30. 国富

フロー

  • 1年間で新たに生産された国内総生産(GDP)や国民所得(NI)

ストック

  • それまで蓄積されたもの
  • 「固定資本(住宅や道路・港湾・機械など)」に「再生できない有形資産(土地や森林など)」と「対外純資産」を加えたもの

国富(日本のストック)

  • 地価が高いため、国富の約半分を土地が占めている
  • 道路・港湾・橋などの「生産関連社会資本」は充実している
  • 公園・上下水道・図書館などの「生活関連社会資本」は欧米諸国と比べて不足している
  • 国富の規模は、1995年が3118兆円で、2008年末には2787兆円に減少(バブル経済の崩壊で土地資産が減少)

29. 国民所得

国民所得の三面等価

  • GNP・GDPを「生産・分配・支出」の3つの面から捉える
  • ① 生産国民所得、② 分配国民所得、③ 支出国民所得 の各総額は等しい
① 生産国民所得
  • 「第一次産業・第二次産業・第三次産業」に分かれる
  • 産業の割合によって、国の産業構造の発展段階を知ることができる
  • 日本は「第三次産業」が70%を超え、経済のサービス化が進展している
② 分配国民所得
  • 「雇用者所得(賃金など)」「企業所得(利潤など)」「財産所得(利子や地代など)」から構成される
  • 「雇用者所得」は60%を超えている
③ 支出国民所得
  • 「民間最終消費支出(家計の消費支出など)」「政府最終消費支出」「国内総資本形成(企業の設備投資や政府の公共投資など)」「経常海外余剰」から構成される
  • 「民間最終消費支出」は55%を超えている
  • 家計の消費支出の動向は景気に大きな影響を与える

28. 国民総生産(GNP)と国内総生産(GDP)

GNPとGDP
国民総生産(GNP)
  • 国民経済の大きさを示す指標
  • 国民が1年間に新たに生産したモノやサービスの粗付加価値の合計額
    • 粗付加価値には減価償却費(固定資本減耗分)が含まれる
  • 生産物販売総額から、原材料などの中間生産物購入総額を差し引いたもの
  • 海外にある日本企業が生産した価値の額は計算に入れられているが、日本国内にある外国企業が生産した価値の額は入れられてはいない
国民純生産(NNP)
  • GNPから、工場や機械などの減価償却費(固定資本減耗分)を差し引いたもの
  • NNPは市場での取引価格で評価されているため、消費税などの間接税が含まれる一方で、補助金分だけ安くなる
国民所得(NI)
  • NNPから間接税を引き、補助金を加えたもの
国内総生産(GDP)
  • GNPから海外からの「純所得(外国からの所得の受取-外国に対する所得の支払)」を差し引いたもの
  • 経済の国際化が進展してきたため、GNPではなくGDPを経済指標に用いるようになった
  • 国民の福祉にとってマイナスとなる要因も計算に含まれている
    • 公害を発生させる産業活動
    • 環境破壊をもたらす開発
    • 長時間労働・長時間通勤 など

27. 経済指標

政府が行う経済政策の目標

  • 国民の福祉の実現
  • 経済成長と景気や物価の安定

経済状態を示す指標(ファンダメンタルズ:経済の基礎的条件)

  • 国民総生産(GNP)
  • 国内総生産(GDP)
  • 国民純生産(NNP)
  • 国民所得(NI)
  • 鉱工業生産指数
  • 失業率
  • 物価指数 など

国民の福祉水準を示す指標

  • 国民純福祉(NNW)
  • グリーンGDP など

26. 日本の物価の長期的な動向

第二次世界大戦直後

  • 年率100%を超えるハイパー・インフレーション(ハイパーインフレ)が起こった
  • 経済復興のために復興金融金庫などが資金を大量に供給して、激しいインフレーションが続いた(復金インフレ)

1960年代

  • 高度経済成長期(1954年~)には、卸売物価(企業物価)は安定していた
  • 消費者物価は、年率で平均5~6%の上昇が続いた
  • 中小企業製品、農産物、サービスの価格が上昇して「生産性格差インフレ」が起こった
  • 高度経済成長によって賃金が上昇した
    • 大企業への影響
      • 生産性を上昇させて賃金コストの上昇を吸収できた
    • 中小企業、農業、サービス業への影響
      • 生産性の伸びが賃金上昇に追いつかなかった
      • コストの上昇を、一部の製品やサービスの価格に転嫁した結果、消費者物価が上昇した

1970年代

  • 1973年の石油危機による原油価格の上昇と、列島改造ブームによる地価の高騰によって、急激な物価上昇を招いた(狂乱物価)
  • 1970年代初めには、 日本を含む先進資本主義諸国は、スタグフレーション(不況下での物価上昇)にみまわれた
    • スタグフレーション=景気停滞(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)の合成語

1980年代

  • 内外価格差の問題
    • 1985年の「プラザ合意」による円高ドル安誘導政策
    • 輸入品価格が下落し、円高差益が発生
    • 価格の下落には至らなかった
    • 欧米諸国との「内外価格差」が問題へ
  • バブル景気
    • 円高不況に対応するため、公定歩合が引き下げられる
    • 余剰資金が、土地や株式などに投機的に投資される(財テク)
    • 地価や株価などの資産価格が高騰
    • バブル経済へ

1990年代

  • バブル経済が崩壊した1990年代になると、景気が低迷して価格が下落する傾向が続いた
  • 1993年ごろからは、円高による安いアジア製品の流入、規制緩和による大型小売店の進出、大型量販店(デイスカウント・ストア)の出現により、メーカー主導の価格設定の仕組みが崩れた
  • 価格破壊(価格引下げ競争)が起こって、1990年代末から2000年代の初めにかけてデフレーションが発生した

2000年代

  • 2008年秋、アメリカの投資銀行の経営破綻(リーマン・ショック)をきっかけとして、世界金融危機がはじまった
  • 世界金融危機の影響を受けて、日本の物価が低迷する
  • 2009年秋、日本政府は再び「デフレ状態にある」と宣言した

25. 規制緩和

規制緩和

  • 経済を活性化するために、政府によるさまざまな規制を縮小すること
  • 経済のあり方を、市場経済の原理に基づくものにするため、政府は公企業の民営化、規制緩和や自由化などの政策をとる

規制緩和の効果

  • 市場における公正で有効な競争条件が整備され、国民にとっての利便性が向上し、雇用の拡大が図られる
    • 新規ビジネスへの参入や新サービスの開拓による生産の効率化
    • 価格の低下
    • 内外価格差の縮小(同一の商品・サービスの国内と国外の価格差が縮まる)
    • 消費者の選択肢の拡大
  • 財政の肥大化や国民の過度な税負担を抑制し、必要なところに政府の支出を重点、配分できる

1990年代以降の規制緩和の例

  • タクシ一台数の制限撤廃
  • 電力自由化
  • 酒類免許制度の撤廃
  • 港湾運送事業への新規参入
  • 電気通信事業の開放
  • 農業への株式会社参入
  • 郵便事業の民間開放
  • 地ビールなどの最低醸造量の緩和
  • 人材派遣業の認可及び範囲の拡大

24. 企業買収による寡占・独占

19世紀後半に生まれた企業集中の形態

  • カルテル(企業連合)
    • 同一業種の複数の企業が独占目的で行う、価格・生産計画・販売地域等の協定
    • 官公庁などが行う入札制度における事前協定を「談合」と呼ぶ
  • トラスト(企業合同)
    • 同一業種の複数の企業が株式の買収や持合い、受託を行ったり、持ち株会社を設立して同種企業を傘下に持つなどして、企業として一体化すること
    • 市場を寡占、独占することを目的としている
  • コンツェルン(企業連携)
    • 親会社が個々に独立した企業の株式を持ち、実質的に支配すること
    • 銀行かそれに相当する企業の持株会社が、多種多様な産業を支配した状態
  • コングロマリット(複合企業)
    • 異業種の会社まで合併などで吸収し、多種類の事業を営む大企業
    • 企業のM&A(合併・買収)を積極的に行う

TOB(株式公開買付)

  • ある株式会社の経営権を握ることを目的に、「買付け期間・買取り株数・価格」を公表して、不特定多数の株主から株式市場外で株式を買い集める仕組み
  • 第三者が、企業買収や子会社化など、対象企業の経営権の取得を目的に実施することが多い

TOBの種類

  • 友好的TOB
    • 買収される会社の経営陣などの賛同を得て実施する株式公開買付け
  • 敵対的TOB
    • 賛同を得ずに一方的に行う株式公開買付け

TOBの具体例

  • ライブドアによるニッポン放送の買取に対抗した、フジテレビの「友好的TOB」
  • ドン・キホーテによるオリジン東秀への「敵対的TOB」と、それに対抗したイオンの「友好的TOB」
  • 村上ファンドによる阪神電気鉄道M&A、それに対抗した阪急ホールデインクスの「友好的TOB」
  • 王子製紙による北越製紙への「敵対的TOB」

23. 市場の発展

市場での自由競争に勝つための動き

  • 企業は大量生産によって商品のコストを下げようとする(規模の経済)
  • 企業の規模は次第に大きくなる(生産の集積)
  • 競争力のない企業が市場から消える(生産の集中)
  • 市場には少数の大企業だけが生き残る(寡占・独占)

規模の経済

  • 生産量の増大につれて、平均費用(コスト)が減少した結果、利益率が高まる傾向のこと
  • 規模の経済性が働く産業
    • 他の企業に先駆けて市場に参入し、いち早く生産量を拡大した企業が、競争力を強め、市場において有利な地位を確立する
  • 日本の主要輸出製品(自動車や半導体など)
    • 規格化しやすく、大量生産に適した製品
    • 生産量の拡大に伴い、生産技術の向上などの習熟効果が強い
    • 研究開発費などの初期投資が巨額である
    • 量産によるコスト低下の効果が著しい

寡占市場

  • 寡占:市場に少数の大企業しかいない状態
    独占:市場が1杜で支配されている状態
  • 寡占市場の特徴
    • 技術革新でコストが下がったり、需要が減少したりしても、価格が下がりづらい(価格の下方硬直性)
    • 市場シェアが最も高い企業が「プライス・リーダー」となって価格を設定すると、他の企業もそれに続いて同じ価格を設定する(管理価格)
    • 宣伝などによって購買欲を刺激されて、商品を買う傾向が強くなる(依存効果)
    • 宣伝費が巨額にふくらみ、それが価格に転嫁される
    • デザイン、ブランド、宣伝、アフターサービスなどによる「非価格競争」が行われる

独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

  • 自由で公正な競争を確保するための日本の法律
  • 公正取引委員会(独立した行政委員会)が取り締まる
  • 自由競争の確保のために、カルテル、談合、ダンピング、再販売価格維持制度などを禁止
    • カルテル
      • 企業・事業者が独占目的で行う、価格・生産計画・販売地域等の協定
    • 談合
      • 公共工事などの入札の際に、入札価格や業者間の利益配分、落札業者を事前に話し合って決めること
    • ダンピング
      • シェアの拡大や競争に勝つために、商品の販売価格を適正な価格より不当に安くすること
    • 再販売価格維持制度
      • 品質低下を避けるために、メーカーが卸売価格や小売価格を指示して、問屋や小売庖に商品を流す制度
      • 書籍・CD・新聞・医薬品や化粧品など一部の商品について独占禁止法を適用しない

22. 市場経済の機能

資本主義経済における「市場」

  • 供給:企業は、生産物を商品としてより高く売ろうとする
  • 需要:消費者は、より良い商品をより安く買おうとする(需要)
  • 市場:供給と需要が価格によって調整される場

完全競争市場

  • 自由競争が行われている市場
  • 完全競争市場の特性
    • 供給が需要より多いと商品が売れ残り、価格は低下する
    • 価格が下がると、供給側は供給を減らし、需要側は需要を増やす
    • 需要が供給より多いと品不足となり、価格は上昇する
    • 価格が上がると供給側は供給を増やし需要側は需要を減らす

市場価格

  • 市場での需要と供給の関係で決まる価格
  • 需要と供給の関係によって価格は上下するとともに、需要と供給は価格を目安に調整される

価格の自動調節機能

  • 市場価格が需要と供給を調整する働き
  • アダム・スミスいわく「神の見えざる手」
  • 価格の自動調節機能 = 市場メカニズム(市場機構)

市場経済

  • 市場メカニズムによって資源の最適配分が実現される経済
  • 市場経済の種類
    • ① 斜陽産業
      • 需要が減少している産業
      • 商品が売れずに価格が下落するため、平均利潤が減少する
    • ② 成長産業
      • 需要が増加している産業
      • 商品の需要が多く、価格が上昇し、平均利潤が増加する
  • 資本が ① 斜陽産業 から ② 成長産業 に移動し「資源の最適配分」が行われる

市場の種類

  • 商品市場
    • モノやサービスが取引され、財の価格が市場価格の役割を果たす
  • 労働市場
    • 労働が取引され、賃金が市場価格の役割を果たす
  • 金融市場
    • 資金が取引され、金利が市場価格の役割を果たす
  • 株式市場(証券市場)
    • 株式などが取引され、株価が市場価格の役割を果たす
  • 外国為替市場
    • 外国通貨が取引され、外国為替相場(為替レート)が市場価格の役割を果たす

21. デフレーション(デフレ)

デフレの原因

  • 輸入品の増加
    • 中国などで生産された安い輸入品が大量に日本に流入し、物価が下がった
    • 例)カジュアル衣料「ユニクロ」の低価格戦略
  • 需要の弱さ
    • 景気の長期低迷で、消費者が商品を買わなくなり、企業は商品の価格を引き下げていく
    • 例)ハンバーガーショップ「マクドナルド」の低価格競争
  • 資産価値の目減り
    • 土地や株式などの資産価値が目減りする
        ↓
      土地を担保に企業に資金を貸し出していた銀行は、企業に返済を迫るようになる
        ↓
      企業は設備投資や商品の仕入れを抑え、従業員の給与を減らして、借金の返済に回す
        ↓
      銀行は資金の返済が確定するまで、他の企業への新たな貸出しを見送る
        ↓
      経済社会で資金の動きがにぶくなる
        ↓
      商品や設備への需要が減り、物価が下落する

デフレの種類

  • デフレ・スパイラル
    • 物価下落と利益減少が繰り返される連鎖的な悪循環
    • デフレによる物価の下落で企業収益が悪化、人員や賃金が削減され、それに伴って失業の増加、需要の減衰が起こり、さらにデフレが進む

デフレの効果

  • 例1)物価下落
      ↓
    企業の売上が下がる
      ↓
    所得や雇用を通じて家計に悪影響を浸ぼす
      ↓
    経済規模が縮小する
  • 例2)商品価格が下落
      ↓
    企業の生産意欲が減退
      ↓
    経済活動が停滞
      ↓
    賃金の下落や雇用の減少
      ↓
    消費者の買い控え、景気の後退による商品の売れ残り
      ↓
    更なる商品価格の下落(悪循環)