図9-2. 競争基盤の変化のマネジメント
図9-2は「性能の供給過剰」のモデルである。市場が求める性能向上の軌跡の方が、技術者が供給する性能向上より傾斜がゆるやかな、複数の層になった市場を図式化している。
図9-2では、市場の各層が『性能 → 信頼性 → 利便性 → 価格』という、製品の選択基準の移行が起きるサイクルの中を進んでいる。この中で、競争基盤の変化や製品ライフサイクルの進化の兆しとなる製品が破壊的技術である。
さらに図9-2は、性能の供給過剰に直面した企業が採り得る3つの戦略を表している。その3つの戦略は、業界の競争の性質を変える可能性を持つ破壊的アプローチである。
- 戦略1 ハイエンドの顧客に向けて上位市場へ進む
持続的技術の軌跡に沿ってさらに上層の市場へと移動し、単純、便利、または低コストの破壊的アプローチが出現したら、低い層の顧客をあきらめる。 - 戦略2 顧客に合わせる
いずれかの層の市場で顧客のニーズに合わせてゆっくりと進化し、幾度かの競争基盤の変化の波にうまく乗る。 - 戦略3 機能に対する市場の需要を変化させる
市場の軌跡の傾斜を急にするマーケティング計画を採用し、技術が供給する性能の向上を、顧客が求めるようにしむける。
3つの戦略のいずれも、意識的に追求すれば成功する可能性がある。成功した企業は、明確に意識しているにせよ、直感にせよ「顧客の需要の軌跡」と「自社の技術者の供給の軌跡」の両方を理解している点で共通している。
しかし、一貫してこのような戦略をとってきた企業の数は極めて少ない。優良企業のほとんどは、無意識のうちにハイエンド市場へと移動し、競争基盤の変化に足をとられ、破壊的技術による下からの突き上げを食らっている。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社