雑学

11. 発生主義

発生主義の成立

  • 会計は「現金主義 → 発生主義」へと移行
    • 現金主義の会計 = カネの出入り、にもとづいて利益を計算、把握する会計
    • 発生主義 = 非現金主義

現金主義

  • 当座企業の場合
    • 企業の全生涯に入ってきた資金 - 企業の全生涯に出ていった資金 = 利益
  • 継続企業における期間計算の場合
    • その期間に入ってきた資金 - その期間に出ていった資金 = 利益
  • 現金主義からの離脱は、信用取引の一般化をもってはじまり、非現金主義は固定資産の増加(による減価償却の成立)をもって成立(確立)した。
    • 信用取引の一般化は都度に見られた。
    • 減価償却の成立は、19世紀のイギリス。

信用取引

  • 債権(売掛金)が生じたという事実をもって利益を計算する。

減価償却

  • 固定資産 = 複数の期間にわたって利益を得るために使用されてゆくもの
  • 減価償却 = 固定資産の購入金額を特定の期間に配分すること

10. 産業革命と会計

企業形体観

  • 当時の企業形体観 = アダム・スミスの『国富論』
    • 資本と経営とが一体となった形体が、最も効率的な企業形体とする。
      → 資本と経営との分離の非効率性
    • 株式会社形体の一般化にブレーキをかけていた。
    • ただし、巨大の資本を必要とする事業については、株式会社のような形体は適当としている。
  • エイジェンシー・セオリー
    • 経営者を出資者の段取りとしてとらえ、資本と経営との分類の状態を「本人の代理人との関係」としてとらえる。
    • エイジェンシー・コスト = 財産の所有者本人が、自分で財産の管理を行う場合と、代理人が管理する場合において生ずるコスト
  • 産業革命は、事業に要する資本の増大をもたらしたが、株式会社という企業形体は一般の商工業において、ただちに採用されなかった。

バブル会社禁止法の廃止

  • 産業革命
    • 1760年代から1830年頃
    • 商業資本主義(重商資本主義)から、産業資本主義の時代を迎える。
    • 世界で最も早く成し遂げたのはイギリス
      • 世界の工場
      • 綿工業に関連して技術革新が起きる。
      • 製鉄法の発明 → 石炭生産量の増大 → 蒸気機関 → 交通革命
    • 18世紀後半、運河建設熱の高まり「運河マニア」
    • 1830~1840年代、鉄道業への投資熱が最高潮「鉄道マニア」
    • バブル会社禁止法によって採用された特許主義は、法人設立を困難にした。
    • 巨額の資本を必要とする事業は、議会の個別法(特許)によって、法人格を持つ会社が行っていた。
  • バブル会社禁止法の廃止
    • 19世紀初頭、イギリスにおいて南アメリカ市場への輸出熱が沸く。
      • 1808年、投機ブーム
      • 法人格なき株式会社が増産。
      • 南海バブルの再来。
      • バブル会社禁止法によって訴訟が起こるも、法廷の判断はバラバラ。
        → バブル会社禁止法の存在意義が議論される。
    • 1824~25年の好景気による投機ブーム
      • バブル会社の増産
      • 株式会社の規制に関して議論される。
    • バブル会社禁止法の廃止

9. 株式会社

株式会社の変遷

1553年 ロシア会社の設立
広義での「最初の株式会社」
1600年 ロンドン東インド会社の設立
勅使会社
1602年 オランダ東インド会社の設立
勅許会社
1613年 第一次合本の成立
株式会社という形体(合本会社)が成立
出資者の有限責任はない
当座企業的な性格が残存
株主総会は閉鎖的
1657年 オフィヴァー・クロムウェルの清教徒権による特許
出資を一般開放
民主的な株主総会
完全な継続性の成立
配当システムの完成へとつながる
1662年 破産者法の成立
全出資者の有限責任が許容された
1668年 イギリス東インド会社の設立
名誉革命で力を得た反対派が設立
1709年 合同イギリス東インド会社の設立
ロンドン東インド会社とイギリス東インド会社の併合
東インド会社における株式会社の進化は、利益の計算方法の進化を促す。
継続性は期間計算へつながり、18世紀には東インド会社は年次期間計算を導入。

南海バブルの変遷
17世紀、「株式会社」はさまざま業種に普及。

1711年 南海会社の設立

  • 南海 = 南アメリカ沿岸
  • 南海バブルの発生
  • 公債の債権者には、債権額に応じた株式が与えられた。
1720年

南海会社の公債整理計画案を議会が承認

  • 株式の時価で、公債と株式を転換
  • 南海株式会社が株式の吊上げを画策 → 投機ブームが最高潮
  • 法人格なき「バブル会社」が増加

バブル会社禁止法

  • 公的な損害や不都合をもたらす事業の禁止
  • 法的な認可(法人格)がない会社は、法人としてのふるまい、譲渡可能な株式の募集、株式譲渡を禁止
  • 法人の設立に「特許主義」を採用
1720年 南海会社が他社を規制するために告知を裁判所に請求

  • 株価全体が暴落で大恐慌
  • 南海バブルの崩壊
  • 南海バブルの崩壊による大恐慌は、株式会社に対する不信感を生む。

8. 株式会社制度

近代会計の成立環境

  • 機能面から見た近代会計の成立環境
    • 株式会社という近代的な委託・受託の関係の生成
  • 構造面から見た近代会計の成立環境
    • 期間計算が発生主義をもって行われるようになって成立
    • 発生主義は、産業革命の交通革命をもって完成
    • [構造面]          [機能面]
      産業革命 → 大資本の調達 → 株式会社の一般化

株式会社制度の形成

  • 企業形体の近代化プロセス = 株式会社の形成プロセス
    • 株主(委託)と経営者(受託)との関係をもって成り立つ
  • 中世の教会の権威が低下するにつれて、商人ギルドの拡大がもたらされるが、それにつれて、新しい形態の組合的な企業が、ギルドに取って代わりはじめる。
    • 商業資本主義の成長
    • 株式会社形成の基礎をなした。
  • 新しい組合的な企業の登場
    • 規制組合(regulated company) → 規則があるだけで合資という考えはない
    • 合本会社(joint-stock-company) → 広義の「株式会社」

7. 期間計算の普及

口別計算から期間計算へ

  • 口別計算 = ひとつの事業プロジェクト(ひと仕事)における利益の計算
  • 当座企業の場合 → 口別計算ですべての利益がわかる
    継続企業の場合 → 口別計算ですべての利益がわからない → 期間計算が必要
  • 1543年、ジャン・イムピン著「新しい手引き」
    • 未販売商品(売れ残り商品)を独立の項目で取り扱う → 期間計算の存在
    • 期間損益計算の芽生えを示すものが見られる。

期間計算の普及

  • 14、15世紀、ヴィエネチアの個人企業、同族企業は、すべての利益を把握する必要はなく、口別計算で事足りていた。
  • 14、15世紀、イタリアのフィレンツェでは、他人同士からなる組合的な企業において、メンバーに利益を厳密に分配する必要が生じた。
    • 期間に区切ってすべての利益を把握する期間計算が採用された。
    • まだ非定期的な期間計算であった。
  • 大規模化 → 他人資本を集める必要性 → 口別計算から期間計算へ
  • 16世紀、アルトウェルペン
    • 年数回、定期市が開かれ、あるときから取引の清算がその時期に行われるようになった。
    • 定期的な期間計算、年次期間計算の存在
  • 17世紀、アムステルダム
    • ポルトガルの支配下だった東インド貿易を、オランダが軍事力で征し、ヨーロッパへの香辛料供給を独占
    • 1602年、オランダ東インド会社の設立 → 株式会社の起源
  • 株式会社における株式の自由譲渡性
    • 株式を譲渡(売却)することで、出資者は元手を回収することができる
    • 年次期間計算の一般化

6. 継続企業と期間計算

継続企業への移行

  • 当座企業 = その場かぎりの企業(1回こっきりの企業)
    • 典型例は、中世イタリア商人による地中海貿易
    • 1回の貿易航海が終わったらそれで終わり、という当座企業として行なわれた
    • 航海ごとに利益が計算(清算)された。
    • 企業という存在が終わるのを待って清算することができた。
    • 当座企業は事業活動が非効率的であったため、やがて継続企業への移行が見られた。
    • 継続企業 = 継続的に事業を行うことによって効率的に利益を得るための継続的な組織
  • 企業の継続化、大規模化 → より効率的に利益を得ることができる企業形体への進化
  • 継続化、大規模化に最も適したものとして考案された企業形体が「株式会社」
    • 株式は、企業の大規模化を容易にした。
    • 株式の自由譲渡性は、企業の継続かを容易にした。

期間計算

  • 企業の目的が利益である以上、利益の計算は不可欠である。
  • 会計期間の公準 = 企業の経営活動を期間で区切って会計を行うこと
  • 継続企業の誕生 → 期間会計による会計の近代化
  • 期間計算 = 継続企業を前提として利益の計算を行なう場合に用いられる方法
    • 期間を定めて、その区切られた期間について利益を計算
    • 一定期間という形をとった場合 = 定期的な期間計算
    • 1年間という形をとった場合 = 年次期間計算
  • 期間計算は先駆的には中世のフィレンツェに原初的な形態のもの(非定期的なもの)が見られた。
  • その一般化、さらにまた、定期的な期間計算の成立は16世紀以降のネーデルラントに見られた。

利益の計算方法の歴史的な変遷

  1. 口別計算(非期間計算)
  2. 非定期的な期間計算
  3. 定期的な期間計算
  4. 年次期間計算

5. 期間計算

会計の発展プロセス:イタリアからネーデルランドへの移転

  • 14~15世紀 中世イタリア
    • 商業、芸術の黄金期 = イタリアン・ルネッサンス、商業革命
    • 複式簿記
  • 16~17世紀 ネーデルランド(アントウェルペン、アムステルダム)
    • 期間計算
  • 16世紀のアントウェルペン
    • ルネッサンス芸術の都、出版文化の繁栄
    • 世界最大の金融市場
    • イギリス商人の離反とスペイン軍の占領で衰退
  • 17世紀のアムステルダム
    • アントウェルペンの住人が亡命して移住
    • 18世紀のロンドンに取って代われるまで繁栄は続く。
    • 1543年 ジャン・イムピン著 「新しい手引き」
  • オランダ語の簿記書 → 多言語で翻訳 → ヨーロッパ全土へ普及
    • 期間計算の存在が看取される。

継続化と大規模化

  • 企業の継続化 → 遍歴的な商業から定着的な商業への移行
    • 遍歴的な商業 = 或る地域の産物を他の地域に運んで販売し、その代金で新しい商品を持ち帰って販売
    • 16~17世紀、通信の発展により、代理店との商業通信によって取引を行う定着的な商業へと移行。
  • 企業の大規模化 → 断続性(非継続性)はより一層の非効率性を生む
    • 大規模化が進むと、継続性が必然となる。
    • 継続化と大規模化は重なり合う。

期間計算の成立

  • 期間計算の生成プロセスは、企業形態の近代化プロセスと重ね合わせて見なければならない。
  • 企業の目的は「利益を得ること」とするならば、企業形態の近代化プロセスは、「より効率的に利益を得ることのできる企業形態へのプロセス」として見ることができる。
    • 株式会社という企業形体の形成プロセスとしてみることができる。
    • そうした企業形態の近代化の要となるのが、「当座企業から継続企業への移行」

ゴーイング・コンサーンの公準と会計期間

  • 会計公準 = 会計という行為が行われる基本的な前提
    • ゴーイング・コンサーン(継続企業)の公準
    • 会計公準のひとつ(別名、会計期間の公準)
    • 企業は継続的な存在である → 終わりというものが予定されていない企業
  • 今日の会計は、企業の経営活動を一定期間ごとに区切って行われている。
    • 会計期間 = 会計年度 = 事業年度
    • 通常は1年間

4. 複式簿記の普及

複式簿記の特徴

  • 主な特徴
    • 複式簿記の卓越性
    • 財産の管理
    • 資本と利益に関する記録
  • 勘定=簿記において資産などの増減などを記すための細分された単位
  • 勘定は、「実在勘定」と「名目勘定」とに大別され、さらに「実在勘定」は「人名勘定」と「物財勘定」とに分けられる。
  • 勘定 実在勘定 人名勘定(例:貸付金勘定)
    物財勘定(例:現金勘定、土地勘定)
    名目勘定(例:受取利息勘定、賃金勘定)
  • 人名勘定 → 物財勘定 → 名目勘定、の順に生成した、とされている。
    • 人名勘定 = 債権、債務の勘定 = 債権の備忘記録
    • 名目勘定 = 収益、費用の勘定 = 資産などの増減の原因を示すもの
  • 複式記入は「名目勘定の生成」をもって成立。
  • 名目勘定の生成によってすべての取引を2面的に把握しうるようになった。

勘定の分類

実在勘定 名目勘定
資産、負債、資本 収益、費用
貸借対照表の項目 損益計算書の項目
結果を示す 原因を示す
ストック フロー

経済発展と複式簿記の普及

  • 「経済発展 → 複式簿記の普及」という捉え方
    • 「商業革命」とも呼ばれる中世イタリアの経済発展が、複式簿記の普及へとつながった。
    • 事業規模の拡大や事業形体の複雑化は、「体系的な財産の記録」という必要性をもたらした。
    • 経済発展でリードしていたイタリアでその「記録システム」が編み出された。
  • 「複式簿記の普及 → 経済発展へ」という捉え方
    • マックス・ウェーバー、ヨーゼフ・アロイ・シュンペイター、ヴィルナー・ゾムバルトなど
      「複式簿記によってもたらされる資本と利益との峻別、これをもって経済発展の重要な要素とする」

3. 複式簿記

複式簿記とは

  • 複式簿記=複式記入による簿記
  • 複式記入=取引を二面的に把握した形でもって(帳簿に)記入する
  • 会計学でいう「取引」とは、資産などの増減をもたらす二面性を持った事象
  • 取引というものをふたつの事象に分解して記入するものが複式記入
  • 資本と利益とを対象として体系的に行わる記録、ないしはそのシステム
  • 取引の持つ二面性ゆえの複式記入を不可欠の要素とする資本と利益のとの記録システム

複式簿記の成立

  • 複式記入の成立は「勘定の生成」という面から捉える。
  • 複式簿記が成立したのは中世イタリア(ルネッサンス時代)。
    • 古代ローマ説もあるが裏付けに欠ける。
    • トスカーナ説、ジェノヴァ説、ロンバルディア説、ヴェネツィア説、同時期説(諸地域説)がある。
  • パチョーロ(ルカ・パチョーリ)という中世イタリアの数学者が上木した「スムマ」
    • 複式簿記について説いている。
    • 財産目録の作成、日記帳および元帳における処理、諸勘定の記帳、帳簿の締め切り
    • 世界最初の複式簿記書
    • 俗語(イタリア語)によって印刷された最初の数学書 → 広く読まれた
  • パチョーロの貢献は、当時の簿記の実践、そこにおける複式簿記法を包括的に解き、複式簿記を伝播したこと。

2. 会計の歴史

会計の歴史

  • 会計の記録は、古くはローマ時代にさかのぼる。
  • 近代会計の原点は、「すべての企業活動を貨幣単位に換算」し、「企業が継続する前 提で期間損益を計算」することにある。
  • ありとあらゆる「比較」を行えることが、会計最大の武器であり、機能である。
  • 会計基準の継続性や公正性、リアルタイム性がより強く求められる。
  • 会計の基本機能 = 数字に意味を与え、意味を解釈し、経営や政策の意思決定を支える。
  • 会計は経済、企業形態とともに発展する。
  • 歴史が未来を投影するための基礎工事であるとすれば、今改めて会計の歴史を振り返り、その機能の本質に迫ることは、 近未来の会計展望に不可欠の課題である。

会計史の見方

  • 会計には「機能」と「構造」という二つの面があり、その歴史もそれらに沿って二通りの見方が存在する。
    • 機能 → 会計という行為の役割や目的などに注目
    • 構造 → 会計の仕組み、具体的には例えば簿記の仕組みや利益計算の仕組みなどに注目
  • 会計史=近代会計の成立プロセス
  • 近代会計にも、「機能の面から見た近代会計」と「構造の面から見た近代会計」がある。
    • 会計の機能の面から見た近代会計の成立=近代会計制度の成立
    • 会計の構造の面から見た近代会計の成立=発生主義にもとづく期間計算の成立

会計の近代化プロセス

  • 近代会計制度
    • 近代会計制度は、会計士による監査、という制度の成立をもって完成する。
    • 「財産の管理に関する委託、受託の関係において、受託者は会計(説明)し、監査を受け、監査人は会計士をあてる」という約束が社会的な定着性を持ったもの。
  • 会計の近代化プロセス
    1. 14~15世紀イタリアには複式簿記の成立
    2. 16~17世紀ネーデルラントには期間計算の成立
    3. 18~19世紀イギリスには発生主義の成立
  • 上記ルートには構造の面から見た会計史上の重要なトピックを見ることができる。
  • 会計の近代化ルート=資本主義経済の発展ルート
  • 資本主義経済の発展プロセスの中に会計の近代化プロセスを見ることができる。
  • 経済発展によってもたらされる新しい状況が、新しい会計を必要とした。
  • 近代会計は、機能、構造の両面において19世紀のイギリスの成立する(イギリス=近代会計制度の祖国)。