イノベーションへの解:第9章 良い資金もあれば、悪い資金もある (9)

直近の財務成果に現れるのは、実際には何年も前にプロセス改善や新製品開発、新事業創出のために行われた投資の成果でしかない。財務成果は当時の事業の健全性を計る尺度であって、今日の事業の健全性を計る尺度ではない。信頼性のあるデータは、過去に関するものしか入手できないが、それは将来が過去と類似しているのでない限り、正確な指針にはなり得ない。

既存の事業分野の業績を詳細に分析し、そのデータに基づいて意思決定を行うことは、利益をあげながら持続的向上の軌跡を昇るにあたって極めて重要なことである。破壊的な新事業で発見志向計画法を実行する際、どの前提条件が最も重要かを判断するには、起こり得る事象について形式に従った財務分析を行うことが役立つ。確かな理論があれば、淡然とした数字に戦略的意味を与え、入手したデータからシグナルを読み取れるようになる。

成長メーターがゼロの方に傾くまで待ってから、新成長事業で燃料を補給しようとしてもうまく行かない。成長メーターが「空」になったときに対処するのではなく、プロセスと方針によって、エンジンを常に作動させておく必要がある。

成長エンジンを作動させておくための方針は3つある。これらをすべて実行に移せば、組織は必然的に早く小さな規模で始め、早期の成功を要求するようになる。

  1. 早く始める
    • 新成長事業をまだ本業が健全な間に、つまり成長を気長に待てるうちに、定期的に立ち上げる。
    • 財務成果にそれが必要だという徴候が現れてからでは遅すぎる。
  2. 小さく始める
    • 企業が大規模になっても、成長事業を立ち上げる決定が、成長を気長に待てる組織部門の中で下されるよう、事業部門を分割し続ける。
    • 規模が小さければ、小さな機会への投資で十分な利益を得られるため、成長を気長に待てる。
  3. 早期の成功を要求する
    • 新成長事業の損失は、極力、既存事業の利益で補填しないようにする。利益を気短に急かす。
    • 会社の中核事業が傾き始めても有望な事業に必要な資金を確保するためには、利益を実現するに限る。

 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社