組織の中に新しい能力を生み出すには、大きく3つのポイントがある。
1. 人材層を厚くする
新成長事業の成功率を高めるには、現時点で新事業構築という挑戦に取り組む能力を備えているマネージャーに任せるのがよい。だが将来のマネージャーを育成するには、前途有望なマネージャーを、荷が重い責務や状況に放り込んで必要なスキルを学ばせる必要がある。
企業が有望な事業を生み出していなければ、社内の「経験の学校」で、次世代マネージャーを教育するための適切なカリキュラムを提供することができない。一方、有能なマネージャーを適所に配置しなければ、その成長事業を生み出す条件が整わない。このような「イノベーションのジレンマ」に人事担当役員は適切に対処しなければならない。
「経験の学校」の理論では、潜在能力を測る指標は「社員に備わっている能力」ではなく「将来起こり得る状況で必要となるスキルを獲得する能力」である。幹部候補に求められる能力は、将来放り込まれる「経験の学校」で身につけるべきことを学ぶ力である。
潜在能力の高い社員を特定するための人事考課では、「ライトスタッフ」の条件に基づく評価ではなく「学習力」を重視すべきである。例えば「進んで学習する」「意見を受け入れ、それを活かす」「適切な質問をする」「物事を新しい観点から捉える」「過ちから学ぶ」といった、新しいスキルを習得する意欲にあふれた社員を特定することを狙いとする評価だ。
仕事の適正が既に十分あると見なされた人材は、業務から学習する余地が少ない。逆に、学ぶ余地が大きい人材は、業務に活かせる経験がほとんどない。成果をもたらすために適性を持った人材を活用しつつ、さらなる能力開発が必要な有望社員に学習の機会を与えるためには、業績拡大ばかりを追求しない自制心と次世代のマネージャーを育てる先見の明が求められる。
社内の経営開発プロセスは、マネージャーのスキルと社内の「プロセス」や「価値基準」との間に、最適化された相互依存型のインターフェースを作り出すことができる。しかし、マネージャーの能力が十分でない状況では、「モジュール型」のマネージャーを外から雇って、社内の複雑で相互依存的な「資源 – プロセス – 価値基準」の体系に投入しても、うまくいかないことが多い。「ライトスタッフ」の属性を数多く備えた人を迎え入れることは、予想以上に失敗する確率が高い。
新成長事業を続けざまに立ち上げる企業は、経営者育成の好循環を作り出すことができる。成長事業を次から次へと立ち上げれば、次世代経営者に破壊的イノベーションを指揮する方法を教え込む学校が出来上がる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・ライナー (著) (2003)『イノベーションへの解:利益ある成長に向けて』翔泳社