イノベーションのジレンマ:第10章 破壊的イノベーションのマネジメント (1)

破壊的イノベーションに直面したとき、マネージャーは次の行動をとることで成功を得るだろう。

  1. 破壊的技術の市場と製品を分析する
    • 「自社の製品は競合に対して十分な破壊的脅威となるだろうか」「収益性の高い成長機会となるだろうか」という疑問に対して技術の軌跡グラフを作成し、破壊的技術を見極める。
    • 現在の主流市場の需要を定義し、それを破壊的製品の能力と比較する。
    • 市場の需要を測るため、顧客の意見を聞くだけでなく、顧客の行動を注意して観察する。

     

  2. 技術の軌跡グラフから破壊的技術かどうかを予測する
    • 破壊的製品になるには、いつか主流市場の一部で競争力を持つであろう性能向上の軌跡に乗っていなければならない。この可能性を評価するには「市場で求められる性能向上」と「製品によって供給しうる性能向上」の軌跡を予測する必要がある。
    • これらの軌跡が並行であれば、製品は主流市場の一部にならないだろう。技術の方が需要より速いペースで進歩するのであれば、破壊の脅威は現実のものとなる。

     

  3. 新市場を開拓するマーケティング戦略を策定する
    • 製品が潜在的に破壊的技術であると判断したら、次は新市場を開拓するマーケティング戦略の策定である。
    • 戦略の策定では次のようなポイントを抑える。
      1. 破壊的製品は主流市場の基本的な性能要求を満たしていないため、「最初は主流の用途には使えないこと、確立した市場がないこと」をプロジェクト関係者が認識する。
      2. 破壊的技術の市場に早い時期に参入すれば、後続の企業よりはるかに優位に立つための能力を身につけられるため、いち早く製品が使える市場を見つける。
      3. 足がかりとなる市場で収益をあげて事業基盤とし、その後の持続的イノベーションにはずみをつけ、破壊的技術として上位市場へ、そして主流へと移行する。
      4. 主流市場で破壊的技術の競争力を失わせている特性があれば、それは新しいバリュー・ネットワークでは有利な特性になる。
      5. 初期の市場がどのようなものになるかは市場調査ではわからない。
      6. 市場に関する情報で役に立つのは、実際に市場に踏み込み、試験と検査、試行と錯誤を繰り返し、実際に代金を払うリアルな人びとにリアルな製品を売ることによって得た情報だけである。
      7. 事業戦略は既知の計画を実行するためではなく、学習のための計画でなければならない。
      8. 最初のターゲットに向かって事業を進めるうちに過ちをおかしたら、できるだけ早く何が正しいのかを学ぶ。

     

  4. バリュー・ネットワークと潜在市場を予測する
    • 何が最初のバリュー・ネットワークになるのか、どのような潜在市場があるのかを考える。
    • バリュー・ネットワークや市場の予測は、最終的に当たるかどうかはともかく、少なくとも「破壊的技術の発展」と「成長の過程」に矛盾しないようにする。

     

  5. 製品のライフサイクルを考慮して設計する
    • 製品の競争と顧客の選択が『性能』という尺度から『信頼性』や『利便性』など他の特性に移行しているのであれば、『シンプルさ』や『便利さ』などを特徴とした設計を行う。
    • まず設計においては次の前提が重要となる。
      1. 製品のライフサイクルとともに競争の基盤は変化する。
      2. 性能の供給過剰(技術によって供給される性能が市場の実際のニーズを超えること)が起きると、進化自体が循環する。
    • 性能の供給過剰が起きると、単純、低価格で便利な技術が求められ、破壊的技術の入り込む余地が生まれる。そこに、シンプルさ、便利さといった特性を価値基準に持つ新しいバリュー・ネットワークが生まれる可能性がある。

     

  6. 破壊的技術の設計ポイントを抑える
    • 次の基準に従って設計を進めるとよい。
      1. 単純で信頼性が高く、便利な製品でなければならない。
      2. 製品の最終的な市場と用途は誰にもわからないため、特徴、機能、スタイルを短期間に低コストで変更できる製品プラットフォームを設計する。
      3. 製品の初期モデルは短期間に低コストで仕上げ、市場からのフィードバックに合わせて作り直すための予算を十分に残しておく。
      4. 主流市場の製品よりも価格(あるいは単価)を低く設定する。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社