イノベーションの最終解

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(6)

1. 非対称性は、破壊のプロセスをどのように促すのか

非対称性が存在するとき、破壊的攻撃企業は市場に参入して、既存企業に干渉されずに成長することができる。また既存企業がようやく対抗する動機づけを持ったときには、反撃を軽減できる。非対称な競争は、大企業の破綻によって終わりを迎えることが多い。

破壊とは、非対称な動機づけとスキルを生み出し、それを活用する戦略である。破壊は次の三段階のプロセスをたどる。

第一段階:新規参入企業が非対称な動機づけの「盾」に隠れて参入する。既存企業は初期にとった対応のせいで「詰め込み」を招く

  • 攻撃側の企業が動機づけの非対称性を活用するせいで、既存企業は最終的に大規模に成長する事業機会を見過ごしてしまう。
  • 動機づけが非対称なとき、既存企業は対抗することに関心がないため、破壊的攻撃企業は既存企業の反撃から守られる。
  • 既存企業は新技術について新規参入企業と劣らぬ知識を持っているが、プロセスや価値基準のせいで、最重要顧客のいる中核市場にその技術を必然的に「詰め込み」を行ってしまう。
  • 既存企業は、破壊性を秘めた製品・サービスを自社のプロセスに送り込むと、必然的に既存のプロセスと価値基準に合わせて製品を変えてしまう。
  • 詰め込みの問題点は、イノベーションに本来備わった破壊的なエネルギーを取り除くような形で、イノベーションを変容させることである。
2-3. 詰め込み
図2-3. 詰め込み

 

  • 詰め込みの兆候は「企業が多額の費用をかけて製品の欠陥を修正するとき」「買収した企業を統合化するために莫大な費用をかけているとき」「企業が製品に合わせて顧客の行動を変えようとするとき」「顧客がほしくもない製品を無理やり押しつけるとき」に見られる。
  • 企業は破壊的なアイデアが芽生えると、そのアイデアを主流市場に詰め込みたいという誘惑に屈してしまう。
  • イノベーションは主流市場にはねつけられることが多いため、既存企業を辞め、新しい会社を興した人が、イノベーションの真価を認めてくれる新しい市場を発見することになる。

第二段階:新規参入企業は成長して改良を進め、既存企業は逃走を選択する

  • 破壊的新規参入企業が市場のローエンドに食い込み始めると、破壊による攻撃を受けた既存企業はローエンドから逃走し、その市場を新規参入企業に明け渡す。
  • 既存企業は上位市場の満たされない顧客(金払いの良い顧客)を獲得して増収増益を得るために、持続的イノベーションをひたすら推進する。
  • 既存企業は条件のよい事業を手に入れる代わりに、条件の悪い事業を切り捨てる。
  • 既存企業の逃走の兆候には次のようなものがある。
    • 既存企業の顧客構成や製品構成の変化
    • ローエンドの製品ラインの廃止
    • 旧バージョンの製品の修理対応の終了
    • 「中核事業への集中」や「より収益性の高い機会の追求」の発表
    • 多角化の推進

第三段階:新規参入企業は非対称なスキルという「剣」を活用する

  • 破壊的新規参入企業に追い詰められた既存企業は、次の問題に直面する。
    • 「新規参入企業にとっては魅力的な市場も、既存企業の目には将来的に魅力的ではないよう見える」という非対称な動機づけが邪魔をして有効な反撃に出られない。
    • 利便性や単純さ、カスタマイズ性、手頃さを中心とした新しいメリットを市場にもたらすためのスキル(破壊的イノベーションに必要なスキル)とは、非対称的なスキルしか持ち合わせていない。
  • 既存企業はいったん市場の最上位層に退却してしまうと逃げ場がなくなり、闘争せざるを得なくなるが、その頃には競争力を失い、不利な立場に立っている。
  • 競合環境が変化して破壊的新規参入企業が優位に立つようになると、既存企業が新しいスキルをすばやく開発するのは非常に難しくなる。
  • 既存企業が自社の中核事業が斜陽であることをデータから読み取る頃に、破壊的新規参入企業に対して行動を起こしても手遅れになる。

破壊的イノベーションの環境では、非対称性を有利に活用できる新規参入企業が勝つ。既存企業は、要求の厳しい顧客に優れた製品を提供しようとする「価値基準」に阻まれて、新規市場を追求できない。また既存企業の「プロセス」は、既存顧客のニーズを満たすことはできるが、競合環境が変化して新たな能力が必要になれば弱点となる。

既存企業が破壊的新規参入企業から逃走すれば、短期的には業績が向上しても、競争に必要なスキルを失うことになる。破壊的新規参入企業に追い詰められたとき、既存企業が対抗できることは、成功した企業を遅まきながら買収して、破滅を食い止めることくらいである。

持続的イノベーションの環境では、非対称性を有利に活用できる既存企業が勝つ。新規参入企業が既存市場に急進的な持続的イノベーションを売り込もうとすると、既存企業はそれに対抗する動機づけを持っており、その結果、新規参入企業は長く熾烈な競争に身を投じることになる。

新規参入企業は、既存市場のリーダー企業に先進技術をすばやく売却するか、潤沢な資金を用意して我慢強く戦わなければならない。さもないと既存企業は新規参入企業よりも多額の費用を投じて、よりよい製品・サービスを生み出し、やがては新規参入企業を市場から駆逐するからである。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(5)

動機づけの非対称性とは、ある企業が別の企業のやりたがらないことをやろうとする状態である。スキルの非対称性が生じるのは、ある企業の強みが、別の企業の弱みであるような場合である。

ここからは、動機づけやスキルの非対称性について以下の3点について説明する。

  1. 非対称性は、破壊のプロセスをどのように促すのか
  2. 非対称な動機づけという「盾」と、非対称なスキルという「剣」を持った企業をどのように見分けるのか
  3. 非常に有望な破壊的イノベーションが期待はずれに終わり、熾烈な競争または既存企業の参入を招いてしまう状況を、どのようにして見分けるのか

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(4)

[ 資源 ]
資源とは、企業が獲得、構築、売却、破壊できる「モノ」をいう。たとえば技術、製品、現金、人的資源、蓄積された知識、確立したブランドといったものが該当する。
資源はとても柔軟性が高く、同じ資源を複数の市場や組織で生産的に利用することもできる。企業にとっては、資源を「所有」することではなく「利用できる」ことが重要である。
 
[ プロセス ]
プロセスとは、従業員が資源のインプットを、より価値の高い製品 ・サービスやその他の資源に変換するために用いる、やりとりや調整、連携、意思疎通、意思決定のパターンをいう。企業は同じ問題を繰り返し解決する必要があるとき、課題にうまく対処できるような公式、非公式のプロセスを生み出して、失敗のリスクを最小限に留める。

プロセスが資源と違うのは、それが基本的に変わらないことを前提に作られている点である。プロセスは企業のスキルや強みを決定し、またそのスキルと強みによって企業にできないことや弱みが決定する。プロセスが本来意図されない課題に用いられると、全く融通が利かず、非効率に課題が解決されることが多い。

企業のプロセスを外部から判断するときは、その企業がこれまでどのような問題を繰り返し解決する必要があったかを調べるとよい。企業がこれまで繰り返し適切に対処してきた問題をリストアップすることで、その企業の持っているプロセスを目に見える形で、かなり正確に把握することができる。

企業の強みを作っているプロセスの中には、外部者には(ときには内部者にも)わかりらいものが多い。例えば、資源をどこに投入するか、市場調査をどのように行うか、財務予測をどのように立てるか、社内で計画や予算をどのように交渉するか、といった重要な決定を支援するための補助プロセスがある。
 
[ 価値基準 ]
組織の価値基準とは、従業員が優先順位の決定を下す際に用いる判断基準のことである。価値基準は「企業の経営幹部が下すより大きな戦略決定」や「資源配分プロセス」に影響を与える。資源配分プロセスとは、どの脅威や機会に対処すべきか、すべきでないかを決定する仕組みをいう。

企業の規模、収益構造、コスト構造、最も重要な顧客、過去の投資履歴などはすべて、その企業の経営者の目にどのような戦略や投資が魅力的に映るのか映らないのかを理解する手がかりになる。企業の価値基準は、次の要因から見極めることができる。

  1. 収益・コスト構造
    • 売上構成はどうなっているのか?
    • 現在のコスト構造を維持するには、どれだけの粗利率が必要か?
    • どれくらいの規模の事業機会ならば関心を示すだろうか?
  2. 顧客リスト
    • どのような顧客のニーズに応えるために、どのようなイノベーションを優先させているのか?
    • 収益の多くを特定の顧客層から得ている企業は、その顧客層をターゲットにするイノベーションに重点的に取り組む可能性が高い。
  3. 投資実績
    • どのような事業機会に集中して投資を行い、どのような機会を見送ってきたのか?

企業の経営状況を把握し、資源、プロセス、価値基準を洗い出すことによって、企業ができることできないことを深く理解することができる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(3)

競合企業の経営状況を把握して、その強みと弱みをつかんだ上で、「剣と盾」を携える。そして「競合企業ができないことや、しようとしないことをしている企業」を探し出す必要がある。そのために、資源(Resource)・プロセス(Process)・価値基準(Value)に関する「RPV理論」を押さえ、企業の強みと弱みの源泉を理解するとよいだろう。

企業のRPVを評価するには、次の質問に答えればよい。

  1. 企業は機会をものにするために必要な資源を持っているか、または動員できるか?
  2. 企業のプロセスは、企業がしなければならないことを効果的かつ効率的に実行するのに役立つだろうか?
  3. 数ある選択肢があるなかで、企業の価値基準はこの特定の機会を優先するだろうか?

表2-1は、企業の経営状況を把握してRPVを評価する方法をまとめたものである。資源は目に見える場合が多い。また企業が繰り返し解決しなければならない困難な問題を推測すれば、企業の中核的なプロセスがどのようなものなのかがわかる。そして損益計算書と過去の投資履歴は、企業の価値基準を知る重要な手がかりになる。

表2-1 経営状態を把媛する方法
用語 定義 何に注目するか
資源 企業が持っているもの、または利用できるもの
  • 有形資産:技術、製品、バランスシート、設備機械、流通網
  • 無形形資産:人的資本(従業員の経歴、蓄積されたスキル)、ブランド、蓄積された知識
プロセス 事業を行う方法(スキル)
  • 企業がこれまで繰り返し解決したことがわかっている困難な問題
  • 典型的なプロセス人材の際保・育成、製品開発、製造、予算計画、市場調査、資源配分
価値基準 優先順位づけの基準(動機づけ)
  • ビジネスモデル
    • 企業が利益を上げる方法(たとえば売上収益とアフターサポート収益の組み合わせ方法など)
    • コスト構造/損益計算書
    • 規模と成長に対する期待
  • 過去の投資決定:これまで何を優先してきたか

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(2)

マイケル・ポーター教授によると、企業が競争優位を生み出すための基本戦略には「差別化戦略」「コストリーダーシップ戦略」がある。これらの戦略には次のような特徴が見られる。

  • 市場の特定の階層を攻撃する低コストの競合企業が、価格優位性を有効に活かせるのは、高コストの競合企業がその市場に留まっている間のみである。
  • 低コスト企業は、高コスト企業を市場から駆逐すれば、より上位の市場に進出して、さらにコストの高い競合企業に戦いを挑まなければならない。
  • 差別化戦略を通じて競争優位を生み出そうとする企業は、差別化した側面を重視してくれる新しい市場を探し続けなければならない。

企業が優位性を維持し、利益率を高めるためには、上位市場や新しい市場に向かわなければならない。それゆえ、破壊的企業は上位市場に向かうための方法を考案する動機づけをもっている。

企業は最初に無消費者をターゲットにするとき、一般に彼らのニーズを十分満たせないため、上位市場に向かうための持続的イノベーションを推進する必要がある。顧客のニーズを満たそうとする企業は、いつか必ず顧客に過剰な性能を提供するようになる。その結果、ローエンド型破壊的イノベーションと置き換えのイノベーションの機会を自ら作り出し、競争基盤が変化する事態を招いてしまう。

ローエンド型破壊的イノベーションと置き換えのイノベーションは、要求の厳しくない顧客にとっては必要にして十分かもしれないが、より要求の厳しい顧客にとっては十分でないため、上位市場に向かう持続的イノベーションを推進することが求められる。

企業はこの循環的なサイクルを繰り返しながら、魅力的な価格を支払ってくれる顧客を求めて製品・サービスを改良し続け、性能向上曲線をのぼるうちに、既存企業の優良顧客に刻々と近づいていく。

図2-2. イノベーションの循環的なサイクル
図2-2. イノベーションの循環的なサイクル

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(1)

[ 第2章のテーマ ]

  • 企業が自社の推進するイノベーションの可能性を十分に実現し、業界を根底から変化させるのは、どのようなときだろうか?
  • 企業の強みを評価し、弱みを見つけるには、どうすればよいのか?
  • こうした強みや弱みのうち、競争のバトルに影響を及ぼすのはどれだろうか?
  • 既存企業が有利な状況と、新規参入企業が有利な状況を分けるのは何だろうか?
  • 破壊的イノベーションのプロセスの原動力とは何だろうか?

イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法の第二段階は、競争に関する十分な情報を得た上で決定を下すことである。競合企業の経営状況を把握し、剣と盾をもった企業を探すことによって、「業界の競合企業間の直接対決では、どちらが勝ちそうか?」という競争のバトルの質問に答えることができる。競争のバトルに関して把握すべきことをまとめると図2-1となる。

図2-1. 競争のバトル
図2-1. 競争のバトル

 

新規企業が市場に足がかりを築くと、製品・サービスの性能を上げ、より多くの顧客を獲得し、市場の高収益層に進出するという強いインセンティプが与えられる。その結果、新規企業と既存企業の間で必然的に戦いが始まる。企業が製品・サービスを改良するのは、性能の高い製品・サービスに割高な価格を喜んで支払おうとする顧客層を獲得したいからである。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (12)

イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法の第一段階は、変化のシグナル(何者かが変化の機会を有利に利用しようとしている兆候)を探すことである。

企業は「新市場型破壊的イノベーションを創出して、新しい消費者の獲得を目指す」「上位市場に向かう持続的イノベーションを推進して、満たされない顧客を狙う」「ローエンド型破壊的イノベーションやモジュールへの置き換えによって、過剰満足の顧客を狙う」といった行動をとる。ルールの誕生は、このような変化を促進する。市場外のプレーヤーが「動機づけ」や「能力」を高める目的で講じる措置がイノベーションを促す場合もある。このような動きのすべてが、業界構造を根底から変える可能性のある「変化のシグナル」である。

これらの動きは、次の質問をすることで明らかにできる。

  • 業界の顧客は、どのような用事を片づけようとしているのか?
  • 顧客は現在の製品・サービスを十分消費していないのか、満たされていないのか、それとも過剰満足なのか?
  • 企業は顧客を獲得するために、どの側面で競争しているのだろう?
  • 過去にどのような性能向上に割高な価格がついたか?
  • 現時点での主流は、統合型と分業型のビジネスモデルのどちらか?インターフェースは特定可能で、検証可能、予測可能だろうか?
  • 目新しいビジネスモデルは、どこに現れているのか?周辺市場に成長が見られないだろうか?
  • 政府やその監督機関は、イノベーションを促進または阻害するうえで、どのような役割を果たしているのか?

変化のシグナルを有利に活用する企業は、業界を成長・変革できる。一般に業界がこのような形で成長すると、今度は新規参入企業が既存企業の市場を侵食するようになる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (11)

無消費者、満たされない顧客、過剰満足の顧客はすべて、新たな企業や新たなビジネスモデルが誕生するチャンスである。加えてイノベーションは、それが起こる環境とは切り離せない。市場外の要因、特に政府とその監督機関は、その環境を形づくるうえで極めて重要な役割を果たしている場合がある。

イノベーションが成功する環境には「動機づけ」と「能力」の2つの要素が存在する。「動機づけ」とは、イノベーションを促す市場インセンティブを指し、「能力」とは、資源を獲得し、その資源を製品・サービスに変換し、顧客に提供する能力を指す。企業がイノベーションを行う動機づけと能力を併せ持っていれば、多くのイノベーションが開花する。逆に動機づけが不足しているか、能力を妨げるような市場状況では、イノベーションは抑え込まれてしまう。

政府をはじめとする市場外のプレーヤーは、業界のプレーヤーの動機づけまたは能力に影響を与え、そうすることで業界の環境を変化させ、イノベーションに貢献する、またはイノベーションを阻害する環境を生み出す場合がある。

動機づけ/能力の枠組みを用いるには、次の3つのステップを実行する。

  1. 企業の現在の動機づけと能力を書き出して、現在の環境がそれぞれの種類のイノベーションにとって望ましいかどうかを考える。望ましいものでない場合、イノベーションを阻害している主な障壁を見極める。
  2. 市場外のプレーヤーが、企業の動機づけや能力に影響を与えるような措置を講じているかどうかを判断する。
  3. そのような措置が、イノベーションへの主な障壁を取り除くためのものかどうかを判断する。もしそうであれば、その措置はイノベーションを促進すると期待できる。

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (10)

「バリューチェーン進化の理論」によれば、組織はバリューチェーン内の「十分でない」側面を向上させる際に影響のあるインターフェースを、全体にわたって統合化する必要がある。

製品の機能性と信頼性が顧客のニーズを過剰満足させるようになると、利便性、カスタマイズ性、価格が「十分でない」側面になる。解決すべき難問が変われば、統合化が必要な場所もそれに合わせて移動する。機能性と信頼性が十分でないとき、性能を最大限に高めようとする企業は、製品・サービスの設計と製造の重要な構成要素を統合化することが多い。

最も困難な技術的問題を解決するには、システムが緊密に統合化されていることが不可欠である。企業がその難問を解決すると、この種の統合化は必要なくなる。

専門的企業がモジュール化した特定の領域で「必要にして十分な」製品・サービスの構成要素を提供できるようになる。利益を上げる能力は、モジュール型の製品・サービスを組み立てる企業から離れ、重要なサブシステムをつくる企業へ、そして速度と利便性を左右する性能向上のカギとなる箇所で統合化している企業へとシフトする。

バリューチェーンの一部が統合型からモジュール型にシフトすれば、バリューチェーン全体に影響が及ぶ。「統合保存の原則(魅力的な利益保存の法則)」によれば、バリューチェーンのある段階で、性能を最適化するために相互依存的なシステムアーキテクチャが必要になったとき、次の条件を満たさなければならない。

  • 十分でない性能を最大化するためには、バリューチェーン内の隣接する段階の製品・サービスのアーキテクチャが、モジュール型かつ変換可能でなければならない。
  • 統合型のものを最適化するためには、それを取り囲むものがモジュール型でなければならない。

バリューチェーンのある段階で、モジュール化とコモディティ化が生じ、そのせいで魅力的な利益が消滅するとき、統合保存の原則が働き、独自製品によって魅力的な利益を得る機会は、その隣の段階にシフトする。

統合型企業が業界のバリューチェーン全体にわたって統合化されているのに対し、専門的企業は十分でないひとつの構成要素を製造するために統合化されていたり、カスタマイズ化や利便性を左右するインターフェース(例えば、顧客やサプライヤーとのインターフェース)にわたって統合化されている。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第1章 変化のシグナル ー 機会はどこにある? (9)

顧客が過剰満足の状態になるとルールが整備されて、最終消費者(エンドユーザー)の近くにいる、スキルの劣るメーカーが必要にして十分な製品を作れるようになる。ルールが整備されることで、新規参入企業は、製品を新しい環境に導入したり、必要にして十分な製品を劇的に低いコストで提供するビジネスモデルを構築できるようになる。その結果、新市場型破壊的イノベーションとローエンド型破壊的イノベーションの両方に扉が開かれる。

企業は問題解決の経験を積むうちに、次第に因果性のパターンを認識するようになる。やがてシステムは十分理解され、開発の指針となるようなルールが生まれる。最終的にルールは広く受け入れられ、標準とみなされる。

製品が顧客に過剰な性能を提供しているとき、こうしたルールや標準があれば、それほど専門知識をもたない企業でも、ルールに従うことによって製品が作れるようになる。標準や規格が業界に広く浸透していることや、企業が採用活動で深い理論的知識を重視しなくなることは、この変化が生じたことを示すシグナルである。

インターフェースが定義されると、非統合型企業でもサブシステムを製造できるようになり、技術レベルがそれほど高くない企業でも、モジュール型製品の組み立てができるようになる。既存企業の観点からすれば、この事象は新市場型破壊的イノベーションによる成長のように見える(かつて市場から閉め出されていた企業が参入できるようになるため)。しかし消費者の観点からすると、ローエンド型破壊的イノベーションによる成長のようにも見える(安価な製品が手に入るようになるため) 。

ローエンド型と新市場型の破壊的イノベーションは、ひとつの連続体の両極をなしている。消費者への接近を可能にするルールが誕生すると、この連続体の真ん中に位置する、ローエンド型と新市場型両方の要素を併せ持つ企業が出現する。

標準化は、必要にして十分な製品・サービスの迅速な開発を可能にするが、速度と柔軟性を優先させた結果、最先端の技術から後退してしまう。満たされない顧客が存在する状況では、標準化のせいで、可能な限り最高の製品を開発する企業の能力が阻害される。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社