ディスク・ドライブ業界の歴史においては、116種の新技術のうち111種が持続的技術、5種が破壊的技術であった。当時業界をリードしていた企業が破壊的技術を用いて成功した例は、一社もなかった。持続的技術と破壊的技術で、なぜこれほど成功率に差が出るのだろうか。
破壊的イノベーションは断続的に発生するため、それらに対処する慣例的な「プロセス」を持っている企業など存在しない。さらに、破壊的製品は1個あたりの利益率が低く、最上層の顧客には使われないため、優良企業の「価値基準」には合わない。大手ディスク・ドライブ・メーカーには、持続的技術でも破壊的技術でも成功できるだけの「資源」、すなわち人材・資金・技術があった。しかし、そのプロセスと価値基準が、破壊的技術で成功する上で無能力であった。
新興市場を追求する能力は、小規模な破壊的企業の方が優れているため、大企業はそのような市場を放棄することが多い。小規模企業には資源が不足しているが、小規模な市場を受け入れる価値基準があり、低い利益率に対応できるコスト構造がある。アバウトな市場調査と資源配分プロセスをもとに、経営者が直観的に事業を進めることができる。
変化や革新に直面したときに経営者が対処すべきことは、発生している問題に適切な資源を配分することだけではない。その資源が投下される組織そのものに、成功する能力を持たせなければならない。また組織のプロセスや価値基準が問題解決にふさわしいものかどうかを確認しなければならない。
<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社