イノベーションのジレンマ:序章 (3)

図0-1. 持続的イノベーションと破壊的イノベーションの影響
図0-1. 持続的イノベーションと破壊的イノベーションの影響

 
図0-1で示すように、技術革新のペースがときに市場の需要のペースを上回るため、企業が競争相手よりすぐれた製品を供給し、価格と利益率を高めようと努力すると、市場を追い抜いてしまうことがある。顧客が必要とする以上の、ひいては顧客が対価を支払おうと思う以上のものを提供してしまう。破壊的技術の性能は、現在は市場の需要を下回るかもしれないが、明日には十分な競争力を持つ可能性がある。

安定した企業が「破壊的技術に積極的に投資するのは合理的でない」と判断することには、3つの根拠がある。

  1. 破壊的技術を採用した製品の方がシンプルで低価格、利益率も低い。
  2. 破壊的技術が最初に商品化されるのは、一般に新しい市場や小規模な市場である。
  3. 大手企業にとって最も収益性の高い顧客は、通常、初期にて破壊的技術を利用した製品を求めない。

破壊的技術は、最初は市場で最も収益性の低い顧容に受け入れられる。優良顧客の意見に耳を傾け、収益性と成長率を高める新製品を見い出す企業は、破壊的技術へ投資を行わないか、あるいは投資が遅れる。

優良企業が破壊的技術に直面したとき、その優れた経営手法により失敗することがある。あらゆる業界のあらゆる企業は、組織の価値基準のもとに動く。組織の価値基準は、企業の経営判断に強く作用する。破壊的技術に直面した経営者が組織の価値基準に屈したとき、企業を失敗させる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社