大学レベルの会計

131. 国際会計基準の国内基準化

日本においては国際会計基準への準拠

  • 1990年代後半から2000年代前半に証券取引法の規制対象の上場会社に適用される会計基準の大幅な改正が行われた。
  • 国際会計基準に準拠する国内基準の改変は俗に「会計ビッグパン」とも呼ばれる。

制度改革の背景

  • 日本企業の国際化や多角化がすすみ、多国籍企業として成長した。
  • 国際的に日本の会計基準の不備が指摘されつづけてきた。
  • 国際的な資金調達需要の増大によって外国人の投資者が増加した。
  • 証券市場がボーダーレス化した。
  • 「会計基準のコンバージェンス(会計基準の統一)」が求められてきた。

会計基準の国際比較

会計基準 項目 日本基準 国際会計基準(IAS/IFRS) 米国基準
金融商品 有価証券の評価分類によリ、時価ないし償却原価法(債券) 分類により、時価ないし償却原価法(債券) 分類により、時価ないし償却原価法(債券) 分類により、時価ないし償却原価法(債券)
貸倒見積高の算定/減損の測定 割引将来キャッシュフロー 割引将来キャッシュフロー 割引将来キャッシュフロー
金融資産の消滅 法的保全の要件あリ(財務構成要素アプローチ) 法的保全の要件なし(主としてリスク・経済価値アプローチ) 法的保全の要件あリ(財務構成要素アプローチ)
デリバティブの評価 時価 時価 時価
ヘッジ会計 ヘッジ会計の要件を満たす場合 ヘッジ会計の要件を満たす場合 ヘッジ会計の要件を満たす場合
企業結合 基本的方法 パーチェス法 パーチェス法 パーチェス法
持分プーリング 法厳格な要件を満たした場合のみ例外的適用 パーチェス法のみ パーチェス法のみ
のれん 厳格に償却及び滅損 非償却、減損のみ 非償却、減損のみ
資産の減損 グルーピング 概ね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位 概ね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位 概ね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位
減損の兆候 評価する 評価する 評価する
認識テスト 割引前将来キャッシュフロー 回収可能頡(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方) 割引前将来キャッシュフロー
測定回収可能額(正味売却可能額と使用価値のいずれか高い方) 回収可能額(正味売却可能額と使用価値のいずれか高い方) 公正価値
減損損失の戻入れ 戻入れなし 戻入れあリ(のれんを除く) 戻入れなし
退職給付 負債の計上 退職給付債務に未認識の過去勤務債務及び数理計算上の差異を加減し、年金資産を控除した額 退職給付債務に未認識の過去勤務債務及び数理計算上の差異を加減し、年金資産を控除した額 退職給付債務に未認識の過去勤務債務及び数理計算上の差異を加減し、年金資産を控除した額
数理計算上の差異 厳格に全領償却対象 回廊超過分を償却 回廊超過分を償却
最小負債の計上 なし

なし

未積立累積給付債務を計上
税効果 基本的方法 資産負債法 資産負債法 資産負債法
繰延税金資産の計上 回収可能性/実現可能性による 回収可能性/実現可能性による 回収可能性/実現可能性による
リース ファイナンスリースの処理 資産または費用 資産 資産
研究開発費 開発費の処理 費用 資産 費用
連結財務諸表 子会社の範囲 支配力基準 支配力基準 持株基準
投資不動産 測定 原価 公正価値ないし原価 一般的に原価

130. 金融商品取引法と会計

金融商品取引法の会計規制の基本理念

  • 証券取引法
    • 1948年に制定
    • 「国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため、有価証券の発行及ひ売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめること」を目的としていた。
    • 基本理念は「投資者の保護」
    • 一般投資者に対して、有価証券の取引において必要な適正な情報が公平かつ適時に提供されるようにすることを主眼としていた。
  • 金融商品取引法
    • 証券取引法が2006年6月に改正・改称されたもの。
    • 適用対象は広く金融商品を含む有例証券全般となった。
    • 基本理念は変わることはなく、主要な目的は投資者保護
    • 投資者の意思決定に必要な情報の提供が重視される。

金融商品取引法会計と企業会計基準

  • 金融商品取引法
    • 「この法律の規定により提出される貸借対照表、損益計算書、その他の財務計算に関する書類は、内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従って内閣府令で定める用語、様式及び作成方法によりこれを作成しなければならない」と規定している。
    • 内閣府令は、財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)のことであり、企業会計基準を範として制定されたものである。
    • 財務諸表等規則に定められない事項については「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする」している。
  • 金融商品取引法会計にとって企業会計基準は、全面的な拠り所になっている。

129. 会社法と会計

商法と証券取引法

  • 商法
    • 2006年5月施行の「会社法」の前身
    • 1899年に制定され、数々の改正を経た。
    • 模範とした1897年のドイツ商法は、決算期末において会社がどれだけの資産・負債を有しているかを重視する財産法的思想のもとに立法されていた。
        ↓
      商法は、期末における純資産額の把握を主たる目的とした。
        ↓
      貸借対照表を重視することになった。
  • 商法会計
    • 債権者保護を目的とする「資本維持の原則」を掲げた。
    • 「株主への配当可能利益の額を把握し、確定すること」を目的としていた。
    • 利害調整機能を重視した。
  • 証券取引法
    • 2006年6月施行の「金融商品取引法」の前身
    • どちらかといえば損益計算書を重視していた。
  • 証券取引法会計
    • 投資家保護の立法趣旨のもと、一定期間における利益計算を中心に理論構成されていた。
    • 「投資者の意思決定に有用な情報を提供すること」が重視された。
    • 一般には「商法会計とは和対立する会計制度」として説明されていた。

会社法会計と金融商品取引法会計

  • 2006年5月に施行された「会社法」と「会社計算規則」で行われる「会社法会計」と、2006年6月に成立した「金融商品取引法」で行われる「金融商品取引法会計」は、相対立する会計制度ではない。
      ↓
    会計情報の利用者志向性が高い国際標準に限りなく近い会計
      ↓
    「意思決定有用性アプローチの会計」とも称される会計
  • 「会社法会計」と「金融商品取引法会計」との両者が行われる「株式会社」では、ほぼ同様の2つの会計制度によって規制されている。
  • 「会社法」は適用されるが、「金融商品収引法」は適用されない中小会社の場合には、会計の利害調整機能は依然として重要である。

会社法会計と企業会計基準

  • 会社法
    • 「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」
  • 会社計算規則
    • 「この省令の用語の解釈、及び規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準、その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない」
  • 企業会計基準
    • 企業会計原則をはじめとする成文化された企業会計において採用されるべき会計処理の方法および手続き
    • 企業会計基準のみならず、日本公認会計士協会が公表した実務指針等も含まれる。
  • 会計慣行
    • 企業会計基準のもとで行われる会計慣行
    • 諸外国における、より精緻(せいち)な企業会計の基準のもとで行われる会計慣行も含まれると解釈しうる。
    • 会社法のもとで行われる会社法会計にあっても、企業会計基準は、よりどころとして機能している。

128. 企業会計基準

企業会計基準

  • 1949年、経済安定本部から公表された「企業会計原則」
  • 1954年、大蔵省企業会計審議会から公表された企業会計原則注解
  • 企業活動の多様化とともに種々の会計基準や意見書等が公表され続けている。

企業会計原則

  • 企業会計原則
    • 1949年7月9日
    • 1954年7月14日
    • 1963年1月15日
    • 1974年8月30日
    • 最終改正1982年4月20日
  • 企業会計原則注解
    • 1954年7月14日
    • 1963年1月15日
    • 1974年8月30日
    • 最終改正1982年4月30日

その他の企業会計基準

  • 連結財務諸表原則
    • 1975年6月24日
    • 最終改正1997年6月6日
  • 連結財務諸表原則注解
    • 1975年6月24日
    • 最終改正1997年6月6日
  • 外貨建取引等会計処理基準
    • 1975年6月26日
    • 最終改正1999年10月22日
  • セグメント情報の開示基準
    • 1988年5月26日
  • リース取引に係る会計基準
    • 1993年6月17日
  • 中間連結財務諸表等の作成基準
    • 1998年3月13日
  • 連結キャッシュフロー計算書等の作成基準
    • 1998年3月13日
  • 研究開発費等に係る会計基準
    • 1998年3月30日
  • 退職給付に係る会計基準
    • 1998年6月16日
    • 最終改正2005年3月16日
  • 税効果会計に係る会計基準
    • 1998年10月30日
  • 金融商品に関する会計基準
    • 1999年1月22日
    • 最終改正2006年8月11日
  • 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
    • 2002年2月21日
    • 2005年12月27日
    • 最終改正2006年8月11日
  • 固定資産の滅損に係る会計基準
    • 2002年8月9日
  • 1株当たり当期純利益に関する会計基準
    • 2002年9月25日
    • 最終改正2006年1月31日
  • 企業結合に係る会計基準
    • 2003年10月31日
  • 役員賞与に関する会計基準
    • 2005年11月29日
  • 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
    • 2005年12月9日
  • 株主資本等変動計算書に関する会計基準
    • 2005年12月27日
  • 事業分離等に関する会計基準
    • 2005年12月27日
  • ストック・オプション等に関する会計基準
    • 2005年12月27日
  • 棚卸資産の評価に関する会計基準
    • 2006年7月5日

127. 日本の会計制度 (2)

日本の会計がややこしくなった理由

  • 会計が複数の法によって規制されていただけでなく、三法は起源や理念、目的が異なり、それぞれが会計に対して異なった要求を持っていた。
    1. 商法
      • 理念・目的は「債権者保護」
      • ドイツの商法に由来する。
      • 更にさかのぼれば、フランスはルイ14世の時代、1673年の商事王令に行き着く。
      • 資本と経営との分離が一般化をみない当時は、法が保護するのは「債権者」のみであった。
      • 大陸法の系統に属する。
    2. 証券取引法
      • 理念・目的は「投資者保護」
      • アメリカよりもたらされた。
      • 英米法の系統に属する。
  • 大陸法と英米法は、法のあり方が根本的に異なる。
    1. フランス、ドイツの法に代表される「大陸法」
      • 詳細、厳密な規定によって、一定レベルの秩序は維持される。
      • 画一的、硬直的であるため、多様性や変化に的確に対応しきれない点に問題がある。
      • ローリスク・ローリターン型の法
      • <商法の考え方>
        債権者保護を旨とする。
          ↓
        債務弁済のための資金が多い方がよい。
          ↓
        資金の流出を意味する配当は少ない方がよい。
          ↓
        配当の源泉となる利益は少ない方がよい。
          ↓
        費用は多い方がよい。
          ↓
        費用を減らす、担保価値を持たない繰延資産は少ない方がよい。
          ↓
        費用を増やす引当金は多い方がよい。
    2. イギリスの法に代表される「英米法」
      • 厳密な規定は持つことなく、個々の情況における判断に事を委ねる。
      • 適切な判断が行われる場合は、弾力的で的確な対応がもたらされる。
      • 適切な判断が行われない場合は、一定レベルの秩序すら維持されない。
      • ハイリスク・ハイリターン型の法
      • <証券取引法の考え方>
        税収の確保を旨とする。
          ↓
        税金を多く徴収したい。
          ↓
        法人税法では、利益(課税所得)は多い方がよい。
          ↓
        費用は少ない方がよい。
          ↓
        費用を減らす繰延資産は多い方がよい。
          ↓
        費用を増やす引当金は少ない方がよい。

126. 日本の会計制度 (1)

トライアングル体制

  • 日本においては系統の異なる3つの法律が会計という行為を規制し、独特のバランスを保っていたが、現在で各法律が歩み寄ってきている。
    1. 会社法(かつての商法)
    2. 金融商品取引法(かつての証券取引法)
    3. 税法(法人税法)
  • 会社法、金融商品取引法、税法という法制度の枠内で行われる会計、または法律の目的を果たすために行われる会計
    1. 会社法会計
    2. 金融商品取引法会計
    3. 税法会計

企業会計基準

  • 企業会計基準
    • 会社法会計、金融商品取引法会計、税法会計のより所となる存在
    • いかなる企業も遵守しなければならない会計処理の規範
  • 企業会計基準は、慣習法(慣習にもとづいて成立する法)の性格を有する。
    • 1949年公表の企業会計原則(企業会計基準のひとつ)
      「企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業がその会計を処理するに当って従わなければならない基準」
    • 企業会計における実践規範として機能している。

企業会計基準の設定機関の変遷

  • 企業会計基準委員会
    • 企業会計基準を設定している民間機関
    • 「財団法人財務会計基準機構」の傘下に置かれ、新規に公表される会計基準の設定を担っている。
    • 民間企業からの会費収入によって運営され、専従の職員や研究員を有している。
  • 民間の機関が企業会計基準を設定しはじめたのは最近のこと。
    • 2001年7月
      • 財団法人財務会計基準機構の設立
    • 2002年2月
      • 企業会計基準第1号「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」が公表された。
    • 2001年以前
      • 基準設定は大蔵大臣の諮問機関(しもんきかん)である大蔵省企業会計審議会が担っていた。
      • 企業会計審議会は、現在においても金融庁長官の諮問機関として存続しているが、実質的な会計基準設定の役割は民間の機関に委譲された。
  • 国際的な潮流のなか、日本における会計基準の設定主体も官から民へと移された。
    • アメリカの体制
      • 財務会計審議会(Financial Accounting Standards Board [FASB])という民間の機関が会計基準の制定を担ってきた。
      • 国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board [IASB])も同様に非政府機関として存在している。

125. 損益分岐点図表

損益分岐点図表(利益図表)を用いた損益分岐点のもとめ方

  1. 正方形を描き、縦軸を「売上高・費用・損益」、横軸を「売上高」とする。
    利益図表1
  2. 原点0から対角線を引く。この線0Aを「売上高線」という。
    利益図表2
  3. 縦軸に固定費を示す点Bを記し、この点から横軸に平行する実践を引く。この線BCを「固定費線」という。
    利益図表3
  4. 横軸に売上高を示す点Dを記し、この点から縦軸に平行する点線を引く、この線DE上の固定費(線DF)に変動費を加算した点をGとする。線FGは変動費を示し、線DGは総費用を示す。
    利益図表4
  5. 点Bと点Gを通る線BHを引く。この線は固定費と変動費の合計を示していることから「総費用線」という。この線BHと線0Aの交点Xが損益分岐点となる。
    利益図表5

124. 変動比率

限界利益

  • 売上高から変動費を控除した利益。
  • 事業継続のための限界を意味する。

限界利益率

  • 限界利益を売上高で除したもの。
  • この比率は高ければ高いほど望ましい。

変動比率

  • 売上高に占める変動費の割合。
  • この比率が低い方が望ましい。
  • 限界利益率と変動比率とは表裏の関係にあり、両者の合計は100%になる。
限界利益 = 売上高 - 変動費
限界利益率 = ( 限界利益 - 売上高 ) × 100 (%)
      = ( 売上高 - 変動費 ) / 売上高 × 100 (%)
      = ( 1 - ( 変動費 / 売上高 ) ) × 100 (%)
変動比率 = 変動費 / 売上高 × 100 (%)

損益分岐点比率

  • 損益分岐点が実際の売上高に対してどの程度の割合であるのかを示している。
  • この比率が低ければ低いほど収益力は大きい。
損益分岐点比率 = ( 損益分岐点売上高 / 実際の売上高 ) × 100 (%)

安全余裕額

  • 売上高が損益分岐点売上高を超える額。

安全余裕率

  • 安全余裕額を売上高で除することによってもとめられる。
  • 現在の売上高のうち、損益分岐点を超える部分の割合。
  • 赤字になるまでの売上高減少の余裕の度合いを把握することができる。
安全余裕額 = 売上高 - 損益分岐点売上高
安全余裕率 = ( 売上高 - 損益分岐点売上高 ) / 売上高 × 100 (%)
      = 安全余裕額 / 売上高 × 100 (%)

123. 損益分岐点分析

損益分岐点分析

  • 損失が発生するか利益が発生するかの分かれ目(売上高=総費用となるところ)
  • 売上高が損益分岐点売上高を上回った場合は利益が生じ、下回った場合は損失が生ずる。
  • 企業の損益がゼロになる採算点をもとめ、その採算点から現在の売上高がどれだけ乖離しているのかを把握することによって、企業の安全性や収益性を検討する分析手法。
  • 企業の収益構造を把握するのみならず、収益、費用および利益の関係を分析することによって、将来的な利益計画の立案や新規事業計画等に用いることができる。
  • 企業の現在の経営状況を把握したり、将来的な計画の立案に応用したりすることができる。

損益分岐点分析のポイント

  • CVP分析(費用:Cost、操業度:Volume、利益:Profit)とも呼ばれる。
  • すべての費用を変動費と固定費に分けてとらえる必要がある。
  • 変動費とは、売土高や操業度の変化に比例して増減する費用
    • 例)直接原材料費、荷造運賃費、外部加工費
  • 固定資とは、短期的には売上高や操業度の変化には関係なく一定額発生する費用
    • 例)土地や建物の賃借料、保険料、減価償却費、正社員の人件費
  • 費用を分けてとらえることによって、費用や利益はどのように変化するのか、利益を得るためにはどれくらいの売上高が必要になるのか、といったことを把握することができる。
売上高 = 総費用
    = 固定費 + 変動費
    = 固定費 + ( 変動費 / 売上高 ) × 売上高
売上高 - ( 変動費 / 売上高 ) × 売上高 = 固定費
売上高 ( 1 - ( 変動費 / 売上高 ) ) = 固定費
売上高 = 固定費 / ( 1 - ( 変動費 / 売上高 ) )
    = 固定費 / ( 1 - 変動比率 )
    = 固定費 / 限界利益率

122. 成長性分析の代表的な指標

成長性分析の代表的な指標

  • 成長性分析には売上高、資産、利益、付加価値、生産性など、さまざまなものに関わる指標がある。
  • 成長性分析の基本公式は、前年度の数値によるものもあれば、ある基準年度の数値によるものもある。
  • 基準年度の数値によるものならば、ある一定期間についての比較も行うことができる。
  • 成長性分析ではプロダクト・ライフサイクルと併せて判断しなければならない。
成長性分析の基本公式 = 増加額 / 基準年度の額

売上高成長率

  • 基準となる時点からどの程度、売上高が伸びたのかを表す指標。
  • この成長率は高ければ高いほど望ましい。
  • 売上高が急激に増加している場合は、売上債権や棚卸資産の増加による資金繰りの悪化を確認したほうがよい。
  • 売上高成長率の推移を分析し、成長率の増減が数量の増減によるものなのか、単価の上げ下げによるものなのかを検討しなければならない。
  • 売上高成長率の増減をもたらした要因を、他の指標と併せて分析することが必要である。
成長性分析の基本公式 = 増加額 / 基準年度の額

売上高成長率の個別分析

  • 理想的な企業経営は、異なるライフサイクルの段階にある事業や製品を組み合わせ、継続的な企業成長の機会を担保することである。
  • 多くの大企業はさまざまな事業や製品に多角化しているため、個々の事業や製品ごとに売上高成長率を把握することが重要である。
  • 個々の事業や製品ごとに売上高成長率を算出することによって、成長率を高めている主要な事業や製品がライフサイクルの後半期に入るまえに適切な対応をとることができる。
  • 企業全体の売上高成長率の伸びの大半が、あるひとつの事業や製品に依存している場合は危険である。
  • 個々の事業や製品ごとに売上高成長率を算出すれば、業界平均や他企業との比較を行うこともできる。
  • ライフサイクルの前半期は売上向成長率が急速に伸びるが、それが業界の平均的な売上高成長率に較べて低い場合は問題である。

利益成長率

  • 利益の増加率によって成長性の良否を判断するための指標。
  • それぞれの利益の特徴を考慮しながら、利益成長率を判断しなければならない。
  • 「経常利益」を用いた利益成長率を算出することが多い。
r利益成長率 = 利益の増加額 / 基準年度の利益

プロダクト・ライフサイクルと利益成長率

  • プロダクト・ライフサイクルの各段階において、他企業や業界全体の動向を考慮の上、設備投資や積極的なマーケテイングにどの程度の費用をかけるべきかを判断しなければならない。
  • プロダクト・ライフサイクルの観点においては、売上向成長率と利益成長率は同様に推移するわけではない。
  • 導入期
    • 製品の認知度が低いため、ネット広告などによる積極的なプロモーション活動に注力しなければならない。
    • マーケティング費用は増大するが、マーケティング費用をかけたからといって売上高が伸びるわけではない。
    • 売上高の伸び悩みや過大なマーケティング費用によって利益成長率が低くなる場合がある。
  • 衰退期
    • 一般にプロダクト・ライフサイクルの衰退期には多くの企業が業界から撤退する。
    • 撤退することなく業界に残った企業にとっては、チャンスになることがある。
    • 売上高成長率は低下傾向にあるものの、撤退せずに残った企業にとっては他企業に対抗するために必要な費用がますます不要となるため、利益成長率が好転する場合がある。