破壊的イノベーションの研究

イノベーションのジレンマ:第11章 イノベーションのジレンマまとめ

破壊的イノベーションに直面したときにうまく機能しないからといって、主流市場で企業を成功に導いてきた能力、組織構造、意思決定プロセスを捨てる必要はない。企業が直面するイノベーションの大部分は持続的な性質のものであり、それらの能力は持続的イノベーションに取り組むために作られているからである。

イノベーションのジレンマに関する洞察は次の通りである。

  1. 市場が求める、あるいは市場が吸収できる進歩のペースは、技術によって供給される進歩のペースとは異なる場合がある。今のところ顧客に役に立つとは思えない製品(破壊的技術)が、明日にはニーズに応えられるかもしれない。この可能性を認識するならば、顧客が現在必要としていないイノベーションについては顧客を頼るべきではない。現状を分析し、会社が直面しているのがどちらの状況なのかを明らかにするには、軌跡グラフが有効である。
     
  2. イノベーションのマネジメントには資源配分プロセスが反映される。必要な資金と人材を獲得した革新的な案には成功の可能性がある。イノベーションのマネジメントが難しい理由の1つは、資源配分プロセスのマネジメントが複雑なことにある。資源配分の決定を実行するのは、企業の主流バリュー・ネットワークの中で知識と直感を身につけてきたスタッフである。
     
  3. あらゆるイノベーションの問題には、市場と技術の組み合わせの問題が伴う。成功している企業は、持続的技術を商品化し、顧客が求めるものを絶えず改良して提供する能力に長けている。この能力は持続的技術に取り組むには貴重だが、破壊的技術に取り組む際には目的に合致しない。企業が破壊的技術を、現在の主流顧客のニーズに無理やり合わせようとすると、ほぼ間違いなく失敗する。破壊的技術の成功ポイントは、その特性が評価される新しい市場を開拓することと、技術ではなくマーケティング上の挑戦と捉えることである。
     
  4. 通常、組織は特定の市場に新技術を持ち込む能力を持っているが、技術を別のやり方で市場に持ち込むことはできない。企業が対応できる製品開発サイクルの期間と生産に至るペースは、企業が属するバリュー・ネットワークの中で培われたものである。組織や個人の能力は、過去に取り組んだ問題の種類によって決められ、磨かれたものであり、その性質は過去に競争してきたバリュー・ネットワークの性質によって形成されている。破壊的技術によって生み出された新しい市場は、それぞれの次元で、全く別の能力を必要とすることが多い。
     
  5. 破壊的技術に直面したとき、目標を定めて大規模な投資を行うために必要な情報は存在しないことが多い。コストをかけず、すばやく柔軟に市場と製品に進出することによって、情報を生み出す必要がある。破壊的技術による成功には試行錯誤が必要である。最初のアイデアにすべてを賭けず、試行錯誤し、学習と挑戦を繰り返す余裕を残しておくマネージャーは、破壊的イノベーションの商品化に必要な顧客、市場、技術に対する理解を深めることに成功する。
     
  6. 企業は、破壊的技術と持続的技術のどちらに取り組むかによって、明確に異なる姿勢をとる必要がある。破壊的イノベーションの場合は、先駆者は圧倒的に有利であり、リーダーシップが重要である。
     
  7. 破壊的技術は、投資することが最も重要な時期にはほとんど意味を持たないため、優良企業の慣習的な経営知識が市場参入や市場移動の障壁になる。持続的技術と破壊的技術の需要の衝突によってイノベーターが直面するジレンマは解決できる。マネージャーはまず、これらの衝突がどのようなものかを理解する必要がある。次に各組織の市場での地位、経済構造、開発能力、価値が顧客の力と調和し、持続的イノベーションと破壊的イノベーションという全く異なる仕事を邪魔せず、支援する環境を作り出す必要がある。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第10章 破壊的イノベーションのマネジメント (2)

破壊的技術に新技術はいらない。むしろ実証済みの技術からできた部品で構成され、それまでにない特性を顧客に提供する新しい製品アーキテクチャーの中で組み立てられる。

破壊的製品は、主要な販売チャネルを塗り替えてしまう。それは流通の収益モデルが、主流バリュー・ネットワークに強い影響を受けて形成されているからである。破壊的技術は、優良企業の収益モデルに合わないだけでなく、既存の流通業者のモデルにも合わないことが多い。そのため、新しい流通経路を見つけるか、創設する必要がある。

破壊的プロジェクトを実行する組織に関しては、次のことが重要になる。

  • 主流組織から独立した破壊的技術に特化した組織を整え、その組織を新しいバリュー・ネットワークの中に組み込む。独立組織にすると「資源依存モデルが(親組織ではなく)自分たちのために機能する」だけでなく「小さな市場では大企業が成長できず利益を出せない」という原則にも対応できる。
  • 「プロジェクトが組織の成長と収益性を高めるための通過点である」ということを理解してもらうのが重要である。「破壊的技術が利益を生むことを、主流組織の全員の心に吹き込む」あるいは「プロジェクトの成功のために必要な過程となるくらいの規模で適切なコスト構造を持った組織を新設する」ことが必要である。
  • 破壊的プロジェクトにおいて、最初の市場への進出は成功しない可能性が高い。失敗を小さくとどめるために、主流組織の価値基準と文化を変えるか、新しい組織を作る必要がある。
  • スカンクワーク(従業員が本来やるべき業務以外の自主的活動)やスピンアウト(会社の一部門を切り離して独立させること)が適切な手段となるのは、破壊的イノベーションに直面したときのみである。
  • バリューチェーン全体に影響を与えるようなアーキテクチャーの変更が発生する場合は、主流企業からは独立した組織で、重量級チームがマネジメントする必要がある。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第10章 破壊的イノベーションのマネジメント (1)

破壊的イノベーションに直面したとき、マネージャーは次の行動をとることで成功を得るだろう。

  1. 破壊的技術の市場と製品を分析する
    • 「自社の製品は競合に対して十分な破壊的脅威となるだろうか」「収益性の高い成長機会となるだろうか」という疑問に対して技術の軌跡グラフを作成し、破壊的技術を見極める。
    • 現在の主流市場の需要を定義し、それを破壊的製品の能力と比較する。
    • 市場の需要を測るため、顧客の意見を聞くだけでなく、顧客の行動を注意して観察する。

     

  2. 技術の軌跡グラフから破壊的技術かどうかを予測する
    • 破壊的製品になるには、いつか主流市場の一部で競争力を持つであろう性能向上の軌跡に乗っていなければならない。この可能性を評価するには「市場で求められる性能向上」と「製品によって供給しうる性能向上」の軌跡を予測する必要がある。
    • これらの軌跡が並行であれば、製品は主流市場の一部にならないだろう。技術の方が需要より速いペースで進歩するのであれば、破壊の脅威は現実のものとなる。

     

  3. 新市場を開拓するマーケティング戦略を策定する
    • 製品が潜在的に破壊的技術であると判断したら、次は新市場を開拓するマーケティング戦略の策定である。
    • 戦略の策定では次のようなポイントを抑える。
      1. 破壊的製品は主流市場の基本的な性能要求を満たしていないため、「最初は主流の用途には使えないこと、確立した市場がないこと」をプロジェクト関係者が認識する。
      2. 破壊的技術の市場に早い時期に参入すれば、後続の企業よりはるかに優位に立つための能力を身につけられるため、いち早く製品が使える市場を見つける。
      3. 足がかりとなる市場で収益をあげて事業基盤とし、その後の持続的イノベーションにはずみをつけ、破壊的技術として上位市場へ、そして主流へと移行する。
      4. 主流市場で破壊的技術の競争力を失わせている特性があれば、それは新しいバリュー・ネットワークでは有利な特性になる。
      5. 初期の市場がどのようなものになるかは市場調査ではわからない。
      6. 市場に関する情報で役に立つのは、実際に市場に踏み込み、試験と検査、試行と錯誤を繰り返し、実際に代金を払うリアルな人びとにリアルな製品を売ることによって得た情報だけである。
      7. 事業戦略は既知の計画を実行するためではなく、学習のための計画でなければならない。
      8. 最初のターゲットに向かって事業を進めるうちに過ちをおかしたら、できるだけ早く何が正しいのかを学ぶ。

     

  4. バリュー・ネットワークと潜在市場を予測する
    • 何が最初のバリュー・ネットワークになるのか、どのような潜在市場があるのかを考える。
    • バリュー・ネットワークや市場の予測は、最終的に当たるかどうかはともかく、少なくとも「破壊的技術の発展」と「成長の過程」に矛盾しないようにする。

     

  5. 製品のライフサイクルを考慮して設計する
    • 製品の競争と顧客の選択が『性能』という尺度から『信頼性』や『利便性』など他の特性に移行しているのであれば、『シンプルさ』や『便利さ』などを特徴とした設計を行う。
    • まず設計においては次の前提が重要となる。
      1. 製品のライフサイクルとともに競争の基盤は変化する。
      2. 性能の供給過剰(技術によって供給される性能が市場の実際のニーズを超えること)が起きると、進化自体が循環する。
    • 性能の供給過剰が起きると、単純、低価格で便利な技術が求められ、破壊的技術の入り込む余地が生まれる。そこに、シンプルさ、便利さといった特性を価値基準に持つ新しいバリュー・ネットワークが生まれる可能性がある。

     

  6. 破壊的技術の設計ポイントを抑える
    • 次の基準に従って設計を進めるとよい。
      1. 単純で信頼性が高く、便利な製品でなければならない。
      2. 製品の最終的な市場と用途は誰にもわからないため、特徴、機能、スタイルを短期間に低コストで変更できる製品プラットフォームを設計する。
      3. 製品の初期モデルは短期間に低コストで仕上げ、市場からのフィードバックに合わせて作り直すための予算を十分に残しておく。
      4. 主流市場の製品よりも価格(あるいは単価)を低く設定する。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル (6)

図9-4. 競争基盤の変化のマネジメント
図9-2. 競争基盤の変化のマネジメント

 
図9-2は「性能の供給過剰」のモデルである。市場が求める性能向上の軌跡の方が、技術者が供給する性能向上より傾斜がゆるやかな、複数の層になった市場を図式化している。

図9-2では、市場の各層が『性能 → 信頼性 → 利便性 → 価格』という、製品の選択基準の移行が起きるサイクルの中を進んでいる。この中で、競争基盤の変化や製品ライフサイクルの進化の兆しとなる製品が破壊的技術である。

さらに図9-2は、性能の供給過剰に直面した企業が採り得る3つの戦略を表している。その3つの戦略は、業界の競争の性質を変える可能性を持つ破壊的アプローチである。

  • 戦略1 ハイエンドの顧客に向けて上位市場へ進む
    持続的技術の軌跡に沿ってさらに上層の市場へと移動し、単純、便利、または低コストの破壊的アプローチが出現したら、低い層の顧客をあきらめる。
  • 戦略2 顧客に合わせる
    いずれかの層の市場で顧客のニーズに合わせてゆっくりと進化し、幾度かの競争基盤の変化の波にうまく乗る。
  • 戦略3 機能に対する市場の需要を変化させる
    市場の軌跡の傾斜を急にするマーケティング計画を採用し、技術が供給する性能の向上を、顧客が求めるようにしむける。

3つの戦略のいずれも、意識的に追求すれば成功する可能性がある。成功した企業は、明確に意識しているにせよ、直感にせよ「顧客の需要の軌跡」と「自社の技術者の供給の軌跡」の両方を理解している点で共通している。

しかし、一貫してこのような戦略をとってきた企業の数は極めて少ない。優良企業のほとんどは、無意識のうちにハイエンド市場へと移動し、競争基盤の変化に足をとられ、破壊的技術による下からの突き上げを食らっている。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル (5)

① 破壊的技術の弱みは強みでもある

「性能の供給過剰」「製品のライフサイクル」「破壊的技術の出現」が相互に影響し合う中では、主流市場で破壊的技術を役に立たたないものとしている特性が、新しい市場で価値を生むことが多い。

破壊的イノベーションで成功する企業は、最初にその技術の性質や機能を当然のものと捉え、それらの特性を評価し受け入れる新しい市場を見つけるか、開拓しようとする。一方、破壊的技術に追い落とされた企業は、確立された市場のニーズを当然のものと受けとめ、その技術が主流市場でも十分評価されると思えるまで破壊的技術を販売しない。それは、持続的技術に適した考え方を破壊的技術にも当てはめるからである。

優良企業が破壊的技術に直面したとき、開発における最大の課題は「技術」であり、既存の市場に合うように破壊的技術を改良することだと考えがちである。一方、破壊的技術の商品化に成功した企業は、開発における最大の課題は「マーケティング」であり、製品の破壊的な特性が有利になる次元で競争が発生する市場を開拓するか、見つけることだと考える。

破壊的技術を研究室で温め、主流市場に適したものになるまで育てようとする企業は、破壊的技術の特性を当初の状態のまま受け入れる市場を見つける企業のようには成功しない。
 
② 破壊的技術は確立された技術より単純、低価格、高信頼性、便利

性能の供給過剰が起こり、破壊的技術が主流市場を下から攻撃するようになると、破壊的技術は「機能」に対する市場の需要を満たす。さらに主流製品より単純、低価格で、信頼性が高く、便利であるがゆえに、成功する場合が多い。

優良企業は高性能、高収益の製品と市場を追い求める傾向があるため、最初の破壊的製品に余計な機能を付けないことに抵抗感がある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル (4)

破壊的技術には、製品のライフサイクルと競争力学に対して常に影響を与える、重要な性質がさらに2つある。

  • ① 破壊的技術の弱みは強みでもある
    主流市場において「破壊的製品を価値のないものとする特性」が、新しい市場では「強力なセールスポイント」になることが多い。
  • ② 破壊的技術は確立された技術より単純、低価格、高信頼性、便利
    破壊的製品は、確立された製品に比べて「シンプル」「低価格」「信頼性が高い」「便利」といった特長を備えていることが多い。

マネージャーは、これらの特性を理解した上で、破壊的製品の設計、開発、販売における独自の戦略を効果的に計画する必要がある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル (3)

性能の供給過剰は「製品のサイクルを次の段階への移行を促す重要な要因」であり、「購買階層のある段階から別の段階への移行を促す要因」でもある。そのことを示す2つのマーケティング・モデルを紹介する。

  1. ウィンダミア・アソシエーツの「購買階層」
    (1)機能、(2)信頼性、(3)利便性、(4)価格の4段階で構成される製品サイクル

    • (1) 機能
      機能に対する市場の需要を満たす製品がない状況では、競争の基盤、つまり製品の選択基準は製品の『機能』になりやすい。
    • (2) 信頼性
      機能に対する市場需要を十分に満たす製品が複数現れると、「顧客信頼性に対する市場の需要」が「メーカーが供給できる信頼性」を上回る間は、顧客は『信頼性』を基準に製品を選択し、最も信頼性の高い製品のメーカーがプレミアムを稼ぐ。
    • (3) 利便性
      複数のメーカーが「市場が求める信頼性」を満たすまで改良を進めると、競争の基盤は『利便性』へと移り、顧客は最も使いやすい製品と最も取引しやすいメーカーを選択するようになる。「市場の需要」が「メーカーが供給できる利便性」を上回っている間は、顧客は利便性を基準に製品を選択し、メーカーはそれに対して価格プレミアムを受ける。
    • (4) 価格
      最後に複数のメーカーが、市場の需要を十分に満たす便利な製品やサービスを提供するようになると、競争の基盤は『価格』へと移る。

     

  2. ジェフリー・ムーアの「クロッシング・ザ・カズム(キャズム理論)」
    (1)イノベーター、(2)アーリーアダプター、(3)アーリーマジョリティー、(4)レイトマジョリティー、(5)ラガードの5つの客層で構成されるテクノロジー導入ライフサイクル

    • (1) イノベーター
      製品はまず、製品を機能だけで選択する顧客である『イノベーター』によって使われる。この段階では、最も高性能な製品が大きな価格プレミアムを得る。
    • (2) アーリーアダプター
      次に『アーリーアダプター』という顧客が製品を購入するようになり、主流市場の機能に対する需要が満たされると、市場は大幅に拡大する。

    • (3) アーリーマジョリティー
      市場の拡大に伴い、メーカーは『アーリーマジョリティー』という顧客の間に生じる信頼性に対する需要に対応しようとする。
    • (4) レイトマジョリティー
      製品とメーカーの信頼性の問題が解決されると、第三の成長の波がおとずれ、イノベーションと競争の基盤は利便性へと移り『レイトマジョリティー』という顧客を引き込む。

    • (5) ラガード
      ある次元の性能に対する市場の需要が飽和状態に達するまで、技術は進化することができる。イノベーションが一般化すると『ラガード』という顧客がようやく製品を採用する。

『機能』『信頼性』『利便性』『価格』という競争基盤の進化のパターンは、多くの市場に見られる。そして、破壊的技術の登場は競争基盤の変化の兆しである。

「性能の供給」が「市場の需要」を超えると、それが差別化した製品であっても市場は価格プレミアムを支払わない。市場の需要を超えた性能を持つ製品は、市況商品のように価格が決定されるようになり、競争の基盤を変える破壊的製品がプレミアムを獲得することができる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル (2)

図9-1. 競争基盤の変化
図9-1. 競争基盤の変化

 
性能の供給過剰が起きると、競争の基盤に変化が起きる。ある性能に対する需要が飽和状態になると、まだ市場の需要を満たしていない他の性能指標が重視される。

一般に、ある特性に対して求められる性能レベルが達成されると、特性がさらに向上しても顧客は価格プレミアムを払おうとしなくなる。それは市場が飽和状態に達したことを表す。このように性能の供給過剰は競争基盤を変化させ、顧客が複数の製品を比較して選択する際の基準が、まだ市場の需要が満たされていない特性へと移る。

図9-1のように競争基盤が繰り返し変化し、完全に差別化の要素がなくなる(複数の製品がすべての性能指標に対する市場の需要を満たす)と、製品は市況商品(需給関係に応じて価格が変化する商品)になる。製品の特徴と機能が市場の需要を超えてしまうと、特徴や機能の違いは意味を失う。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社