イノベーションのジレンマ:第7章 新しい成長市場を見いだす (5)

破壊的製品がどのように使われ、その市場がどのような規模になるのかを正確に予測することは不可能である。したがって、破壊的技術の市場に参入するときの戦略は間違っていることが多い。

第6章では「新しいバリュー・ネットワークに参入した企業の成功率が37%、既存のバリュー・ネットワークに参入した企業の成功率が6%であった」と紹介した。破壊的技術では市場の事前予測ができないにもかかわらず、なぜそのような市場をターゲットにした企業の方が成功するのだろうか。その理由は、「新しい市場の開拓は本質的にリスクの高い事業である」という直観が間違っているからである。

一般的にビジネスパーソンは(内在するリスクに関係なく)自分に理解できない案はリスクが大きく、理解できる案はリスクが小さいと判断しがちである。そのため、破壊的技術による新しい市場の開拓はリスクが大きいと捉え、持続的技術への投資は(内在するリスクが大きくとも)市場のニーズを理解できることから安全だと判断してしまう。

破壊的技術で成功した新規事業の大多数は、初期の事業計画を実行し、市場で何がうまくいって、何がうまくいかないかがわかってきたときに、初期計画を放棄している。初期段階から正しい戦略を立てることはさほど重要ではなく、事業計画を立てて二度、三度と試行錯誤できるように十分な資源を残しておくことが重要である。試行錯誤を繰り返して適切な戦略を見つける前に資源や信頼を失うのは、事業として失敗である。

破壊的技術の新しい市場を探すプロセスには失敗がつきものである。マネージャーがその失敗を恐れると、破壊的技術によって開拓されるバリュー・ネットワークに参入する時期が著しく遅れてしまう。持続的技術のようにイノベーションに対する需要が確認できれば、莫大な費用と時間をかけてリスクの大きい賭けに出ることができるが、破壊的技術のように需要が確認できなければ、技術的に簡単であっても、そのイノベーションを商品化する賭けに出ることができない。意思決定者のほとんどは、市場が存在せず失敗するかもしれないプロジェクトを支持するというリスクを避けようとする。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社