ジレンマ 第11章
イノベーションのジレンマ:第11章 イノベーションのジレンマまとめ
破壊的イノベーションに直面したときにうまく機能しないからといって、主流市場で企業を成功に導いてきた能力、組織構造、意思決定プロセスを捨てる必要はない。企業が直面するイノベーションの大部分は持続的な性質のものであり、それらの能力は持続的イノベーションに取り組むために作られているからである。
イノベーションのジレンマに関する洞察は次の通りである。
-
市場が求める、あるいは市場が吸収できる進歩のペースは、技術によって供給される進歩のペースとは異なる場合がある。今のところ顧客に役に立つとは思えない製品(破壊的技術)が、明日にはニーズに応えられるかもしれない。この可能性を認識するならば、顧客が現在必要としていないイノベーションについては顧客を頼るべきではない。現状を分析し、会社が直面しているのがどちらの状況なのかを明らかにするには、軌跡グラフが有効である。
-
イノベーションのマネジメントには資源配分プロセスが反映される。必要な資金と人材を獲得した革新的な案には成功の可能性がある。イノベーションのマネジメントが難しい理由の1つは、資源配分プロセスのマネジメントが複雑なことにある。資源配分の決定を実行するのは、企業の主流バリュー・ネットワークの中で知識と直感を身につけてきたスタッフである。
-
あらゆるイノベーションの問題には、市場と技術の組み合わせの問題が伴う。成功している企業は、持続的技術を商品化し、顧客が求めるものを絶えず改良して提供する能力に長けている。この能力は持続的技術に取り組むには貴重だが、破壊的技術に取り組む際には目的に合致しない。企業が破壊的技術を、現在の主流顧客のニーズに無理やり合わせようとすると、ほぼ間違いなく失敗する。破壊的技術の成功ポイントは、その特性が評価される新しい市場を開拓することと、技術ではなくマーケティング上の挑戦と捉えることである。
-
通常、組織は特定の市場に新技術を持ち込む能力を持っているが、技術を別のやり方で市場に持ち込むことはできない。企業が対応できる製品開発サイクルの期間と生産に至るペースは、企業が属するバリュー・ネットワークの中で培われたものである。組織や個人の能力は、過去に取り組んだ問題の種類によって決められ、磨かれたものであり、その性質は過去に競争してきたバリュー・ネットワークの性質によって形成されている。破壊的技術によって生み出された新しい市場は、それぞれの次元で、全く別の能力を必要とすることが多い。
-
破壊的技術に直面したとき、目標を定めて大規模な投資を行うために必要な情報は存在しないことが多い。コストをかけず、すばやく柔軟に市場と製品に進出することによって、情報を生み出す必要がある。破壊的技術による成功には試行錯誤が必要である。最初のアイデアにすべてを賭けず、試行錯誤し、学習と挑戦を繰り返す余裕を残しておくマネージャーは、破壊的イノベーションの商品化に必要な顧客、市場、技術に対する理解を深めることに成功する。
-
企業は、破壊的技術と持続的技術のどちらに取り組むかによって、明確に異なる姿勢をとる必要がある。破壊的イノベーションの場合は、先駆者は圧倒的に有利であり、リーダーシップが重要である。
- 破壊的技術は、投資することが最も重要な時期にはほとんど意味を持たないため、優良企業の慣習的な経営知識が市場参入や市場移動の障壁になる。持続的技術と破壊的技術の需要の衝突によってイノベーターが直面するジレンマは解決できる。マネージャーはまず、これらの衝突がどのようなものかを理解する必要がある。次に各組織の市場での地位、経済構造、開発能力、価値が顧客の力と調和し、持続的イノベーションと破壊的イノベーションという全く異なる仕事を邪魔せず、支援する環境を作り出す必要がある。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社