事業の創生期に最も過した資金は「成長は気長に待つが、利益は気短に急かす」タイプの資金である。一方「成長は気短に急かすが、利益は気長に待つ」タイプの資金が初期段階に投資されると、イノベーターに「死の行進」を運命付ける可能性が高い。
新成長事業に適した資金と適さない資金に関する理論の中では、「ベンチャー投資資金か、企業資金か」「公的資本か、民間資本か」「親族・知人からの借り入れか、金融機関からの融資か」という属性ベースの区分(属性に基づく理論)が一般的だろう。これらの分類は、どの資金が新事業の成功に最も役立つかを予測するための基準にはならない。
無消費に対抗し、破壊的イノベーションを通じて上位市場に移行するためには、新成長事業のための資金が成長を気長に待たねばならない。これは新成長戦略において極めて重要な要素である。そして、新事業のための必勝戦略(意図的戦略)が明らかになった後には、成長を気短に急かす資金を用いなければならない。
新事業の創発的戦略策定プロセスを加速させるには、利益を気短に急かす資金を用いる必要がある。新事業の早い段階で利益を出すことが期待されれば、固定費を低く抑えようとするだろう。その結果、低価格でも儲かるビジネスモデルが作り上げられ、新市場型破壊の戦略においてもローエンド型破壊の戦略においても、重要な戦略的資産となる。さらに、早期に利益を実現していれば、会社の財政状態が悪化しても事業が縮小されることがなくなる。
先発者の優位は、「競争」あるいは「GBF戦略(Get Big First)」において現れることがある。GBF戦略では「強力な市場地位をいち早く確立する」というメリットが生まれる。それは顧客にとってネットワーク効果が大きいからである。先発優位性は、成長を気長に待つことが事業の長期的成長性を損なう可能性があることを強く示唆する。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社