イノベーションの最終解 第1章

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (3)

破壊的イノベーションを目指す企業が最初に探すべき顧客は、無消費者(消費していない人たち)である。無消費者が存在するのは、既存製品の特徴により、非常に裕福な人や特別なスキルや訓練を積んだ人でなければ消費ができないような場合である。

無消費者はどこにでも、どのような市場にもいる。製品を消費している人でさえ、特定の状況や環境では製品を消費できていない無消費であるかもしれない。

成功する新市場型破壊的イノベーションは次の2つのパターンのいずれかをたどる。

  1. 財力やスキルを持たないために、それまで重要な用事を片づけられなかった顧客に、相対的に単純で手頃な製品・サービスを提供して、顧客のアクセスと能力を高め、用事を簡単に片づけられるようにする。
      ↓ 成功ポイント

    • 新市場型破壊的イノベーションは既存製品に機能性では劣るが、利便性やカスタマイズ性、低価格といった新しいメリットをもたらす。
    • このような特性を持っているからこそ、新市場型の破壊製品が成功するには、新しい顧客や新しい利用環境に根づく必要がある。

     

  2. 顧客が行動や優先順位を変えたりしなくても、前から片づけようとしていた用事を、より簡単かつ上手に片づけられるようにする。
      ↓ 成功ポイント

    • 企業は、重要だが達成できていない(かつ見過ごされがちな)成果を、顧客が簡単に達成できるようにする必要がある。
    • 顧客が片づけようとしているが、片づけられずにいる「用事」を解消する必要がある。

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (2)

表1-1は、①顧客の概要、②顧客を識別する方法、③顧客がもたらす事業機会、④新しい何か/何者かがその機会を活用しようとしていることを示すシグナル、をまとめたものである。

表1-1. 潜在的な顧客集団の概要
①顧客 ②識別方法 ③予想される展開 ④シグナル
無消費者 自分にとって重要な用事を便利かつ簡単に片づけるための能力、財力、アクセスをもたない人たち。一般に、用事を片づけてくれる誰かを雇うか、自力で十分とは言えない解決法を編み出すことが多い 新市場型破壊的イノベーション
  • すでに片づけようとしている用事をより便利に片づけるのに役立つ製品/サービス
  • 新規市場または新しい利用環境の爆発的成長
満たされない顧客 製品を消費しているが、その性能限界に不満を感じている顧客。自分にとって最も重要な面の性能を高めた製品に割高価格を支払う意思を示す 上位市場に向かう持続的イノベーション(急進的、漸進的)
  • 既存顧客向けに導入される新しい改良製品・サービス
  • 統合型企業の成功と専門的企業の不振
過剰満足の顧客 それまで魅力的な割増し価格をもたらしてきた性能向上に対価を支払わなくなる顧客 ローエンド型破壊的イノベーション
  • 最も要求のゆるい顧客を対象とする新しいビジネスモデルの出現
置き換えのイノベーション(モジュールへの置き換え)
  • 主流顧客をターゲットとする専門的企業の出現
下位層プレーヤーが必要なスキルを持つようになる
  • ルールや標準(「何が何を引き起こすか」に関する広く受け入れられた名言)の出現
  • 製品・サービスの提供者が最終消費者に接近する

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (1)

イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法の第一段階は、何者かが変化の機会を有利に利用しようとしている兆候(変化のシグナル)を探すことである。変化のシグナルとして把握すべきことをまとめると図1-1となる。

図1-1. 変化のシグナル
図1-1. 変化のシグナル

 
変化のシグナルを見つけるためには、次の3種類の顧客を評価する必要がある。

  1. 製品を消費していない顧客や、製品を不便な環境で消費している顧客(無消費者)
  2. 製品を消費しているが、ニーズが満たされていない顧客(満たされない顧客)
  3. 製品を消費しているが、ニーズが必要以上に満たされている顧客(過剰満足の顧客)

これらの顧客は、それぞれ独自の事業機会を生み出す。そして企業は、次のいずれかの道を選ぶことができる。

  • 無消費者の獲得を狙った新市場型破壊的イノベーション
  • 満たされない顧客を狙った上位市場に向かう持続的イノベーション
  • 過剰満足の顧客を狙ったローエンド型破壊的イノベーションか、モジュールへの置き換え

業界の状況を正しく見極めれば「その状況ではどの種類のイノベーションが成功しないのか」が明らかになる。持続的イノベーションは大抵、満たされない顧客の中でも「先進顧客」に導入され、その後、より厚みのある顧客層へと徐々に導入される。先進顧客は市場のハイエンドにいる、最も要求の厳しい顧客である。

他方、破壊的イノベーションでは、先進顧客は新しい市場か、既存市場のローエンドに存在する。したがって、破壊的イノベーションが将来市場の主流顧客にどのような影響を与えるかを予測するには、ローエンドと新しい市場、そして新しい状況に目を向けなければならない。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社