図5-1. 製品アーキテクチャと統合
図5-1の「性能が十分である状況(赤領域)」は、製品の機能性と信頼性があまりにも良くなり過ぎた「オーバーシューティング」という状態である。その状況では顧客は改良製品を喜んで受け入れるものの、割増価格を払ってまで購入する意志はない。
オーバーシューティングでは、機能性と信頼性に関するニーズを満たされてしまうと、顧客は「次に何が十分でないか」を定義し直すようになる。顧客はカスタマイゼーション、速度、利便性に関する新たなイノベーションの改良軌跡に沿った性能向上に対して、喜んで割増価格を支払うようになる。これが起こるとき、ある市場階層における競争の基盤が変わる。
図5-1に示すように、新たなイノベーションの改良軌跡上における競争圧力が、製品アーキテクチャの漸進的進化を押し進める。「性能が十分ではない状況(青領域)」ときには有利だった相互依存型の独自アーキテクチャが、「性能が十分である状況(赤領域)」ではモジュール型設計へと進化する。
モジュール型アーキテクチャは、個々のサブシステムの性能を高める上で全体を設計し直す必要がなく、新製品を早く市場に出すことができるため、「性能が十分である状況(赤領域)」において有利である。標準インターフェースはシステム性能に妥協を強いるが、「性能が十分である状況(赤領域)」では多少の機能性をあきらめる余裕がある。
モジュール型は独立した特化型の組織にも、部品やサブシステムの販売、購入、組立を可能とすることから、産業構造にも大きな影響を及ぼす。相互依存的型では、システムの主要要素のどれか一つを製造するために全ての要素を製造する必要があったのに対し、モジュール型では外部委託が可能になり、また一種類の構成要素を供給して利益を得ることもできる。
モジュール型のインターフェースは、最終的には融合して業界標準となる。これが起こると、企業はそれぞれの分野で選り抜きのサプライヤーから調達した部品をうまく組み合わせて、顧客の特定のニーズに巧みに応えられるようになる。そのような特化型企業が、統合型リーダーを破壊する。特化型企業は、それぞれの顧客が必要とする通りのものを迅速に提供することで競い合う。特化型の構造を持つために間接費が低く、割安価格でも利益をあげながら、ローエンドの顧客を摘み取ることができる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社