性能の供給過剰は「製品のサイクルを次の段階への移行を促す重要な要因」であり、「購買階層のある段階から別の段階への移行を促す要因」でもある。そのことを示す2つのマーケティング・モデルを紹介する。
- ウィンダミア・アソシエーツの「購買階層」
(1)機能、(2)信頼性、(3)利便性、(4)価格の4段階で構成される製品サイクル- (1) 機能
機能に対する市場の需要を満たす製品がない状況では、競争の基盤、つまり製品の選択基準は製品の『機能』になりやすい。 - (2) 信頼性
機能に対する市場需要を十分に満たす製品が複数現れると、「顧客信頼性に対する市場の需要」が「メーカーが供給できる信頼性」を上回る間は、顧客は『信頼性』を基準に製品を選択し、最も信頼性の高い製品のメーカーがプレミアムを稼ぐ。 - (3) 利便性
複数のメーカーが「市場が求める信頼性」を満たすまで改良を進めると、競争の基盤は『利便性』へと移り、顧客は最も使いやすい製品と最も取引しやすいメーカーを選択するようになる。「市場の需要」が「メーカーが供給できる利便性」を上回っている間は、顧客は利便性を基準に製品を選択し、メーカーはそれに対して価格プレミアムを受ける。 - (4) 価格
最後に複数のメーカーが、市場の需要を十分に満たす便利な製品やサービスを提供するようになると、競争の基盤は『価格』へと移る。
- (1) 機能
- ジェフリー・ムーアの「クロッシング・ザ・カズム(キャズム理論)」
(1)イノベーター、(2)アーリーアダプター、(3)アーリーマジョリティー、(4)レイトマジョリティー、(5)ラガードの5つの客層で構成されるテクノロジー導入ライフサイクル- (1) イノベーター
製品はまず、製品を機能だけで選択する顧客である『イノベーター』によって使われる。この段階では、最も高性能な製品が大きな価格プレミアムを得る。 - (2) アーリーアダプター
次に『アーリーアダプター』という顧客が製品を購入するようになり、主流市場の機能に対する需要が満たされると、市場は大幅に拡大する。 - (3) アーリーマジョリティー
市場の拡大に伴い、メーカーは『アーリーマジョリティー』という顧客の間に生じる信頼性に対する需要に対応しようとする。 - (4) レイトマジョリティー
製品とメーカーの信頼性の問題が解決されると、第三の成長の波がおとずれ、イノベーションと競争の基盤は利便性へと移り『レイトマジョリティー』という顧客を引き込む。 - (5) ラガード
ある次元の性能に対する市場の需要が飽和状態に達するまで、技術は進化することができる。イノベーションが一般化すると『ラガード』という顧客がようやく製品を採用する。
- (1) イノベーター
『機能』『信頼性』『利便性』『価格』という競争基盤の進化のパターンは、多くの市場に見られる。そして、破壊的技術の登場は競争基盤の変化の兆しである。
「性能の供給」が「市場の需要」を超えると、それが差別化した製品であっても市場は価格プレミアムを支払わない。市場の需要を超えた性能を持つ製品は、市況商品のように価格が決定されるようになり、競争の基盤を変える破壊的製品がプレミアムを獲得することができる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社