イノベーションのジレンマ:第2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激 (4)

破壊的技術による製品を開発することが技術的に可能であったとしても、その技術によって市場で強力な地位を築くために資源や経営努力をつぎ込むかどうかは、その企業が属するバリュー・ネットワークの中で、初期にその製品が評価され、採用されるかどうかにかかっている。

バリュー・ネットワークは、そこに属する企業にとって何が可能で何が不可能かを定める。「バリュー・ネットワークの視点から見た技術革新の性質と優良企業が直面する問題」は次の5つに集約される。

  1. 企業が競争する環境(バリュー・ネットワーク)は、イノベーションを妨げる技術的、組織的障害を克服するための資源や能力の獲得に影響を与える。バリュー・ネットワークの境界を定めるのは、製品の性能に対する独自の評価や、顧客ニーズ対応のためのコスト構造である。
     
  2. イノベーションに対する努力が商業的に成功するかどうかを決定する要因は、バリュー・ネットワーク内の関係者のニーズにどこまで対応するかである。優良企業は、バリュー・ネットワーク内のニーズに応えるあらゆる種類のイノベーションを、技術的な性質や難度にかかわりなく率先して進める傾向にある。新しいバリュー・ネットワークの顧客ニーズにしか応えない技術革新では、技術的に単純なものであろうと、優良企業の方が遅れをとる傾向にある。
     
  3. 優良企業が、顧客ニーズに応えない技術を無視しようと決めるのは、
     (1)あるバリュー・ネットワークの中で長期的に求められる性能の軌跡
     (2)ある技術のパラダイムの中で技術者が提供できる性能の軌跡
    という2つの軌跡が交わるときである。2つの軌跡の傾きが異なる場合は、新技術が他のネットワークに浸食してくる可能性がある。技術が進歩すると、2つのバリュー・ネットワーク間の性能に違いがなくなる。
     
  4. 破壊的イノベーションは、優良企業よりも新規参入企業に適している。優良企業が破壊的イノベーションで優位に立つためには、そのバリュー・ネットワークに参入する必要がある。
     
  5. 優良企業より新規参入企業の方が、新しいバリュー・ネットワーク(新しい用途の市場)を攻撃しやすく、開発戦略を立案しやすい。

<参考文献>
クレイトン・クリステンセン (著) (2001)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社