イノベーションへの解:第1章 成長という至上命令 (1)

[ 第1章のテーマ ]

  • 金融市場は成長せよ、ますます速く成長し続けよ、と経営者を容赦なくあおり立てる。この至上命令を全うすることは、果たして可能なのか。
  • 投資家の成長要求を満たす見込みのあるイノベーションを推進すれば、逆に投資家には受け入れがたいリスクを負うことにならないのか。このジレンマに打開策はあるのか。

「中核事業が成熟した後に新たな成長基盤を築くことに伴うリスク」は非常に大きい。たとえ中核事業が力強く成長していても、株主の予測より速いペースで成長しない限り、市場平均を上回るリスク調整後のリターンを将来的には実現できない。企業が株価を引き上げるためには、市場予測を上回る速さで成長する必要がある。

一般に金融市場は、経営幹部のそれまでの実績に基づいて、企業が未知の事業からどれだけの成長を生み出すかを予測する。企業が優位性を活かして新たな事業を生み出してきたことを市場が評価すれば、「未知の事業が生み出す成長」が予測され、株価の上昇に影響を与える。

企業が新たな成長を生み出す事業、つまり新成長事業を狙い通り構築することができないのは、新成長事業を生み出すためのプロセスがまだ解明されていないからであると、クリステンセン教授は考える。イノベーションのプロセスを予測可能にするには、事業構築に携わる中間管理職に作用する力(何を決定し、何を決定できないかをコントロールする力)を理解する必要がある。

どのような企業にあっても、イノベーションのプロセスでは中間管理職が極めて重要な役割を果たしている。優れたアイデアを選別し、上層部から資金を確保できるように、さらに磨きをかけることが、中間管理職の仕事である。彼らはデキル奴という評価を得んがために、新たな成長のためのアイデアの中から、在任期間中に成果があがるものだけを推進する傾向がある。革新的な可能性を秘めた新しいアイデアでさえ、既存顧客を一層満足させるための計画に容赦なく作り変えられてしまう。

アイデアが形成されるプロセスにおいて、イノベーションらしいアイデアを、真の破壊的成長を生み出す事業計画へと形成するためには、「どのような条件下で、何が、何を、なぜ引き起こすか」という理論体系を理解する必要がある。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社