イノベーションのジレンマ 第1章

イノベーションのジレンマ:第1章 なぜ優良企業が失敗するのか (5)

第1章をまとめると次のようになる。

  1. ディスク・ドライブ業界のイノベーションに見える3つの傾向
    • 破壊的イノベーションは、技術的には簡単なものであった。
    • 持続的技術が、優良企業の失敗を早めたわけではなかった。
    • 破壊的技術を率先して開発し、採用してきたのは、いつも新規参入企業であった。

     

  2. 優良企業が戦略的に極めて重要な技術革新を無視したり、新市場への参入が遅れたのはなぜか?
    • 優良企業は、あらゆる種類の持続的イノベーションに対して、積極的かつ革新的で、顧客の意見に敏感な姿勢をとっていた。
    • 優良企業は顧客に束縛されていたため、破壊的技術が生み出す「新しい用途の市場」や「下位市場」へ柔軟に対応することができなかった。
    • 優良企業が出遅れるがゆえに、破壊的技術をいち早く取り入れた新規参入企業が既存のリーダーを追い落とすこととなった。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第1章 なぜ優良企業が失敗するのか (4)

ディスク・ドライブ業界の技術革新は、そのほとんどが持続的イノベーション(持続的技術からもたらされるイノベーション)によるものであった。「破壊的技術」と呼ばれる技術革新は、ごくわずかしか存在しなかった。そしてこの「破壊的イノベーション(破壊的技術からもたされるイノベーション)こそが業界のリーダー企業を失敗に追い込んだ要因である」とクリステンセン教授は仮説した。

ディスク・ドライブ業界の破壊的イノベーションを分析するために、ドライブが小型化する要因となった「アーキテクチャーのイノベーション」に注目したところ、次のような破壊的イノベーションの特性が導き出された。

  • 破壊的イノベーションは技術的には単純で、既製の部品を使い、アーキテクチャーも従来のものより単純な場合がある。
  • 確立された市場では、破壊的技術は顧客の要望に応えるものではないため、初期段階ではほとんど採用されない。
  • 破壊的技術は、主流からかけ離れた、とるに足りない新しい市場でしか評価されない。
  • 破壊的技術によって新しい用途の市場が生まれるとしても、その技術を導入したからといって既存製品の売上が侵食されるとは限らない。
  • 優良企業が、破壊的技術による新しい用途が商業的に成熟するまで待った上で、自分たちの市場への攻勢をかわすためだけにその技術を導入すると、既存製品の売上が浸食されてしまう。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第1章 なぜ優良企業が失敗するのか (2)

クリステンセン教授は、1975年から94年に発売した世界中のあらゆるモデルのディスク・ドライブに関するデータベースを作成し、技術革新の要因を分析した。

さまざまな新技術を最初に導入した企業を特定し、時間の経過とともに新技術がどのように業界全体に広がっていったかを追跡した。そしてどの企業が進んでいてどの企業が遅れていたかを調べ、それぞれの新技術がディスク・ドライブの記憶容量、速度などの性能指標にどのような影響を与えたかを測定した。

業界の技術革新の歴史を注意深く検証することにより、どのような要因が新規参入企業を成功へと導き、どのような要因が実績ある大手企業を失敗へと追い込んだのかを見極めた。その結果は次の通りである。

  • 大手企業の失敗の根底にあるのは、技術革新の速さや難しさではない。
  • ほとんどの製品のメーカーは、長期にわたって性能向上の軌跡を残している。
  • 技術革新には次の2通りがあり、それぞれが優良企業に対して全く異なる影響を与えてきた。
    ① 性能の向上を持続する技術で、漸進的な改良から抜本的なイノベーションまで多岐にわたるもの
    ② 性能の軌跡を破壊し、塗りかえる技術で、幾度となく業界の主力企業を失敗に導いくもの

上記の①を「持続的技術」②を「破壊的技術」と呼称し、ケーススタディを通してその違いを検証した。そして「新技術の開発や採用に関して、優良企業が新規参入企業に比べてどれだけ進んでいたか、あるいはどれだけ遅れていたか」を分析した。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第1章 なぜ優良企業が失敗するのか (1)

第1章の冒頭では、クリステンセン教授がなぜ「ディスク・ドライブ業界」を研究の対象にしたのかについて、次のような理由を述べている。

  • ディスク・ドライブ業界には、技術、市場構造、全体規模、垂直統合が広範囲にわたって急速に進化し続けてきた歴史がある。
  • 業界の変化のサイクルが繰り返されるため、「どのような変化が起きたらどのような企業が成功または失敗するのか」という仮説を検証する機会が得やすい。

クリステンセン教授はディスク・ドライブ業界の歴史研究を通して、複雑な中にも驚くほど単純で一貫した要因によって、幾度となく業界リーダーの明暗(成功と失敗)が分かれてきたことを発見した。

優良企業が成功する要因と失敗する要因はどちらも「顧客の声に鋭敏に耳を傾け、顧客の次世代の要望に応えるよう積極的に技術、製品、生産設備に投資すること」であり、そこに『イノベーションのジレンマ』が垣間見える。

優良企業がこの「成功する要因」を盲目的に実行し続けていると、ときに致命的な誤りを起かして失敗に陥ることがある。その事象をディスク・ドライブ業界の歴史が示している。ディスク・ドライブ業界の歴史は、顧客と緊密な関係を保つべき時とそうすべきでない時を理解する足がかりを与えてくれる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーション

イノベーション – 限界突破の経営戦略

リチャード フォスター (著), 大前 研一 (翻訳)

阪急コミュニケーションズ 1987.01.01 306ページ

<参照先>
イノベーションのジレンマ 第1章 p.38, p.57