イノベーションへの解 第6章

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (8)

付録:魅力的利益保存の法則(クリス・ローウェン提唱)

バリューチェーンにおいては「モジュール型アーキテクチャ」と「相互依存型アーキテクチャ」、そして「コモディティ化」と「脱コモディティ化」という相互に補完的プロセスが、十分でない製品の性能を最適化するために、常に並行して存在する。

モジュール化とコモディティ化によって、魅力的な利益がバリューチェーンのある段階で消滅すると、通常は隣接する段階に、独自製品を通じて魅力的利益を得る機会が出現する。製品とともに提供されるサービスも、類似のコモディティ化と脱コモディティ化のサイクルを経ることがあり、その結果、魅力的利益も移動する。

※例外としては、バリューチェーンの中で2つのモジュール型段階が並んで存在したり、2つの相互依存型アキテクチャを統合しなければならないことがある。

製品の機能性と信頼性が十分以上に良くなると、競争基盤が変化する。このとき、「商品化のスピード」と「ターゲット市場における顧客の特定ニーズに合わせて製品を機敏に構成する能力」が十分でない状態をもたらす。バリューチェーンの中で、このような新しい次元で卓越するための能力が決定される場所が、顧客とのインターフェースである。

顧客とのインターフェースを独自の方法で統合している企業は、顧客とよそよそしい「モジュール型」のやり方でしか接しない企業に比べて、十分でない次元において、より効果的に競争することができる(そしてより高い利益率を獲得できる)。そのような状況では、顧客への小売インターフェースにわたって統合している企業も、平均以上の利益を得ることができる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (7)

魅力的利益を獲得する能力とコモディティ化の関係をまとめると次のようになる。

  • 魅力的な利益を獲得する能力は、バリューチェーンの中を動いて、直接顧客が入手可能な「製品」の性能にまだ満足していない付加価値活動へと移動する。
  • 複雑で相互依存的な統合が生じるのは、バリューチェーンの「規模の経済性が急勾配で、一層の差別化を可能とするような活動」においてである。
  • モジュール化、標準化によって差異がなくなると、魅力的な利益は「顧客が十分以上に満足している活動」から離れていく。
  • 魅力的利益の獲得能力の変化は、改良軌跡上の破壊者が活動している地点で始まり、上位市場へと一つずつ階層を昇っていく。
  • 魅力的利益の獲得能力の変化は、「十分でない」インターフェースをまたいで統合されている新しい企業に成功の機会を与える。
  • 魅力的利益の獲得能力の変化は、新しい企業が最終利用システムの後端から「喰い上がっていく」ことを通じて、成長する機会を提供する。
  • コモディティ化と脱コモディティ化のプロセスは、どちらもコアではなく周辺部で始まる。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (6)

ブランドにもコモディティ化や脱コモディティ化が生じる。ブランドに最も価値があるのは、価値連鎖の「まだ十分でない」段階である。

顧客が製品の性能に不安を持っているとき、周到に練られたブランドがあれば、顧客が必要とするものに近いイメージを与えることができる。複数の業者が供給する同じ等級の製品が、どれも十分以上であることが明らかな場合には、「ブランドがプレミアム価格をつける能力」が失われる傾向にある。

機能性の行き過ぎが生じると「ブランドによる利益を獲得する能力」は、しばしばバリューチェーンの別の地点に移動する。こうした地点は、製品内の性能決定サブシステムにあることが多い。また速度、単純性、利便性が十分でない場合には、小売業者とのインターフェースにあることが多い。このような移動がブランド構築の機会を決定づける。

独自製品を持つ企業のブランドは、製品が最高であったとしても、上方にいる「機能性と信頼性に満足していない顧客」に向かって製品の価値を高める。これが下方の「スピードと利便性、レスポンスが競争における成功の原動力となる、モジュール化された製品」に向かって移動すると、収益性を生み出すブランド力は、最終製品から遠ざかり、サブシステムへ、そしてチャネルへと向かう。

製品の機能性と信頼性が十分以上になると、次に購入や利用の手続さと利便性が十分でなくなる。するとブランドは、これらのまだ十分でない側面を満足させるビジネスモデルを作ったチャネルへと移動し始める。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (5)

産業の収益性を魅力的にするのは、その産業の企業がある特定の時点で、バリューチェーンのそれぞれの地点で置かれている状況である(魅力的利益保存の法則)。差別可能な製品、規模に基づくコスト競争力、そして高い参入障壁を生み出すのは「バリューチェーンの中の性能がまだ十分でない地点に位置する企業が利益を得る」という状態である。

統合企業は柔軟に連結、分離することができるため、特化型企業に比べて長期間利益をあげながら成長する可能性が高い。それは、コモディティ化と脱コモディティ化のプロセスが常に作用しており、その結果、利益を生み出す場所がバリューチェーンの中で刻一刻と移動するからである。

コモディティ化の餌食となる企業には、次のような傾向が見られる。

  • すぐ下の階層のサブシステムまたは隣接するプロセスで、コモデイティ化と同時に起こる、脱コモディティ化という補完的プロセスを見落とすことが多い。
  • これから利益を生み出す場所に移動する機会を逸し、脱コモディティ化の生み出した成長を他社が捉えるうちに押しつぶされ、ときには破滅に追い込まれる。
  • モジュール式によるコモディティ化という状況を認識し損なった結果、属性に基づくコア・コンピタンス理論に救いを求め、のちに後悔することになる決定を下す。

モジュール型製品を扱う企業には、次のような傾向が見られる。

  • 資産を処分してROA(総資産利益率)の分母を圧縮することでしか、ROAを改善することはできない。
  • コア・コンピタンスか否かという判断で資産を手放すと、将来利益を生む能力を手放すことがある。
  • ある資産を処分し、バリューチェーンの後端にいる企業にそれに関わる業務を外部委託すると、その企業に新たなバリューチェーンを構築し、新成長事業を生み出す機会を与えてしまう。

上記からわかるように、バリューチェーンを下から上まで統合することは、最適化されたアーキテクチャを持つサブシステムを設計する機会を生み出す。そして生み出されたサブシステムは、顧客が組み立てるモジュール型製品の性能を高める主要な手段となる。

競争力は、得意な業務を行うことではなく、むしろ顧客が高く評価する業務を行うことから生まれる。競争基盤が変化しても競争力を持ち続けるためには、新しい物事を学習する意欲と能力を持つことが必要である。そして、上に向かってバリューチェーンを侵食してくる勢力に対抗するには、部品やサブシステムの供給業者を所有または買収し、独立した成長志向の事業として運営するとよい。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (4)

脱コモディティ化という補完的プロセスの要点をまとめると次のようになる。

  • モジュール型製品の組立業者による低コスト戦略が有効なのは、高コストの競合企業と競争する限りにおいてである。
  • モジュール型製品の組立業者が魅力ある利益を持ち続けるためには、コス卜の高い独自開発製品の供給業者をある市場階層から駆逐するや否や、できるだけ早く上位市場に移行して、再び高コスト企業と対決しなければならない。
  • 性能決定サブシステムは、モジュール型製品の組立業者がどれだけ速く上位市場へ移行できるかを制約または決定するメカニズムである。
  • 「競合よりも自社のサブシステムの方が最終製品の性能を高められる」と顧客に認識させるために、サブシステムの供給業者はより相互依存的で独自仕様の設計を開発せざるを得ない。
  • 同業者間の競争を通して、性能決定サブシステムの大手供給企業は、差別化された独自製品を魅力ある利益率で販売できるようになる。
  • 収益性の高い独自製品の創出は、次のコモディティ化と脱コモディティ化の周期の始まりである。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (3)

オーバーシューティング(十分以上に良い状況)に陥る企業は、破壊によってシェアを奪われるか、コモディティ化を通じて利益を奪い取られてしまう。オーバーシューティングにおいては、将来の魅力ある利益がバリューチェーンの別の場所、つまり別の段階や階層で生み出されることが多い。それはコモディティ化のプロセスが、脱コモディティ化という補完的なプロセスを引き起こすからである。

脱コモディティ化は、バリューチェーンの中の従来魅力ある利益を得ることが難しかった場所に起こる。脱コモディティ化は、かつて差別化が不可能だったモジュール型のプロセスや部品、サブシステム(メインシステムが使用可能になるために必要な機能の一部を提供する部品や構成要素の集まり)などで生じる。

脱コモディティ化は次のような理由により発生する。

  • モジュール型破壊者は、低コストのビジネスモデルをできるだけ速く上位市場に持ち込み、高コストの独自製品メーカーと最前線で競争し続けることでのみ利益を確保する。
  • モジュール型製品の組立業者は、再び利益の得られる上位市場へ駆け上がるために、性能決定サブシステム(性能を決定づける重要なシステム)の向上を求める。
  • その結果、性能決定サブシステムの供給業者は、ますます相互依存的で独自のアーキテクチャを生み出す。
  • すると最終製品がモジュール化し、コモディティ化して、結果的に性能決定サブシステムは脱コモディティ化する。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (2)

「十分でない」最終製品の設計や組立を行う統合型企業が、魅力ある利益を得られる理由は2つある。

  1. 製品の相互依存型の独自アーキテクチャにより、差別化が容易である。
  2. 相互依存型のアーキテクチャを持つ製品の設計と製造では、元来変動費に対する固定費の割合が高く、大きなスケールメリットが働く。

これらのことが大規模な競合企業にコスト優位性を与える一方、新規参入企業にとっては乗り越え難い参入障壁となる。

企業が独自アーキテクチャ製品を競合企業よりも高いコスト競争力で製造できるのは、「十分でない」状況のときである。状況が変化すれば、つまり収益性の高い支配的企業が主流顧客の利用能力を追い抜いてしまえば、このやり方は通用しなくなり、やがてモジュール式が支配的となり、コモディティ化が始まる。モジュール化が進んだ状況で利益を上げるためには、バリューチェーンのどこか他の場所を探さなければならない。

コモディティ化のプロセスは、次のステップで進む。

  1. 新しい市場が生まれると、ある企業が、十分ではないが競合製品に比べれば願容のニーズに近い、独自製品を開発する。企業は独自アーキテクチャを通じて製品を生み出すため、魅力的な利益を得る。
  2. 企業は直接の競争相手より優位に立とうと奮闘するうちに、やがて市場の低位層の顧客が利用できる機能性と信頼性を追い抜いてしまう。
  3. この階層の競争基盤の変化が促される。
  4. モジュール型アーキテクチャへの進化が促される。
  5. 産業の非統合化が進む。
  6. 誰もが同じ部品を入手でき、同じ基準に基づいてそれを組み立てるようになるため、製品の性能やコスト面で競合企業との差別化を図ることが極めて困難になる。
  7. 機能面でのオーバーシューティングが市場の底辺から始まり、上方に移って高位層を襲う。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (1)

[ 第6章のテーマ ]

  • コモディティ化を引き起こす原因は何か。
  • コモディティ化は競争市場の全企業にとって、避けられない最終状態なのか。
  • どの発展段階にある企業にも、コモディティ化の開始を阻止する措置は取れるのか。
  • コモディティ化の波が産業を席巻した後で、流れが独自アーキテクチャを持つ、差別化された収益力ある製品へと逆流することはあるのか。
  • この流れに乗るには、すれば良いのか。

コモディティ化がバリューチェーンのどこかで作用しているときは必ず、脱コモディティ化という補完的なプロセスがバリューチェーンの別の場所で作用している。コモディティ化は差別化を阻むことで企業の収益力を破壊するのに対して、脱コモディティ化は潜在的な富を創出し、それを獲得するチャンスを生み出す。

産業に新しい破壊の波が次々と押し寄せるなか、差別化能力はバリューチェーンの中を絶えず移動する。そして、バリューチェーンの中の「性能がまだ十分でない地点」に位置を定める企業が利益を手にする。

参考:製品やサービスのバリューチェーンの捉え方

  1. 「プロセス」から捉えるバリューチェーン
    • プロセスとは、製品やサービスを生み出したり供給したりするために必要な付加価値の段階である
    • 設計、部品製造、組立、マーケティング、販売、流通など
  2. 「構成要素(材料の明細表)」から捉えるバリューチェーン
    • 自動車に例えると、エンジンプロック、シャシ、ブレーキシステム、電子機器など

バリューチェーンを特徴付けるプロセスを通過する製品には、さまざまな構成要素が用いられている。そして構成要素のそれぞれに、通過しなければならない一連のプロセスがある。製品のバリューチェーンを分析するのは複雑であり、またどのレベルの複雑性に的を絞るかが重要である。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社