大学レベルの会計

81. 運転資金計算書

運転資本

  • 流動資産から流動負債を差し引いたもの(広義の意味)
    • 通常、流動資産は流動負債よりも多い
      → 運転資本 = 流動資産によって流動負債が支払われた残り
  • おおよそ1年以内に現金化される資産の余剰を意味している
    • 流動資産、流動負債には、正常営業循環基準、1年基準が適用される
    • 流動資産
      • 購入、販売、販売代金の回収という営業循環にある資産
      • 1年以内に換金される資産
    • 流動負債
      • 仕入債務、営業活動にかかわる金銭債務など、営業循環において支払いがなされる負債
      • 1年以内に支払い期日が到来する負債
    • 運転資本 = 1年以内に支払いにあてることができる
      → 支払能力の余裕を意味している

流動比率

  • 財務諸表の数値を用いた比率分析において、企業の安全性を測るもの
  • 運転資本を、支払能力の判断基準にした比率

運転資金計算書(運転資本運用表)

  • 運転資本を資金の範囲とする資金計算書
  • 流動資産、流動負債以外の固定資産、固定負債、資本の変動が運転資本の変動にどのような影響を与えたのかを示す計算書
    • 貸借対照表の貸方の総額に変化がない場合
      • 固定資産の減少 → 運転資本の増加
      • 固定資産の増加 → 運転資本の減少
    • 固定資産の額に変化がない場合
      • 固定負債や資本の増加 → 運転資本の増加
      • 固定負債や資本の減少 → 運転資本の減少
  • 運転資金計算書だけでは、運転資本の構成要素の変動を知ることはできない
    • 運転資金明細書がなければわからない
  • 運転資本の構成要素は、経営活動の自然な資金の回転によって生み出され、運転資本はその余剰である
    • 購入によって生じた買掛金
      → 販売によって生じた売掛金の回収によって得た現金によって支払われる
    • 買掛金の支払いのために調達した短期借入金
      → いずれは売掛金の回収によって得た現金によって支払われる

運転資金計算書まとめ

  • 固定資産、固定負債、資本の変動が運転資本の変動にどのような影響を与えたのかを示すもの
  • 企業の財務安全性に関する示峻を得ることができる
    • 運転資本の増加が、安全な資金調達によるものとなっているか?
      • 安全な資金調達 = 1年超の将来に返済期日を迎えるもの
    • 固定資産の購入が、危険な運転資本によるものとなっていないか?
      • 危険な運転資金 = 1年以内の返済にあてるべき流動資産で構成されたもの

運転資金計算書の例

例1. 運転資金計算書 (間接法)
税引前利益 (経常利益) 55
減価償却費 80
税金の支払い △22
営業活動による運転資金の増減 113
建物の増加 △500
投資活動による運転資金の増減 △500
借入金の返済 △100
増資 500
財産活動による運転資金の増減 400
運転資金の増減 13
期首運転資金 480
期末運転資金 493
例2. 運転資金明細書 (間接法)
X1年度 X2年度 増減
現金 100 93 △7
売掛金 200 250 50
商品 300 200 △100
有価証券 30 50 20
買掛金 (150) (100) 50
合計 480 493 13

80. 支払能力の評価

企業の支払能力

  • 企業が期日に負債などの支払いを行えなえるかどうか
  • 返済期日までに、返済に必要な現金を調達することができるか
    • 借入能力
    • 所有する資産の処分価値
    • 原価節減能力
    • 配当引き下げの弾力性
    • 増資によって資金を訓達する能力
  • かつては、運転資本で評価していた
    • キャッシュフロー計算書が制度化される前には、運転資本を資金の範囲とする計算書が利用されていた

キャッシュフロー計算書

  • 過去における現金(および現金同等物)の変動を示す
  • 企業がどのようにして現金を調達し、何に使ったかを示す
  • 将来における支払い能力は示さない
  • 支払い能力を評価するための材料として、過去のキャッシュフローの状況を知ることが利用目的となる

79. 資金計算書の役割

企業の収益力

  • 利益の多寡、または利益獲得の効率性として評価される
  • 企業の利害関係者は、企業の収益力に最も関心をよせる
    • 高い収益力は、株主に多くの配当を支払うことを可能にする
    • 経営者にとっては、経営規模の拡大や安定した経営を可能にする
  • 収益力は企業の長期的な支払い能力にも寄与する

企業の支払能力

  • 収益力と同様、利害関係者にとって重要な関心事である
  • 利益があっても、短期的に安定した経営が行えるとは限らない
  • 借入金や買掛金などの負債を期日に返済できなければ、企業は存続することができない
  • 企業は経営において生ずる支払いを、期日に滞りなく行えてこそ、安定した経営ができる

資金計算書

  • 損益計算書と貸借対照表だけでは分からない部分を明らかにするために作成された分析表
  • 利益以外の貸借対照表項目の変化を明らかにするために作成された計算書
    • 利益の変動要因は、損益計算書によって分かるが、利益以外の貸借対照表項目を変化させた要因は、損益計算書と貸借対照表だけでは分からない

資金計算書の役割

  • 貸借対照表
    • 企業の財政状態を示す財務表
    • 企業の支払い状況について、期末時点における結果は知ることができるが、フローの状況は知ることができない
  • 財政状態変動表
    • 貸借対照表の期間変動をまとめた計算書
  • 資金計算書
    • 財政状態変動表をもとに、資金がどのように集められ、どのように使われたかが明らかになるように作成された計算書
    • 「フローの状況を知るための計算書」という役割が求められる

78. 資金計算書

キャッシュフロー計算書

  • 企業の1期間における現金の動きをまとめたもの
    • 現金および現企同等物 = 資金
    • 現金同等物
      • 定期預金や公社債投資信託など、取得日から満期日、または償還日までの期間が3か月以内の短期投資
      • 即時に換金が可能
      • 資金計算書の作成時点と換金時点とにおいて、額に大きな変動がないもの
  • 1期間における資金情報を開示する財務表
  • キャッシュフロー計算書の役割は、現金創出能力、負債返済能力、配当支払い能力、利益の質を評価すること

資金計算書

  • 資金情報を開示する計算書の総称
  • 資金の動きを調達と用途とに分けてまとめたもの
  • 資金の範囲(資金概念)をどのように捉えるかによって、いろいろな資金計算書を作成することができる
  • キャッシュフロー計算書は資金計算書の1つ

77. キャッシュフロー計算書の作成

キャッシュフロー計算書の作成

  • 間接法と直接法の違いは、「営業活動によるキャッシュフロー」の部分のみで、「投資活動によるキャッシュフロー」と「財務活動によるキャッシュフロー」は同じである

間接法

  • 営業活動によるキャッシュフロー
    • 一般的に、「税引前利益」に対して調整を行っていく
    • 一般的に、税金と利息の支払いは、「営業活動によるキャッシュフローの小計」の後に「支出」として記載される
キャッシュフロー計算書 (間接法)
税引前利益 (経常利益) 55
売掛金の増加 △50
商品の減少 100
買掛金の減少 △50
減価償却費 80
支払利息 15
小計 150
利息の支払い △15
税金の支払い △22
営業活動によるキャッシュフロー 113
有価証券の増加 △20
建物の増加 △500
投資活動によるキャッシュフロー △520
借入金の返済 △100
増資 500
財務活動によるキャッシュフロー 400
現金の増減 △7
期首現金 100
期末現金 93

直接法

  • 営業活動によるキャッシュフロー
    • 営業収入は、通常の営業活動による収入である
    • 営業収入の「300」は、売上「350」から売掛金の増加分「50」を差し引いて計算されている
    • 営業活動において現金支出をともなった費用が、営業収入から差し引かれる形で表示されるため、減価償却費は表示されない
  • 営業収入
    • 前期末の売掛金がすべて当期に回収されていれば、「200」の売上収入が当期に計上される
        ↓
      当期の売上「350」がすべて現金によるものであれば、売上収入は「550」となる一方、売掛金は「0」となる
        ↓
      「250」の売掛金がある =「550」から売掛金「250」を差し引いた「300」が当期の売上収入になる
        ↓
      売上収入 = 当期の売上「350」から売掛金の増加分「50」を差し引いた額
  • 仕入支出
    • 前期末の買掛金をすべて当期に支払っていれば、「150」の仕入支出が当期に計上される
        ↓
      当期の仕入 = 売上原価「200」+ 期末商品在り高「200」- 期末商品在り高「300」= 100
        ↓
      当期の仕入「100」がすべて現金によるものであれば、仕入支出は「250」となる一方、買掛金は「0」となる
        ↓
      「100」の売掛金がある =「250」のうちの「100」は支払っていない
        ↓
      当期の仕入支出「250 - 100 = 150」
キャッシュフロー計算書 (直接法)
営業収入 300
商品の仕入支出 △150
小計 150
利益の支払い △15
税金の支払い △22
営業活動によるキャッシュフロー 113
有価証券の増加 △20
建物の増加 △500
投資活動によるキャッシュフロー △520
借入金の返済 △100
増資 500
財務活動によるキャッシュフロー 400
現金の増減 △7
期首現金 100
期末現金 93

76. 貸借対照表と損益計算書

利益と収支のズレ

  • 例1の、現金勘定の差額「△7」と税引後利益は「33」を比較すると、収支と利益には「40」のズレがある
  • このズレは、非資金的損益項目、資産・負債・資本の増減によって調整される
例1. X1年度~X2年度 比較貸借対照表
X1年度末 X2年度末 差額
現金 100 93 △7
売掛金 200 250 50
商品 300 200 △100
有価証券 30 50 20
建物 0 500 500
備品 400 320 △80
資産合計 1,030 1,413
買掛金 150 100 △50
借入金 300 200 △100
資本金 500 1,000 500
未処分利益 80 113 33
負債、資本合計 1,030 1,413
例2. X2年度 損益計算書
売上高 350
売上原価 200
売上総利益 150
減価償却費 80
営業利益 70
支払利息 15
経常利益 (税引前利益) 55
税金 22
税引後利益 33

利益から収支への調整ルールによる集計

  • 例1の比較貸借対照表に示された前期(X1年度)と当期(X2年度)との差額のうち、現金勘定以外の勘定の差額を「利益から収支への調整のルール」によって集計する
    • 「未処分利益の増加 = 税引後利益」である
    • 表2のように、税引後利益(未処分利益の増加)「33」に対して、売掛金の増加「△50」から、資本金の増加「500」までの数値を加減することで、収支への調整ができる
    • 表1の備品の減少「80」は、表2の減価償却費(非資金的損益項目)「80」に相当する
      • 備品の減少は、備品の売却による減少でなく、減価償却によるものである
  • 表1と表2の合計金額は一致する
表1. 比較貸借対照表の現金以外の勘定の増減をまとめた表
売掛金の増加 △50
商品の減少 100
有価証券の増加 △20
建物の増加 △500
備品の減少 80
買掛金の減少 △50
借入金の減少 △100
資本金の増加 500
未処分利益の増加 33
合計 △7
表2. 表1の数値を使って現金の増減(収支)を計算した表
税引後利益 (= 表1. 未処分利益の増加) 33
売掛金の増加 △50
商品の減少 100
有価証券の増加 △20
建物の増加 △500
減価償却費 (= 表1. 備品の減少) 80
買掛金の減少 △50
借入金の減少 △100
資本金の増加 500
現金の増減 (= 表1. 合計) △7

75. キャッシュフロー計算書の作成

キャッシュフロー計算書の作成
キャッシュフロー計算書の作成方法には2つの方法がある

  1. 損益計算書と2期間の貸借対照表(比較貸借対照表)を主に利用して、キャッシュフロー計算書を作成する方法
    • 複式簿記の手続きを経て作成された財務諸表を利用してキャッシュフロー計算書を作成する方法
    • 若干の明細書、利益処分に関する資料も必要
    • 一般的に用いられる
  2. 複式簿記の仕組みにキャッシュフロー計算書を作成するための勘定組織を組み入れ、期末の決算における勘定の集計によってキャッシュフロー計算書を作成する方法

損益計算書と比較貸借対照表によるキャッシュフロー計算書の作成

  • 「損益計算書の利益」を「比較貸借対照表から得られる各勘定の差額」を用いて「収支」を調整する
  • 利益から収支への調整ルール
    現金の滅少(資金の運用) 現金の増加(資金の調達)
    資産の勘定(現金以外) 増加 減少
    負債の勘定減少 減少 増加
    資本の勘定減少増加 減少 増加

企業の資金の流れ

  1. 負債、資本によって現金を調達
  2. その現金を資産の購入に使用
  3. 購入された資産が売却される
  4. 現金が回収される

現金と資産の関係

  • 現金以外の資産が増加
    = 現金を使ってその資産を手に入れた
    = 資産の増加 → 現金の減少
  • 現金以外の資産が減少
    = その資産を手放すことによって現金を手に入れた
    = 資産の減少 → 現金の増加

現金と負債・資本の関係

  • 銀行からの借入(負債)
    • 借入を行う → 現金の増加
    • 借入金の返済 → 現金の減少
  • 株式の発行(資本)
    • 資本の増加 → 現金の増加
    • 負債、資本の増加 → 現金の増加
    • 負債、資本の減少 → 現金の減少

貸方と借方

  • 貸借対照表の貸方は資金の調達状況、借方は資金の運用状況を示す
    • 貸方 = 現金という資金の調達状況
      • 負債や資本は、現金の調達を示す
      • 負債や資本の増加 → 現金の増加
      • 負債や資本の減少 → 現金の減少
    • 借方 = 現金という資金の運用状況
      • 資産は、調達した現金の用途を示す
      • 資産の増加 → 現金の減少
      • 資産の減少 → 現金の増加

74. キャッシュフロー計算書の表示

直接法と間接法

  • キャッシュフロー計算書の表示には、「直接法」と「間接法」という2つの方法がある
  • キャッシュフロー計算書は、直接法と間接法を問わず、3つに区分されている
    1. 営業活動によるキャッシュフロー
    2. 投資活動によるキャッシュフロー
    3. 財務活動によるキャッシュフロー
  • 直接法と間接法の違いは、営業活動によるキャッシュフローの表示のみである
    • 直接法
      • 商品や製品の売上収入から仕入支出、人件費などの営業支出を差し引き、営業活動によるキャッシュフローが計算される
    • 間接法
      • 利益(一般には税引当期純利益)に、営業活動により生ずる資産や負債の増減と、非資金的損益項目を加減することによって、営業活動によるキャッシュフローが表示される

非資金的損益項目

  • キャッシュフロー計算書(間接法)における非資金的損益項目
    • 現金支出をともなわない費用(非資金的費用)、および現金収入をともなわない収益(非資金的収益)のこと
  • 非資金的費用の例
    • 引当金の繰り入れ
    • 費用の未払い分
    • 減価償却費
      • 現金支出をともなわない費用
      • 有形固定資産の購入時に現金支出したが、その全額が購入時に費用として計上はされない
      • 決算において、支出額の一部が減価償却費として計上される
      • 減価償却(費用計上)時には、現金の支出はなされない
  • 非資金的収益の例
    • 引当金の戻し入れ益
    • 収益の未収分
    • 有価証券の評価益
      • 決算時に帳簿価格よりも市場価格の方が高かった場合に計上される収益
      • 評価益の計上にともなって、現金収入は生じない

73. キャッシュフロー計算書

利益

  • 損益計算書と貸借対照表の財務表において計算される
    • 損益計算書
      • 会計期間の利益の増加要因と減少要因とが示され、その期間の利益が計算される
    • 貸借対照表
      • 利益は、資本(純資産)として示される

収支

  • 決算時点の現金の在り高は、貸借対照表に示される
    • 会計期間における現金の入りと出は、損益計算書や貸借対照表には示されない
  • 会計期間の収入(現金の増加)と支出(現金の減少)を知るためには、収支についてまとめられたキャッシュフロー計算書が必要になる

キャッシュフロー計算書
営業活動、投資活動、財務活動の3つの側面から企業の1期間における収支の状況をまとめている

  1. 営業活動(営業活動によるキャッシュフロー)
    • 商品の購入から販売に至るまでの活動
    • 購入、販売に附随する信用取引(掛けや手形による代金のやりとり)や販売、管理に関する活動
  2. 投資活動(投資活動によるキャッシュフロー)
    • 建物、備品などの有形固定資産の購入、売却活動
    • 有価証券の売買や貸し付けに関する活動
  3. 財務活動(財務活動によるキャッシュフロー)
    • 資金調達に関する活動
    • 株式、社債の発行や借り入れ
    • 減資
    • 社債の償還
    • 借人金の返済

72. 利益と収支

利益と収支

  • 企業の目的は「儲けること」、すなわち「利益の獲得」である
  • 「儲け・利益」は、収益から費用を差し引いた残りとして計算される
    • 収益 = 企業が営業活動から得たもの(儲けのプラス要素)
      • 収益が生ずると、現金や売掛金などの資産が増加
      • 収益を得るためには、現金や商品などの資産が減少
    • 費用 = 収益を得るために犠牲となったもの(儲けのマイナス要素)
    • 利益 = 企業の資産の純増加として示されるもの
  • 利益が計上されると、利益の額に等しい額の純資産が増加するが、利益の額に等しい額の現金が増加するわけではない
    • 現金の増加は「収入」、現金の減少は「支出」
    • 収入と支出との差額は「収支」

利益と収支の例

  • 商品を100円で購入し、代金を現金で支払う
      ↓ 100円の現金を支払う
    その商品を120円で掛け売りする
      ↓ 売上120円 - 売上原価100円
    利益は20円になる
      ↓ 掛け売りのため、現金の入りは0円
    収支は△(マイナス)100円となる
  • 利益は「購入時点の価値」と「販売時点の価値」との差額として計算される
    利益 収支
    売上高 120
    売上原価 100
    収支(商品の販売) 0
    支出(商品の購入) 100
    20 △100

利益と収支の違い

  • 利益は、営業活動の成果を示す
  • 収支は、現金の「入り」と「出」との差額として計算され、現金の増加、減少の結果を示す
  • 期間利益計算と発生主義によって規定される近代会計においては、利益と収支とが一致しないことがほとんどである