イノベーションのジレンマ 第5章
イノベーションのジレンマ:第5章の要点
イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (7)
第5章を通して、持続的イノベーションと破壊的イノベーションについて次のことが言える。
[持続的イノベーション]
- 一般的に市場が複雑なほど、持続的イノベーションにおけるリーダーシップの重要性は低い。
- 持続的イノベーションでリーダーシップをとったからといって、待ちの戦略をとった企業より優位に立てるという確証はない。
[破壊的イノベーション]
- 破壊的技術を開発し商品化するプロジェクトを、それを必要とする顧客を持つ組織の中に組み込む。
- 破壊的技術に適した価値基準やコスト構造を持つ組織を作り出す。
- 破壊的技術を開発するプロジェクトは、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せる。
- 破壊的技術に取り組むために(主流組織の資源の一部は利用するが)主流組織のプロセスや価値基準は利用しない。
- 経営者が破壊的イノベーションを“適切な”顧客に結びつけると、顧客の需要により、イノベーションに必要な資源が集まる可能性が高くなる。
- 破壊的技術を商品化する際は、破壊的製品の特徴が評価される新しい市場を見つけ出す。
- 破壊的技術の市場を探るときは、早い段階にわずかな犠牲で失敗にとどめられるよう計画を立て、試行錯誤の繰り返しの中で市場を形成していく。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
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イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (3)
「どのプロジェクトに人材と資金をつぎ込み、どの企画につぎ込まないかを決定する」という企業の資源配分プロセスは、顧客が支配している。つまり顧客が望めば、プロジェクトに資金が割り当てられる。イノベーションの実現は、この資源配分プロセスに依存している。
重要な資源配分の決定は、プロジェクトが承認された後、現場のマネージャーによってなされることが多い。現場のマネージャーは、複数のプロジェクト/製品において人材や設備やベンダーの取り合いが生じたときに、その優先順位を決定する。
現場のマネージャーは、どのプロジェクトを上層部に提案し、どのプロジェクトを優先すべきか、またどのようなタイプの顧客や製品が企業にとって最も利益になるのかを意識している。どの案を支持するかによって、社内で出世できるかどうかも気にしている。企業の利益追求とマネージャーの出世欲が、顧客ニーズに合った資源配分プロセスを決定し、ひいてはイノベーションの実現にも影響を与える。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (2)
企業は、顧客がその製品を求めているとわかれば、技術的にリスクの大きなプロジェクトにも投資を惜しまない。しかし、収益性の高い既存顧客が製品を求めなければ、技術的に単純な破壊的技術を用いるプロジェクトに対して経営資源を集めることができない。
顧客や投資家の求める製品やサービス、利益を提供し、そのニーズを満たした場合にのみ、組織は存続し企業は繁栄する。各業界における優良企業とは、顧客が求めるものを提供することを最も重視する人材とプロセスを備えた企業である。
企業は経営資源に依存し、その資源を提供する相手は顧客である。ゆえに企業の行動を決定するのは、経営者ではなく顧客である。優良企業では「経営幹部の決定」よりも「顧客重視の資源配分と意思決定プロセス」の方が、投資の方向性を決める上で重要である。
それでは、顧客が明らかに求めていない破壊的技術が出現したとき、経営者はどうするべきだろうか。方法は2つある。
- とにかく破壊的技術を追求し、収入源である顧客が拒否しようと、上位市場の技術より収益性が低かろうと、その技術は長期戦略にとって重要であると全社員に伝える。
- 独立した組織を作り、その技術を必要とする新しい顧客に対して活動する。
2番目の方法は1番目の方法よりも成功する確率が高いと、クリステンセン教授は考えている。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (1)
第1章から4章までを通して「ディスク・ドライブ業界」「掘削機業界」「鉄鋼業界」という全く異なる3つの業界を分析した。そこから次のことが判明した。
- 顧客のニーズに応えるために新しい技術が必要となるとき、優良企業は必要な技術を効率よく高水準に開発し、商品化するためのノウハウ、資本、ビジネスパートナー、労力を集めることに成功していた。
- 優良企業がつまずき失敗したのは、経営に問題があったからではなかった。
優良企業が破壊的イノベーションに直面するとき、彼らの意思決定プロセスと資源配分プロセスが、破壊的技術を拒絶するプロセスとなり得る。つまり、顧客の意見に注意深く耳を傾け、競争相手の行動に注意し、収益性を高める高性能、高品質の製品の設計と開発に資源を投入するがゆえに、優良企業は破壊的イノベーションに直面して失敗するのである。
優良企業の経営者は、組織の性質に関する5つの基本原則を常に意識する。
- 優良企業の資源配分のパターンは、実質的に顧客が支配している(資源依存理論)。
- 小規模な市場は、大企業の成長需要を満たさない。
- 破壊的技術の最終的な用途は事前にはわからない。
- 組織の能力は、組織内で働く「人材の能力」とは関係がなく、むしろその「プロセス」と「価値基準」にある。現在の事業モデルの核となる能力を生みだすプロセスと価値基準が、実は破壊的技術に直面したときに、無能力の決定的要因になる。
- 技術の供給が市場の需要と一致しない確立された市場において評価されない「破壊的技術の特徴」が、新しい市場で大きな価値を生むことがある。
この5つの基本原則に従うか、無視するかによって企業の明暗が分かれる。第5章からは、経営者が上記の原則を理解し、利用するにはどうすればよいかについて詳しく述べる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーション・ダイナミクス
イノベーション・ダイナミクス – 事例から学ぶ技術戦略
ジェームズ・M. アッターバック (著), 津 正和 (翻訳), 小川 進 (翻訳)
有斐閣 1998.11.01 289ページ