ジレンマ 第4章
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イノベーションのジレンマ:第4章 登れるが、降りられない (3)
下位市場への移動には3つの障害がある。
- 上位市場の利益率が魅力的である
- 顧客の多くが同じくして上位市場へ移行する
- 下位市場で利益をあげるためにコストを削減するのが難しい
これらの障害のせいで、社内で新製品開発のための資源配分について議論するとき、破壊的技術を追求する案は、上位市場に移行する案に負けてしまう。その結果、下位のバリュー・ネットワークに空白が生まれ、競争に強い技術とコスト構造を備えた新規参入企業がそこへ引き寄せられる。そしてしばらくすると、上位市場を容赦なく攻撃してくるようになる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第4章 登れるが、降りられない (2)
企業における資源配分の意思決定プロセスは大きく2つに分かれる。
- 上層部がいくつかのイノベーションへの投資案を検討し、企業戦略に合致していて最も高い投資収益率が期待できそうなプロジェクトに資金を投入する。
- どのイノベーション案を支援して上層部に持ち込むか、どのプロジェクトを放っておくか、それは中間層のマネージャーが決めている。
自己保身と会社の利益を考えるマネージャーは、確実に市場の需要があるプロジェクトを支援し、上層部の承認を得やすいように企画案をまとめる。したがって、重要な資源配分の決定は、上層部が関与するはるか以前に行われている。それは、どのプロジェクトを支援し上層部に持ち込むのか、またどのプロジェクトを放っておくのかを、中間層のマネージャーが決めているからである。
非対称的な移動性には「上へ登れば手っ取り早く成長と利益が手に入るが、下から猛烈な攻撃が襲ってくる」という問題がある。優秀なマネージャーであればあるほど、この問題を解決することができない。仮に上層部が破壊的技術を追求しようと決めたとしても、それが組織の要員が考える「組織としての成功」や「組織における個人としての成功」に結びつくモデルでなければ、うまくいかない。
優良企業は顧客のニーズだけでなく、自分たちが属するバリュー・ネットワークの財務構造や組織文化にも束縛されている。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:第4章 登れるが、降りられない (1)
第4章では以下の問題を取り上げ、
- 優良企業がいとも簡単にハイエンド市場へと移行できるのはなぜか?
- 下位の市場へ移動することが難しいのはなぜか?
鉄鋼メーカーの競争における「非対称的な移動性(上位市場の移動性と下位市場への非移動性)」を探究し、理論化をはかる。
上位のバリュー・ネットワークで成長して収益性を高める方が、現在のバリュー・ネットワークに留まるよりも魅力的である。企業がバリュー-ネットワークの境界を超えて上位市場へ移動するが、下位市場へ移動しないのには、次のような背景がある。
- 企業が既存のバリュー・ネットワークの中で大規模になり成功すると、研究、開発、営業、マーケティング、マネジメントに費やす労力と経費の水準を、顧客のニーズや競合企業からの圧力に応じて調整するようになる。
- 一般に、ハイエンド市場に進むほど粗利率は高くなり、管理費の高さを補う構造になっているため、市場規模と利益率がともに上回る上位市場を狙った高性能製品の開発案に経営資源が配分される。
- 企業が当初の破壊的な市場を離れ、上層の収益性の高い市場へ移行すると、徐々にその上位市場で競争するために必要なコスト構造を身につけるようになるため、なおさら下位市場へ移動できなくなる。
破壊的技術に遭遇した優良企業は、それに真っ向から対抗するのではなく、上位市場へと逃れる。他方、破壊的技術を商品化した新規参入企業は、製品の世代が新しくなるたびに、できるだけ上の市場に近づこうと努力し、ついには上位のバリュー・ネットワークにとって魅力的な性能に達するようになる。これら移動のことを「非対称的な移動性」と呼ぶ。
破壊的技術が、優良企業にとって危険であり、新規参入企業にとって魅力的なのは、この「非対称的な移動性」があるからだ。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社