イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (3)

オーバーシューティング(十分以上に良い状況)に陥る企業は、破壊によってシェアを奪われるか、コモディティ化を通じて利益を奪い取られてしまう。オーバーシューティングにおいては、将来の魅力ある利益がバリューチェーンの別の場所、つまり別の段階や階層で生み出されることが多い。それはコモディティ化のプロセスが、脱コモディティ化という補完的なプロセスを引き起こすからである。

脱コモディティ化は、バリューチェーンの中の従来魅力ある利益を得ることが難しかった場所に起こる。脱コモディティ化は、かつて差別化が不可能だったモジュール型のプロセスや部品、サブシステム(メインシステムが使用可能になるために必要な機能の一部を提供する部品や構成要素の集まり)などで生じる。

脱コモディティ化は次のような理由により発生する。

  • モジュール型破壊者は、低コストのビジネスモデルをできるだけ速く上位市場に持ち込み、高コストの独自製品メーカーと最前線で競争し続けることでのみ利益を確保する。
  • モジュール型製品の組立業者は、再び利益の得られる上位市場へ駆け上がるために、性能決定サブシステム(性能を決定づける重要なシステム)の向上を求める。
  • その結果、性能決定サブシステムの供給業者は、ますます相互依存的で独自のアーキテクチャを生み出す。
  • すると最終製品がモジュール化し、コモディティ化して、結果的に性能決定サブシステムは脱コモディティ化する。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (2)

「十分でない」最終製品の設計や組立を行う統合型企業が、魅力ある利益を得られる理由は2つある。

  1. 製品の相互依存型の独自アーキテクチャにより、差別化が容易である。
  2. 相互依存型のアーキテクチャを持つ製品の設計と製造では、元来変動費に対する固定費の割合が高く、大きなスケールメリットが働く。

これらのことが大規模な競合企業にコスト優位性を与える一方、新規参入企業にとっては乗り越え難い参入障壁となる。

企業が独自アーキテクチャ製品を競合企業よりも高いコスト競争力で製造できるのは、「十分でない」状況のときである。状況が変化すれば、つまり収益性の高い支配的企業が主流顧客の利用能力を追い抜いてしまえば、このやり方は通用しなくなり、やがてモジュール式が支配的となり、コモディティ化が始まる。モジュール化が進んだ状況で利益を上げるためには、バリューチェーンのどこか他の場所を探さなければならない。

コモディティ化のプロセスは、次のステップで進む。

  1. 新しい市場が生まれると、ある企業が、十分ではないが競合製品に比べれば願容のニーズに近い、独自製品を開発する。企業は独自アーキテクチャを通じて製品を生み出すため、魅力的な利益を得る。
  2. 企業は直接の競争相手より優位に立とうと奮闘するうちに、やがて市場の低位層の顧客が利用できる機能性と信頼性を追い抜いてしまう。
  3. この階層の競争基盤の変化が促される。
  4. モジュール型アーキテクチャへの進化が促される。
  5. 産業の非統合化が進む。
  6. 誰もが同じ部品を入手でき、同じ基準に基づいてそれを組み立てるようになるため、製品の性能やコスト面で競合企業との差別化を図ることが極めて困難になる。
  7. 機能面でのオーバーシューティングが市場の底辺から始まり、上方に移って高位層を襲う。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第6章 コモディティ化をいかにして回避するか (1)

[ 第6章のテーマ ]

  • コモディティ化を引き起こす原因は何か。
  • コモディティ化は競争市場の全企業にとって、避けられない最終状態なのか。
  • どの発展段階にある企業にも、コモディティ化の開始を阻止する措置は取れるのか。
  • コモディティ化の波が産業を席巻した後で、流れが独自アーキテクチャを持つ、差別化された収益力ある製品へと逆流することはあるのか。
  • この流れに乗るには、すれば良いのか。

コモディティ化がバリューチェーンのどこかで作用しているときは必ず、脱コモディティ化という補完的なプロセスがバリューチェーンの別の場所で作用している。コモディティ化は差別化を阻むことで企業の収益力を破壊するのに対して、脱コモディティ化は潜在的な富を創出し、それを獲得するチャンスを生み出す。

産業に新しい破壊の波が次々と押し寄せるなか、差別化能力はバリューチェーンの中を絶えず移動する。そして、バリューチェーンの中の「性能がまだ十分でない地点」に位置を定める企業が利益を手にする。

参考:製品やサービスのバリューチェーンの捉え方

  1. 「プロセス」から捉えるバリューチェーン
    • プロセスとは、製品やサービスを生み出したり供給したりするために必要な付加価値の段階である
    • 設計、部品製造、組立、マーケティング、販売、流通など
  2. 「構成要素(材料の明細表)」から捉えるバリューチェーン
    • 自動車に例えると、エンジンプロック、シャシ、ブレーキシステム、電子機器など

バリューチェーンを特徴付けるプロセスを通過する製品には、さまざまな構成要素が用いられている。そして構成要素のそれぞれに、通過しなければならない一連のプロセスがある。製品のバリューチェーンを分析するのは複雑であり、またどのレベルの複雑性に的を絞るかが重要である。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

ハーバード・ビジネス・レビュー論文

Jobs to Be Done:顧客のニーズを見極めよ DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

クレイトン・クリステンセン (著), タディ・ホール (著), カレン・ディロン (著), デイビッド・ダンカン (著), DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 (編集)

ダイヤモンド社 2017.08.18 39ページ

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (10)

製品の機能性と信頼性が顧客のニーズを十分満たしていない状況で圧倒的に優位に立つ企業は、独自の製品アーキテクチャを持ち、バリューチェーンの中で性能を制約するインターフェースをまたいで統合されている。

一方、機能性と信頼性が「十分以上」になり、代わってスピードとレスポンスが「不十分」な状況では、相互作用の方式がモジュール型アーキテクチャと業界標準によって定義されている特化型の専門企業が優位に立つ。

新市場型破壊の波が始まって間もない頃は、まだ製品が十分でないため、独自アーキテクチャを持つ統合型企業が最も成功する。その後、破壊者たちが数年かけて性能向上を遂げても、やがては間接費が低い特化型企業によるローエンド破壊によって攻撃される。

複数の市場階層に顧客を持つ企業は、こうした競争市場の変化を乗り切るのは難しい。市場の上位層と低位層を獲得する際には、まったく異なる戦略とビジネスモデルが求められるからである。この2つの顧客層を同時に、かつ適切な方法で追求するためには、複数の事業部門が必要になることが多い。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (9)

「純粋な相互依存型アーキテクチャ」と「純粋なモジュール型アーキテクチャ」は連続体の両極をなしており、企業はこの両極間の任意の戦略を任意の時点で選択する可能性がある。

競争基盤が機能性と信頼性にある状況でモジュール型アーキテクチャによって事業を立ち上げると、モジュール式が支配的なアーキテクチャになるまで競争上大きな不利を被るが、必ずしも失敗するわけではない。

リーダー企業が独自アーキテクチャからくる信頼性、機能性での優位を基に競合企業を引き離したときは、アーキテクチャをモジュール化して公開し、低コストの組立能力によって市場拡大に寄与できる企業向けに、サブシステムをモジュールとして積極的に販売し始める必要がある。

破壊的イノベーションにおいても、独自アーキテクチャから事業を始め、競争基盤が変化したときにアーキテクチャを公開して、低コストの組立業者向けに主要なサブシステムを供給することは可能である。このような戦略をとる企業は、ニッチ・プレーヤーになったり、差別化できないコモディティの供給業者になったりすることを回避できる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (8)

費用もそれほどかからず得意な分野に集中できることから、モジュール型製品の価値を構成するサプライヤーとして、新成長事業を立ち上げるのは魅力的だ。しかし、破壊の初期段階ではモジュール化が技術上または競争上、可能でないことが多い。

企業が何かを外部調達するか、逆に何かを顧客に販売するためには、次の3つの条件が満たされていなければならない。

  1. 指定可能性:供給業者と顧客の両者が「構成要素のどの属性が製品システムの動作にとって重要で、どれがそうでないか」を識別できなければならない。
  2. 検証可能性:調達部品が条件を満たしているかどうかを検証するために、それらの属性を評価できなければならない。
  3. 予測可能性:サブシステムによって狙い通りの成果をあげるために、顧客はシステム全体の中でサブシステムがどのように相互作用するかを理解していなければならない。

この3つの条件が揃ってはじめて、効果的なモジュール型インターフェースとなる。製品の性能が十分でないとき、つまり企業が製品の性能を可能な限り高めるために非標準的な製品アーキテクチャにて新技術を用いて競争力を高めているときは、この条件は満たされないことが多い。もし複雑で補完的で予測不能な相互依存関係がシステム内にあるときには、単一組織の中にインターフェースを設けなければならない。

指定可能性、検証可能性、予測可能性が揃ったとき、複数の組織が距離を置きながら連携できるようになる。モジュール型インターフェースが確立すると、そのインターフェースに沿って産業の非統合化が起こる。

指定可能性、検証可能性、予測可能性が存在しない場合は、経営者による監督と調整が、調整メカニズムとして優れた機能を果たす。またモジュール化の条件が満たされない場合は、組織統合が重要となる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (7)

一般に技術改良の軌跡は、どの市場階層においても顧客の利用能力が向上するぺースを上回るため、「相互依存型アーキテクチャ&統合型企業」から「モジュール型アーキテクチャ&特化型企業」へと向かう。

顧客のニーズの変化は、図5-2で示すように比較的緩やかなペースで起こるが、ときには顧客が要求する機能性に非連続的な変化が生じ、顧客ニーズの変化を上方に押し上げることがある。この現象が発生すると、統合が競争優位の源である状況に逆戻りする。

図5-2. 顧客ニーズと競争基盤の変化
図5-2. 顧客ニーズと競争基盤の変化

 
競争において、統合が優位となる地点と非統合が優位となる地点は、時とともに移動する。したがって、バリューチェーンの各段階をつなぐインターフェースをまたいで統合している企業は繁栄する。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (6)

統合化からモジュール化への前進は、製品の改良が進んで顧客の要求を追い抜く度に繰り返される。そして「性能が十分ではない状況」に業界を支配していた独自システムや垂直統合企業は、「性能が十分である状況」では特化型企業に取って代わられていく。

統合は、ある時点では競争上不可欠だが、後には競争上の障害となる。モジュール化と特化を駆り立てるのは、以下の予測可能な因果的連鎖である。

  1. 技術改良のペースは顧客の利用能力を上回るため、ある時点では機能性や信頼性が十分でない製品も、やがては顧客の利用できるものを上回るようになる。
        
  2. その結果、競争基盤が変化し、企業はそれまでとは異なる方法で競争することを強いられる。
        
  3. 顧客が機能性や信頼性の向上に対して割増価格を支払う意志を失うにつれ、今度は顧客が求めるものを必要なときに与える能力を持つ供給業者が、利益を得るようになる。
        
  4. 企業は競争圧力により「スピードと顧客ニーズへの対応性をできる限り高めること」を強いられると、相互依存型の独自仕様の製品アーキテクチャを、モジュール型に進化させることによって、この問題を解決する。
        
  5. モジュール型を通じて産業の解体が実現し、一部の特化型企業が、かつて業界を支配していた統合型企業を打倒する。

性能向上の軌跡が各市場の各階層を通過するにつれて支配を弱め、それと同時にモジュール型のモデルが次第に支配的になっていく。アーキテクチャ戦略や統合戦略の有効性は「性能ギャップ」や「性能過剰」の状況に依存する。状況が再び変化すれば、戦略的アプローチもそれに合わせて変える必要がある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社

イノベーションへの解:第5章 事業範囲を適切に定める (5)

図5-1. 製品アーキテクチャと統合
図5-1. 製品アーキテクチャと統合

 
図5-1の「性能が十分である状況(赤領域)」は、製品の機能性と信頼性があまりにも良くなり過ぎた「オーバーシューティング」という状態である。その状況では顧客は改良製品を喜んで受け入れるものの、割増価格を払ってまで購入する意志はない。

オーバーシューティングでは、機能性と信頼性に関するニーズを満たされてしまうと、顧客は「次に何が十分でないか」を定義し直すようになる。顧客はカスタマイゼーション、速度、利便性に関する新たなイノベーションの改良軌跡に沿った性能向上に対して、喜んで割増価格を支払うようになる。これが起こるとき、ある市場階層における競争の基盤が変わる。

図5-1に示すように、新たなイノベーションの改良軌跡上における競争圧力が、製品アーキテクチャの漸進的進化を押し進める。「性能が十分ではない状況(青領域)」ときには有利だった相互依存型の独自アーキテクチャが、「性能が十分である状況(赤領域)」ではモジュール型設計へと進化する。

モジュール型アーキテクチャは、個々のサブシステムの性能を高める上で全体を設計し直す必要がなく、新製品を早く市場に出すことができるため、「性能が十分である状況(赤領域)」において有利である。標準インターフェースはシステム性能に妥協を強いるが、「性能が十分である状況(赤領域)」では多少の機能性をあきらめる余裕がある。

モジュール型は独立した特化型の組織にも、部品やサブシステムの販売、購入、組立を可能とすることから、産業構造にも大きな影響を及ぼす。相互依存的型では、システムの主要要素のどれか一つを製造するために全ての要素を製造する必要があったのに対し、モジュール型では外部委託が可能になり、また一種類の構成要素を供給して利益を得ることもできる。

モジュール型のインターフェースは、最終的には融合して業界標準となる。これが起こると、企業はそれぞれの分野で選り抜きのサプライヤーから調達した部品をうまく組み合わせて、顧客の特定のニーズに巧みに応えられるようになる。そのような特化型企業が、統合型リーダーを破壊する。特化型企業は、それぞれの顧客が必要とする通りのものを迅速に提供することで競い合う。特化型の構造を持つために間接費が低く、割安価格でも利益をあげながら、ローエンドの顧客を摘み取ることができる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社