ジレンマ 終章
イノベーションのジレンマ:終章 (4)
『イノベーションのジレンマ』に関して、次の点をディスカッションして欲しい。
- 破壊的技術には次のような特徴がある。具体的にはどのような製品が該当するだろうか。
- 単純、低価格、性能が低い
- 一般的に利益率が低い
- 優良企業にとって最もうまみのある顧客は、通常、破壊的製品を利用せず、利用したいとは考えない
- 最初は新しい市場か小規模な市場で商品化される
- どのような市場でも、企業は上位市場の価格の高い複雑な製品へと移行する傾向がある。
- 企業にとって、単純な低価格製品の市場に参入することが難しいのはなぜだろうか。
- 上位市場への移行を続けて失敗した企業はあるだろうか。またどうすれば避けられただろうか。
- 大企業にとって致命的に成り得る上位市場へ移行する傾向は、新興市場が主流市場へと発展していく原動力にもなっている。
- 上位市場に移行して成功した企業はあるだろうか。
- 破壊的技術を商品化する場合、予想が間違っているという想定のもとに投資を開始することが重要である。
- 企業がある用途のために製品の販売を開始したが、別の用途に大きな市場があることがわかった例はあるだろうか。
- 破壊的技術の特徴の一つは、主流顧客が最も重視する特性において、従来の技術の性能を下回ることである。破壊的技術の商品化に成功するには、その新技術の特性を最も評価する別の顧客層を見つけなければならない。
- 現在、発売時点では主流市場にとって重要性が低い特性や特質をもとに発展している市場はあるだろうか。
- それによって、どのような従来の主流製品や企業が脅威を受けるだろうか。
- 製品の性能において最低限の仕様を満たす製品が2つ以上ある場合、顧客は他の判断要因に目を向けはじめる。顧客の判断基準は『性能 → 信頼性 → 利便性 → 価格』の順に移行するのが通常である。
- 現在の市場で、最近この方向に1ステップ以上移行した市場はあるだろうか。
- 大抵の人は、企業の進む方向と資源の投資方法に関する重要な決定は取締役や事業部長が下すと考えるが、実際には、組織の下部で事業部長に提示する案を決定するマネージャーがその力を持っている。
- このような中間層が、破壊的技術を無視したり、切り捨てる要因はどこにあるのだろうか。
- 優れた経営基盤を持つ企業は、このような慣行や方針を変えるべきだろうか。
- 破壊的技術が採用されるかどうかは、組織の中間層に位置するマネージャーの考え方に左右される。
- 大企業で、野心的な従業員が破壊的技術を無視したり切り捨てるのは、個人のキャリアについてどのような思惑があるからだろうか。
- すぐれた経営基盤を持つ企業は、従業員のこのような考え方を促している方針を変えるべきだろうか。
- 『イノベーションのジレンマ』の見解は、今後の企業の在り方について、どのような示唆を与えているだろうか。
- 機能を中心に構造を築いている大企業は、相互接続したチームへと編成を変えるべきだろうか。
- あるいは技術が異なり、市場が異なればニーズも異なると考え、状況に応じて明確な組織構造と経営慣行を持つようにするべきだろうか。
- 現実にそのようなことは可能だろうか。
- クリステンセン教授は「破壊的技術は、技術的な挑戦ではなく、マーケティング上の挑戦ととらえる必要がある」としている。
- どのような技術にも、どこかに市場はあるだろうか。
- もしないとしたら、自分が経営者であった場合、どの技術を棚上げして、どの技術を積極的に追求するかを、どのように判断するだろうか。
- クリステンセン教授は「技術の性能が飛践的に向上するまで待つのではなく、むしろ他の顧客が欠点とみなす特性を評価する顧客を見つける必要がある」としている。
- 自分が経営者だったら、技術やアイデアにさらなる開発が必要な段階か、積極的に市場に導入する段階かをどのように判断するだろうか。
- 『イノベーションのジレンマ』の最大の論旨は「企業が主流市場でリーダーになるための経営慣行そのものが、破壊的技術によってもたらされる機会を失う原因になる」というものである。
- 今後「優良経営」という言葉の定義は変化するだろうか。
- 顧客の意見に耳を傾け、それらの顧客が求める製品の開発に積極的に投資し、市場を注意深く分析することが「不良経営」になるだろうか。
- 両方の世界の長所を結びつけることができるのは、どのようなシステムだろうか。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:終章 (3)
持続的技術で成功してきた従来の経営慣行を、破壊的技術に適用すると必ず失敗する。成功につながる最も有効な方法は、破壊的技術に関する法則を理解し、それを利用して新しい市場と製品を生み出すことである。
破壊的技術に直面した経営者に対して、次のことを勧める。
- 破壊的技術の開発を、そのような技術を必要とする顧客がいる組織に任せることで、プロジェクトに資源が流れるようにする。
- 独立組織は、小さな勝利にも前向きになれるように小規模にする。
- 最初からうまくいくと考えず、失敗に備えておく。破壊的技術を商品化するための初期の努力は「学習の機会」と考え、データを収集しながら修正していくとよい。
- 躍進は期待せず、早い段階から行動して、現在の技術の特性に合った市場を見つける。主流市場にとって魅力の薄い破壊的技術の特性が、新しい市場を作り出す要因になる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:終章 (2)
クリステンセン教授は以下の「破壊的技術の五原則」を提唱し、既存の技術を利用する上で最も効果的な経営慣行が、破壊的技術の開発を妨げる理由を説明している。さらに、企業経営者がこれらの原則にどのように従えば、将来自分たちの市場に広がるであろう新技術をうまく開発できるのかを示唆している。
- 企業は顧客と投資家に資源を依存している
- 企業が生き残るためには、顧客や投資家が必要とする製品、サービス、収益を提供しなければならない。
- 優良企業には、顧客が求めないアイデアを切り捨てるシステムが整備されており、利益率が低い破壊的技術に十分な資源を投資することは極めて難しい。
- 小規模な市場では優良企業の成長ニーズを解決できない
- 優良企業は株価を維持し、従業員に機会を与えるために、成長し続ける必要がある。
- 会社の規模が大きくなると、同じ成長率を維持するためには、新しい収入の金額を増やす必要がある。
- 会社の規模が大きくなるにつれ、将来は大規模な市場になるはずの小さな新興市場に参入することが難しくなっていく。
- 存在しない市場は分析できない
- 確実な市場調査と綿密な計画の後で計画どおりに実行することが、優れた経営の特徴である。
- 数値的根拠がなければ市場に参入できない企業は、まだ存在しない市場に向かう破壊的技術に直面したとき、手も足も出なくなる。
- 組織の能力は無能力の決定的要因になる
- 組織の能力は、労働力、エネルギー、原材料、情報、資金、技術といったインプットを付加価値に変える「プロセス」と、組織の経営者や従業員が優先事項を決定するときの「価値基準」によって決まる。
- 「資源」とは違って「プロセス」や「価値基準」には柔軟性はない。
- 組織の能力を生みだすプロセスや価値基準も、状況が変わると、組織の無能力の決定的要因になる。
- 技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
- 破壊的技術は、当初は小規模な市場でしか使われないが、いずれ主流市場で競争力を持つようになる。それは技術進歩のペースが、時として主流顧客が求める性能向上のペースを上回るからである。
- 2つ以上の製品が十分な性能基準を満たせば、顧客は他の基準に従って製品を選ぶようになる。それらの基準は『性能 → 信頼性 → 利便性 → 価格』の順で変化することが多く、いずれの基準についても、新しい技術の方が有利であることが多い。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社
イノベーションのジレンマ:終章 (1)
優良企業がたびたび失敗するのは、その企業を業界リーダーに押し上げた経営慣行そのものが、破壊的技術の開発を困難にし、最終的に市場を奪われるからである。
優良企業は、既存の顧客の需要に応えて製品の性能を高める持続的技術の開発を得意としており、次のような特徴が見られる。
- 顧客の声に耳を傾ける
- 求められたものを提供する技術に積極的に投資する
- 利益率の向上を目指す
- 小さな市場より大きな市場を目標とする
破壊的技術は、市場の価値基準を変える。破壊的技術が最初に出現するときには、ほほ例外なく、主流顧客が評価する特性において性能が低い。
しかし、破壊的技術には、少数派の(たいていは新しい)顧客に評価される別の特性(低価格、小型、単純、使いやすい)がある。破壊的技術により新しい市場が開拓されると、その後性能が高められていき、やがて従来の市場を浸食するようになる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社