最終解 序章

イノベーションの最終解:序章 (4)

3. バリューチェーン進化の理論 ー「十分でない」ものを改良するための統合

企業が製品を製造したりサービスを提供したりするにあたり、次の選択肢がある。

  • 統合化を進めて、ほとんどの活動を社内で行う
  • 狭い範囲の活動に特化、集中して、それ以外の付加価値活動を仕入れ先や提携先企業に提供してもらうかである

バリューチェーン進化の理論(VCE理論)は、企業が競争を勝ち抜くために、組織設計に関する適切な意思決定を行っているかどうかを評価するものである。VCE理論によれば、企業は顧客が最も重視している特性における性能を向上させるような付加価値活動(またはその組み合わせ)をコントロールすべきである。

付加価値活動を統合する企業は、その活動において予測不能な「相互依存性」が引き起こす問題を解決する実験を自由に行うことができるため、いずれ完全なプラットフォームを手に入れることできる。一方、製品・サービスのバリューチェーンの一部に特化する専門的企業は、自社製造の部品が他社製造の部品と予測不能な方法で作用し合うと、性能と信頼性の劣る製品を生み出してしまう。

統合化によって可能になる性能改良は、それなりの犠牲を伴う。統合型アーキテクチャは相対的に柔軟性に欠け、統合型企業は相対的に対応が遅くなる傾向にある。VCE理論によれば、企業は顧客が最も重視している(または将来重視すると考えられる)製品の特性に影響を与えないような付加価値活動を、外注すべきである。バリューチェーン内の限られた部分を最適化することにかけては、専門的企業の方が長けている。

モジュール型アーキテクチャは、分業化を容易に(または可能に)する反面、 製品化に要する時間や、対応の早さ、利便性という面での性能が犠牲になる。この犠牲を受け入れるからこそ、企業は製品全体を設計し直すことなく、個々のサブシステムを改良するだけで、製品をカスタマイズできる。

イノベーションの理論は、どのような要因が環境を形づくり、企業の自然な決定に影響を及ぼすのかを理解する助けになる。理論を使えば、重要な動向が起こっていることを指し示すシグナルを明らかにし、またこうした動向が業界のプレーヤーに与えるであろう影響を説明することができる。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:序章 (3)

2. 資源・プロセス・価値基準の理論 ー 能力の構成要素

資源・プロセス・価値基準の理論(RPV理論)によれば、資源(企業がもっているもの)、プロセス(企業が仕事をする方法)、価値基準(企業がしたいこと)が合わさって、組織としての強み、弱み、死角を決定している。

  • 資源:組織が購入、売却、構築、破壊できるモノや資産
  • プロセス:組織が資源のインプットを、より価値の高いアウトプット(製品・サービス)に変換するために用いる、確立された仕事のパターン
  • 価値基準:組織が資源を配分する際に参照する基準
図0-2. 資源、プロセス、価値基準
資源 プロセス 価値基準
組織が購入、売却、構築、破療できるモノや資産
例)

  • 人材
  • 技術
  • 製品
  • 設備機器
  • 情報
  • 現金
  • ブランド
  • 流通チャネル
企業がインプットを製品・サービスに変えるために用いる、確立された仕事のパターン
例)

  • 人材の確保育成
  • 製品開発
  • 製造
  • 予算計画
  • 市場調査
  • 資源配分
組織が優先順位づけを行う際に参照する基準
例)

  • コスト構造
  • 損益計算書
  • 顧客の要求
  • 事業機会の規模
  • 倫理観

 
RPV理論によると、組織が事業機会をものにできるのは、その組織に成功するための資源があり、なすべきことを容易にするプロセスがあり、資源を求めるその他すべての機会の中から、その特定の機会に高い優先順位を与えるような価値基準があるときである。

既存の優良企業が持続的イノベーションをマスターできるのは、持続的イノベーションを優先させる価値基準と、持続的イノベーションに対処するために設計されたプロセスと資源を持っているからである。その同じ既存企業が、破壊的イノベーショを前にして失敗するのは、企業の価値基準が破壊的イノベーションを優先せず、既存のプロセスがなすべきことをする助けにならないからである。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:序章 (2)

1. 破壊的イノベーションの理論 ー 単純、安価、画期的

破壊的イノベーションの理論(破壊理論)は、新しい組織が相対的に単純、便利で、低コストのイノベーション を利用して成長を生み出し、強力な既存企業に打ち勝つことができるような状況を指摘する。破壊理論によると、既存の優良企業は持続的イノベーションの戦いでは、新規参入企業に勝つ可能性が高いが、破壊的イノベーションで攻撃をしかけてくる企業には、ほぼ必ず負ける。

破壊理論を図示すると以下のようになる。

0-1. 破壊的イノベーション理論
図0-1. 破壊的イノベーションの理論

 
<破壊理論の特徴>

  • 企業の性能向上曲線は、製品・サービスが時間とともに改良されていく様子を示す。
  • 顧客の需要曲線は、顧客に使いこなせる性能がどのように移り変わってきたかを示す。
  • 需要曲線が示すように、特定の市場用途での顧客のニーズは、時間が経過してもそれほど変化しない。
  • 持続的イノベーション:確立した性能向上曲線を企業がのぼっていく原動力になるもの
    • 顧客がそれまで重視してきた特性において、既存製品に加えられる改良である。
    • 例)航続距離を伸ばした航空機
    • 例)処理速度を上げたコンピュータ
    • 例)持ち時間の延びた携構電話のバッテリー
    • 例)画質が徐々にまたは劇的に向上したテレビ
  • 破壊的イノベーション:新しい価値提案を実現するもの
    • 破壊的イノベーションには、新しい市場を生み出すもの(新市場型)と、既存市場を大きく変えるもの(ローエンド型)の2種類がある。
    • ローエンド型破壊が起こるのは、既存顧客が使いこなせる価値に比べて、製品・サービスが「性能過剰」になり、高価になりすぎたときである。
      • ローエンド型破壊は、既存顧客に相対的に単純な製品を低価格で提供することから始まる。
      • 例)ニューコアの製鋼ミニミル
      • 例)ウォルマートのディスカウントストア
      • 例)バンガードのインデックスファンド
      • 例)デルのダイレクト販売のビジネスモデル
    • 新市場型破壊的イノベーションが起こるのは、既存製品の特性のせいで、潜在的顧客の数が制限されているとき、または不便で集中的な場所で消費を行わざるを得ないときである。
      • 新市場型破壊は、高度な専門知識か豊富な資金がなければできなかったことを、より簡単にできるようにすることで新しい成長を創出する。
      • コダックのカメラ
      • ベルの電話
      • ソニーのトランジスタラジオ
      • ゼロックスのコピー機
      • アップルのパソコン
      • イーベイのオークションサイト

図0-1は『新市場型破壊的イノベーションは、新市場型破壊がどのようにして「無消費者」や「無消費の状況」に消費をもたらすか』を示している。
 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社

イノベーションの最終解:序章 (1)

『イノベーションのジレンマ』の理論は、新規成長事業を立ち上げるのがなぜこれほどまでに難しいのかを説明した。『イノベーションへの解』は、イノベーションを起こそうとする人たちのために、理論を用いることによって、成長事業を立ち上げるプロセスで予測通りの結果を導く方法を説明した。どちらも「内部者が外を見る視点」、つまり戦略の構築・実行を担当する、全社的な意思決定者の視点から書かれている。対して『イノベーションの最終解』は、「外部者が内を見る視点」に立って、イノベーションが業界にどのような変化をもたらすのかを分析するために、こうした理論を用いる方法を示す。

優れた経営理論とは、特定の状況での因果関係(ある状況で、何が何を引き起こすか)に関する言明であり、次の要素を必ず備えている。

  • 企業のマネジャーが、特定の状況に対処するための指針となる、状況に基づく厳密な分類方式という裏づけ
  • なぜ特定の行動をとると、特定の結果を招くのかを説明するとともに、なぜ同じ行動をとっても、状況によって結果が異なるのかを説明する、因果関係に関する言明

『イノベーションのジレンマ』と『イノベーションへの解』の核にあるのは、イノベーションのプロセスを解き明かす3つの重要な理論である。

  1. 破壊的イノベーションの理論
  2. 資源・プロセス・価値基準の理論
  3. バリューチェーン進化の理論

 

<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社