組織が設立されたばかりのときは、組織の資源である人材に依存するが、時が経つにつれて、組織の能力の中心はプロセスや価値基準へと移っていく。従業員が協調して反復作業に対応すると、プロセスが明確になる。さらに事業モデルが形成され、どのような事業の優先順位が最も高いかが明らかになってくると、価値の基準が生まれる。
企業のプロセスや価値基準が形成される段階では、企業の創業者の行動や姿勢が大きな影響力を持つ。創業者のやり方が有効であれば、従業員は創業者の問題解決方法や意思決定基準の正しさを経験する。そのやり方をうまく利用し、連携して反復作業に対処していくうちに、プロセスが確立していく。同様に、創業者の決めた優先順位に従って資源配分を決定し、商業的に成功すれば、企業の価値基準が形成される。
企業が成熟すると、従業員は徐々にそれまで受け入れてきた優先順位や意思決定の方法が正しい仕事のやり方だと考えるようになる。組織メンバーの思い込みによって仕事の方法や意思決定の基準を受け入れるようになると、そのようなプロセスや価値基準が、組織の「文化」を形成するようになる。組織文化があれば、従業員は自主的に一貫した行動をとるようになる。
組織の能力を定義する中心的要因は、時間とともに、資源から認知しやすい意識的なプロセスや価値基準へ、さらに組織文化へと移行していく。組織の能力が人材(資源)からプロセスや価値基準へ移行し、さらにそれが文化のなかに組み込まれると、変化は極めて難しくなる。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社