イノベーションへの解:第4章 自社製品にとって最高の顧客とは (1)

[ 第4章のテーマ ]

  • 我が社はどのような顧客を標的にするべきか。
  • どのような顧客基盤を持てば、大きな発展を遂げられるか。
  • 規模が最大の市場を追求すれば、成長性も最大に高められるのか。
  • 競合企業が狙う顧客群を予測する方法はあるか。
  • 我々の製品を喜んで受け入れ、市場をできるだけ速く成長させる上で必要な資源を注ぎ込んでくれるのは、どのような流通販売チャネルか。

これまでの章では次の点を言及した。

  • 第2章:既存事業を成長させるためには持続的イノベーションが重要だが、新成長事業として成功する確率が高いのは破壊的戦略である。
  • 第3章:企業は、顧客が片づけようとしている用事を反映する区分ではなく、データが入手可能な区分に沿って市場を細分化することが多い。

企業は誤った細分化の枠組を用いて、顧客が欲しがらない製品を市場に出すことが多い。それは、顧客が片づけようとしている用事とは無関係な標的に狙いを定めるからである。

どのような初期顧客が、利益ある成長事業を築く確かな基盤となる可能性が高いだろうか。そして、どうすればそのような人々に到達できるだろうか。これら2つの問題を本章では取り上げる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (6)

顧客はやりたくない用事には手を出さない。また新製品が手に入るからといって、片付ける用事を変えることもない。「顧客がすでに片づけようとしていた用事」を、より効果的に手軽にやり遂げるのに役立つ新製品であれば成功するだろう。

「破壊の足がかりを特定する」ということは「将来の顧客になり得る人々が生活の中で片づけようとしている、特定の用事と結び付く」ということである。問題は、新製品の事業計画を策定するプロセスの中で、捉えた機会を定量化せざるを得ないことにある。

定量化のために利用できるデータは、一般に、製品の属性や潜在顧客の人口統計的、心理的要因に基づく特徴に沿って体系化されている。消費者の真のニーズと、製品開発の取り組みを方向付けるデータとの間にミスマッチがあるために、企業はイノベーションの標的を実在しない目標に置くようになる。

片づけるべき用事を見極めることが重要なのは、足がかりを見つけるためだけではない。持続的向上を進める間も特定の用事に結び付いたままでいること、そして顧客を雇うべき製品に誘導する目的ブランドを構築することが、破壊的製品を成長軌跡上に留める唯一の方法である。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (5)

なぜ優良企業は属性べースの細分化に基づく製品改良を進め、他社と区別の付かない万能型の製品を生み出すのだろうか。その原因は優良企業の社内で作用する、以下の4つの抵抗力にある。

(1) 的を絞ることへの恐れ
製品の焦点を特定の用事に絞ると、それ以外の用事を片づけようとしている顧客にとっての魅力が薄れる。「どのような用事のために雇われるべきか」を明確にすることは、「どのような用事では雇われるべきではないか」を同時に示すことになるからだ。
    解決案

  • 状況ベースの区分によって製品開発を行えば、競合他社の機能を模倣しなくなる。
  • 顧客が片づけようとしている用事に的を絞れば、新製品開発の成功確率を高められる。

(2) 上層部による機会の定量化の要求
優良企業の上層部は、市場機会の規模を定量化するために市場に関するデータを利用することが多い。そのため優良企業の資源配分プロセスは、企業の市場構造に関する考え方を、最終的にはデータが入手可能な線に沿わせるようにシステマティックかつ予測通りにねじ曲げる。
     解決案

  • 顧客が片づけなければならない用事ではなく、データの入手可能性に基づいて市場分野を定義すれば、製品のアイデアが顧客の用事と結びつくかを予測できなくなる。
  • 顧客の世界を「製品」という観点から捉えると、顧客にとってほとんど意味のない特長、機能、雰囲気などを次から次へと作り出してしまう。
  • 新製品開発のプロセスでは、成果を測定する目的で収集されたデータを使うべきではない。
  • 用事や状況をベースとした市場区分の規模や性質を定量化するには、一般的な市場定量化手法とは異なる調査・分析手法を用いなければならない。

(3) チャネルの構造
小売販路や流通経路は、顧客が片づけなければならない用事に沿ってではなく、製品区分で組織化されていることが多い。このようなチャネル構造のせいで、イノベーターは片づける必要のある用事に合わせて、製品の的を絞ることができない。
    解決案

  • 既存の小売または卸売チャネルは、自分たちの収益を伸ばすのに役に立たない製品を売ろうとはしない。
  • 製品を売ってもらうためには、新しい部類の小売業者や流通業者や付加価値再販業者を探し、彼ら自身が上位市場へ移行して既存のチャネルを破壊する原動力となるような製品を提供しなければならない。

(4) 広告とブランド戦略
消費者市場が年齢、性別、ライフスタイル、製品区分などに沿って切り取られていれば、コミュニケーション戦略を立てやすく、費用対効果が高い広告媒体を選択できると、優良企業は考えている。
    解決案

  • コミュニケーション戦略に合わせて市場を細分化すると、ターゲット顧客の属性が製品開発プロセスを混乱させ、結局は、複数の用事をこなすものの、どれひとつとして完璧にはできない製品を開発することになる。
  • ブランドを通じて、顧客に対してではなく、状況に対してコミュニケートすべきである。
  • もしブランドが「片づけなければならない用事」として認識されれば、顧客は暮らしの中でその用事が発生したときは、そのブランドを思い出して製品を雇うだろう。
  • ローエンド型破壊が既存ブランドを損なうという懸念に対しては、破壊的製品が雇われるべき用事を想起させる「目的ブランド」を構築するとよいだろう。
  • 顧客が製品と用事を結び付けることに手助けとなるブランド戦略があれば、破壊は容易になる。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (4)

「顧客が片づけようとしている用事」という観点から市場を従えることで、顧客の時間の過ごし方に即したイノベーション項目を定義することができる。どの製品が顧客と結び付くかを明らかにする「状況ベースの区分」に基づく理論があれば、従来イノベーションにおいて一か八かの賭けだったものが、理解しやすく予測可能になる。

特定の用事をよりうまく片づけられるような特長や機能に長い間注力すればするほど、そしてマーケティング・メッセージを特定の用事に長く絞れば絞るほど、メーカーは速く成長することができる。競合企業からシェアを奪うだけでなく、同じ用事をするために雇われる、その他の製品やサービスからもシェアを獲得することができる。企業が特定の用事に改良を集中すれば、製品はいつまでも差別化され、収益性も高くなるだろう。

メーカーが競合企業のすべての機能を、ひとつの多目的型機器に必死に詰め込もうとすると、コモディティ化された区別の付かない製品になる。このような結果に至る理由は「片づけなければならない用事」ではなく「製品の属性や顧客の属性」という観点から市場を促えるからだ。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (3)

破壊的事業の刺激的な成長が始まるのは、イノベーションが向上して、既存企業の製品に取って代わるときである。初期のイノベーションに対して、この成長を「持続的向上」という。持続的向上は、収益性のさらに高い顧客のニーズを満たすために背伸びをすれば実現する。

ローエンド型破壊者にとってのマーケティング上の課題は、低コストのビジネスモデルを上位市場にまで拡張し、収益性の高い顧客が片づけようとしている用事をこなす製品にも適用することである。他方、新市場型破壊における挑戦は、上位市場に向かう経路を作り出すことである。上位市場への破壊的行進を続けるためには、「用事」を基にした細分化方式による適切な改良を選択することが鍵となる。

表3-1の例が示すように、市場区分に基づいて製品を定義すれば、顧客が片づけたい用事をうまくこなすことができない。市場区分に基づいた製品は、見分けのつかない万能型になりかねない。

表3-1. 携帯用ワイヤレス電子端末(ハンドヘルド機器)市場の捉え方の例
製品別の市場 人口統計的属性別の市場 片づけるべき用事別の市場
市場定義 無線ハンドヘッド機器市場 出張しがちな営業マン ちょっとした時間の合間を有意義に使うこと
競争相手 パームのパイロット
ハンドスプリングのトレオ
ソニーのクリエ
HPのジョルダナ
コンパックのアイバック
携帯電話
ノートブックパソコン
固定インターネット・アクセス
固定電話
携帯電話
携帯電話
ウォール・ストリート・ジャーナル
CNN工アボート・ニュース
退屈なプレゼンを聞く
何もしない
追加すべき機能の候補 デジタルカメラ
Word
Excel
Outlook
音声電話
スケジュール管理ソフト
手書き文字認識
無線インターネット・アクセス(データ送受信のための回線容量)
ダウンロード可能なCRM
データ機能
オノライン旅行代理店への無線アクセス
オンライン株式取引
電子ブックや電子マニュアル
電子メール
音声電話
電子メール
留守番電話
音声電話
見出しニュス(頻繁な更新)
単純な人遊びのゲーム
常時オン

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (2)

「製品がどのような用事をするために雇われているか」を理解し「うまく片づけられずにいる用事にはどのようなものがあるか」を知ることができれば、イノベーターは、顧客視点から見た真の競争相手を打ち負かすためのロードマップを手に入れることができる。そして、顧客が抱える用事のあらゆる側面に向けて製品を改良することができる。

成長とは「顧客が特定の用事を片づけるために、不満を感じながらも時折雇っている他の分野の製品」からシェアを奪うことで生まれる。そして製品の新たな成長は「無消費」の中に潜んでいる。無消費と対抗することは、どの用事も満足にこなせない万能型の製品がはびこる世界において、最大の成長を生み出す方法である。

新成長事業を構築するにあたり、ターゲット顧客が片づけようとしている用事を突き止めることが最初に必要になるのは、新市場型破壊への参入点(破壊のための足がかり)となる最初の製品やサービスを模索するときである。破壊的製品の標的を「多くの人が片づけようとしているが、これまでどのような製品もうまくこなせなかった用事」に絞ることができれば、それを最初の足がかりとすることができる。そして持続的な向上を行うことで、その後も成長し続けることができる。

新市場型破壊では、最初から製品導入のあらゆる側面を正しく捉えることは無理かもしれない。しかし「片づけるべき用事」というレンズがあれば、「顧客がやがて価値を認める製品と同じ路線の初代製品」をもって、市場に参入することができる。

新市場型破壊の足がかりとなる「人々が片づけようとしている用事に近い初代製品」を素早く市場に出すためには、観察や聴取を通じて顧客が片づけようとしている用事を見極めるとともに、迅速な開発と素早いフィードバックを戦略的に行う必要がある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第3章 顧客が求める製品とは (1)

[ 第3章のテーマ ]

  • 破壊的戦略を実行するためには、どのような製品を開発すればよいのか。
  • どの市場分野をターゲットとするべきか。
  • その市場分野の顧客が、製品のどのような特長や機能を高く評価するか、しないかを、前もって確実に知る方法はあるか。またどのようにして製品の利点を顧客に伝えればいいか。
  • 永続的な価値を創造するブランド構築戦略とは、どのようなものなのか。

マーケティングでは、同じ製品やサービスが全員にアピールするほど似通った顧客群を特定する「市場細分化」に重点を置いている。一般にマーケティング担当者は、製品の種類、価格滞、あるいは顧客である個人や企業の人口統計的属性や心理的属性などによって、市場を細分化することが多い。こうした属性ベースの細分化は、属性と結果の相関関係を明らかにすることはできる。

製品にどのような特長や機能を付加し、どのようにポジショニングすれば、顧客に買わせることができるのか、その因果関係を明らかにするのは「状況ベース」の細分化である。“ 顧客は特定の「用事」を片づけるために製品を「雇う」” という考えに基づいて市場を細分化すれば、顧客が現実に生活を送る様子を正確に映し出すような形で、市場を細分化することができる。またその過程で、破壊的イノベーションの機会を発掘することもできる。

顧客(個人や企業)の生活にはさまざまな「用事」が頻繁に発生し、彼らはとにかくそれを片づけなければならない。顧客は用事を片づけなければならないことに気付くと、その用事を片づけるために「雇える」製品やサービスがないかを探し回る。

顧客の思考プロセスには、まず何かを片づけなくてはという認識が生じ、次に彼らはその用事をできるだけ効果的に、手軽に、そして安くこなせる物または人を雇おうとする。顧客が片づけようとする用事や、その用事を通じて達成しようとする成果が、状況ベースの市場区分を構成する。製品のターゲットを顧客そのものではなく、顧客が置かれている状況に絞れば、狙い通り成功する製品を市場に展開することができる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第2章 最強の競合企業を打ち負かす方法 (8)

表2-1は新成長事業の創出を試みる企業が取り得る3つの戦略「(1)持続的イノベーション、(2)ローエンド型破壊、(3)新市場型破壊」の特徴を対比したものである。

表2-1. 新成長事業創出における3つのアプローチ
特徴 (1)持続的イノベーション (2)ローエンド型破壊 (3)新市場型破壊
製品やサービスの目標性能 最も要求の厳しい顧客が最も重視する属性における性能向における従来の性能向上。これには、漸進的または画期的な向上が含まれる 主流市場のローエンドにおける従来の性能指標に照らして十分良い性能 「従来型」の属性では性能が劣るが新しい属性(特に単純で便利なこと)での性能向上
目標顧客または用途市場 性能向上に対価を支払う意志のある、主流市場の最も魅力的な(つまり最も収益性の高い)顧客 主流市場のローエンドにいる、過保護にされた顧客 無消費をターゲットとする。つまり製品を購入、使用するために必要な、金やスキルを持っていなかった顧客
どのようなビジネスモデル(ロセスやコスト構造)が必要になるか 既存のプロセスやコスト構造を活用し、現在の競争優位を十分に活かして、利益率を改善または維持する 運営面または財務面(または両方)における新しいアプローチ。低い粗利益率と高い資産活用率をさまざまに組み合わせることによって、市場のローエンドでビジネスを得るために必要な低価格でも魅力的な利益率を得る 販売単位当たり価格が低く、当初は単位生産量が少なくても、儲けが出るようなビジネスモデル。販売単位当たりの粗利益益額はかなり低くなる

破壊とは、競争の帰結が状況に応じてどのように変化するかを、高い精度で予測できる、因果関係を示す概念モデルである。表2-1と前述のリトマス試験を用いれば、アイデアをプランとして形成する際に、さまざまな戦略がどのような競争上の帰結をもたらすかを、あらかじめ知ることができる。

革新的なアイデアのすべてを、破壊的戦略として形成できるわけではない。必要な前提条件が存在しない場合があるからだ。そのような状況では、優良企業に機会を与えるか任せるのが得策である。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第2章 最強の競合企業を打ち負かす方法 (7)

破壊的事業を計画する際、イノベーションのアイデアに破壊的戦略としての可能性があるかどうかを判断するために、3つのリトマス試験をクリアしなければならない。
 
最初は、アイデアが「新市場型破壊」の戦略に成り得るかを検討する。次の2つの質問のうち少なくとも1つ(一般的には両方)の回答がYESでなければならない。

[ リトマス試験1 ]

  • これまで金や道具やスキルがないという理由で、これをまったく行わずにいたか、料金を支払って高い技能を持つ専門家にやってもらわなければならなかった人が大勢いるか?
  • 顧客はこの製品やサービスを利用するために、不便な場所にある施設に行かなければならないか?

もし「これまではスキルや金を持つ人だけが、不便な場所にある施設でしか利用できなかったもの」を「技術開発によって、スキルや金をそれほど持たない大勢の人でも手軽に所有し利用することができる」のなら、そのアイデアは「新市場型破壊」の戦略として形成することができるだろう。
 
次の質問が満たされるのであれば、そのアイデアには「ローエンド型破壊」の可能性がある。

[ リトマス試験2 ]

  • 市場のローエンドには、性能面で劣る(が十分良い)製品でも価格が低ければ喜んで購入する顧客がいるか?
  • そうしたローエンドの顧客を勝ち取るために必要な「低価格でも魅力的な利益を得られるようなビジネスモデル」を構築することができるか?

一般にローエンド型破壊を可能にするイノベーションは、低い粗利益率でも魅力的な利益を実現するための「間接費を削減する改良」と「資産を早く回転させるための製造プロセスやビジネス・プロセスの改良」の組み合わせであることが多い。
 
イノベーションのアイデアが「新市場型破壊」または「ローエンド型破壊」の条件を満たしたなら、今度は第3のリトマス試験をクリアしなければならない。

[ リトマス試験3 ]

  • このイノベーションは、業界の大手企業すべてにとって破壊的だろうか?

もし一社もしくは複数の大手プレーヤーにとって持続的イノベ ーションである可能性があれば、優良企業の勝算が高く、新規参入者の勝つ見込みはほとんどない。
 
上記のリトマス試験をクリアできなかったアイデアは、破壊的戦略として形成することはできない。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第2章 最強の競合企業を打ち負かす方法 (6)

[ 新市場破壊 ]

新市場型破壊の製品は従来品に比べれば手頃な価格で入手できて使いやすいため、新しい顧客が手軽に購入して利用するようになる。このことから、新市場型破壊は「無消費(消費のない状況)」に対抗するものと捉えることができる。

新市場型破壊は、当初その独自のバリュー・ネットワークのなかで「無消費(消費のない状況)」と対抗するが、性能が向上するにつれ、主流のバリュー・ネットワークの顧客を、最も要求の甘い階層から始めて、次々と新しいバリュー・ネットワークの中に引きずり込むようになる。新製品を使う方が便利だと気付いた顧客を主流市場から引きずり出し、新市場へと引きずり込むのである。

新市場型破壊では競争相手が「無消費」であるため、既存の優良企業は破壊が最終段階に至るまで、痛みも脅威もほとんど感じない。そして優良企業は、新市場型破壊に直面すると攻撃者を無視するように仕向けられる。これが「イノベーションのジレンマ」に陥る原因となる。
 
[ ローエンド型破壊 ]

ローエンド型破壊とは、主流のバリュー・ネットワークのローエンドに端を発する破壊である。主流のバリュー・ネットワークの下層にいる、最も収益性が低く、ニーズを過度に満たされた顧客を攻略することができれば、ローエンド型破壊が成り立つ。

優良企業にとってローエンド型破壊は、最も魅力の薄い顧客を摘み取ることで成長した、単なる低コストのビジネスモデルのように見える。高い収益性が求められる優良企業にとって、ローエンド型破壊者から逃げ出さず、立ち向かうことは非常に難しい。そのため優良企業がローエンド型破壊に直面すると、攻撃から逃走するよう動機付けられる。これが「イノベーションのジレンマ」に陥る原因となる。
 
[ ローエンド型破壊と新市場型破壊のハイブリッド ]

図2-4に示すように、破壊的イノベーション・モデルの第3軸はローエンド型破壊と新市場型破壊を両極とする連続体である。このことから、破壊的イノベーションは「ローエンド型」と「新市場型」のハイブリッド(混成)であることが多い。

図2-4. さまざまなバリュー・ネットワーク
図2-4. さまざまなバリュー・ネットワーク

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社