ジレンマ 第6章

イノベーションのジレンマ:第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる (7)

第6章をまとめると次の通りである。

  • 持続的技術では、従来の技術の性能を高めることに重点を置く。また新しい技術を遅れて採用する企業の方が、力強い競争力を維持できることがある。
  • 破壊的技術が最初に使われる新しい市場に早い時期に参入すると、莫大な収益と、先駆者ならではの優位が得られる。
  • 破壊的技術の商品化ではリーダーシップをとることが重要だが、優良企業はそのようなリーダーシップを追求する際に大きなジレンマに出合う。
  • 大規模な成長を目指す企業は「顧客の圧力に対処しながら、小規模な市場で短期的な成長市場を見込めない」という問題に直面する。
  • 破壊的技術によって初めて誕生する市場は、すべて小規模な市場として始まる。
  • 市場を開拓する企業は、小規模でも利益を得られるコスト構造を構築する必要がある。
  • イノベーションにおいては、規模を小さく抑え、独立性を保つことが優位につながる。
  • 破壊的イノベーションを商品化するプロジェクトは、企業の主流事業から外れたものではなく、成長と成功への重要な過程として捉えることができる。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる (3)

優良企業の組織は顧客によって束縛され、自由がきかない。優良企業の合理的かつ機能的な資源配分プロセスは、破壊的技術の商品化を妨げることがある。また企業が大きくなって優良企業になると、新しい市場に早い段階から参入するための根拠が集めづらくなる。

企業の成長率は、株価に強力な影響を与える。企業の株価が将来の利益予測を表すのであれば、株価水準が上昇するか下落するかは、市場の成長予測や企業の利益予想に左右される。株価が堅調に上昇すれば、有利な条件で増資できるようになるし、経営資源も集めやすくなるが、その一方で、企業が大きくなればなるほど、成長率を維持することは難しくなる。

以上のように優良企業はさまざまな制約を受けることから、新しい市場へ参入するのに出遅れる。優良企業にとっては魅力がないほどの小規模であるうちに、破壊的技術が生み出す新しい新市場へ参入することは極めて重要となる。

優良企業の経営者が破壊的変化に直面したとき、小規模市場とその成長をどのように捉えたらよいだろうか。クリステンセン教授は3つのアプローチを提案している。

  • ① 新しい市場の成長率を押し上げる
    新しい市場が優良企業の増収増益に影響を与えるよう、短期間で市場の成長率を高める。
  • ② 市場がうまみのある規模に拡大するまで待つ
    市場が形成され、その性格があきらかになるまで待ち、十分にうまみのある規模に達したところで参入する。
  • ③ 小規模な組織に小さなチャンスを与える
    破壊的技術を商品化する業務を、その売上規模に見合った小規模な組織に任せる。

①~③の要点について次稿より具体的に紹介する。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第6章 組織の規模を市場の規模に合わせる (1)

クリステンセン教授は第6章の冒頭で、破壊的イノベーションの実現には次の点を認識する必要があると述べている。

  • 破壊的イノベーションに対応するのは、持続的技術に対応するとき以上にリーダーシップが重要である。
  • 破壊的イノベーションに直面した経営者は、誰よりも早く破壊的技術を商品化する必要がある。
  • 既存の市場に参入して熾烈な競争に会うよりも、新しい市場を開拓した方が、リスクが低く見返りが大きい。
  • 破壊的技術を開発するプロジェクトは、対象とする市場に見合った規模の組織に組み込む必要がある。
  • 小規模な新しい市場では、大企業における短期的な成長と利益ニーズを満たせない。

優良企業は期待する成長率を維持するのに、毎年度、収入を大幅に増やす必要がある。したがって、破壊的イノベーションがターゲットとする小規模な市場は、優良企業の収入を増やすための対象として有効ではない。このギャップを埋める方法の1つは、破壊的技術の商品化を目的とするプロジェクトを、小規模な市場に見合った小規模な組織に組み込み、企業が成長してもこのような慣行を繰り返すことである。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社