36. 認識:費用

発⽣主義会計における収益・費⽤の認識

  • 収益の認識基準
    • 「発⽣主義」に確定性・客観性という制約を付けて「実現主義」を適⽤
  • 費⽤の認識基準
    • 「発⽣主義」を適⽤
    • 広義の概念
      • 収益獲得への貢献の有無を区分せず、あらゆる経済価値の減少を「費⽤」と認識
    • 狭義の概念
      • 財・サービスの消費による経済価値の減少に基づいて「費⽤」と認識
      • 収益の獲得に貢献する経済価値の減少でなければならない
      • ⽕災、盗難などによる経済価値の減少は「損失」
  • 収益ありきの費⽤
    • 利益計算は「期間収益から期間費⽤を差し引く」という形で⾏われることから、期間費⽤は「期間収益に対応する費⽤」として認識される

費⽤の発⽣

  • 価値減少の「確定事実の発⽣」
    • 財・サービスの消費によって価値の減少が客観的に認められいる
    • 後になって取り消されることのない事実として⽣じている
  • 価値減少の「原因事実の発⽣」= 原因主義
    • 現時点では価値の減少を客観的に確定することはできず、将来その確定が確認できる
      • 例)備品や建物などの固定資産の費⽤化
        • ⻑期にわたって使⽤される資産は、最終的に廃棄される時点でなければ、その価値の減少は確定しない
        • 使⽤や時間の経過とともに価値は減少していることから、消費分が費⽤として認識されなければ、合理理的な期間利益計算は⾏えない
        • 使⽤や時間の経過という価値減少の原因事実の発⽣にもとづいて「減価償却」という形で費⽤化していく
    • 価値減少の原因となる事実がすでに⽣じてい
      • 例)製品保証引当⾦(負債性引当⾦)
        • 販売後の⼀定期間における無料修理を保証して、製品を販売したときに設定される引当⾦
        • 「製品を販売したことが将来における価値減少の原因となる」という「原因事実の発⽣」に基づいて、製品を販売した期間に費⽤を認識する

費⽤の認識における発⽣主義

  • 「確定事実の発⽣」だけでなく、「原因事実の発⽣」も含んだ概念
    • 広義の発⽣主義
      • 原因事実の発⽣も含めたもの → 費⽤の認識
    • 狭義の発⽣主義
      • 発⽣主義は価値減少の事実発⽣のみ
  • 費⽤の認識原則
    • 価値減少の確定事実の発⽣だけでなく、原因事実の発⽣をもって認識させる
    • 収益との対応関係を前提するため、費⽤は「確定性を持たない価値減少」をも含んだ発⽣主義に基づいて認識される

35. 2つの収益認識

「実現主義=販売基準」とする場合の収益認識

  • ベースは「販売基準」、「⽣産基準・回収基準」は実現主義の例外
  • 問題点
    • 「実現主義の例外」とみなされる基準やケースが存在してしまう
    • 会計構造全体は「発⽣主義会計」を採⽤しているが、収益の認識では「発⽣主義の例外」が存在してしまう
    • 「実現主義・発⽣主義・現⾦主義」が対⽐関係となり、収益が認識しづらい
ビジネスプロセス
1.材料購⼊
2.⽣産開始 ⽣産基準 「発⽣主義」による収益認識
3.⽣産完了 (実現主義の例外)
4.販売 (引き落とし) 販売基準 「実現主義」による収益認識
5.代⾦回収 回収基準 「現⾦主義」による収益認識 (実現主義の例外)

「実現=経済価値の増加の確定性・客観性が確保された時点」とする場合の収益認識

  • 「販売基準・⽣産基準・回収基準」はすべて実現主義
ビジネスプロセス
1.材料購⼊
2.⽣産開始 ⽣産基準 「実現主義」による収益認識
3.⽣産完了
4.販売 (引き落とし) 販売基準
5.代⾦回収 回収基準

どちらの収益認識が妥当か

  • 実現主義は「確定性・客観性の確保」という要件を満たした時点で、経済価値の増加を認識するのが妥当
    →「販売基準・⽣産基準・回収基準=多様な業種・業態における収益の確定性・客観性の確保のケース」と捉えてしまう
  • 「実現主義=⼀定の制約条件をともなった発⽣主義」とするのが妥当
    →「収益における実現主義」と「費⽤における発⽣主義」が「発⽣主義会計」という1つの会計構造の中に⽭盾なく存在でき

34. 認識:実現主義と発⽣主義会計

収益の認識

  • 取引の対価である「現⾦の増加」ではない
  • 取引の対象である「経済価値の増加」である

認識⾯からみた会計構造

  • 現⾦主義会計ではない
  • 発⽣主義会計である

収益認識の基準

  • 「販売基準」は⼀般的に適⽤される
  • 「⽣産基準」や「回収基準」は、実現主義の適⽤、あるいは実現主義の例外とも考えられる

33. 認識:実現主義の基準

「実現」の⼀般的な要件

  • 財貨の引き渡しやサービスを提供したとき
  • その対価として、特定資産を受領したとき、または債務を弁済したとき

販売基準による「収益」の認識

  • 販売⾏為の完了時点で収益を認識すること
  • 「現⾦等価物」の解釈は複数存在するものの、⼀般的に販売⾏為の完了をもって「収益の実現」とみなされる
    • 「実現主義=販売基準」と同義に捉えられることもある
  • 今⽇の会計制度では、販売基準以外の収益の認識も少なからず認められている

⽣産基準による「収益」の認識

  • ⽣産過程の途上、または完了の時点で収益を認識すること
  • ⽣産基準の種類
    1. 時間基準
      • 不動産賃貸業、⾦融業、電⼒会社、ガス会社のように、⼀定の契約にもとづいてサービス提供が⾏われている場合
      • 時間の経過に応じて収益を認識することが可能
    2. ⼯事進⾏基準
      • 建設業、造船業のように、⽣産の前に請負契約が結ばれ、完成物の引き渡しと取引価格(販売価値)とが確定している場合
      • ⽣産、または⼯事の進捗度に応じて収益を認識することが可能
    3. 収穫基準
      • 政府などによる買い⼊れが定められている特定の農産物、鉱産物(ただし、貴⾦属,宝⽯として扱われるものに限る)のように、所定の価格での販売が保証されている、あるいは容易に販売しうる市場(売り⼿市場)が存在する場合
      • (販売以前の)収穫、または⽣産を完了した時点で、収益を認識することが可能

⽣産主義に対する⾒解

  • 「実現主義=販売基準」の⾒地からすると、販売⾏為の完了以前における収益の認識である
    • 実現主義の例外(発⽣主義の適⽤)とみなされる
  • 実現主義の根拠に「収益の確定性・客観性」を求める場合は、⽣産主義は実現主義の⼀例とみなされる
    • 収益の確定性・客観性=決定的な事柄の存在を求める考え

回収基準(回収期限到来基準)による「収益」の認識

  • 代⾦の回収の可否にかかわらず、回収期限(⽀払い期限)が到来した時点で収益を認識すること
  • 例:割賦販売(クレジット販売)
    • 販売代⾦を分割払いとする場合、販売⾏為を完了しただけでは、収益の確実性を確保できたとはいえない
    • 実際に代⾦が回収されるまでは、収益の成⽴が不確実な状態にある
    • 代⾦の回収が⻑期に渡るため、代⾦が完全に回収されない危険性が⾼い
    • 代⾦の回収にあたって、販売後にある程度の「回収費⽤」を要する
    • 収益の確実性を確保するため、代⾦の回収時点まで、収益の認識を先送りすることが認められている

回収基準に対する⾒解

  • 「実現主義=販売基準」の⾒地からすると、販売⾏為の完了後における収益の認識である
    • 実現主義の例外(現⾦主義の適⽤)とみなされる
  • 実現主義の根拠に「収益の確定性・客観性」を求める場合は、回収基準は実現主義の⼀例とみなされる
    • 割賦販売 → 代⾦の回収時点が収益の認識 → 代⾦回収の実現 → 実現主義の⼀例

32. 貨幣性資産

貨幣性資産

  • 現⾦
  • 現⾦等価物

貨幣性資産の受領

  • 貨幣性資産の受領によって、利益の処分可能性が⽣まれる
  • 利益は処分の対象となり、株主への配当などで分配される
  • 収益に資⾦的な裏づけがなければ、利益の分配は実⾏できない

現⾦等価物の捉え⽅

① 再販売過程を要しない資産 ② ⽀払⼿段に充当する資産
基本的な考え⽅
  • 販売しなくても現⾦化できるものであれば「現⾦等価物」とみなす
  • 現⾦として回収されるまでの時間は問題としない
  • 必要に応じて直ちに換⾦できれば「現⾦等価物」とみなす
  • 現⾦化するのに販売過程を要するかどうかは問われない
例)対価として売掛⾦、または受取⼿形を受け取った場合
  • その回収期限が期間内に到来せず、現⾦化されなくとも、対価は現⾦等価物とみなす
  • 現⾦化されるのに販売過程を経る必要はない
  • 短期的に現⾦化できるものであれば、現⾦等価物とみなす
  • 現⾦化に相当の時間がかかり、現⾦回収上のリスクが⾼いものは、現⾦等価物として認めるのが難しい
    例)割賦販売の売掛⾦
例)対価として売買⽬的有価証券を受け取った場合
  • 販売(市場での売却)という過程を経なければ現⾦化できないため、現⾦等価物とみなさない
  • 必要に応じて、市場で直ちに売却(現⾦化)できることから、⽀払⼿段として認め、現⾦等価物とみなす

現⾦等価物の判断基準

  • 利益の処分可能性を重視すれば、現⾦等価物には「即時の換⾦性」が求められる
  • 収益の対価に現⾦等価物が含まれ、それが即時現⾦化できるものでなれば、利益の処分可能性に資⾦的な裏付けは保証されない
  • 「② ⽀払⼿段に充当する資産」の⽅が資⾦的な裏付けを保証する

31. 認識:実現主義

実現主義とは

  • 経済価値の増加が確実になった時点で、収益を認識すること
  • 発⽣主義会計では、収益の認識に「実現主義」が適⽤されている

実現主義の成⽴条件

  • 販売⾏為の完了
      ↓
  • 企業の産出した経済価値が現実の経済社会で受け⼊れられる
      ↓
  • 収益(経済価値の増加)の実現とみなされる(実現主義の成⽴)
      ↓
  • 経済価値の増加は、その後取り消されることのない確定性と客観性を備える

販売⾏為完了の成⽴条件

  • ① 財貨の引き渡し(所有権の移転)、サービスの提供
    • 法律上の所有権移転とは必ずしも⼀致しない
    • 当事者間で取引が⾏われたという事実の存在が、会計の認識対象
  • ② ①の対価として貨幣性資産(貨幣の性質をもった資産)の受領、または債務の弁済
    • ⼀般的に「現⾦」「現⾦等価物」によって認識される

30. 収益の認識と実現主義

収益とは

  • 企業の経営活動の成果
  • 各企業が、具体的な⽣産活動や流通活動を通じて、新たな経済価値を形成する(経済価値を増加させる)ことによって⽣じる

営業プロセスにおける経済価値の増加

  • 製造業を営む企業の場合
    • 営業プロセス:原材料を購⼊し、それを製造⼯程に投⼊・加⼯することで製品を完成させ、完成した製品を販売して、最終的にその代⾦を回収する
    • 経済価値の増加:製造⼯程において、⽣産物に⼿が加えられることによって、徐々にその経済価値は増加している
  • ⼩売業や卸売業を営む企業の場合
    • 営業プロセス:他の企業から財貨(商品)を仕⼊れ、それをまた別の企業や消費者へ販売し、最終的にその代⾦を回収する
    • 経済価値の増加:財貨の物理的(場所的)な移転にともなって、経済価値の増加が⽣じている

発⽣主義で収益を認識したときの問題

  • 発⽣主義による収益の認識
      ↓
  • 製造業では、製造⼯程が進⾏する度に収益を認識するため、把握するのが不可能に近い
      ↓
  • 商業では、財貨の物理的な移転に基づいて収益を認識するが、常にあらかじめ定めた価格で販売できるとは限らない
      ↓
  • 収益の確定性や客観性が確保されるまで、その認識を延期すべき
      ↓
  • 実現主義の誕⽣

29. 現⾦主義会計から発⽣主義会計への移⾏

発⽣主義の成⽴をもたらした要因

  • ①「固定資産」という概念の出現
  • ②「在庫」という概念の出現
  • ③ 信⽤経済の発達

① 固定資産の出現

  • 当座企業から継続企業へと変化する
      ↓
  • 「期間」という慨念が出現する
      ↓
  • 事業拠点を持ち、建物や機械など、⻑期的に使⽤する資産を多く保有するようになる
      ↓
  • 複数の期間に渡って資産を保有・使⽤する
      ↓
  • 固定的なものとして資産を認識する(資本の固定化)
      ↓
  • 「固定資産」という概念が出現する
      ↓
  • 固定資産の多くは、使⽤することによって時間の経過とともに、その経済価値が減少する
      ↓
  • 資産を取得したときの「現⾦の⽀出」と、経年劣化による資産の「経済価値の減少」に、時間的なズレが⽣じる
      ↓
  • ズレを処理ための会計が求められる

② 在庫の出現

  • 当座企業は、残ったものもすべて処分して利益を計算していた
      ↓
  • 「売れ残り(在庫)」という概念が存在しなかった
      ↓
  • 当座企業から継続企業へと変化する
      ↓
  • 「期間」という慨念が出現する
      ↓
  • 事業の拠点を構え、⼯場や倉庫、機械などの固定資産を⽤いるようになる
      ↓
  • ⼤量の⽣産や仕⼊れが継続的に可能となる
      ↓
  • 期末に商品・製品の売れ残りが発⽣する
      ↓
  • 「売れ残り(在庫)」という概念が出現する
      ↓
  • 在庫を処理ための会計が求められる

③ 信⽤経済の発達

  • ⼤量の⽣産や仕⼊れが継続的に可能となる
      ↓
  • 掛け取引や⼿形取引(信⽤経済)が⾏われるようになる
      ↓
  • 信⽤経済が発達する
      ↓
  • 財貨やサービスの引き渡し・受け取りと、その対価である現⾦の受け取り・⽀払いとに時間的なズレが⽣ずる
      ↓
  • 時間的なズレは、同⼀の期間内において⽣じることもあれば、複数期間に渡ることもある
      ↓
  • 複数期間にまたがった取引を処理ための会計が求められる

発⽣主義会計の導⼊

  • 当座企業から継続企業へと企業形体が変化する
      ↓
  • 期間、固定資産、在庫、信⽤経済の出現によって経済社会が変化する
      ↓
  • 「現⾦の収⽀」と「経済価値の増減」とに時間的なズレが⽣ずるようになる
      ↓
  • 「個別計算(⾮期間計算)」から「期間計算」へという利益計算が変化する
      ↓
  • 「現⾦主義」から「発⽣主義」へと会計における認識が変化する
      ↓
  • 「発⽣主義会計」を導⼊する

現⾦主義会計から発⽣主義会計への移⾏

企業形体 利益計算 認識原則
過去

現在
当座企業

継続企業
 
――→
影響
⼝別計算

期間計算
 
――→
影響
現⾦主義

発⽣主義

28. 現⾦主義と発⽣主義

現⾦主義

  • 取引において、現⾦の受け取りと⽀払いに基づいて、収益と費⽤を認織する考え⽅
  • 「現⾦の収⼊」に基づいて「収益」を認識し、「現⾦の⽀出」に基づいて「費⽤」を認識し、これらの差し引きによって「利益」の計算を⾏う
  • 現⾦主義で処理する会計を「現⾦主義会計」という

発⽣主義

  • 経済価値の増減に基づいて収益と費⽤を認識する考え⽅
  • 現⾦主義で処理する会計を「発⽣主義会計」という

現⾦主義会計

  • 中世イタリア商⼈による地中海貿易にて⽤いられた
    • 当時の企業は、ひとつの航海ごとにその終了が予定されている「当座企業」であった
        ↓
    • 利益の計算は、航海の終了を待って、企業または事業全体を清算していた
        ↓
    • 当座企業では、収益と費⽤は企業の全活動期間における収⼊と⽀出として捉えていた
        ↓
    • 収⼊(収益)と⽀出(費⽤)との差額が利益として把握された
        ↓
    • 当座企業では現⾦主義会計が最も適した⽅法であった
  • 企業形態が「当座企業」から「継続企業」に移⾏するにつれて、現⾦主義会計は利益計算に適さなくなっていった
    • 継続企業は終了が予定されていないため、全活動期間の利益を把握することができない
        ↓
    • 企業の経営活動に期間を定めて、その期間について会計を⾏うようになる
        ↓
    • 「現⾦主義」から「発⽣主義」への移⾏

発⽣主義会計

  • 区切られた期間における収益と費⽤、その差額の利益を適切に把握する
  • 取引の対価である「現⾦の収⽀」ではなく、取引の対象である「経済価値そのものの増加や減少」に基づいて、収益と費⽤を認識する
  • 「実現主義」に基づいて収益を認識し、「発⽣主義」および「収益費⽤対応の原則」に基づいて費⽤を認識し、これらの差し引きによって利益を計算する

27. 認識段階における原則

会計における認識

  • 企業の経常活動の中で、会計上の取引に該当するものが、会計の中に取り込まれる
  • 認識 = 資産・負債・資本・収益、費⽤を把握すること
    • 貸借対照表:資産・負債・資本
      • どのような経済事実の存在をもって把握することができるかが問題となる
    • 損益計算書:収益・費⽤
      • いつ把握するかが重要となる
      • どの期間に帰属させるかによって、期間利益が⼤きく左右される
      • 近年の会計は、適正な期間利益計算を主な課題とするため、収益と費⽤の認識基準が重要となる
  • 会計において認識されたものは、貨幣数値によって測定される

資産・負債・資本の認識の問題

  • どのような条件を備えた経済事実が存在することによって、資産、負債、資本として会計上把握できるのか?
  • 資産 = 企業資本を「具体的な運⽤状況」から⾒た概念
    • どのような条件を備えた運⽤形体を「資産」として捉えるか?
  • 負債・資本 = 企業資本を「調達状況(または持ち分関係)」から⾒た概念
    • どのような条件を備えた調達先(または持ち分関係)を、負債や資本として捉えるか?

資産・負債・資本に求められる条件

  • 資産の条件
    • 将来における経済的資源の流⼊が発⽣する可能性が⾼いこと
  • 負債の条件
    • 将来における経済的資源の流出が発⽣する可能性が⾼い、あるいは確定していること
    • 債権者に帰属する持ち分であること
  • 資本の条件
    • 将来における弁済、または給付義務を負わない源泉であること
    • 株主に帰属する持ち分であること