最終解 第2章

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(11)

イノベーションの理論を用いて業界の変化を分析する方法の第二段階は、競争のバトルを評価することである。

競争のバトルには次のような特徴が見られる。

  • 「他の企業がやりたくないこと、またはできないことを行う」という非対称性に牽引されて、企業は自然に破壊的イノベーションへと導かれる。
  • 新規参入企業は、無消費者や過剰満足の顧客を狙う新しい方法を生み出し、非対称な動機づけという盾に守られながら、新しい成長を生み出す。
  • 既存企業は反撃する意欲を持たず、逃走を選ぶ傾向がある。
  • 新規参入企業は成長するうちに独自の製品・サービスを提供するための独自のスキルを身につけ、非対称なスキルという剣を持つようになる。
  • 既存企業が反撃する気になったときには、すでに手遅れである。

競争のバトルの評価には大きく2つのポイントがある。

  1. 競合企業の強みと弱みを評価する
    • 資源(企業が持っているもの)、プロセス(企業が仕事をする方法)、価値基準(企業のやりたいこと)を分析すると、企業を評価することができる。
    • 競合企業の経営状況を把握することで、強みと弱み、能力と動機づけを見極めることができる。
  2. 競争バトルを分析する
    • 業界のプレーヤーのビジネスモデル、動機づけ、スキルはどのようなものか?
    • 業界のプレーヤーはどのような違いを持っているか?
    • 市場のニーズを満たす方法に違いはあるか?
    • 対称性、非対称性はそれぞれどこにあるか?
    • 非対称性は、攻撃側の企業と既存企業のどちらに有利に働いているか?
    • イノベーションはターゲット市場に自然に馴染むものか?
    • 詰め込みの兆候は見られないか?
    • 企業がローエンド市場から撤退し、上位市場に向かおうとしている兆候はあるか?
    • 向かうべき上位市場は残っているか?
    • 向かうべき上位市場にいられるのは、あとどれくらいの時間か?

     

    <参考文献>
    クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(10)

企業は特定の資源・プロセス・価値基準(RPV:Resource – Process – Value)をもっているせいで、特定のフィルターを通してイノベーションを見るようになる。異なるRPVを持つ企業は、同じイノベーションを見ても、それぞれの目にはまったく違うものが映っている。したがって、破壊的イノベーションの「破壊性」は、相対的な概念と言える。

企業は破壊的イノベーションの足がかりを築くと、その後のイノベーションによって、独自の性能向上曲線をのぼっていく。こうした破壊的イノベーション後の追加的なイノベーションは次のようにとらえることができる。

  • 破壊的新規参入企業にとって「持続的イノベーション」となる
  • 既存企業にとって「破壊的イノベーション」となる

このような破壊的イノベーションの相対性は「企業は持続的イノベーションなくしては、破壊的イノベーションを推進できない」という原理に帰結する。破壊的新規参入企業は、破壊的イノベーションによって市場を切り開き、追加的なイノベーションを通してさらに大きな顧客集団のニーズを満足させる製品・サービスを提供できるようになる。その結果、既存企業との競争環境が整い、破壊的イノベーションを成功させる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(9)

新規参入企業は、既存企業が破壊的イノベーションの取り込みに魅力を感じないようにしなければならない。さもないと、既存企業の動機づけは、必然的に「逃走」から「反撃」に転じてしまう。勝利への動機づけが同等であるならば、新規参入企業と既存企業との直接対決では、既存企業が圧倒的に有利である。

「既存企業による破壊的イノベーションの取り込み」の特徴は次の通りである。

  • 既存企業が新規参入企業と似た製品・サービスの開発に取り組んだり、破壊的新規参入企業を買収、統合しようとするのは、既存企業による取り込みを示すシグナルである。
  • ビジネスモデルやプロセスに非対称性が存在しない状況では、既存企業にとって取り込みは有効な戦略となる。
  • 既存企業は新規顧客に訴求するように既存の製品・サービスを強化して、破壊的イノベーションを取り込む必要がある。
  • 成長志向型の取り込みは、早い時期に開始する必要があり、かつ新規参入企業の中核顧客をターゲットにしなければならない。
  • 防衛型の取り込みは、技術開発の終盤段階に入ってからが多い。それは、既存企業が市場の最も厚い階層で競争に敗れたことに気づき、新規参入企業の上位市場への参入を食い止めようとするからである。
  • 企業のターゲット顧客や公式発表に注目すれば、その企業が成長志向型の取り込みと防衛型の取り込みのどちらを推進しているのかがわかる。例えば、既存企業が破壊的新規参入企業の主要市場を戦略的に優先すると発表したら、それは成長志向型の取り込みのシグナルである。
  • ビジネスの成功に必要なスキルや動機づけを既存企業が持っていなければ、取り込みは成功しない。持っていれば、既存企業はいつか必ず技術を習得して、新規参入企業者を阻止するか、飲み込むだろう。

既存企業は、破壊的新規参入企業に攻撃されそうなとき、(1)市場を明け渡す、(2)成長型の取り込みを試みる、(3)防衛型の取り込みを試みる、の中からいずれかの行動をとる。その特徴をまとめると表2-3となる。

表2-3. 既存企業の戦略を特定する方法
戦略 定義 シグナル
(1) 撤退 既存企業が新規参入参入企業に市場を明け渡すこと
  • 企業が中核顧客への回帰を発表する
  • 市場の下位層を明け渡す
  • ローエンド向け製品を廃止する計画を立てる
(2) 取り込み 既存企業が社内の資源を用いて攻撃に反撃しようとすること
  • 企挙が破壊的イノベーションを構築または買収する
 (2.1) 成長志向型 既存企業が新規参入企業の市場をターゲットにする
  • 既存企業が中核製品に手を加えて新規参入企業の市場をターゲットにする
  • 既存企業が新規参入企業の市場を戦略的に優先すると発表する
 (2.2) 防衛型 既存企業が既存顧客の周りに防衛を築き、参入を防ごうとする
  • 既存企業が既存の顧客基盤のローエンドに新製品を投入する
  • 新規参入企業の市場を優先しないと発表する

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(8)

3. 非常に有望な破壊的イノベーションが期待はずれに終わり、熾烈な競争または既存企業の参入を招いてしまう状況を、どのようにして見分けるのか

破壊的新規参入企業が成功するように見えて、最終的には既存企業が勝利するような状況が存在する。非対称性を理解すれば、こうした状況を見極めることができる。次のような状況下では、急成長段階の後に、熾烈な競争のバトルが起こると予想される。

  • 業界環境のせいで、既存企業にとって「逃走」が受け入れがたい選択肢になるような場合
  • 新規参入企業が早い段階で差別化を実現するようなビジネスモデルやスキルを開発できず、その結果既存企業にとって「取り込み」が当然の選択になる場合

上位市場への逃走が、既存企業にとって自然な選択になるのは、ハイエンドに十分な規模の魅力的な市場が存在する場合に限られる。次のような状況では逃走できないことがある。

  • 企業が満たされない顧客のいる次の上位層に進出する能力をもたない場合
  • 満たされない顧客が存在しない場合
  • 既存企業がコスト構造やビジネスモデルのせいでローエンドから離れられない場合

既存企業が逃走できず、早い段階から反撃することを選択すると、新規参入企業は「非対称な動機づけ」という盾に後ろに隠れられず、非対称なスキルを磨く時間がなくなる。その結果、既存企業と新規参入企業の間で、市場シェアをめぐる熾烈な戦いが勃発するだろう。

破壊的新規参入企業が既存企業と同じような方法で利益を上げているか、よく似たプロセスを持っていると、既存企業は新規参入企業に反撃する強い動機づけを持つようになる。したがって既存企業が魅力を感じないビジネスモデルを開発できなければ、あるいは破壊的事業に見合った独自のスキルを磨けなければ、新規参入企業は既存企業に反撃の隙を与えてしまう。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(7)

2. 非対称な動機づけという「盾」と、非対称なスキルという「剣」を持った企業をどのように見分けるのか

無消費者や過剰満足の顧客を獲得するための新しい方法を生み出す新規参入企業は、既存企業から干渉を受けないまま新しい市場を創出するか、市場の低位層に参入してまったく異なるスキルやビジネスモデルを開発する可能性がある。

表2-2は、競争の勝者と敗者を見分ける、2種類の非対称性を特定する方法をまとめたものである。

表2-2. 動機づけとスキルの非対称性を特定する方法
何に注目するか 定義 シグナル
非対称な動機づけ ある企業が、別の企業がやりたがらないことをやっている(反撃から身を守るになる)
  • 企業の規模と比較した市場の規模
  • ターゲット顧客
  • 既存のビジネスモデルとかけ断れたビジネスモデル
非対称なスキル ある企業が、別の企業にできないことをやっている(攻撃に使うになる)
  • 成功するために必要なプロセスと既存のプロセスの不一致

非対称な動機づけを生み出す要因は3つあり、そのすべてが企業の価値基準と関わりがある。

  1. 事業機会の絶対的な規模
    • 大企業が感じる成長機会は、新興企業にとっての成長機会とはまったく異なる。
  2. 事業機会において当初ターゲットとされる顧客
    • 破壊的イノベーションは、既存企業にとって望ましくない顧客や、存在しないも同然の顧客から始まる。
    • 新規参入企業は、既存企業が相手にしたくない顧客を獲得する動機づけを持っている。
  3. 事業機会のビジネスモデル
    • 破壊的新規参入企業は、既存企業が利益を上げる方法とは異なるビジネスモデルを用いる。
    • 破壊的新規参入企業のビジネスモデルは、粗利益率は低いが資産回転率(資産活用の効率性)は高い傾向にある。

2つの企業が、それぞれ理に適ってはいるが全くまったく異なる行動をとっているとき、非対称性が存在する。企業が儲からないと思う業界を、別の企業が重要な業界と呼ぶときにも非対称性が働いている。新規参入企業が開拓した新興成長市場を、既存企業が戦略的な優先事項と位置付けるのは、非対称性の不在を示す兆候であることが多い。

非対称なスキルは、企業が他社を攻撃するときの武器になる。ある企業が強みを持っている市場で、別の企業が持つ能力が弱みになるのであれば、そこにはスキルの非対称性が存在する。スキルの非対称性が生じるのは、企業が同じ課題をくり返して形作ったプロセスを通して、競合企業には真似できない独自能力を開発したときである。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(6)

1. 非対称性は、破壊のプロセスをどのように促すのか

非対称性が存在するとき、破壊的攻撃企業は市場に参入して、既存企業に干渉されずに成長することができる。また既存企業がようやく対抗する動機づけを持ったときには、反撃を軽減できる。非対称な競争は、大企業の破綻によって終わりを迎えることが多い。

破壊とは、非対称な動機づけとスキルを生み出し、それを活用する戦略である。破壊は次の三段階のプロセスをたどる。

第一段階:新規参入企業が非対称な動機づけの「盾」に隠れて参入する。既存企業は初期にとった対応のせいで「詰め込み」を招く

  • 攻撃側の企業が動機づけの非対称性を活用するせいで、既存企業は最終的に大規模に成長する事業機会を見過ごしてしまう。
  • 動機づけが非対称なとき、既存企業は対抗することに関心がないため、破壊的攻撃企業は既存企業の反撃から守られる。
  • 既存企業は新技術について新規参入企業と劣らぬ知識を持っているが、プロセスや価値基準のせいで、最重要顧客のいる中核市場にその技術を必然的に「詰め込み」を行ってしまう。
  • 既存企業は、破壊性を秘めた製品・サービスを自社のプロセスに送り込むと、必然的に既存のプロセスと価値基準に合わせて製品を変えてしまう。
  • 詰め込みの問題点は、イノベーションに本来備わった破壊的なエネルギーを取り除くような形で、イノベーションを変容させることである。
2-3. 詰め込み
図2-3. 詰め込み

 

  • 詰め込みの兆候は「企業が多額の費用をかけて製品の欠陥を修正するとき」「買収した企業を統合化するために莫大な費用をかけているとき」「企業が製品に合わせて顧客の行動を変えようとするとき」「顧客がほしくもない製品を無理やり押しつけるとき」に見られる。
  • 企業は破壊的なアイデアが芽生えると、そのアイデアを主流市場に詰め込みたいという誘惑に屈してしまう。
  • イノベーションは主流市場にはねつけられることが多いため、既存企業を辞め、新しい会社を興した人が、イノベーションの真価を認めてくれる新しい市場を発見することになる。

第二段階:新規参入企業は成長して改良を進め、既存企業は逃走を選択する

  • 破壊的新規参入企業が市場のローエンドに食い込み始めると、破壊による攻撃を受けた既存企業はローエンドから逃走し、その市場を新規参入企業に明け渡す。
  • 既存企業は上位市場の満たされない顧客(金払いの良い顧客)を獲得して増収増益を得るために、持続的イノベーションをひたすら推進する。
  • 既存企業は条件のよい事業を手に入れる代わりに、条件の悪い事業を切り捨てる。
  • 既存企業の逃走の兆候には次のようなものがある。
    • 既存企業の顧客構成や製品構成の変化
    • ローエンドの製品ラインの廃止
    • 旧バージョンの製品の修理対応の終了
    • 「中核事業への集中」や「より収益性の高い機会の追求」の発表
    • 多角化の推進

第三段階:新規参入企業は非対称なスキルという「剣」を活用する

  • 破壊的新規参入企業に追い詰められた既存企業は、次の問題に直面する。
    • 「新規参入企業にとっては魅力的な市場も、既存企業の目には将来的に魅力的ではないよう見える」という非対称な動機づけが邪魔をして有効な反撃に出られない。
    • 利便性や単純さ、カスタマイズ性、手頃さを中心とした新しいメリットを市場にもたらすためのスキル(破壊的イノベーションに必要なスキル)とは、非対称的なスキルしか持ち合わせていない。
  • 既存企業はいったん市場の最上位層に退却してしまうと逃げ場がなくなり、闘争せざるを得なくなるが、その頃には競争力を失い、不利な立場に立っている。
  • 競合環境が変化して破壊的新規参入企業が優位に立つようになると、既存企業が新しいスキルをすばやく開発するのは非常に難しくなる。
  • 既存企業が自社の中核事業が斜陽であることをデータから読み取る頃に、破壊的新規参入企業に対して行動を起こしても手遅れになる。

破壊的イノベーションの環境では、非対称性を有利に活用できる新規参入企業が勝つ。既存企業は、要求の厳しい顧客に優れた製品を提供しようとする「価値基準」に阻まれて、新規市場を追求できない。また既存企業の「プロセス」は、既存顧客のニーズを満たすことはできるが、競合環境が変化して新たな能力が必要になれば弱点となる。

既存企業が破壊的新規参入企業から逃走すれば、短期的には業績が向上しても、競争に必要なスキルを失うことになる。破壊的新規参入企業に追い詰められたとき、既存企業が対抗できることは、成功した企業を遅まきながら買収して、破滅を食い止めることくらいである。

持続的イノベーションの環境では、非対称性を有利に活用できる既存企業が勝つ。新規参入企業が既存市場に急進的な持続的イノベーションを売り込もうとすると、既存企業はそれに対抗する動機づけを持っており、その結果、新規参入企業は長く熾烈な競争に身を投じることになる。

新規参入企業は、既存市場のリーダー企業に先進技術をすばやく売却するか、潤沢な資金を用意して我慢強く戦わなければならない。さもないと既存企業は新規参入企業よりも多額の費用を投じて、よりよい製品・サービスを生み出し、やがては新規参入企業を市場から駆逐するからである。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(5)

動機づけの非対称性とは、ある企業が別の企業のやりたがらないことをやろうとする状態である。スキルの非対称性が生じるのは、ある企業の強みが、別の企業の弱みであるような場合である。

ここからは、動機づけやスキルの非対称性について以下の3点について説明する。

  1. 非対称性は、破壊のプロセスをどのように促すのか
  2. 非対称な動機づけという「盾」と、非対称なスキルという「剣」を持った企業をどのように見分けるのか
  3. 非常に有望な破壊的イノベーションが期待はずれに終わり、熾烈な競争または既存企業の参入を招いてしまう状況を、どのようにして見分けるのか

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(4)

[ 資源 ]
資源とは、企業が獲得、構築、売却、破壊できる「モノ」をいう。たとえば技術、製品、現金、人的資源、蓄積された知識、確立したブランドといったものが該当する。
資源はとても柔軟性が高く、同じ資源を複数の市場や組織で生産的に利用することもできる。企業にとっては、資源を「所有」することではなく「利用できる」ことが重要である。
 
[ プロセス ]
プロセスとは、従業員が資源のインプットを、より価値の高い製品 ・サービスやその他の資源に変換するために用いる、やりとりや調整、連携、意思疎通、意思決定のパターンをいう。企業は同じ問題を繰り返し解決する必要があるとき、課題にうまく対処できるような公式、非公式のプロセスを生み出して、失敗のリスクを最小限に留める。

プロセスが資源と違うのは、それが基本的に変わらないことを前提に作られている点である。プロセスは企業のスキルや強みを決定し、またそのスキルと強みによって企業にできないことや弱みが決定する。プロセスが本来意図されない課題に用いられると、全く融通が利かず、非効率に課題が解決されることが多い。

企業のプロセスを外部から判断するときは、その企業がこれまでどのような問題を繰り返し解決する必要があったかを調べるとよい。企業がこれまで繰り返し適切に対処してきた問題をリストアップすることで、その企業の持っているプロセスを目に見える形で、かなり正確に把握することができる。

企業の強みを作っているプロセスの中には、外部者には(ときには内部者にも)わかりらいものが多い。例えば、資源をどこに投入するか、市場調査をどのように行うか、財務予測をどのように立てるか、社内で計画や予算をどのように交渉するか、といった重要な決定を支援するための補助プロセスがある。
 
[ 価値基準 ]
組織の価値基準とは、従業員が優先順位の決定を下す際に用いる判断基準のことである。価値基準は「企業の経営幹部が下すより大きな戦略決定」や「資源配分プロセス」に影響を与える。資源配分プロセスとは、どの脅威や機会に対処すべきか、すべきでないかを決定する仕組みをいう。

企業の規模、収益構造、コスト構造、最も重要な顧客、過去の投資履歴などはすべて、その企業の経営者の目にどのような戦略や投資が魅力的に映るのか映らないのかを理解する手がかりになる。企業の価値基準は、次の要因から見極めることができる。

  1. 収益・コスト構造
    • 売上構成はどうなっているのか?
    • 現在のコスト構造を維持するには、どれだけの粗利率が必要か?
    • どれくらいの規模の事業機会ならば関心を示すだろうか?
  2. 顧客リスト
    • どのような顧客のニーズに応えるために、どのようなイノベーションを優先させているのか?
    • 収益の多くを特定の顧客層から得ている企業は、その顧客層をターゲットにするイノベーションに重点的に取り組む可能性が高い。
  3. 投資実績
    • どのような事業機会に集中して投資を行い、どのような機会を見送ってきたのか?

企業の経営状況を把握し、資源、プロセス、価値基準を洗い出すことによって、企業ができることできないことを深く理解することができる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(3)

競合企業の経営状況を把握して、その強みと弱みをつかんだ上で、「剣と盾」を携える。そして「競合企業ができないことや、しようとしないことをしている企業」を探し出す必要がある。そのために、資源(Resource)・プロセス(Process)・価値基準(Value)に関する「RPV理論」を押さえ、企業の強みと弱みの源泉を理解するとよいだろう。

企業のRPVを評価するには、次の質問に答えればよい。

  1. 企業は機会をものにするために必要な資源を持っているか、または動員できるか?
  2. 企業のプロセスは、企業がしなければならないことを効果的かつ効率的に実行するのに役立つだろうか?
  3. 数ある選択肢があるなかで、企業の価値基準はこの特定の機会を優先するだろうか?

表2-1は、企業の経営状況を把握してRPVを評価する方法をまとめたものである。資源は目に見える場合が多い。また企業が繰り返し解決しなければならない困難な問題を推測すれば、企業の中核的なプロセスがどのようなものなのかがわかる。そして損益計算書と過去の投資履歴は、企業の価値基準を知る重要な手がかりになる。

表2-1 経営状態を把媛する方法
用語 定義 何に注目するか
資源 企業が持っているもの、または利用できるもの
  • 有形資産:技術、製品、バランスシート、設備機械、流通網
  • 無形形資産:人的資本(従業員の経歴、蓄積されたスキル)、ブランド、蓄積された知識
プロセス 事業を行う方法(スキル)
  • 企業がこれまで繰り返し解決したことがわかっている困難な問題
  • 典型的なプロセス人材の際保・育成、製品開発、製造、予算計画、市場調査、資源配分
価値基準 優先順位づけの基準(動機づけ)
  • ビジネスモデル
    • 企業が利益を上げる方法(たとえば売上収益とアフターサポート収益の組み合わせ方法など)
    • コスト構造/損益計算書
    • 規模と成長に対する期待
  • 過去の投資決定:これまで何を優先してきたか

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:第2章 競争のバトル ー 競合企業の経営状況を把握する(2)

マイケル・ポーター教授によると、企業が競争優位を生み出すための基本戦略には「差別化戦略」「コストリーダーシップ戦略」がある。これらの戦略には次のような特徴が見られる。

  • 市場の特定の階層を攻撃する低コストの競合企業が、価格優位性を有効に活かせるのは、高コストの競合企業がその市場に留まっている間のみである。
  • 低コスト企業は、高コスト企業を市場から駆逐すれば、より上位の市場に進出して、さらにコストの高い競合企業に戦いを挑まなければならない。
  • 差別化戦略を通じて競争優位を生み出そうとする企業は、差別化した側面を重視してくれる新しい市場を探し続けなければならない。

企業が優位性を維持し、利益率を高めるためには、上位市場や新しい市場に向かわなければならない。それゆえ、破壊的企業は上位市場に向かうための方法を考案する動機づけをもっている。

企業は最初に無消費者をターゲットにするとき、一般に彼らのニーズを十分満たせないため、上位市場に向かうための持続的イノベーションを推進する必要がある。顧客のニーズを満たそうとする企業は、いつか必ず顧客に過剰な性能を提供するようになる。その結果、ローエンド型破壊的イノベーションと置き換えのイノベーションの機会を自ら作り出し、競争基盤が変化する事態を招いてしまう。

ローエンド型破壊的イノベーションと置き換えのイノベーションは、要求の厳しくない顧客にとっては必要にして十分かもしれないが、より要求の厳しい顧客にとっては十分でないため、上位市場に向かう持続的イノベーションを推進することが求められる。

企業はこの循環的なサイクルを繰り返しながら、魅力的な価格を支払ってくれる顧客を求めて製品・サービスを改良し続け、性能向上曲線をのぼるうちに、既存企業の優良顧客に刻々と近づいていく。

図2-2. イノベーションの循環的なサイクル
図2-2. イノベーションの循環的なサイクル

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社