イノベーションのジレンマ:第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる (1)

第1章から4章までを通して「ディスク・ドライブ業界」「掘削機業界」「鉄鋼業界」という全く異なる3つの業界を分析した。そこから次のことが判明した。

  • 顧客のニーズに応えるために新しい技術が必要となるとき、優良企業は必要な技術を効率よく高水準に開発し、商品化するためのノウハウ、資本、ビジネスパートナー、労力を集めることに成功していた。
  • 優良企業がつまずき失敗したのは、経営に問題があったからではなかった。

優良企業が破壊的イノベーションに直面するとき、彼らの意思決定プロセスと資源配分プロセスが、破壊的技術を拒絶するプロセスとなり得る。つまり、顧客の意見に注意深く耳を傾け、競争相手の行動に注意し、収益性を高める高性能、高品質の製品の設計と開発に資源を投入するがゆえに、優良企業は破壊的イノベーションに直面して失敗するのである。

優良企業の経営者は、組織の性質に関する5つの基本原則を常に意識する。

  1. 優良企業の資源配分のパターンは、実質的に顧客が支配している(資源依存理論)。
  2. 小規模な市場は、大企業の成長需要を満たさない。
  3. 破壊的技術の最終的な用途は事前にはわからない。
  4. 組織の能力は、組織内で働く「人材の能力」とは関係がなく、むしろその「プロセス」と「価値基準」にある。現在の事業モデルの核となる能力を生みだすプロセスと価値基準が、実は破壊的技術に直面したときに、無能力の決定的要因になる。
  5. 技術の供給が市場の需要と一致しない確立された市場において評価されない「破壊的技術の特徴」が、新しい市場で大きな価値を生むことがある。

この5つの基本原則に従うか、無視するかによって企業の明暗が分かれる。第5章からは、経営者が上記の原則を理解し、利用するにはどうすればよいかについて詳しく述べる。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社