ジレンマ 第8章

イノベーションのジレンマ:第8章 組織にできること、できないことを評価する方法 (4)

③ 価値基準

価値基準とは次のようなものである。

  • 組織の価値基準は、従業員が優先順位を決定し、注文が魅力的かどうか、顧客が重要かどうか、新商品のアイデアが良さそうかどうかなどを判断する際の基準である。
  • 企業の価値基準は、コスト構造や事業モデルを反映したものでなければならない。
  • 企業の価値基準には、企業が収益を上げるために従業員がしたがわねばならないルールを定義する。
  • 明確で一貫性があり、広く理解されている企業の価値基準は、企業に何ができないかを定義する。

優良企業の価値基準は、少なくとも2つの次元に向かって進化していく傾向がある。

  1. 市場の上位層に位置する魅力的な顧客をとらえようと自社の商品やサービスに機能を追加していくと、コスト構造が変化して次第に下位市場の利益率には魅力がなくなり、上位市場にシフトする。
  2. 企業が大きくなるにしたがって価値基準が変化するため、小さな新興市場に参入できなくなる。

組織の規模が巨大であることは、イノベーションを進めるにあたっては、無能力の要因にほかならない。また企業が大きく複雑になるほど、上層部のマネージャーがあらゆるレベルの従業員を教育し、企業の戦略や事業モデルに合った優先順位を決定できるように育てることが重要になる。優良経営を示す重要な指標の1つは、一貫性のある明確な価値基準が組織全体に浸透しているかどうかである。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第8章 組織にできること、できないことを評価する方法 (3)

② プロセス

プロセスは次のようなものである。

  • 組織がインプットをさらに価値の高いアウトプットへとどのようにして変換するかを定義するもの。
  • 従業員が人材、設備、技術、商品デザイン、ブランド力、情報、エネルギー、資金などの資源のインプットを価値の高い商品やサービスに変換し、組織が価値を生みだすときの相互作用、協調、コミュニケーション、意思決定のパターンのこと。
  • 製造、商品開発、調達、市場調査、予算作成、事業計画、人材開発、給与決定、資源配分などを実現するプロセスがある。
  • プロセスは、特定の業務に対応するために定義され、事実上の進化を遂げる。
  • ある仕事を遂行する能力を定義するプロセスは、他の仕事では役立たないことがある。
  • 優れた経営者は、プロセスと仕事を連携しやすくするために、各組織の目的を絞ろうとする。

プロセスは、従業員が反復作業を一定の方法で行うために確立される。組織が価値を生みだすメカニズム(プロセス化による価値創造)そのものが、本質的に変化をこばむため、経営者はジレンマに陥る。価値を生み出すためにプロセス化すれば、変化に対応できなくなる。

「慣例に従って市場調査を実施し、その分析結果を財務予測に反映し、事業計画と予算を協議し、それらの数字を伝達する」といった過程を定義するプロセスは、優良企業から変化への対応能力を奪う。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第8章 組織にできること、できないことを評価する方法 (2)

① 資源

資源とは次のようなものである。

  • 資源の多くは「物」つまり「資産」である。
  • 具体的には、人材、設備、技術、商品デザイン、ブランド力、情報、資金、供給業者、流通業者、顧客との関係など。
  • 組織間で容易に譲渡できるものが多い。
  • 質の高い資源が豊富に手に入れば、組織が変化に対応できる可能性が高くなる。
  • 組織が直面している変化にうまく対応できるかどうかを評価する際に、経営者が最も直観的に見極められるものである。

資源を分析するだけでは、組織の能力について十分な理解はできない。あるインプットをもとに価値の高い製品やサービスを作り出す能力は「資源」ではなく「プロセス」や「価値基準」の中にある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第8章 組織にできること、できないことを評価する方法 (1)

プロジェクトに取り組む一個人に能力があるからといって、その組識にも能力があるとは限らない。組織で働く人材やその他の資源に関係なく、組織自体の能力というものがある。確実に事業を成功させるためには、目的に合った人材の選定、訓練、動機づけだけでなく、目的に合った組織の選択、構築、準備も行わなければならない。

第8章は、破壊的技術への対応に成功した企業が、ビジネスの大きさに見合った規模の独立組織を新設していたことについて解説する。またコア・コンピタンスの概念を用いて、自社の組織に目前の変化に取り組む能力があるかどうかを測る枠組みを紹介する。

組織にできることとできないことは、次の3つの要因によって決まる。

  • ① 資源
  • ② プロセス
  • ③ 価値基準

自分の組織がどのようなイノベーションを実現できて、どのようなイノベーションを実現できないのかを検討するときは、上記の3つの要因に分けて考えるとよい。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社