ステップ2:企業は成長ギャップに直面する
企業は成功するが、やがて経営者は成長ギャップに直面していることに気付く。成長ギャップとは「市場が予想する成長率」と「株主に平均以上の利益をもたらすために実現しなければならない成長率」との格差である。投資家が将来の予想成長率を株価に織り込むことから、企業は投資家が現在の株価水準に織り込んでいる予想成長率を上回るペースで成長するしかない。
投資家は「企業が現在携わっている事業」と「その事業の持続的向上の軌跡上に存在する成長の潜在性」を分析し、それらを株価に織り込むため、持続的イノベーションは企業の株価を維持する上で、極めて重要となる。持続的イノベーションを通してコスト削減を行い、投資家の予想以上に堅調なキャッシュフローを生み出せれば、株主価値も生み出すことができる。
持続的イノベーションを通して、投資家の予想を越える業務効率の向上を行い株主価値を生み出しても、株価の軌跡を上方に押し上げることはできるが、その勾配に大きな変化はない。株価グラフの傾きを大きくするためには、破壊的イノベーションが必要である。
企業が投資家の期待を上回り、並はずれた株主価値を生み出すのは、新たな破壊的事業を生み出すときである。新たな破壊的事業の創造は、長期にわたって株主価値を生み出し続けるための、唯一の方法である。その理由は次の通りである。
- 新事業の規模が大きくなるにつれ、成長率を維持するために必要とされる事業規模の閥値は年々高くなる。
- やがて企業は成長率が投資家予想を下回ることを発表し、投資家が成長性を過大評価していたことに気付くと、株価は大幅に下落する。
- 経営幹部は株価を再び上昇軌道に乗せようとして、中核事業の現実的な潜在成長率よりもはるかに高い目標成長率を発表し、さらに大きな成長ギャップを生み出してしまう。
- さらに大きな成長ギャップを埋めるためには、企業がまだ思いついていない新しい成長製品や事業が必要になる。
このような競争への参戦を拒む経営者は、やる気のある経営者に取って代わられる。また成長を求めない企業の時価総額は下落し、やがては意欲的な企業に買収されてしまう。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社