イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (3)

製品の「アーキテクチャ(基本設計概念)」は、製品の構成要素とサブシステムを決定し、目標機能を実現するためにそれらがどのように相互作用する必要があるかを定義する。また、任意の2つの構成要素が組み合わさる境界面は「インターフェース」と呼ばれる。

一方の設計・製造方法が、もう一方の設計・製造方法に依存する状態のことを「相互依存型アーキテクチャ」という。あるインターフェイスを挟んで予測不能な相互依存性が存在する場合、組織はどちらか一方の構成要素を開発するために、同じ組織内で同時に両方の構成要素を開発しなければならない。

「相互依存型アーキテクチャ」は、それぞれの構成要素を最適な方法で設計・開発するため、機能面と信頼面での性能を最適化する。これに対して「モジュール型アーキテクチャ」は、あらゆる構成要素の絡み合いや機能が完壁に指定されている。モジュール型インターフェースでは、バリューチェーンの全構成要素または全段階にわたって、予測不能能な相互依存性が全く存在しない。「モジュール型アーキテクチャ」は誰が部品やサブシステムをつくるかを問わない代わりに、厳しい規格によってエンジニアに設計の自由を与えない。

純粋なモジュール型と相互依存型のアーキテクチャは、連続体の両極に位置し、ほとんどの製品がその両極間に位置している。そして製品アーキテクチャを競争状況に適合させる企業が、成功する可能性が最も高い。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (2)

将来顧客が重要だと判断するであろうイノベーション領域において優位に立つためには、「今日何を習得し、将来何を習得する必要があるか」について「片づけるべき用事」をべースに検討する必要がある。

顧客の問題にとって何が「解決策」となるかは、図5-1に示した2つの状況、「性能が十分ではない状況(青領域)」と「性能が十分な状況(赤領域)」で異なる。「性能が十分な状況(赤領域)」では、外部委託による専門化や特化が有利である。

図5-1. 製品アーキテクチャと統合
図5-1. 製品アーキテクチャと統合

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

ジョブ理論

ジョブ理論

ジョブ理論 – イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

クレイトン・クリステンセン (著), タディ・ホール (著), カレン・ディロン (著), デイビッド・ダンカン (著), 依田 光江 (翻訳)

ハーパーコリンズ・ ジャパン 2017.08.01 392ページ

原題:Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (1)

[ 第5章のテーマ ]

  • 新成長事業をできるだけ速く、できる限り成功させるためには、どの業務を社内で行い、どの業務を業者やパートナーに委託するとよいのか?
  • 独自仕様の製品アーキテクチャと、モジュール型のオープンな業界基準を採用する場合とでは、どちらが成功する可能性が高いのか?
  • 非公開の独自アーキテクチャからオープン・アーキテクチャへの進化を引き起こすのは何か?
  • オープン・スタンダードが現れた後にも、再び独自仕様のソリューションを採用する必要が生じることはあるのか?

コア・コンピタンス理論は、企業がすでに持っている広義の能力をいかに活用して多角化するかについてまとめたものである。コア・コンピタンス理論では、企業のコア・コンピタンス(中核的な能力)に結び付く業務は社内に残し、コア・コンピタンスと結び付かない業務については、外部の専門業者に委託すべきとしている。

コア・コンピタンスによる分類の問題点は、現在コア・コンピタンスでないと思われる業務が、将来は非常に重要な能力になるかもしれないという点である。「将来コア・コンピタンスを習得し、社内に留めておくことが必要になる付加価値活動」を事前に知るためには、「状況に基づく理論」を習得する必要がある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (6)

本書における「チャネル」とは、卸売業者や小売店に限らず、企業の製品が最終消費者の手に届くまでの間に、その製品に価値を付加したり生み出したりする、あらゆる存在が含められた「広義のチャネル」である。チャネルに属するすべての企業が「利益をあげながら成長する」という用事を片づけなければならない。

同じようなコスト構造やビジネスモデルを持つ企業同士が競争し、同じような製品を販売することに甘んじれば、利益率は必要最小限のレベルにまで落ち込む。したがって、チャネル内部に作用する“強力で永続的な破壊的エネルギー”として「上位市場への移行性」を活かすことが必要となる。

イノベーションを推進する経営者は「自社の新製品を上位市場に移行するための原動力として捉えてくれるチャネル」を探さなければならない。チャネルが新製品によって競争相手を破壊すれば、企業は「チャネルのエネルギー」を活用して、破壊的イノベーションを起こしたことになる。大きく成功した破壊では、製品とそれを顧客に届けるチャネルとの間に、相互に利益をもたらす関係が成立する。企業は、製品から最大の利益を得るチャネルに、製品を扱ってもらうよう常に気を配らなければならない。

破壊的製品の推進に、特別な金銭的インセンティブを与えるのは賢明ではない。「持続的向上において最も収益性の高い製品を販売する」という重大な責務から注意が逸れてしまうからである。また破壊的製品には、破壊的チャネル(破壊的能力を秘めたサービス企業)が必要となる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (5)

ハーバード・ビジネス・スクールのクラーク・ギルパート教授によると、イノベーションのジレンマを脱出する方法は二段階にわかれる。

  1. 資源配分プロセスでは破壊的イノベーションを「脅威」として位置付けることで、最高幹部からコミットメントを引き出す。
  2. 破壊的イノベーションを「機会」として捉えることができる自律的な組織に、そのプロジェクトを任せる。

ギルバート教授の提言をまとめると図4-1になる。破壊に十分な資源を獲得するためには、それを資源配分プロセスの中で脅威と位置付けるのがベストである。だが新規事業の構築に携わる者は、成長を生み出すという前向きの機会だけを見なければならない。さもなければ、柔軟性やコミットメン卜の欠如という危険に陥ってしまう。

図4-1. 資源のコミットメントを獲得し、それを破壊的な成長機会に向ける方法
図4-1. 資源のコミットメントを獲得し、それを破壊的な成長機会に向ける方法

 
「リスクと見返りから判断して、最も魅力的な機会に投資を集中させる」という優良企業の合理的な資源配分においては、既存の資源配分プロセスを変えるべきではない。だが新市場型破壊を通じて成長を生み出すためには、並行して別の資源配分プロセスを持ち、破壊的な可能性のある機会を既存の資源配分プロセスに導き入れなければならない。

破壊的事業のアイデアは、まだ十分に熟していない状態で並行プロセス(主流市場に向けた既存の資源配分プロセスと新市場型破壊を実現する新しい資源配分プロセスが並行する状態)を生み出す。この並行プロセスを統括する者は、アイデアを先述した4つのパターンに適合するような事業計画として形成しなければならない。また並行プロセスにおいて資源配分を決定する役員は、4つのパターンに適合するかどうかでプロジェクト案の可否を決定しなければならない。市場型破壊の戦略を実行する不確かな環境では、売上予測などの数字よりも4つのパターンへの適合性の方が、成功の予測指標として信頼性が高いからである。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (4)

優良企業は、大規模で明白な用途のある市場で地位を確立した競合企業の既存製品に対抗し、やがては彼らを追い落とすことを狙い、その手段として破壊的イノベーションを無理に用いる。この計画は莫大な投資を必要とし、必ずと言っていいほど失敗する。

破壊的イノベーションは優良企業のコア事業が堅調な間に顕在化するため、新市場型破壊を「機会」と位置付けても、上層部の関心を引くことはできない。既存事業がうまくいっているときに、新成長事業に投資するのはあまり意味がないからである。

優良企業のマネージャーは、本能的に破壊的イノベーションを脅威として捉え、既存の顧客や事業の防衛に注力する。そして将来、破壊から既存顧客を守る必要が生じたときに、新技術を導入してその場に臨もうとする。その結巣、組織は成長機会を逃すだけでなく、最終的には、自らの破滅を招くような戦略を追及することになり、無消費から現れた破壊者にやがて滅ぼされる。

新技術が将来的に顧客を奪おうとも、企業の生命線である既存顧客からの収益は、いかなる犠牲を払ってでも防御しなければならない。優良企業がこのようなジレンマに直面するのに対し、新規参入者にとって破壊は成功を得るための「機会」である。この認識の非対称性こそが、優良企業が破壊的技術を無理やり主流市場に押し込もうする理由である。

優良企業がやらなければならないことは、しかるべき時間にジレンマを乗り避えて、それをチャンスとして活かすことである。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (3)

クリステンセン教授は、ケーススタディから新市場型破壊の4つのパターンを抽出した。

  1. ターゲット顧客はある用事を片づけようとしているが、お金やスキルを持たないため、解決策を手に入れられずにいる。
  2. このような顧客は、破壊的製品をまったく何も持たない状態と比較する。そのため、本来のバリュー・ネットワークの中で、高いスキルを持つ人々に高い価格で販売されている製品ほど、性能が良くなくても喜んで購入する。こうした新市場の顧客を喜ばせるための性能ハードルは、かなり低い。
  3. 破壊を実現する技術の中には、非常に高度なものもある。だが破壊者はその技術を利用して、誰でも購入し利用できる、シンプルで便利な製品をつくる。製品が新たな成長を生み出すのは「誰でも使える」からこそである。お金やスキルをそれほど持たない人々でも消費を始められる。
  4. 破壊的イノベーションは、まったく新しいバリュー・ネットワークを生み出す。新しい顧客は新しいチャネル経由で製品を購入し、それまでと違った場で利用することが多い。

この4つのパターンは、破壊的イノベーションにとって理想的な顧客や用途市場を探すためのテンプレートとして使える。また、未完成のアイデアをこのパターンに適合する事業計画として形成すれば、新たな市場成長を生むこともできる。

実績ある競合企業(優良企業)は、この4つのパターンが起こっている間は、新興市場への参入者を自分たちの安泰を脅かす存在として考えない。新しいバリュー・ネットワークの成長は、しばらくは主流市場の需要に影響を与えないからである。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (2)

ローエンド型破壊では、主流製品を現在使っているが、性能の一層高い製品には無関心だと思われる人々が理想的な顧客である。ローエンド型破壊で成功する秘訣は、ローエンドのビジネスを勝ち取るために必要な低い価格でも、魅力ある利益を得られるようなビジネスモデルを考案することにある。

新市場型破壊の顧客、つまり「無消費者」を見つけるには、3つのリトマス紙(用事の質問)を用いるとよい。無消費は、用事を片づけたいが、市販製品が高すぎたり、複雑すぎたりするため、自力で出来ずにいるときに発生する。このタイプの無消費が、成長機会をもたらす。

新市場型破壊は、金やスキルを持たなかった大勢の人が、製品を購入し、利用することで、自力で用事をこなせるようにするイノベーションである。そして無消費とは、用事を片づける必要があるが、望ましい解決策がこれまで手の届かないところにあった状況のことである。このような新市場を標的とするイノベーターの行為を「無消費に対抗している」という。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (1)

[ 第4章のテーマ ]

  • 我が社はどのような顧客を標的にするべきか。
  • どのような顧客基盤を持てば、大きな発展を遂げられるか。
  • 規模が最大の市場を追求すれば、成長性も最大に高められるのか。
  • 競合企業が狙う顧客群を予測する方法はあるか。
  • 我々の製品を喜んで受け入れ、市場をできるだけ速く成長させる上で必要な資源を注ぎ込んでくれるのは、どのような流通販売チャネルか。

これまでの章では次の点を言及した。

  • 第2章:既存事業を成長させるためには持続的イノベーションが重要だが、新成長事業として成功する確率が高いのは破壊的戦略である。
  • 第3章:企業は、顧客が片づけようとしている用事を反映する区分ではなく、データが入手可能な区分に沿って市場を細分化することが多い。

企業は誤った細分化の枠組を用いて、顧客が欲しがらない製品を市場に出すことが多い。それは、顧客が片づけようとしている用事とは無関係な標的に狙いを定めるからである。

どのような初期顧客が、利益ある成長事業を築く確かな基盤となる可能性が高いだろうか。そして、どうすればそのような人々に到達できるだろうか。これら2つの問題を本章では取り上げる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社