破壊的イノベーションの研究
保護中: イノベーションへの解:第2章 (4) ベル電話会社
保護中: イノベーションへの解:第2章 (3) デパート
保護中: イノベーションへの解:第2章 (2) 牛肉加工処理
保護中: イノベーションへの解:第2章 (1) コダック
保護中: イノベーションの最終解:第1章のポイント
イノベーションの最終解:第4章 イノベーションに影響を与える市場外の要因 (6)
市場外の要因がイノベーションの力に与える影響は予測可能であり、イノベーターが新しい製品・サービスを開発・活用する「動機づけ」または「能力」に影響を与える。
「能力」または「動機づけ」を高めようとする措置はイノベーションを活性化させる傾向にあり、「能力」や「動機づけ」への障壁を築くような措置はイノベーションを阻害する傾向にある。
動機づけ/能力マトリクスは、イノベーションへの障壁を理解し、介入がイノベーションにどのような影響を与えるかを理解するのに役立つツールである。イノベーションを阻害しているのが市場の不均衡で「動機づけ」をくじく場合、または法的障壁であり「能力」を制約する場合、政府の介入によって業界を温床の領域に押し上げることができる。
これに対して、イノベーションへの障壁が技術的障壁であるか、貧弱な経済性である場合は、政府の介入が業界の競争を促す可能性は低い。業界が市場外の措置によってイノベーションを促進できる状況にあるからといって、イノベーションを促進できるとは限らない。
イノベーションの障害に対して政治的に好ましい措置をとれば、問題を悪化させることがある。また問題が深刻であればあるほど、一つの措置で是正できる可能性は低くなる。政府にできることは、破壊的イノベーターに新しいバリューネットワークの創出を促し、それを通じて業界を変革することである。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社
イノベーションの最終解:第4章 イノベーションに影響を与える市場外の要因 (5)
動機づけ/能力マトリクスを使う方法は次の通りである。
- 企業の現在の「能力」と「動機づけ」を書き出して、現在の環境がそれぞれの種類のイノベーションにとって望ましいかどうかを考える。望ましいものでない場合、イノベーションを阻害している主な障壁を見極める。
- 市場外のプレーヤーが、企業の動機づけや能力に影響を与えるような措置を講じているかどうかを判断する。
- そのような措置が、イノベーションへの主な障壁を取り除くためのものかどうかを判断する。もしそうであれば、その措置はイノベーションを促進すると期待できる。
表4-1は「適切な介入が功を奏する状況(法的な障壁または経済性の歪みがイノベーションを阻害している状況)」と「介入がほとんど効果のない状況(技術的隙壁とジレンマの状況)」を判別する方法をまとめたものである。
状況 | 判別方法 | シグナル | 何が起こり得るか |
---|---|---|---|
市場外の要因が状況を改善し得る |
実証済みの技術をもった企業が市場外の障壁のせいで市場に参入しない
|
能力または動機づけを高めるための正しい措置 |
|
経済性の歪みに対処せず、人為的な動機づけをもたらすような措置 |
|
||
市場外の要因が状況を容易に改善できない | 新規企業が市場に参入するための技術的能力を持っていない(相互依存性が求められる) | 能力を高めようとする措置が失敗する |
|
業界に動機づけも能カもない | 一気に市場の変革を図ろうとする「ビッグバン」方式の措置を強引に進める |
|
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社
イノベーションの最終解:第4章 イノベーションに影響を与える市場外の要因 (4)
政府の影響を予想する上で理解しなければならない3つの原則は次の通りである。
原則1:適切な動機づけを持たせるのは難しい
政府によって企業に適切な動機づけを持たせるのは難しい。政府は「市場が最適に機能していない」というシグナルを「市場が機能していないのは、別のところに根本原因がある」というノイズと取り違える。また仮に政府が根本原因を特定できたとしても、それに対処するのは難しい。
政府は、市場に新規参入する企業が不足していることに対処するために、潜在的競合企業の動機づけを高めようと施策を講じる。このような競争不足の状況においては次のことが言える。
- 既存の規制の枠組み、または何らかの外部性が市場の不均衡を招いているときであれば、「市場が機能不全に陥っていてイノベーションの自然なプロセスが阻害されていることを示すシグナル」として解釈してよい。
- 専門的企業の新規参入を阻害している根本原因が、業界の基本的な経済性にあるか、または相互に依存的なシステムにあるときは「ノイズ」として解釈すべきである。
シグナルに対処するための措置が、動機づけをもたらすことはある。しかし、ノイズに反応してしまったり、根本原因への対応を間違ったりすると「見せかけの動機づけ」をもたらしてしまう。「本物の動機づけ」が競争の激しい市場で利益を上げる機会から生まれるのに対して、「見せかけの動機づけ」は補助金や助成金といった金銭的インセンティブが与えられることで生まれる。
政府と投資家が有望なビジネスモデルやイノベーションを辛抱強く支援するスタミナを持っていれば「見せかけの動機づけ」を「本物の動機づけ」に変えることはできる。
原則2:法律に基づく能力が、技術的能力や業務能力をもたらすとは限らない
企業の市場参入を阻んでいるのが「法的な障壁」であれば、政府は今にもモジュール化しそうなインターフェースを特定・開放して、イノベーションと競争を促進することができる。他方、阻んでいるのが「技術上、業務上の障壁」であれば、政府の措置はあまり効果がない。
規制緩和や規制改革などで「法的な障壁」が取り除かれると、イノベーションの事業化を目指す企業の商業的活動は活発化する。しかし、企業が事業を進めるための「法的能力」を持ったからいって、それを行う「技術的能力」や「業務能力」を持っていることにはならない。
原則3:「ジレンマ」から抜け出すのは困難で時間がかかる
「ジレンマ」においては、政府が措置を講じるのに時間がかかる上に、それが成功する見込みは薄い。とはいえ、政府が「基礎研究」に的を絞れば、企業のジレンマ脱出を手助けすることができる。
競争が停滞している既存市場において、政府が急いで競争的な環境を生み出そうとするときは要注意である。あらゆる手を尽くして「動機づけ」と「能力」を同時に高めようとするあまり、法案が骨抜きになるからである。その結果、既存企業が悪質な操作を行ったり、新規参入企業が規制緩和により生まれた短期的な機会に乗じる貧弱なビジネスモデルを作ったりと、悪い影響をもたらす。
「ジレンマ」では、一気に市場の変革を図ろうとするよりも、次の措置の方が効果的である。
- 「動機づけ」と「能力」の問題のうちの一方に集中する
- 政府が片方の問題に集中して対応するのであれば、もう片方の問題を起業家自身が対処するための環境を作る必要がある。
- 動機づけは予測不可能であることから、政府が能力を促進するような政策から始めた方が、成功する見込みは高い。
- 「参入する動機づけはあるが能力に欠けるプレーヤー層」を政府が特定できるのであれば、大きな効果が期待できるだろう。
- 破壊のプロセスを加速するような政策を考案する
- イノベーションへの障壁があまりにも多い場合や、障壁があまりにも根深く対処できない場合は、破壊を促すことが得策である。
- 破壊を加速させれば企業は隣接するさまざまな市場から飛び出し、変化が遅々として進まないように思われる市場に劇的な変化を強いるだろう。
- 政府による放任的な措置は、企業の自力を底上げし、破壊を促進するだろう。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社
イノベーションの最終解:第4章 イノベーションに影響を与える市場外の要因 (3)
動機づけ/能力マトリクスから次のことが言える。
- 温床:イノベーションの創出と活用が盛んに行われる
- 足かせ:動機づけが能力を補えばイノベーションが起こる
- 燃料不足:イノベーションが起こる確率が低い
- ジレンマ:イノベーションが失敗に至る可能性がある
政府の施策が及ぼす影響として、米国の1996年電気通信法(通信改革法、TRA)のケースを分析すると、3つの教訓が得られた。
- 動機づけを生み出すことは困難であり、危険を伴う
- 能力を生み出すのは思った以上に難しい
- 一度に両方を生み出そうとすれば、壊滅的な結果を招きかねない
また、政府の影響を予想する上で理解しなければならない、3つの重要な原則が導出された。
- 原則1:適切な動機づけをもたせるのは難しい
- 原則2:能力を生み出すのは難しい
- 原則3:法的措置によって企業を「ジレンマ」の領域から救い出すのは非常に難しい
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社