2023.09.25 85. 連結財務諸表の必要性 連結財務諸表の必要性 企業規模の拡大等にともなって、現代の企業活動は、個々の企業が単独で経済活動を営むよりも、支配従属関係にある親会社と子会社とが企業集団を形成し、相互に連携しつつ経済活動を展開する方が多くなっている 例えば製造業では、各社で役割を分担し、連携して企業を行う 原材料の入手を担当するA社 原材料を部品に加工するB社 部品から製品を製造するC社 完成した製品を販売するD社 A社からD杜までの4社が一体となって、ひとつの事業を行っている(企業全体として相互に連携して経済活動を行っている) ↓ 「個別財務諸表」が提供する個々の企業の会計情報からは、企業全体としての成否の判断や将来性の予測が困難である ↓ 経済的事実と利害関係者への情報提供から考えて、この集団を単一の組織体とみなすべきである ↓ 企業全体の財務諸表を作成することが、むしろ合理的である 個別財務諸表 法的に独立した個々の企業が作成する財務諸表 企業集団の一部たる各社の会計情報を提供するにとどまる 企業集団全体の会計情報を提供するものではない 連結財務諸表(連結計算書類) 支配従属関係にある2つ以上の会社や事業体からなる企業集団を単一の組織体とみなし、親会社が当該企業集団の財政状態、および経営成績を総合的に報告するために作成する財務諸表 以下のような規則で、財務諸表の作成、および表示方法が定められている 連結財務諸表原則 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財務諸表規則) 会社法 会社計算規則 連結財務諸表の種類 連結貸借対照表 連結損益計算書 連結株主資本等計算書 連結キャッシュフロー計算書
2023.09.24 84. 日本の会計制度における資金計算書の変遷 資金繰表 資金繰表による資金情報の開示は、1953年の大蔵省令「有価証券の募集又は売出の届出等に関する省令」のもと、有価証券報告書等において行われていた 資金繰表における資金概念 = 現金預金 資金収支表 資金収支表による資金情報の開示は、1986年に改正された「有価証券の募集または売出の届出などに関する省令」によるものであった 資金収支表における資金慨念 = 現金預金に一時所有の有価証券を加えたもの キャッシュフロー計算書 1998年に設けられた連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準によって、翌1999年に作成が義務づけられた財務表 損益計算書、貸借対照表と同様、財務諸表のひとつとして位置づけられている キャッシュフロー計算書の導入前は、資金繰表や資金収支表(財務諸表の範囲外にあって資金情報を開示する計算書)が用いられていた 現金および現金同等物が資金として扱われる 現金同等物 定期預金や公社債投資信託など、取得日から満期日または償還日までの期問が3か月以内の短期投資 即時に換金が可能なもの キャッシュフロー計算書の作成時点と換金時点で額に大きな変動がないもの 資金繰表とキャッシュフロー計算書の資金概念 資産の価格変動の影響がほとんどなく、資産評価の問題を伴わない点では共通している → 日本の資金計算書は一貫して、即時に換金が可能な資産を構成要素とする資金慨念を採用してきた 資金収支表において資金の範囲に含まれていた一時所有の有価証券は、キャッシュフロー計算書では、現金同等物から除外されている → 一時所有の有価証券は、価格変動の影響は大きいものの、即時に換金が可能であるため除外
2023.09.23 83. 資金概念 資金の性質の違い 棚卸資産と有価証券 運転資本の構成要素 投資過程にある資産 即時に換金が可能という点では異なる 有価証券 証券市場において取引される 貸借対照表価額で売却できるとは限らない 即時に換金が可能である 棚卸資産 確実に売却されるとは限らない 不良在庫として損失処理されることもある 当座資金 即時に換金が可能な資産のみを資金の範囲に含める資金概念 現金および短期的な金銭債権から、1年以内に返済しなければならない金銭債務を差し引いたもの 短期的な金銭債権 = 売掛金や受取手形のような売上債権および市場において即時に売却しうる有価証券 1年以内返済の金銭債務 = 買掛企や支払手形のような仕入債務および短期借入金 当座資金 = 即時に換金が可能な資産の余剰 支払資金 当座資金から短期借入金を差し引いた資金概念 短期借入金は1年以内に返済しなければならないが、借入は財務活動の一環である 現金と営業活動に関する金銭債権の合計から、営業活動に関する金銭債務を差し引いたもの 営業活動に関する金銭債権 = 売掛金や受取手形 営業活動に関する金銭債務 = 買掛金や支払手形 営業活動に附随する金銭債権や金銭債務は、営業活動において自然に回転する(買掛金や売掛金の回収によって得られた現金によって支払われる) → 支払い資金は回収過程にある(回収されれば現金になる)資産の余剰を示している
2023.09.22 82. 運転資金計算書とキャッシュフロー計算書 運転資金計算書 流動資産に分類される棚卸資産や有価証券など 短期に現金に変わる可能性の高い資産 売却されて現金、または金銭債権になる資産 営業活動における資金の「回収過程にある資産」ではなく、「投資過程にある資産」である 貸借対照表上の価額は、売却によって得られる現金の額ではなく、将来に売却されたときのおおよその現金収入額を示している 投資過程にある資産には、資産評価の問題が生ずる ↓ 運転資本は、投資過程の資産を資金の範囲に含める ↓ 運転資本は、企業の支払能力の評価基準として適当ではない キャッシュフロー計算書 現金および現金同等物を資金の範囲とする 棚卸資産や有価証券などの変動は、資金の範囲に含めない 資産の増加 → 現金の用途 資産の減少 → 現金の調達 現金以外の貸借対照表項目の変動は、現金の調達または現金の用途として捉える ↓ 運転資本のように、資産評価の問題を伴わない ↓ 現金の変動をまとめたキャッシュフロー計算書のほうが、支払い情況を明確にしている キャッシュフローと運転資本の比較 資金の範囲 キャッシュフロー = 現金および現金同等物 運転資本 = 棚卸資産や有価証券など投資過程の資産を含める キャッシュフロー 過去の支払い情況に関しては、運転資金計算書よりも詳細に示すことができる 将来の支払能力の評価に関しては、運転資金計算書よりも劣る 運転資本 実際に現金になるかという不確実性がある 将来に現金になる資産の余剰を示すことによって、企業の支払能力を表す
2023.09.21 81. 運転資金計算書 運転資本 流動資産から流動負債を差し引いたもの(広義の意味) 通常、流動資産は流動負債よりも多い → 運転資本 = 流動資産によって流動負債が支払われた残り おおよそ1年以内に現金化される資産の余剰を意味している 流動資産、流動負債には、正常営業循環基準、1年基準が適用される 流動資産 購入、販売、販売代金の回収という営業循環にある資産 1年以内に換金される資産 流動負債 仕入債務、営業活動にかかわる金銭債務など、営業循環において支払いがなされる負債 1年以内に支払い期日が到来する負債 運転資本 = 1年以内に支払いにあてることができる → 支払能力の余裕を意味している 流動比率 財務諸表の数値を用いた比率分析において、企業の安全性を測るもの 運転資本を、支払能力の判断基準にした比率 運転資金計算書(運転資本運用表) 運転資本を資金の範囲とする資金計算書 流動資産、流動負債以外の固定資産、固定負債、資本の変動が運転資本の変動にどのような影響を与えたのかを示す計算書 貸借対照表の貸方の総額に変化がない場合 固定資産の減少 → 運転資本の増加 固定資産の増加 → 運転資本の減少 固定資産の額に変化がない場合 固定負債や資本の増加 → 運転資本の増加 固定負債や資本の減少 → 運転資本の減少 運転資金計算書だけでは、運転資本の構成要素の変動を知ることはできない 運転資金明細書がなければわからない 運転資本の構成要素は、経営活動の自然な資金の回転によって生み出され、運転資本はその余剰である 購入によって生じた買掛金 → 販売によって生じた売掛金の回収によって得た現金によって支払われる 買掛金の支払いのために調達した短期借入金 → いずれは売掛金の回収によって得た現金によって支払われる 運転資金計算書まとめ 固定資産、固定負債、資本の変動が運転資本の変動にどのような影響を与えたのかを示すもの 企業の財務安全性に関する示峻を得ることができる 運転資本の増加が、安全な資金調達によるものとなっているか? 安全な資金調達 = 1年超の将来に返済期日を迎えるもの 固定資産の購入が、危険な運転資本によるものとなっていないか? 危険な運転資金 = 1年以内の返済にあてるべき流動資産で構成されたもの 運転資金計算書の例 例1. 運転資金計算書 (間接法) 税引前利益 (経常利益) 55 減価償却費 80 税金の支払い △22 営業活動による運転資金の増減 113 建物の増加 △500 投資活動による運転資金の増減 △500 借入金の返済 △100 増資 500 財産活動による運転資金の増減 400 運転資金の増減 13 期首運転資金 480 期末運転資金 493 例2. 運転資金明細書 (間接法) X1年度 X2年度 増減 現金 100 93 △7 売掛金 200 250 50 商品 300 200 △100 有価証券 30 50 20 買掛金 (150) (100) 50 合計 480 493 13
2023.09.20 80. 支払能力の評価 企業の支払能力 企業が期日に負債などの支払いを行えなえるかどうか 返済期日までに、返済に必要な現金を調達することができるか 借入能力 所有する資産の処分価値 原価節減能力 配当引き下げの弾力性 増資によって資金を訓達する能力 かつては、運転資本で評価していた キャッシュフロー計算書が制度化される前には、運転資本を資金の範囲とする計算書が利用されていた キャッシュフロー計算書 過去における現金(および現金同等物)の変動を示す 企業がどのようにして現金を調達し、何に使ったかを示す 将来における支払い能力は示さない 支払い能力を評価するための材料として、過去のキャッシュフローの情況を知ることが利用目的となる
2023.09.19 79. 資金計算書の役割 企業の収益力 利益の多寡、または利益獲得の効率性として評価される 企業の利害関係者は、企業の収益力に最も関心をよせる 高い収益力は、株主に多くの配当を支払うことを可能にする 経営者にとっては、経営規模の拡大や安定した経営を可能にする 収益力は企業の長期的な支払い能力にも寄与する 企業の支払能力 収益力と同様、利害関係者にとって重要な関心事である 利益があっても、短期的に安定した経営が行えるとは限らない 借入金や買掛金などの負債を期日に返済できなければ、企業は存続することができない 企業は経営において生ずる支払いを、期日に滞りなく行えてこそ、安定した経営ができる 資金計算書 損益計算書と貸借対照表だけでは分からない部分を明らかにするために作成された分析表 利益以外の貸借対照表項目の変化を明らかにするために作成された計算書 利益の変動要因は、損益計算書によって分かるが、利益以外の貸借対照表項目を変化させた要因は、損益計算書と貸借対照表だけでは分からない 資金計算書の役割 貸借対照表 企業の財政状態を示す財務表 企業の支払い情況について、期末時点における結果は知ることができるが、フローの情況は知ることができない 財政状態変動表 貸借対照表の期間変動をまとめた計算書 資金計算書 財政状態変動表をもとに、資金がどのように集められ、どのように使われたかが明らかになるように作成された計算書 「フローの情況を知るための計算書」という役割が求められる
2023.09.18 78. 資金計算書 キャッシュフロー計算書 企業の1期間における現金の動きをまとめたもの 現金および現企同等物 = 資金 現金同等物 定期預金や公社債投資信託など、取得日から満期日、または償還日までの期間が3か月以内の短期投資 即時に換金が可能 資金計算書の作成時点と換金時点とにおいて、額に大きな変動がないもの 1期間における資金情報を開示する財務表 キャッシュフロー計算書の役割は、現金創出能力、負債返済能力、配当支払い能力、利益の質を評価すること 資金計算書 資金情報を開示する計算書の総称 資金の動きを調達と用途とに分けてまとめたもの 資金の範囲(資金概念)をどのように捉えるかによって、いろいろな資金計算書を作成することができる キャッシュフロー計算書は資金計算書の1つ
2023.09.17 77. キャッシュフロー計算書の作成 キャッシュフロー計算書の作成 間接法と直接法の違いは、「営業活動によるキャッシュフロー」の部分のみで、「投資活動によるキャッシュフロー」と「財務活動によるキャッシュフロー」は同じである 間接法 営業活動によるキャッシュフロー 一般的に、「税引前利益」に対して調整を行っていく 一般的に、税金と利息の支払いは、「営業活動によるキャッシュフローの小計」の後に「支出」として記載される キャッシュフロー計算書 (間接法) 税引前利益 (経常利益) 55 売掛金の増加 △50 商品の減少 100 買掛金の減少 △50 減価償却費 80 支払利息 15 小計 150 利息の支払い △15 税金の支払い △22 営業活動によるキャッシュフロー 113 有価証券の増加 △20 建物の増加 △500 投資活動によるキャッシュフロー △520 借入金の返済 △100 増資 500 財務活動によるキャッシュフロー 400 現金の増減 △7 期首現金 100 期末現金 93 直接法 営業活動によるキャッシュフロー 営業収入は、通常の営業活動による収入である 営業収入の「300」は、売上「350」から売掛金の増加分「50」を差し引いて計算されている 営業活動において現金支出をともなった費用が、営業収入から差し引かれる形で表示されるため、減価償却費は表示されない 営業収入 前期末の売掛金がすべて当期に回収されていれば、「200」の売上収入が当期に計上される ↓ 当期の売上「350」がすべて現金によるものであれば、売上収入は「550」となる一方、売掛金は「0」となる ↓ 「250」の売掛金がある =「550」から売掛金「250」を差し引いた「300」が当期の売上収入になる ↓ 売上収入 = 当期の売上「350」から売掛金の増加分「50」を差し引いた額 仕入支出 前期末の買掛金をすべて当期に支払っていれば、「150」の仕入支出が当期に計上される ↓ 当期の仕入 = 売上原価「200」+ 期末商品在り高「200」- 期末商品在り高「300」= 100 ↓ 当期の仕入「100」がすべて現金によるものであれば、仕入支出は「250」となる一方、買掛金は「0」となる ↓ 「100」の売掛金がある =「250」のうちの「100」は支払っていない ↓ 当期の仕入支出「250 - 100 = 150」 キャッシュフロー計算書 (直接法) 営業収入 300 商品の仕入支出 △150 小計 150 利益の支払い △15 税金の支払い △22 営業活動によるキャッシュフロー 113 有価証券の増加 △20 建物の増加 △500 投資活動によるキャッシュフロー △520 借入金の返済 △100 増資 500 財務活動によるキャッシュフロー 400 現金の増減 △7 期首現金 100 期末現金 93
2023.09.16 76. 貸借対照表と損益計算書 利益と収支のズレ 例1の、現金勘定の差額「△7」と税引後利益は「33」を比較すると、収支と利益には「40」のズレがある このズレは、非資金的損益項目、資産・負債・資本の増減によって調整される 例1. X1年度~X2年度 比較貸借対照表 X1年度末 X2年度末 差額 現金 100 93 △7 売掛金 200 250 50 商品 300 200 △100 有価証券 30 50 20 建物 0 500 500 備品 400 320 △80 資産合計 1,030 1,413 買掛金 150 100 △50 借入金 300 200 △100 資本金 500 1,000 500 未処分利益 80 113 33 負債、資本合計 1,030 1,413 例2. X2年度 損益計算書 売上高 350 売上原価 200 売上総利益 150 減価償却費 80 営業利益 70 支払利息 15 経常利益 (税引前利益) 55 税金 22 税引後利益 33 利益から収支への調整ルールによる集計 例1の比較貸借対照表に示された前期(X1年度)と当期(X2年度)との差額のうち、現金勘定以外の勘定の差額を「利益から収支への調整のルール」によって集計する 「未処分利益の増加 = 税引後利益」である 表2のように、税引後利益(未処分利益の増加)「33」に対して、売掛金の増加「△50」から、資本金の増加「500」までの数値を加減することで、収支への調整ができる 表1の備品の減少「80」は、表2の減価償却費(非資金的損益項目)「80」に相当する 備品の減少は、備品の売却による減少でなく、減価償却によるものである 表1と表2の合計金額は一致する 表1. 比較貸借対照表の現金以外の勘定の増減をまとめた表 売掛金の増加 △50 商品の減少 100 有価証券の増加 △20 建物の増加 △500 備品の減少 80 買掛金の減少 △50 借入金の減少 △100 資本金の増加 500 未処分利益の増加 33 合計 △7 表2. 表1の数値を使って現金の増減(収支)を計算した表 税引後利益 (= 表1. 未処分利益の増加) 33 売掛金の増加 △50 商品の減少 100 有価証券の増加 △20 建物の増加 △500 減価償却費 (= 表1. 備品の減少) 80 買掛金の減少 △50 借入金の減少 △100 資本金の増加 500 現金の増減 (= 表1. 合計) △7