16. 財産法と損益法

利益の計算⽅法

  • 貸借対照表においても損益計算書においても、利益を計上することができる
  • 利益に⾄るプロセス、つまり利益の計算⽅法は異なる

貸借対照表での利益計算

  • 財産法:「経営活動によってどれだけ資本(純資産)が増加したのか」というストックの⾯から利益がもたらされる
  • 当期末の資本(純資産) − 前期末の資本(純資産) = 当期の利益

損益計算書での利益計算

  • 損益法:「経営活動において、どれだけのものが費やされ、どれだけのものが得られたのか(どれだけのものが出ていって、どれだけのものが⼊ってきたのか)」というフローの⾯から利益がもたらされる
  • 当期の収益 − 当期の費⽤ = 当期の利益

貸借対照表と損益計算書は利益でつながっている

  • 貸借対照表と損益計算書では、異なる利益の計算⽅法を⽤いるが、その結果は連動している
  • 貸借対照表 当期末の利益 − 貸借対照表 前期末の利益 = 損益計算書 当期利益
    貸借対照表
    借⽅ 貸⽅
    資産 負債
    資本(純資産)
    利益
    ← 連動 →
    損益計算書
    借⽅ 貸⽅
    費⽤ 収益
    利益
  • 貸借対照表・財産法は「結果」、損益計算書・損益法はその「原因」を⽰すもの
    • 損益計算書の「収益」は、貸借対照表の「純資産」の増加をもたらすもの
      → 収益は純資産の増加原因
    • 損益計算書の「費⽤」は、貸借対照表の「純資産」の減少をもたらすもの
      → 収益は純資産の減少原因

15. 損益計算書の構成

損益計算書の構成

借⽅(左) 貸⽅(右)
費⽤ 収益
利益

貸方(右)

  • 収益
    • 商品、製品の販売やサービスの提供などといった企業の経営活動の成果
    • 売上⾼、営業外収益、特別利益

借方(左)

  • 費⽤
    • 企業が収益を得るために費やしたもの
    • 売上原価、販売費及び⼀般管理費、営業外費⽤、特別損失、法⼈税等
  • 利益
    • 収益と費⽤の差額
    • 利益は段階的に計算される
    • 営業総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益

14. 損益計算書

損益計算書とは

  • 企業の経営成績を明らかにするためのもの
  • ⼀定期間(会計期間)における利益の計算が⾏われる
  • 企業の経営活動の⽬的は、第⼀に利益の獲得であり、そのために経営活動は⾏われ、費⽤を使い収益を得て、その結果として利益を獲得する

損益計算書が⽰す利益

  • 借⽅(左)には「費⽤」、貸⽅(右)には「収益」が記帳される
  • 借⽅と貸⽅の差額が「利益」あるいは「損失」となる
  • 収益 − 費⽤ = 利益 (⾦額がマイナスの場合は損失)

13. 貸借対照表の仕組み

資産に該当する勘定科⽬を記録するとき

仕訳時:仕訳帳
借⽅ 貸⽅
資産が増加 → 複式簿記で借⽅に⾦額を記録 資産が減少 → 複式簿記で貸⽅に⾦額を記録
決算時:貸借対照表
借⽅ 貸⽅
借⽅と貸⽅に記録された⾦額をそれぞれ合計して、その差額を借⽅に反映

負債・資本に該当する勘定科⽬を記録するとき

仕訳時:仕訳帳
借⽅ 貸⽅
負債・資本が減少 → 複式簿記で借⽅に⾦額を記録 負債・資本が増加 → 複式簿記で貸⽅に⾦額を記録
決算時:貸借対照表
借⽅ 貸⽅
借⽅と貸⽅に記録された⾦額をそれぞれ合計して、その差額を貸⽅に反映

12. 貸借対照表の構成

貸借対照表の構成

借⽅(左) 貸⽅(右)
資産 負債
資本(純資産)
総資産 総資本

借⽅(左)

  • 借方の意味
    • 資⾦の運⽤情況
    • 調達した資⾦はいまどのようになっているのか
  • 資産
    • 会社が保有する財産
    • 資産に含まれるもの
      • 流動資産:短期的に保有するもの
      • 固定資産:⻑期的に保有する
      • 繰延資産:将来に渡って効果がみられる費⽤を⼀時的に資産として計上したもの
  • 総資産
    • 借⽅にある「資産」の合計⾦額
    • 会社が保有する全財産

貸⽅(右)

  • 貸方の意味
    • 資⾦の調達情況
    • 経営活動のための資⾦をどのようにして調達したのか
  • 負債
    • 返さなくてはならない資⾦(他⼈資本)
    • 負債に含まれるもの
      • 流動負債:短期的に返済するもの
      • 固定負債:⻑期的に返済するもの
  • 資本(純資産)
    • 返す必要のない資⾦(⾃⼰資本)
    • 株式会社であれば、株主から提供された返す必要のない資本
    • 資本に含まれるもの
      • 資本⾦:会社の株主が出資した⾦額(株式の総⾦額)
      • 利益剰余⾦:資本(純資産)の増加分
  • 総資本
    • 貸⽅にある「負債」と「資本(純資産)」の合計⾦額
    • 経営活動の元⼿となるすべての資本

11. 貸借対照表

貸借対照表とは

  • 会計期間の終了時点(通常は期末)における企業の財政状態が⽰されたもの
  • 期間利益計算を主⽬的とする現⾏の会計では、貸借対照表は企業会計原則による制約を受けている
  • 企業会計原則における貸借対照表の定義
    「貸借対照表は、企業の財政状態を明らかにするため、貸借対照表におけるすべての資産、負債および資本を記載し、株主、債権者その他の利害関係者に、これを正しく表⽰するものでなければならない」

貸借対照表等式

  • 会社の財政状態を表す式のこと
  • 資産 = 負債 + 資本(純資産)
  • 資産(会社の財産)は、負債(仕⼊債務や借⾦など)と資本(資本⾦や利益など)から作り上げられることを意図している

10. 財務諸表

財務諸表とは

  • 「企業の経営活動を会計固有の⾔葉を⽤いて表現したもの」をまとめた書類
  • 複数の書類によって構成される
    会社法により作成義務がある財務諸表 ⾦融商品取引法により作成義務がある財務諸表
    • 貸借対照表
    • 損益計算書
    • 株主資本等変動計算書
    • 個別注記表
    • 貸借対照表
    • 損益計算書
    • 株主資本等変動計算書
    • キャッシュフロー計算書
    • 附属明細書

財務諸表の作成

  • 会計上の「取引」に該当するものは、「複式簿記」によって記録される
  • 複式簿記による取引の記録に基づいて、財務諸表が作成される
  • 財務諸表を通じて、会計情報が利害関係者に伝達される

財務諸表に関する会計の流れ

  1. 取引の発⽣
      ↓ 仕訳、複式簿記の適⽤
  2. 仕訳帳への記帳
      ↓ 転記
  3. 元帳への記帳
      ↓ 転記
  4. 試算表の作成
      ↓ 転記
  5. 決算整理、精算表の作成
      ↓ 精算表の算出⾦額をもとに作成
  6. 財務諸表の作成
      ↓ 貸借対照表、損益計算書、その他(キャッシュフロー計算書など)
  7. ステークホルダーへの伝達

9. 取引の記録・伝達

会計における「取引」

  • 会社の財産に増減をもたらす事象のこと
  • 会社の財産は、資本、負債、資本で構成される(詳細は別途)
  • 商品売買のような⾦銭をやり取りする「取引」だけでなく、その事象によって会社の財産が増減するものも「取引」に含まれる

複式簿記

  • 会計上の取引に該当するものは「複式簿記」という⽅法によって記録される
  • 複式簿記による記録⽅法を「仕訳」という
  • 複式簿記では、取引を⼆⾯的に把握し、記録する(取引の⼆⾯性)
  • 取引の⼆⾯を左側と右側とに分けて、「勘定科⽬」を使って記録する
    借⽅ 貸⽅
    勘定科⽬A (例:現⾦) 10,000 勘定科⽬B (例:売上) 10,000
  • 仕訳された(複式簿記によって記録された)勘定科⽬と取引⾦額は、会計期間の期末に整理・集計されて、最終的に「財務諸表」が作成される
  • 財務諸表には、会社の財産状態を⽰す「貸借対照表」と会社の経営成績を⽰す「損益計算書」がある

財務諸表の構成

  • 財務諸表は5つの概念で構成される
  • 貸借対照表
     1.資産
     2.負債
     3.資本(または純資産)
    損益計算書
     4.収益
     5.費⽤

会計⽤語による利害関係者への伝達

  • 企業の経営活動に関する情報は、会計固有の⽤語によって表現された「財務諸表」によって、利害関係者に伝達される
  • 企業の経営活動の良し悪しは、資産、負債、または資本の増減によって判断される

8. 複式簿記

近代会計の規定

  • 近代会計は「期間利益計算」と「発⽣主義」によって規定される
  • 近代会計に⾄るまでに、会計の発展過程において3つのルールが誕⽣した
    1. 複式簿記
      • 14世紀、15世紀頃のイタリアで誕⽣
      • 当座企業から継続企業への移⾏
      • 「継続企業の公準」の成⽴へとつながる
    2. 期間利益計算
      • 16世紀、17世紀頃のネーデルランドで誕⽣
      • 現⾦主義から発⽣主義への移⾏
    3. 発⽣主義
      • 18世紀、19世紀のイギリスで誕⽣
      • 信⽤経済の発達
      • 固定資産の増加
  • 継続企業が「会計期間」をもたらし、期間利益計算が「発⽣主義」をもたらした

7. 会計主体論 (2)

会計主体論の種類

  • 会計主体論には、⼤きく4つの考え⽅がある
  • 資本主 = 企業への出資者 (株式会社では株主)
  1. 資本主論
    企業の所有者 要点
    • 企業は資本主のもの企業の財産は「資本主の財産」
    • 企業の借⾦は「資本主の借⾦」
    • 企業の利益は「資本主の利益」
    • 株主への配当は「利益の分配」
    • 経営者への報酬、銀⾏などに⽀払う利息、従業員の給与などはすべて「費⽤」
    • 資本主によって提供された資⾦のみが「資本」
  2. 代理⼈論
    企業の所有者 要点
    • 企業は資本主のもの
    • 資本主の代理⼈である経営者が存在する
    • 経営とは財産の管理⾏為
    • 企業の利益は「資本主の利益」
    • 株主への配当は「利益の分配」
    • 経営者への報酬、銀⾏などに⽀払う利息、従業員の給与などはすべて「費⽤」
    • 資本主によって提供された資⾦のみが「資本」
    • 資本主は⾃⼰の所有する財産の管理を、経営者に委託し、これを受託した経営者は、財産の所有者本⼈に代わって財産の管理(保存と運⽤)を⾏う
    • 委託・受託の関係、本⼈と代理⼈との関係が存在する
    • 「株式会社」という近代的な企業形体は代理⼈論に当たる
  3. 企業主体論
    企業の所有者 要点
    • 企業は資本主のものではなく、また誰のものでもない
    • 企業は企業それ⾃体のもの
    • 利害関係者を企業の外側に位置づける
    • 企業の財産はあくまでも「企業の財産」
    • 企業の借⾦はあくまでも「企業の借⾦」
    • 企業の利益はあくまでも「企業の利益」、そのままただちに「資本主の利益」とはならない
    • 株主への配当、経営者への報酬、銀⾏などに⽀払う利息、従業員の給与などはすべて「費⽤」
    • 資本主によって提供された資⾦と、債権者によって融通された資⾦はともに「資本」
    • 資本主は債権者と同格の存在
  4. 企業体論
    企業の所有者 要点
    • 企業は種々の利書関係者のもの
    • 利害関係者を企業の内側に位置づける
    • 企業の財産は「種々の利害関係者の財産」
    • 企業の借⾦は「種々の利害関係者の借⾦」
    • 企業の利益は「種々の利害関係者の利益」
    • 株主への配当、経営者への報酬、銀⾏などに⽀払う利息、従業員の給与などはすべて「利益の分配」
    • 資本主によって提供された資⾦と、債権者によって融通された資⾦はともに「資本」
    • 資本主、経営者、債権者、従業員などすべての利害関係者は同格の存在