『イノベーションのジレンマ』では、破壊的イノベーションのモデルを図2-2のように表現した。縦軸に製品の「性能」、横軸に「時間」をとり、2つの軸から構成される面は、顧客が製品やサービスを購入し使用する、特定の用途市場を表している。この平面(次元)のことを「バリュー・ネットワーク」と呼んだ。
企業はこのバリュー・ネットワークという環境の中で、コスト構造や業務プロセスを確立し、サプライヤーやチャネル・パートナーと協力して、ある階級の顧客に共通するニーズを満たして利益を得る。バリュー・ネットワークの中では、各企業の競争戦略、そして特にコスト構造や、対象とする市場や顧客の選択によって、企業がイノベーションの経済的価値をどう認識するかが決まる。
図2-2. 破壊的イノベーション・モデル(2次元モデル)
『イノベーションの解』では破壊的イノベーションを2種類に分ける。2種類の破壊的イノベーションをわかりやすく示すために、破壊的イノベーションのモデルを表すグラフに「無消費または無消費の機会」という第3軸を加えて、図2-3のように表現している。
図2-3. 破壊的イノベーション・モデル(3次元モデル)
第3軸上に展開する赤色の平面(第3次元)は、消費と競争が行われる新しい・バリューネットワークを表している。このネットワークは、「従来その製品を購入し利用するための金やスキルを持たなかった新しい顧客」か、または「製品が利用される新しい環境」のどちらかで構成される。
新しいバリュー・ネットワークは、従来品よりシンプルで携帯性に優れ、製品コストが低い新製品が現れたときに生まれる。こうした新しいバリュー・ネットワークにおいては、主流のバリュー・ネットワークとは異なる尺度で定義される「製品の性能」を示す縦軸を引くことができる。
図2-4. さまざまなバリュー・ネットワーク
図2-4のように、新しいバリュー・ネットワークは主流のバリュー・ネットワークからさまざまな距離を置いて、第3軸に沿って現れる。このような新しいバリュー・ネットワークを生み出す破壊のことを「新市場型破壊」と呼ぶ。これに対し、主流のバリュー・ネットワークのローエンドにいる、最も収益性が低く、ニーズを過度に満たされた顧客を攻略する破壊のことを「ローエンド型破壊」と呼ぶ。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社