ジレンマ 第10章

イノベーションのジレンマ:第10章 破壊的イノベーションのマネジメント (2)

破壊的技術に新技術はいらない。むしろ実証済みの技術からできた部品で構成され、それまでにない特性を顧客に提供する新しい製品アーキテクチャーの中で組み立てられる。

破壊的製品は、主要な販売チャネルを塗り替えてしまう。それは流通の収益モデルが、主流バリュー・ネットワークに強い影響を受けて形成されているからである。破壊的技術は、優良企業の収益モデルに合わないだけでなく、既存の流通業者のモデルにも合わないことが多い。そのため、新しい流通経路を見つけるか、創設する必要がある。

破壊的プロジェクトを実行する組織に関しては、次のことが重要になる。

  • 主流組織から独立した破壊的技術に特化した組織を整え、その組織を新しいバリュー・ネットワークの中に組み込む。独立組織にすると「資源依存モデルが(親組織ではなく)自分たちのために機能する」だけでなく「小さな市場では大企業が成長できず利益を出せない」という原則にも対応できる。
  • 「プロジェクトが組織の成長と収益性を高めるための通過点である」ということを理解してもらうのが重要である。「破壊的技術が利益を生むことを、主流組織の全員の心に吹き込む」あるいは「プロジェクトの成功のために必要な過程となるくらいの規模で適切なコスト構造を持った組織を新設する」ことが必要である。
  • 破壊的プロジェクトにおいて、最初の市場への進出は成功しない可能性が高い。失敗を小さくとどめるために、主流組織の価値基準と文化を変えるか、新しい組織を作る必要がある。
  • スカンクワーク(従業員が本来やるべき業務以外の自主的活動)やスピンアウト(会社の一部門を切り離して独立させること)が適切な手段となるのは、破壊的イノベーションに直面したときのみである。
  • バリューチェーン全体に影響を与えるようなアーキテクチャーの変更が発生する場合は、主流企業からは独立した組織で、重量級チームがマネジメントする必要がある。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社

イノベーションのジレンマ:第10章 破壊的イノベーションのマネジメント (1)

破壊的イノベーションに直面したとき、マネージャーは次の行動をとることで成功を得るだろう。

  1. 破壊的技術の市場と製品を分析する
    • 「自社の製品は競合に対して十分な破壊的脅威となるだろうか」「収益性の高い成長機会となるだろうか」という疑問に対して技術の軌跡グラフを作成し、破壊的技術を見極める。
    • 現在の主流市場の需要を定義し、それを破壊的製品の能力と比較する。
    • 市場の需要を測るため、顧客の意見を聞くだけでなく、顧客の行動を注意して観察する。

     

  2. 技術の軌跡グラフから破壊的技術かどうかを予測する
    • 破壊的製品になるには、いつか主流市場の一部で競争力を持つであろう性能向上の軌跡に乗っていなければならない。この可能性を評価するには「市場で求められる性能向上」と「製品によって供給しうる性能向上」の軌跡を予測する必要がある。
    • これらの軌跡が並行であれば、製品は主流市場の一部にならないだろう。技術の方が需要より速いペースで進歩するのであれば、破壊の脅威は現実のものとなる。

     

  3. 新市場を開拓するマーケティング戦略を策定する
    • 製品が潜在的に破壊的技術であると判断したら、次は新市場を開拓するマーケティング戦略の策定である。
    • 戦略の策定では次のようなポイントを抑える。
      1. 破壊的製品は主流市場の基本的な性能要求を満たしていないため、「最初は主流の用途には使えないこと、確立した市場がないこと」をプロジェクト関係者が認識する。
      2. 破壊的技術の市場に早い時期に参入すれば、後続の企業よりはるかに優位に立つための能力を身につけられるため、いち早く製品が使える市場を見つける。
      3. 足がかりとなる市場で収益をあげて事業基盤とし、その後の持続的イノベーションにはずみをつけ、破壊的技術として上位市場へ、そして主流へと移行する。
      4. 主流市場で破壊的技術の競争力を失わせている特性があれば、それは新しいバリュー・ネットワークでは有利な特性になる。
      5. 初期の市場がどのようなものになるかは市場調査ではわからない。
      6. 市場に関する情報で役に立つのは、実際に市場に踏み込み、試験と検査、試行と錯誤を繰り返し、実際に代金を払うリアルな人びとにリアルな製品を売ることによって得た情報だけである。
      7. 事業戦略は既知の計画を実行するためではなく、学習のための計画でなければならない。
      8. 最初のターゲットに向かって事業を進めるうちに過ちをおかしたら、できるだけ早く何が正しいのかを学ぶ。

     

  4. バリュー・ネットワークと潜在市場を予測する
    • 何が最初のバリュー・ネットワークになるのか、どのような潜在市場があるのかを考える。
    • バリュー・ネットワークや市場の予測は、最終的に当たるかどうかはともかく、少なくとも「破壊的技術の発展」と「成長の過程」に矛盾しないようにする。

     

  5. 製品のライフサイクルを考慮して設計する
    • 製品の競争と顧客の選択が『性能』という尺度から『信頼性』や『利便性』など他の特性に移行しているのであれば、『シンプルさ』や『便利さ』などを特徴とした設計を行う。
    • まず設計においては次の前提が重要となる。
      1. 製品のライフサイクルとともに競争の基盤は変化する。
      2. 性能の供給過剰(技術によって供給される性能が市場の実際のニーズを超えること)が起きると、進化自体が循環する。
    • 性能の供給過剰が起きると、単純、低価格で便利な技術が求められ、破壊的技術の入り込む余地が生まれる。そこに、シンプルさ、便利さといった特性を価値基準に持つ新しいバリュー・ネットワークが生まれる可能性がある。

     

  6. 破壊的技術の設計ポイントを抑える
    • 次の基準に従って設計を進めるとよい。
      1. 単純で信頼性が高く、便利な製品でなければならない。
      2. 製品の最終的な市場と用途は誰にもわからないため、特徴、機能、スタイルを短期間に低コストで変更できる製品プラットフォームを設計する。
      3. 製品の初期モデルは短期間に低コストで仕上げ、市場からのフィードバックに合わせて作り直すための予算を十分に残しておく。
      4. 主流市場の製品よりも価格(あるいは単価)を低く設定する。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社