イノベーションのジレンマ:第4章 登れるが、降りられない (2)

企業における資源配分の意思決定プロセスは大きく2つに分かれる。

  1. 上層部がいくつかのイノベーションへの投資案を検討し、企業戦略に合致していて最も高い投資収益率が期待できそうなプロジェクトに資金を投入する。
  2. どのイノベーション案を支援して上層部に持ち込むか、どのプロジェクトを放っておくか、それは中間層のマネージャーが決めている。

自己保身と会社の利益を考えるマネージャーは、確実に市場の需要があるプロジェクトを支援し、上層部の承認を得やすいように企画案をまとめる。したがって、重要な資源配分の決定は、上層部が関与するはるか以前に行われている。それは、どのプロジェクトを支援し上層部に持ち込むのか、またどのプロジェクトを放っておくのかを、中間層のマネージャーが決めているからである。

非対称的な移動性には「上へ登れば手っ取り早く成長と利益が手に入るが、下から猛烈な攻撃が襲ってくる」という問題がある。優秀なマネージャーであればあるほど、この問題を解決することができない。仮に上層部が破壊的技術を追求しようと決めたとしても、それが組織の要員が考える「組織としての成功」や「組織における個人としての成功」に結びつくモデルでなければ、うまくいかない。

優良企業は顧客のニーズだけでなく、自分たちが属するバリュー・ネットワークの財務構造や組織文化にも束縛されている。
 

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社