高校レベルの経済

50. 日銀の金融政策

日本銀行政策委員会

  • 日銀の役割 = 物価を調整すること
  • 日銀の金利政策に関わる最高意思決定機関
  • 「公開市場操作」「預金(支払)準備率操作」などの金融政策方針を決定する
  • 通貨や金融を調節するための業務執行方針を決定する

公開市場操作

  • 日銀が市中銀行と国債などを売り買いすることによって、通貨供給量を増減させること
    • ① 売りオペレーション(売りオペ)
      • 日銀が手持ちの国債を市中銀行に売る
         ↓
        民間のお金が日銀に入る
         ↓
        市中の通貨供給量が減少
    • ② 買いオペレーション(買いオペ)
      • 日銀が市中銀行の保有する国債を買う
         ↓
        日銀のお金が民間に行き渡る
         ↓
        市中の通貨供給量が増加
    • 通貨供給量
      • かつては「マネーサプライ」と呼んでいた
      • 2008年、日銀の統計が見直されて「マネーストック」へと変更
  • 日銀は「公開市場操作」を中心とした金融政策によって、インフレーションを防いで通貨の価値を安定させたり、景気変動を調整している
    • 日銀は2006年に、それまでの「公定歩合操作」を金融調節の手段としては用いない、「公定歩合」という名称を使用しない方針を明らかにした
    • 公定歩合
      • 日銀が民間の金融機関に対して貸し出しを行う際に適用される基準金利
      • 公定歩合の変更は、民間の銀行からの貸出金利やコールレートに影響を与える
      • 景気の過熱 → 公定歩合の引き上げ → 企業の金利負担が増大、資金需要が減退
      • 景気の低迷 → 公定歩合の引き下げ → 資金需要の活発化、景気の押し上げ

預金準備率操作(支払準備率操作)

  • 銀行が日銀に預けることを義務づけられている預金の割合を上下させることによって、通貨供給量を増減させること
    1. 預金準備率を上げる
      • 市中銀行が信用創造できる額が減少 →?貨供給量が減少
    2. 預金準備率を下げる
      • 市中銀行が信用創造できる額が増加 → 通貨供給量が増加
    3. 信用創造
      • 銀行が貸し出しを繰り返すことによって、銀行全体として、最初に受け入れた預金額の何倍もの預金通貨を作り出すこと
      • 最初に受け入れた預金額より増えた部分を「信用貨幣」という
      • 創造される「信用貨幣」の量は準備預金制度(預金準備率)に依存する
      • 銀行が貨幣経済において果たしている重要な機能の1つ
  • 1991年(平成3)10月の準備率の引下げを最後に、現在までその変更は行われていない

金利政策

  • 金利政策とは
    • 金融機関はお互いに、資金を貸し借りしている
    • 無担保で借りた翌日に返済する場合に付く金利を「無担保翌日物金利」という
    • 翌日物金利が上がれば、長い期間の貸し借りの金利(長期金利)もつられて上がる
    • 金利政策=「翌日物金利」をコントロールすること
  • 金利政策の目的
    • 金利の上け下げによって経済を安定させる
    • ① 翌日物金利を下げる
      • 翌日物金利が下がり、長期金利も下がる
         ↓
        企業や個人がお金を借りやすくなる
         ↓
        景気を刺激する
    • ② 翌日物金利を上げる
      • 翌日物金利が上がり、長期金利も上がる
         ↓
        企業や個人が借金には慎重になる
         ↓
        景気の過熱を冷ます
  • 金利を上げ、下げする方法
    • 公開市場操作(オペレーション)によって通貨供給量を調整して、金利に影響を与える
    • 金融機関を相手に国債などを売買して、市中の通貨供給量を増減させる
      • 通貨供給量が減少(お金が希少になる)
         ↓
        金融機関のお金に対する需要が高くなる
         ↓
        市中銀行の金利が上がる
      • 通貨供給量が増加(お金が希少でなくなる)
         ↓
        金融機関のお金に対する需要が低くなる
         ↓
        市中銀行の金利が下がる

49. 日本銀行

日本銀行(日銀)

  • 日本の金融制度の中心となっている中央銀行
  • 日銀の主な役割
    • 日本国唯一の「発券銀行」として、日本銀行券を発行する
    • 「銀行の銀行」として、民間の金融機関に貸出をしたり、預金の受入れをする
    • 「政府の銀行」として、税金などの国庫金の管理や、国債の発行・償還にかかわる事務をする
    • 完全雇用や経済成長を実現するために、通貨発行量をコントロールする
    • 経済の国際化にともない、外貨や円の受払い、通貨価値を安定させるための外国為替相場への介入を行う
日本銀行

日本銀行券

  • 一般に「紙幣」と呼ばれ、金と交換できない「不換紙幣」となっている

48. 金融制度の変遷

金本位制度

  • 中央銀行は、保有する金の量に応じて、金と交換できる銀行券(免換銀行券)を発行する
  • 1929年の大恐慌(世界恐慌)以前、世界各国の通貨制度は金本位制度であった

金本位制度と景気の関係

  • 好況で国内需要が増える
      ↓
    輸入が増える
      ↓
    保有する「金」が支払いに充てられ、海外に流失する
      ↓
    通貨の発行量が減少
      ↓
    景気の過熱が抑えられる
  • 不況で国内需要が減る
      ↓
    輸出が増える
      ↓
    海外から「金」が流入する
      ↓
    通貨発行量が増加し、景気が回復していく

金本位制度から管理通貨制度への移行

  • 1929年の大恐慌以後、世界各国は金の保有量にしばられない政策を展開するために、金本位制度から離脱した
  • 景気や物価の変動を金融政策などによって調節するため、 世界各国は管理通貨制度を採用するようになった

管理通貨制度

  • 中央銀行は、金と交換できない銀行券(不換銀行券)を発行する
  • 中央銀行は、金の保有量に関係なく、景気や物価の変動を調節し、外国為替を安定させるために通貨の発行量を決めることができる

クリーピング・インフレーション(忍び寄るインフレ)

  • 好況・不況に関係なく、物価水準が徐々に、かつ持続的に上昇する状態
  • 完全雇用や経済成長を実現するために、中央銀行が通貨発行量を増加していくと、物価水準が徐々に上がり、インフレに陥ることがある
  • 中央銀行はインフレにならないよう、「インフレターゲット」や「物価水準目標」という目標値を設定して金融政策を行う

47. 金融業の動向

戦後から1960年代までの金融業

  • 銀行が倒産すると預金者の不安が広がり、金融システムそのものが機能しなくなる恐れがある
      ↓
    旧大蔵省は、経営の弱い銀行が困らないよう金利規制をするなどして保護した
      ↓
    「護送船団方式」による横並びの保護的な規制(最も経営が弱い銀行に合わせた規制)が加えられていた

1970年代からの金融業

  • 経済の国際化に伴い、金利が自由化された(規制が緩和された)
      ↓
    銀行は、子会社を作って証券業務を行うことができるようになった
    証券会社は、子会社を作って銀行業務を行うことができるようになった
    外国の金融機関が日本へ進出するようになった
      ↓
    2001年、金融機関の検査・監督などを行う「金融庁」が設置された

金融ビッグバン

  • 日本で1996年から2001年度にかけて行われた、大規模な金融制度改革
      ↓
    2001年まで、金融機関の「護送船団方式」を崩壊させるような改革が進行した
      ↓
    2002年以降には、銀行業・保険業・証券の各代理業解禁など規制緩和が進行した

バブル景気以降の金融業

  • バブル経済の崩壊(1986~1991年)や金融の自由化に伴う金融機関の競争が激化する中で、不良債権問題、金融機関の倒産が発生した
      ↓
    金融機関の合併などによる金融システムの再編と安定化が進められた
    みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行への統合の動き
      ↓
    さまざまな金融商品が販売されるようになった
    外貨預金、金投資、投資信託、FX、NISAなど
      ↓
    高い利益を求めて、リスクを伴う金融商品を購入する消費者が増えている

世界金融危機

  • 2000年頃から、アメリカで不動産価格が上昇
      ↓
    金融機関は、信用度の低い個人に対する不動産担保の貸付(サブプライム・ローン)を行っていた
      ↓
    サブプライム・ローンを組み合わせて「証券」とし、市場で売却する業務が拡大していった(貸付債権の証券化)
      ↓
    大手投資銀行は、銀行から多額の資金を借りて、この証券を大量に取り扱うようになった
      ↓

    不動産価格の下落によりバブルが崩壊
      ↓
    サブプライム・ローンを組み込んだ金融商品が不良債権化した
      ↓
    証券化が入り組んでいたため、証券のリスクが測れず対応が困難となった
      ↓
    2008年秋、大手投資銀行の破綻(リーマン・ショック)
      ↓
    信用に対する不安が拡大して金融取引がストップ
      ↓
    金融のグローパル化が進んでいたことから、金融危機が世界全体に広がった

金融危機への対処

  • 金融サミット(主要20カ国・地域首脳会議)が開催された
      ↓
    各国の通貨当局(財務省や中央銀行)はお互いに連携しながら、市場に大量の資金を供給した
      ↓
    金融不安は沈静化
      ↓
    金融危機が実体経済に波及して不況となった

46. ノンバンク

ノンバンクの活動

  • 預金業務は行わず、資金の貸出業務のみを行う

ノンバンクの種類

  • 企業向けのリース会社、商工ローン
    • リース会社:企業が選んだ物件を、リース会社が企業に代わって購入して長期で貸し出し、そのリース期間中に購入代金、金利、諸税、保険料などを企業が支払う
    • 商工ローン:法人向けの金融商品で、企業はビジネスローンを組むことができる
  • 消費者金融(サラ金)、クレジット会社、質屋
    • お金を借りるための審査が簡単で、手軽にお金を借りられる
    • 金銭感覚を失って、多重債務や自己破産となる消費者がいる

消費者金融における問題

  • 多重債務
    • 1つの借金を返済をするために、他の金融機関からさらに借金をして、複数の金融機関から返済能力を超えた借金をしてしまうこと
  • 自己破産
    • 返済不能な借金を抱えた債務者が、自分で裁判所に破産を申し立てて、破産宣告を受けること

消費者金融に対する規制

  • 貸金業法(サラ金規制法)
    • 主に高利で営業を行うヤミ金を取り締まることを目的とした法律
  • 出資法(利息制限法)
    • 金銭貸借上の利息の最高利率を規制した法律

不良債権問題

  • バブル経済期
    銀行などからノンバンクを通じて不動産融資が行われた
      ↓
    バブル経済崩壊後
    それらの融資が回収されずに不良債権化した
      ↓
    不良債権問題となった

45. 証券会社・保険会社

証券会社の活動

  • 企業の株式発行を取り扱う
  • 株式の売買を仲介して手数料を得ている

保険会社の活動

  • 生命保険や損害保険などの加入者から掛金(保険料)を受け取る
  • 死亡、火災、自動車事故などが発生したときに保険金を支払う
  • 掛金の受け取りと保険金支払いまでの間に、顧客から積み立てられた準備金を使って利益を得る
    • 企業に融資して利子を得る
    • 不動産、国債、株式などに投資して利益を得る

44. 銀行

銀行の活動

  • 預金業務(受信業務)
    • 家計・企業から資金を預かる(頂金)
  • 貸出業務(与信業務)
    • 資金を企業などに融資する
  • 家計・企業に支払う「預金利子」より高い「貸出利子」を企業などから得る

預金の種類

  • 当座預金
    • 企業が決済用に利用する
    • 預金の支払いは「小切手」や「手形」を通じて行う
  • 普通預金
    • 自由に預金・払戻しができる
    • 家計の給料・年金などの受け取り、公共料金の支払い、クレジットカードの利用代金の支払い、ローンの返済などに利用される
  • 定期預金
    • 預金してから一定期間は引き出せない
    • 原則として満期日まで引出しができないが、その代わりに普通預金と比べると金利は高くなっている

貸出の種類

  • 手形割引
    • 手形割引支払期日前の手形を、支払期日までの利子を差し引いて買い取る形で、資金を貸し付ける
  • 手形貸付・証書貸付
    • 企業の設備投資や家計の住宅ローンなどの長期にわたる資金を、約束手形や借用証書により貸し付ける

銀行の信用創造

  • 銀行は預金のうち、支払準備金(銀行が預金の払戻しに備えて保有する資金)以外を貸出に回す
      ↓
    企業は、貸し出された資金を当座預金として、いったん銀行に預けて利用することが多い
      ↓
    銀行は、企業の当座預金をもとに、他の企業に新たな貸出を行う
      ↓
    融資を受けた企業は、当座預金に資金を預ける
      ↓
    これらを繰り返す
      ↓
    銀行は最初に受け入れた預金(本源的預金)の何倍もの預金を生み出す(信用創造)

43. 金融機関

金融機関とは

  • 金融を仲介する機関
  • 金融取引に関する業務を営む組織
  • 狭義には預貯金取扱金融機関のみを指すが、広義には保険会社、証券会社、ノンバンクも含む

金融機関の種類

  • 銀行
    • 日本銀行
      • 日本銀行法に基づく財務省所管の認可法人
      • 日本国の中央銀行
    • 市中銀行(民間銀行)
      • 都市銀行:全国的に営業を展開している
      • 地方銀行:一定地域を中心に営業を展開している
  • 政府系金融機関
    • 日本政策投資銀行
    • 国民生活金融公庫
  • 証券会社
  • 保険会社
金融機関

42. 金融の働き

金融

  • 経済活動に必要な資金を必要なところに融通し合うこと

間接金融

  • 借り手が必要な資金を銀行などの金融機関を通して借り入れる方式

間接金融の発展

  • 資本主義経済では、企業は株式や社債の発行(直接金融)、金融機関からの借入(間接金融)などによって、広く資金を調達する必要がある
  • 高度経済成長期、企業の設備投資資金は主に間接金融で調達された
      ↓
    銀行を中心とした企業グループが形成された
      ↓
    銀行や証券会社といった金融機関の役割が重要になった
      ↓
    バブル崩壊後、企業が株式や社債を発行して、銀行を通さずに直接資金を調達する直接金融が多くなった

41. 貨幣の働き

貨幣=経済活動の血液

  • 資本主義経済では、モノやサービスを買った人はその対価として代金を貨幣で支払わなければならない
  • 労働者は労働を提供した対価として、賃金を貨幣で受け取っている
  • 経済活動において貨幣が流動している

経済と貨幣の関係

  • 経済成長、景気変動、物価などの経済活動の大きさや動きは、世の中に出回っている貨幣の量(通貨供給量)の大きさとその回転の速さに大きな影響を受けている
  • 例)通貨供給量が多いとき
    • 消費者の手元に貨幣が回りやすくなる
    • 消費者の購買意欲が増す
    • 企業は資金を借りやすくなり、設備投資が増加する
    • 需要が増加して物価が上昇する

通貨供給量=マネーサプライ

  • 金融機関以外の個人や企業などが保有する現金や預金などの流動性が高い通貨量
    1. Ml:現金通貨と要求払い預金(当座預金や普通預金)
    2. M2:Mlに定期預金を加えたもの
    3. 通貨供給量:M2に譲渡性預金(CD)を加えたもの

貨幣の機能

  • 商品の価値をはかる価値尺度
  • 同じ価値を持つ商品との交換手段
  • 売買などで生じる債務の支払手段
  • 価値を保存しておく価値貯蔵手段

現金通貨と預金通貨

  • 現金通貨
    • 日本銀行が発行している紙幣(日本銀行券)
    • 独立行政法人造幣局が発行している硬貨(補助貨幣)
  • 預金通貨
    • 支払手段の機能を持つ普通預金や当座預金などの銀行預金
    • 預金通貨は現金通貨の3倍以上の大きさになっている
      • 例)銀行やゆうちょ銀行の普通預金を利用して振込で支払いをする
      • 例)当座預金を利用して小切手や手形を使用して決済する