「バリューチェーン進化の理論」によれば、組織はバリューチェーン内の「十分でない」側面を向上させる際に影響のあるインターフェースを、全体にわたって統合化する必要がある。
製品の機能性と信頼性が顧客のニーズを過剰満足させるようになると、利便性、カスタマイズ性、価格が「十分でない」側面になる。解決すべき難問が変われば、統合化が必要な場所もそれに合わせて移動する。機能性と信頼性が十分でないとき、性能を最大限に高めようとする企業は、製品・サービスの設計と製造の重要な構成要素を統合化することが多い。
最も困難な技術的問題を解決するには、システムが緊密に統合化されていることが不可欠である。企業がその難問を解決すると、この種の統合化は必要なくなる。
専門的企業がモジュール化した特定の領域で「必要にして十分な」製品・サービスの構成要素を提供できるようになる。利益を上げる能力は、モジュール型の製品・サービスを組み立てる企業から離れ、重要なサブシステムをつくる企業へ、そして速度と利便性を左右する性能向上のカギとなる箇所で統合化している企業へとシフトする。
バリューチェーンの一部が統合型からモジュール型にシフトすれば、バリューチェーン全体に影響が及ぶ。「統合保存の原則(魅力的な利益保存の法則)」によれば、バリューチェーンのある段階で、性能を最適化するために相互依存的なシステムアーキテクチャが必要になったとき、次の条件を満たさなければならない。
- 十分でない性能を最大化するためには、バリューチェーン内の隣接する段階の製品・サービスのアーキテクチャが、モジュール型かつ変換可能でなければならない。
- 統合型のものを最適化するためには、それを取り囲むものがモジュール型でなければならない。
バリューチェーンのある段階で、モジュール化とコモディティ化が生じ、そのせいで魅力的な利益が消滅するとき、統合保存の原則が働き、独自製品によって魅力的な利益を得る機会は、その隣の段階にシフトする。
統合型企業が業界のバリューチェーン全体にわたって統合化されているのに対し、専門的企業は十分でないひとつの構成要素を製造するために統合化されていたり、カスタマイズ化や利便性を左右するインターフェース(例えば、顧客やサプライヤーとのインターフェース)にわたって統合化されている。
<参考文献>
クレイトン・M・クリステンセン (著), スコット・D・アンソニー (著), エリック・A・ロス (著) (2014)『イノベーションの最終解』翔泳社