構築し、既存企業が取り込みを行いやすい道筋をつくってしまう
    • バリュー・ネットワークとは、上流のサプライヤーや下流の販路、その他の補助的な企業の集まりのことである。
    • 新規参入企業は、既存企業のバリュー・ネットワークの中で競争するという選択を下すと、既存企業の価値基準への同調を求める圧力にさらされ、新規参入企業に何より必要な非対称性を失ってしまう。
  3. 既存企業が破壊のブラックベルトを得て、自らに働く力を有利に活用する能力を身につける
    • 破壊的イノベーションの理論を理解すれば、企業も破壊をマスターすることができる。

豊富な資源と確立したプロセスを活用できる既存企業は、上記3つのうちのどの要因が選択されても、形勢を有利に逆転させることができる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社