イノベーションのジレンマ:第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる (3)
優良企業の組織は顧客によって束縛され、自由がきかない。優良企業の合理的かつ機能的な資源配分プロセスは、破壊的技術の商品化を妨げることがある。また企業が大きくなって優良企業になると、新しい市場に早い段階から参入するための根拠が集めづらくなる。
企業の成長率は、株価に強力な影響を与える。企業の株価が将来の利益予測を表すのであれば、株価水準が上昇するか下落するかは、市場の成長予測や企業の利益予想に左右される。株価が堅調に上昇すれば、有利な条件で増資できるようになるし、経営資源も集めやすくなるが、その一方で、企業が大きくなればなるほど、成長率を維持することは難しくなる。
以上のように優良企業はさまざまな制約を受けることから、新しい市場へ参入するのに出遅れる。優良企業にとっては魅力がないほどの小規模であるうちに、破壊的技術が生み出す新しい新市場へ参入することは極めて重要となる。
優良企業の経営者が破壊的変化に直面したとき、小規模市場とその成長をどのように捉えたらよいだろうか。クリステンセン教授は3つのアプローチを提案している。
- ① 新しい市場の成長率を押し上げる
新しい市場が優良企業の増収増益に影響を与えるよう、短期間で市場の成長率を高める。 - ② 市場がうまみのある規模に拡大するまで待つ
市場が形成され、その性格があきらかになるまで待ち、十分にうまみのある規模に達したところで参入する。 - ③ 小規模な組織に小さなチャンスを与える
破壊的技術を商品化する業務を、その売上規模に見合った小規模な組織に任せる。
①~③の要点について次稿より具体的に紹介する。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
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イノベーションのジレンマ:第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる (1)
クリステンセン教授は第6章の冒頭で、破壊的イノベーションの実現には次の点を認識する必要があると述べている。
- 破壊的イノベーションに対応するのは、持続的技術に対応するとき以上にリーダーシップが重要である。
- 破壊的イノベーションに直面した経営者は、誰よりも早く破壊的技術を商品化する必要がある。
- 既存の市場に参入して熾烈な競争に会うよりも、新しい市場を開拓した方が、リスクが低く見返りが大きい。
- 破壊的技術を開発するプロジェクトは、対象とする市場に見合った規模の組織に組み込む必要がある。
- 小規模な新しい市場では、大企業における短期的な成長と利益ニーズを満たせない。
優良企業は期待する成長率を維持するのに、毎年度、収入を大幅に増やす必要がある。したがって、破壊的イノベーションがターゲットとする小規模な市場は、優良企業の収入を増やすための対象として有効ではない。このギャップを埋める方法の1つは、破壊的技術の商品化を目的とするプロジェクトを、小規模な市場に見合った小規模な組織に組み込み、企業が成長してもこのような慣行を繰り返すことである。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第5章の要点
イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (7)
第5章を通して、持続的イノベーションと破壊的イノベーションについて次のことが言える。
[持続的イノベーション]
- 一般的に市場が複雑なほど、持続的イノベーションにおけるリーダーシップの重要性は低い。
- 持続的イノベーションでリーダーシップをとったからといって、待ちの戦略をとった企業より優位に立てるという確証はない。
[破壊的イノベーション]
- 破壊的技術を開発し商品化するプロジェクトを、それを必要とする顧客を持つ組織の中に組み込む。
- 破壊的技術に適した価値基準やコスト構造を持つ組織を作り出す。
- 破壊的技術を開発するプロジェクトは、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せる。
- 破壊的技術に取り組むために(主流組織の資源の一部は利用するが)主流組織のプロセスや価値基準は利用しない。
- 経営者が破壊的イノベーションを“適切な”顧客に結びつけると、顧客の需要により、イノベーションに必要な資源が集まる可能性が高くなる。
- 破壊的技術を商品化する際は、破壊的製品の特徴が評価される新しい市場を見つけ出す。
- 破壊的技術の市場を探るときは、早い段階にわずかな犠牲で失敗にとどめられるよう計画を立て、試行錯誤の繰り返しの中で市場を形成していく。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
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イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (3)
「どのプロジェクトに人材と資金をつぎ込み、どの企画につぎ込まないかを決定する」という企業の資源配分プロセスは、顧客が支配している。つまり顧客が望めば、プロジェクトに資金が割り当てられる。イノベーションの実現は、この資源配分プロセスに依存している。
重要な資源配分の決定は、プロジェクトが承認された後、現場のマネージャーによってなされることが多い。現場のマネージャーは、複数のプロジェクト/製品において人材や設備やベンダーの取り合いが生じたときに、その優先順位を決定する。
現場のマネージャーは、どのプロジェクトを上層部に提案し、どのプロジェクトを優先すべきか、またどのようなタイプの顧客や製品が企業にとって最も利益になるのかを意識している。どの案を支持するかによって、社内で出世できるかどうかも気にしている。企業の利益追求とマネージャーの出世欲が、顧客ニーズに合った資源配分プロセスを決定し、ひいてはイノベーションの実現にも影響を与える。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社