雑学

46. 資産の本質

静態論

  • 会計の目的 = 企業の債務弁済能力の表示と清算価値の計算
  • 資産 = 企業が所有する財や権利であり、換金価値のあるもの
  • 繰延資産のようなものは資産として計上できない

動態論

  • 会計の目的 = 投下資本の回収による期間利益計算
  • 資産 = 調達した資源の共体的な運用形体
  • 貸借対照表の資産
    • 資源の調達時の状態(現金や貯金など)
    • 投下されて他の財やサービスに形を変えた状態(棚卸資産や固定資産など)
    • 収益の獲得によって回収された状態(受取手形や売掛企、現金や預金など)

「会計の目的 = 意思決定の判断材料の提供」という近年の傾向

  • 将来における経済的資源の流入や流出に関心が向けられる
  • 貸借対照表の資産
    • 将来において経済的便益が発現するもの
    • 当該企業にのみ帰属するもの

企業会計基準委員会「財務会計の慨念フレームワーク」の資産の定義

  • 「過去の取引または事象の結果として」
  • 「報告主体(entity)が支配(control)している」
  • 「経済的資源(economic resources)またはその同等物」

資産の定義まとめ

  • 資産を「流動資産」と「固定資産」に分類する考え方は、企業の支払い能力に関心を持つ「静態論」の立場にもとづいている
  • 貸借対照表では、資産を「流動資産」と「固定資産」とに分類し、流動性の高い順に表示する「流動性配列法」が、通常は採用されている
  • 会計の目的は「期間利益計算」や「意思決定の判断材料の提供」に置かれているため、換金価値のない繰延資産も資産として計上される
  • 「繰延資産」は、流動資産や固定資産には区別されず、貸借対照表の最後に表示される

45. 貸借対照表の区分

資産の部

  • 資産の流動性
    • 資金的能力の高さに関する性質
    • 現金化される期間が短く、現金化が容易であるほど、支払い手段としての能力が高く、流動性が高い
  • 流動資産と固定資産を分類する基準
    1. 正常営業循環基準
      • 「商品や原材料を購入し、製造や販売を行い、代金を回収する」といった営業取引のサイクルに属する資産を流動資産とする
      • 流動資産 = 現金預金、棚卸資産(商品、製品、原材料、貯蔵品等)、売上債権(受取手形、売掛金等)
    2. 1年基準
      • 決算日の翌日から起算して、1年以内に現金化・費用化されるものを流動資産とする
      • 回収期限が1年以上の貸付金は固定資産とされ、回収期限が1年以内になった時点で流動資産に振り替えられる
      • 決済日が1年以上の受取手形は、1年基準では流動資産とはならないが、正常営業循環基準の適用により流動資産に分類される
      • 流動と固定との区分基準は、いずれも流動資産を規定するための基準であって、固定資産を規定するものではない
  • 流動資産と固定資産の分類手順
    1. 正常営業循環基準を満たす資産が流動資産とされる
    2. 正常営業循環基準を満たさない破産債権、更生債権、貸付金等のその他の債権、前払費用等のうち、1年基準を満たす資産が流動資産とされる
    3. 1.と2.を満たさない資産(流動資産以外の資産)が固定資産に分類される
  • 繰延資産
    • 「すでに支出や支払い義務の確定が生じ、用役の提供もすでに受けているにも関わらず、その効果が将来に渡って発現すると期待されるもの」を資産として計上したもの
    • 必ずしも金銭価値を持たないため、流動資産や固定資産とは区別される

負債の部

  • 正常営業循環基準と1年基準によって流動と固定に分類される
  • 流動負債と固定負債の分類手順
    1. 正常営業循環に属する仕入債務(支払手形、買掛金等)が流動負債とされる
    2. 正常営業循環に属さない借入金等の債務のうち、1年基準を満たすものが流動負債とされる
    3. 1.と2.に該当しない負債が固定資産とされる

純資産の部

  • 純資産の分類手順
    1. 株主に帰属する「株主資本」と「それ以外のもの」に分類される
    2. 株主資本はさらに「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」などに分類される
    3. 純資産の中の株主資本以外のものを「評価、換算差額等」「新株予約権」などに分類する

44. 貸借対照表の様式

貸借対照表の様式

  1. 勘定式
    • 純資産(資本)を「借方」と「貸方」とに対照表示する様式
    <資産の部>
    Ⅰ 流動資産
    Ⅱ 固定資産
     1 有形固定資産
     2 無形固定資産
     3 投資その他の資産
    Ⅲ 繰延資産
    <負債の部>
    Ⅰ 流動負債
    Ⅱ 固定負債
     
    <純資産の部>
    Ⅰ 株主資本
     1 資本金産
     2 資本剰余金
     3 利益剰余金
     4 自己株主
    Ⅱ 評価、換算差額党
    Ⅲ 新株予約権
    Ⅲ 繰延資産
  2. 報告式
    • 資産、負債、純資産(資本)の順に縦に表示する様式
    • 一般的に財務諸表に用いられる。
    <資産の部>
    Ⅰ 流動資産
    Ⅱ 固定資産
     1 有形固定資産
     2 無形固定資産
     3 投資その他の資産
    Ⅲ 繰延資産
     
    <負債の部>
    Ⅰ 流動負債
    Ⅱ 固定負債
     
    <純資産の部>
    Ⅰ 株主資本
     1 資本金産
     2 資本剰余金
     3 利益剰余金
     4 自己株主
    Ⅱ 評価、換算差額党
    Ⅲ 新株予約権
    Ⅲ 繰延資産

構成要素の表示方法

  1. 流動性配列法
    • 資産や負債は、原則として流動性の高い順に表示する。
    • まずは財務的な健全性や支払い能力をみる、ということから一般的には、流動資産から表示する。
  2. 固定性配列法
    • 電力会社やガス会社など、事業に不可欠のいわゆる設備資産の維持が重要な業種においては、固定資産から表示する。

43. 貸借対照表の要素

貸借対照表

  • ある時点における企業の財政状態を示すもの
  • どのような財産をどれだけ有しているか

貸借対照表の構成要素

  • 資産 = 財産
  • 負債 = 借金などの支払い義務
  • 資本(純資産) = 企業が所持するもの

資産・負債・資本(純資産)の関係

  1. 貸借対照表等式:資産 = 負債 + 資本(純資産)
    貸借対照表
    資産 負債(他人資本)
    資本(自己資本)
    (運用状況) (調達状況)
    • 借方側(資産)= 資源(資金)の具体的な運用情況を示すもの
    • 貸方側(負債・資本)= 調達情況を示すもの
    • 負債(他人資本)= 資源を企業外部から借りて調達したことを示すもの
    • 資本(自己資本)= 企業外部からもらって、あるいは自力で獲得して調達したことを示すもの
  2. 資本等式:資産 - 負債 = 純資産(資本)
    貸借対照表
    資産(プラスの財産) 負債(マイナスの財産)
    純資産(正味財産)
    • 資産 = プラスの財産
    • 負債 = マイナスの財産
    • 資産と負債の差額 = 純資産
    • 純資産は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残余(正味財産)

42. 資産の測定基準

測定における会計の枠組み

  1. (現⾦を除く)すべての資産について、取得原価によって測定する会計の枠組み
    • 取得原価(主義)会計 / 歴史的原価会計(HCA)
  2. すべての資産について、(割引現在価値を含む)何らかの時価によって測定する枠組み
    • 時価(主義)会計 / 物価変動会計
      1. ⼀般物価変動会計 / ⼀般物価⽔準会計(GPLA) / 貨幣価値変動会計
      2. 個別価格変動会計
        • 現在原価会計(CCA)
        • 取替原価会計(RCA) / 実際取替原価会計
        • 取替価値会計
        • 売却時価会計
      3. 結合改計
    • 現在価値改計 / 割引現在価値会計

測定のルール

  • 企業資本の循環「⾦→もの・サービス→⾦」に基づいて、資産を2つに分類し、それぞれの性質に合わせて測定基準を決定
  • 貨幣性資産 = 資本の回収、または投下待機過程にあるもの
  • 費⽤性資産(⾮貨幣性資産) = 資本の投下過程にあるもの

現⾏会計における資産の測定

  1. 貨幣性資産の測定
    • 現⾦は「表⽰額」で測定
    • 回収過程にある資産(売掛⾦や受取⼿形など)は「割引現在価値」や「割引しな い将来の収⼊額」として測定
      • 売上債権は、過去に収益を獲得し、将来に現⾦収⼊をもたらすもの
      • 将来において⽣ずる利息相当分を、控除した割引現在価値で測定するのが妥当
      • 利息相当分かどうか客観的に区別できない場合は、将来の収⼊額を測定
  2. 費⽤性資産の測定
    • 「取得原価(過去の⽀出額)」で測定
      • 貨幣性資産は、将来の収益獲得のために、過去に現⾦を⽀出したもの
      • 販売または使⽤されると「費⽤」となる
      • 将来において費⽤化する性質を持つ資産であるため、資産と費⽤の両⾯を踏まえて測定する
  3. 売上債権以外の⾦融資産の測定
    • 有価証券(他社の株式や社債など)の測定
      • 貨幣性資産とみなす場合 → 券⾯額、または将来収⼊額による測定
      • 費⽤性資産とみなす場合 → 取得原価によって測定
    • ⽇本では1999年に「⾦融商品に係る会計基準」が公表される
      • 有価証券の⼀部(売買⽬的有価証券、及びその他有価証券)の測定が「取得原価」から「各期末における時価」へと改定
      • ⼀般的には「売却時価」で測定するが、「取替原価」や「割引現在価値」の場合もある

近年の会計理論における論点

  • ⾦融資産の⼀部に関する時価測定の制度化
  • 近年における⾦融、証券経済の発達を背景とする⾦融資産の測定
  • 「貨幣性資産と費⽤性資産(⾮貨幣性資産)」という資産の分類・測定
  • 「デリバティブ」「仮想通貨」などの新たな⾦融取引を含めた⾦融資産の測定
  • 資産の測定に関する理論的枠組みの捉え⽅

41. 測定基準の分類

原価・時価による資産の測定基準

分類⽅法1 原価 過去時点の額 → 取得原価
時価 現在・将来の額 → 現在原価、売却時価、割引現在価値
分類⽅法2 原価 犠牲 → 取得原価、現在原価
時価 成果 → 売却時価、割引現在価値

⾦銭債権(売掛⾦、受取⼿形、未収⾦など)の測定

  • 利息額を客観的に区別することが困難
  • 割引を⾏わない「将来の収⼊額(割引前の将来キャッシュフロー)」を⽤いる

棚卸資産(商品、製品など)の期末時点の測定

  • 「取得原価」と「時価(現在原価、または売却時価)」のいずれか低い⽅の額で測定する(低価基準)

40. 測定:資産の測定基準

資産の測定ポイント

  1. どの時点の⾦額に基づいているか?
    • 過去か、現在か、未来か
  2. 「犠牲」と「成果」のどちらに属する⾦額か?
    • 犠牲 = ⽀出額
    • 成果 = 収⼊額

資産の測定区分

過去 現在 未来
犠牲(⽀出額) 取得原価 現在原価     
成果(収⼊額) 売却時価 割引現在価値     

取得原価

  • 資産を取得するために⽀出した額
  • 資産を取得した時点の価格
  • 決算時では、過去の価格となる = 歴史的原価
  • 客観性のある数値
    1. 売り⼿と買い⼿の取引関係において、客観的に⾒極められた数値
    2. 過去の事実に基づく客観的な数値

現在原価

  • 現在における原価
  • 保有する資産を、現時点で改めて購⼊したときに要する⽀出額
  • 現在の購⼊市場における価格
  • 資産の再調達、または取り替えを仮定した価格 = 再調達原価、取替原価

売却時価

  • 販売市場における現在の価格
  • 現在の収⼊額
    • 売却額それ⾃体ではなく、売却にかかる附随費⽤(⼿数料や処理費⽤など)を差し引いた正味の額 = 正味実現可能価額、正味売却価格
    • 資産の測定額となる

割引現在価値(割引現価)

  • 割引現在価値とは
    「将来キャッシュフローの割引現在価値」の略称
    保有する資産によって獲得が⾒込まれる「将来の現⾦収⼊額(キャッシュフロー)」を、⼀定の利⼦率(割引率)で割り引いて計算される額
    将来の収⼊額を基礎にした測定額
  • 割引現在価値の判断基準
    1. 主観価値による判断
      • 将来のキャッシュフローと、これを割り引く利⼦率が、企業の主観的な判断に依存する
    2. 使⽤価値による判断
      • 将来のキャッシュフローが、「⼀般的な資産の使⽤」によって判断される
  • 割引現在価値の算定
    • 「将来のキャッシュフローの⾒積もり」と「割引率の決定」が必要となり、企業の主観的判断に依存する
    • 同⼀の資産であっても、割引現在価値を計算する過程や結果により、額が異なる場合がある

39. 測定:資産

会計における測定(評価)

  • 測定 = 認識段階において取引として認織された「資産、負債、資本、収益、費⽤」の各項⽬に貨幣的数値を割り当てること
  • 貨幣的な測定の公準
  • 会計における測定では貨幣数値を⽤いる

資産測定を適⽤するときの問題

  • 資産として会計の中に取り込まれたとき、どのような⾦額を割り当てるのか?
  • 期末時点で保有し、翌期に繰り越す資産に対して、どのような⾦額を割り当てるのか?
  • 貸借対照表に記載する資産の⾦額はいくらにするのか?

負債・資本の測定

資産 負債
資本
  • 負債の測定
    • 契約によって発⾏額や返済額が確定しているため、期末時点での測定に関する問題は⽣じない
  • 資本の測定
    1. 株主からの払込資本
      • 株主から払い込まれた額によって確定
    2. 留保利益
      • 期間収益から期間費⽤を差し引いた残りとして確定
  • 「資産 − 負債 = 資本」という関係から、資産と負債の額が決まれば、資本の額も定まる

費⽤性資産の測定

  • 費⽤性資産 = 「将来において期間費⽤となる」として翌期に繰り越されたものが、蓄積されたもの
  • 期間費⽤になった額と、ならなかった額(資産として翌期に繰り越される額)とが、各期末において測定される
  • 「資産の測定」と「費⽤の測定」の両⾯で重要な意味を持つ

38. 期間収益と期間費⽤

期間収益と期間費⽤の対応関係

  1. 個別的対応(直接的対応)
    • 特定の財・サービスを媒介とする対応
    • 売上と売上原価との対応
      • 商品・製品の販売による収益と、商品の購⼊や製品の製造にかかる原価など、収益に直接の関わりを持つ費⽤との対応
    • 現実的には業種などの違いによって、その対応の確度には差がある
      • サービス業の場合、対応関係は⽐較的正確に把握可能
      • 売上原価を「先⼊先出法」などで算定する⼩売業や製造業の場合、⼀定期間の売上の合計と売上原価の合計で対応関係を把握する
        (→期間的対応)
      • 先⼊先出法 = 先に取得したものから順に払い出されると仮定して、棚卸資産の取得原価を払出原価と期末原価に配分する⽅法
  2. 期間的対応(間接的対応)
    • 期間を媒介とする対応
    • 売上と費⽤(給料や減価償却費など)との対応
    • 収益との間に直接的な因果関係はないが、期間収益を得るために役⽴っている費⽤は、経営活動を通じて間接的に対応していると考え、両者の対応関係を認める
  3. 損失とみられるものと収益との間に⾒られる対応関係
    • 商品・製品の評価損
    • 貸し倒れによる損失
    • 経常的にして不可避的に⽣ずる損失の場合、費⽤の性格を有しているため、損失の⼀部を収益と対応しているとみなす

37. 認識:収益費⽤対応の原則

期間収益と期間費⽤の違い

  • 収益
    • 実現主義に基づいて、そのまま「期間収益」となる
  • 費⽤
    • 発⽣主義に基づいているが、そのまま「期間費⽤」となるわけではない
    • 「価値減少事実の発⽣」によって⼀端は費⽤として認識されるが、「期間収益との対応関係」がなければ認められない

収益費⽤対応の原則

  • 「収益の認識基準としての実現主義」と「費⽤の認識基準としての発⽣主義」との橋渡しをする原則
    • 「発⽣主義に基づいて認識された期間費⽤」の中から「実現主義に基づいて認識された期間収益」と対応する部分が抜き出される
    • 「期間収益(価値増加)」と「期間費⽤(価値減少)」との間に、結果・原因・対応関係を求める
    • ある期間の経営活動から得た収益と、それを得るために費やされた費⽤との差としての利益を、より適切な形で表すことができる
    • 収益や費⽤の勘定科⽬によって対応に違いが出る
  • 「期間収益」と「期間収益」とに対応表⽰を求めることから「収益費⽤対応表⽰の原則」ともいう
収益 費⽤
発⽣時  
価値増加
【発⽣の認識】
価値減少
実現時 【実現の認識】
確定性・客観性の認識
= 期間収益
 
← 収益費⽤対応の原則 →
(期間費⽤の抜き出し)
 
期間収益と対応したもの
= 期間費⽤
期末後 収益と未対応のもの
= 資産(将来の費⽤)

収益費⽤対応の原則:メーカーの例

  • 製品を製造するために材料を消費した時点で、発⽣主義(価値減少事実の発⽣)に基づいて、材料費として認識される
  • 製品の製造によって価値増加も発⽣するが、製品が完成して外部に販売されるまで、収益の認識は⾏われない
  • 材料費も直ちに期間費⽤とはならず、製造途上では「仕掛品の原価」、完成後では「製品の原価」を構成するものとなる
  • 製品が販売され、収益(売上)が認識されてはじめて、収益(売上)と対応関係をもつ費⽤(売上原価の⼀部)として期間費⽤となる

費⽤性資産(仕掛品、製品)

  • 将来の期間費⽤となるものであるため、損益計算書には記載しない
    → 貸借対照表において繰り越される
  • 仕掛品、製品 = 将来において期間費⽤となるもの
  • 将来の収益獲得に役⽴つもの = 資産のような性質を持つもの